孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  中国との貿易戦争を経て、経済面で関係改善の動き 安全保障面では米欧基軸

2023-03-16 23:14:25 | オセアニア

(習近平国家主席は(2022年11月)15日午後、オーストラリアのアルバニージー首相とインドネシア・バリ島で会談した。【2022年11月16日 人民網日本語版】)

【豪中貿易戦争 「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」】
中国との関係悪化が目立つカナダについて、3月8日ブログ“カナダ 中国の選挙介入疑惑で、冷え込んでいた中国との関係が更に悪化”で取り上げた際に、“一時期中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアの方は、最近、オーストラリア・アルバニージー首相が訪中意欲を示すなど経済を中心に関係改善の兆しが見えています。”と触れたオーストラリアの話。

経済的には強いつながりがあるなかで、目に見えてオーストラリアと中国の関係が悪化したのは新型コロナが拡大した際に、オーストラリア保守党政権が中国発生源に関する独立した調査を求めたあたり。

****中国が豪州に「報復」連発…コロナ発生源の調査求められ、食肉輸入停止で対抗か****
新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、独立機関による中国での調査を求めるオーストラリアが、中国の対抗措置とみられる動きに揺れている。豪州産の大麦に高関税が課される可能性が出ているのに加え、豪政府は(20年5月)12日、中国が豪州の食肉処理大手4社に対し、輸入停止措置を取ったと明らかにした。

◆輸出の35%
サイモン・バーミンガム豪貿易相は12日の記者会見で、中国による輸入停止は食肉表示に関する技術的問題への対応だと説明し、「(中国側の)許可を得るために力を尽くす」と述べた。豪州の牛肉輸出のうち中国向けが4分の1を占める。豪公共放送ABCによると、4社は牛肉の対中輸出の35%を手がけており、食肉業界団体幹部は「非常に深刻に受け止めている」と動揺を隠せない様子だ。

豪州では穀物生産者団体などが10日、豪州産の輸出大麦に中国が約80%の高関税を課す可能性があると明らかにしたばかりだ。(中略)
 
◆チューインガム
中国のこうした動きに関し、ABCなど豪州メディアは、豪政府が新型コロナの発生源や感染拡大に関し、中国・武漢の研究施設からの拡散の可能性を念頭に調査実施の必要性を訴えていることへの報復との見方を伝えている。

スコット・モリソン豪首相は4月23日、記者会見で発生源に関し「独立した調査が必要だ」と強調した。世界保健機関(WHO)加盟国の査察受け入れを義務付けるべきだとも主張している。

これに対し、中国外務省の耿爽グォンシュワン副報道局長は、「国際的な防疫協力を妨害するものだ」と強く反発した。中国紙・環球時報の胡錫進フーシジン編集長はSNSに、「豪州は問題を起こす国だ。靴の裏にこびりついたチューインガムのようなものだ」と書き込み、不満ぶりを強調した。
 
◆5Gでも対立
豪州は調査実施の姿勢を崩していないが、貿易を巡る中国の相次ぐ措置には不安を募らせている。最大貿易相手国の中国は、豪州の輸出入額の約4分の1を占めるからだ。モリソン氏は現状について、「両国にとって貿易は非常に重要で有益だ」などと述べるにとどめている。

豪中の間では近年、外交面での摩擦が頻発している。
次世代通信規格「5G」導入を巡っては、情報工作への懸念を深めた豪当局が中国企業を排除し、中国が不満を示した。

豪州と歴史的につながりが深い南太平洋の島嶼とうしょ国では、中国が巨額の財政支援を通じて影響力を拡大しており、豪州も経済協力の拡大で対抗しようとしている。【2020年5月13日 読売】
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中国の豪への輸入規制は、記事にある牛肉・大麦の他、石炭・綿花・ワインなど豪の輸出主要品目に及びました。

当時はアメリカ・トランプ大統領が過激な中国批判を行っていた時期で、豪政権はそれに沿っただけで、中国としてもさすがにアメリカとは事を構えられないので、代わりに豪を“いじめている”といった印象もありました。

【中国の豪政治への介入に対する批判も】
一方、こうした貿易戦争が繰り広げられているオーストラリア国内では、中国が豪政治に介入しようとしているという批判が強まり、国民世論・政界の対中国感情は更に悪化しました。

****総選挙にちらつく中国の影 オーストラリア国民の選択は****
オーストラリア総選挙は21日に投開票され、22日未明までに大勢が判明する見通し。豪州では近年、中国が選挙に介入しているとの情報が絶えず、豪州政府は外国人からの政治献金を禁止するなど海外からの政治介入を阻止する仕組みを作ってきた。だが今回の総選挙でも中国の影がちらつく。選挙戦では中国との向き合い方が争点の一つとなっている。

「中国共産党は労働党に投票しろと言っている」。最大都市シドニーなどでは、中国の習近平国家主席が野党・労働党に1票を投じる図柄にこんなスローガンを記したトラックが走っている。現地メディアによると、与党系の市民団体による労働党攻撃の一環という。

総選挙は、モリソン首相の率いる保守連合(自由党、国民党)が勝利するか、労働党による9年ぶりの政権交代となるかが焦点。労働党は与党時代の政策が中国に融和的だったとして「親中」批判を浴びがちだ。

2月には中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)が「豪州国民はモリソンの言うことを信じなくなっている」と酷評し、労働党のアルバネージ党首を「光り輝いている」と絶賛する記事を掲載。与党による労働党攻撃の材料となっている。

モリソン政権は対中強硬姿勢を取り、2020年に新型コロナウイルスの発生源調査を求めたことで中国との関係が決定的に悪化した。日米印との安保協力の枠組み「クアッド」や米英との安保枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じて米欧日との結束を強めている。選挙戦では中国の脅威を念頭に「労働党を選ぶのは安全保障上のリスクだ」と訴えている。

ただ、モリソン政権は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の停滞などで支持率が低下しており、やや劣勢だと報じられている。(中略)

与党が「親中」攻撃をする背景には、国民の間に強まる中国への警戒感を刺激して、劣勢をはね返したい思惑がある。豪シンクタンク・ローウィー研究所の調査によると、豪州で「中国を経済パートナー」と考える人は18年に82%、「安全保障上の脅威」と見る人は12%だった。だが21年には経済パートナーと見る人が34%に下落する一方、安全保障上の脅威との見方が63%に上昇した。

(中略)豪州政界では中国の浸透工作をうかがわせる事件が相次いだ。16年、中国人実業家から資金援助を受けた労働党の国会議員が、南シナ海問題で中国を擁護する発言をしていたことが判明。これを受けて政府は18年、外国人からの政治献金を禁止した。19年の前回総選挙では、中国の情報機関から立候補を働き掛けられた自由党員の中国系男性が豪治安情報局(ASIO)に相談した後、死亡しているのが見つかった。(中略)

労働党は世論の動向も踏まえ、政権交代を果たしてもモリソン政権と同様に米欧基軸の外交政策を推進すると強調する。アルバネージ党首は「中国はより攻撃的になっている。豪州は同盟国などと協力して対応しなければいけない」と訴え、「親中」イメージを払拭(ふっしょく)しようと躍起になっている。(後略)【2022年5月21日 毎日】
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【経済面で豪中関係改善の動き アルバニージー首相は訪中の意欲も ただし、過度の中国依存は避ける構え】
上記総選挙の結果は労働党勝利で、アルバニージー氏が首相に。

安全保障面ではAUKUS・QUADなど中国包囲網的な米欧基軸の外交政策は今も続いていますが、経済的に重要な中国との関係について関係改善の動きが見られます。

“豪中首脳が短時間会話 ASEAN関連会議、3年ぶり”【2022年11月13日 産経】(アルバニージー首相と李克強首相)
“習近平国家主席がオーストラリアのアルバニージー首相と会談”【2022年11月16日 人民網日本語版】
“中豪外相会談で王毅外相「歴史的恨みや根本的利害対立はない」両国関係改善に意欲”【2022年12月21日 TBS NEWS DIG】

****豪の対中輸出に回復の兆し、外交関係の修復進む****
中国が課した「貿易障壁」で2年半にわたり低迷してきたオーストラリアの対中輸出に、回復の兆しが見え始めた。外交関係の修復で輸出復活への期待が高まり、関係の再構築に向けた企業の取り組みに拍車がかかっている。

中国とオーストラリアは、華為技術(ファーウェイ)による5世代(5G)移動通信網への参入制限、中国の情報機関によるオーストラリアでの工作疑惑、さらにはオーストラリア政府が新型コロナウイルスの発生源を巡り中国での国際調査を求めたことなどを巡って関係が悪化。中国は2020年から200億豪ドル(約140億米ドル)規模の貿易障壁を導入した。

しかし昨年11月以降、両国の首脳、外相、貿易相が相次いで会談するなど外交面で足並みをそろえた努力を進めたことで緊張緩和の兆候が表れ始めている。

オーストラリア産業界の首脳らはこうした政治的シグナルに注目している。資源大手フォーテスキュー・メタルズ創業者のアンドルー・フォレスト氏、同業BHPのマイク・ヘンリー最高経営責任者(CEO)、ワイン企業トレジャリー・ワイン・エステートのティム・フォードCEOはいずれも3月に訪中する予定だ。

豪林産品連合会(AFPA)のビクター・ビオランテ会長は、国内の農業関係者が最近、中国の税務当局と木材の輸入について「前向きな」協議を始めたと明かした。「(3カ月後か6カ月後の)近い将来、貿易が再開されるかもしれないと楽観視している」という。オーストラリア産木材の対中取引は以前、年6億豪ドルに上っていた。

貿易業者は既に緩和されている貿易障壁がさらに緩むと見込んでいる。先週にはオーストラリア産石炭を積んだ貨物船少なくとも15隻が中国に向かって航行、中国の綿花バイヤーも非公式な貿易規制の解除を当て込んでオーストラリア産綿花の輸入を進めている。

ただ、安全保障や人権などの問題を巡るめぐる対立から、貿易関係修復の道のりは紆余曲折が予想される。オーストラリアは3月、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の調達計画についてさらなる詳細を発表する予定で、中国政府はこうした動きに反対している。(中略)

貿易が再開されたとしても、オーストラリアの生産者の多くは中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え。アルバニージー首相は来月、貿易相や資源相、大規模な企業代表団を引き連れてインドを訪問する。

カトル・オーストラリアのデービッド・フートCEO氏は、中国と切り離された生産業者は2年余りかけて新しい顧客を掘り起こしており、こうした顧客を手放すつもりはないと説明。こうした企業は「中国を再度取り込みたがるだろうが、新規顧客を失うことと引き替えにはしたくないだろう」と話した。【2月28日 ロイター】
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アルバニージー首相は訪中の意欲も示しています。

****豪首相、訪中に強い意欲 招待があれば「受け入れる」****
オーストラリアのアルバニージー首相は7日、関係が悪化していた中国から招待があれば「私は受け入れるだろう」と述べた。シドニーで記者団に語った。アルバニージー氏はこれまでも中国訪問の可能性に言及しているが、より踏み込んだ表現で、強い意欲を見せた形だ。

アルバニージー氏は「中国はわれわれの主要な貿易相手であり、国益にかなう」と語った。「協力できる分野では協力し、反対しなければならないところでは反対する」とも述べた。

日本や米国は、アルバニージー政権が中国に急接近することで、日米豪印の協力枠組み「クアッド」にほころびが出ないか注視している。【3月7日 共同】
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ただ、上記【ロイター】に“中国に過度に依存した状態に戻るのは避ける構え”とあるように、アルバニージー首相は、貿易・外国投資パートナーの多様化を目指す考えを表明し、新たな有望なパートナーであるインドを訪問しています。

****豪印、中国念頭に連携強化 首脳会談 安保や貿易など幅広く****
オーストラリアのアルバニージー首相は10日、訪問先のインドの首都ニューデリーでモディ首相と会談した。両首脳は安全保障や貿易など幅広い分野での連携強化で一致。両国は日米豪印の協力枠組み「クアッド」の一翼を担うが、中国を念頭に2国間関係も同時に強化していきたい考えだ。

アルバニージー氏のインド訪問は2022年5月の首相就任後初。会談後の会見で、アルバニージー氏は、安保面での連携で「重要かつ野心的」な進展があったと言及。経済面の関係緊密化でも合意し、両国間の包括的な自由貿易協定(FTA)の締結について年内に目途を付けたい考えを示した。

両国は対中関係がそれぞれ冷え込んでおり、連携の重要性が増している。20年には2国間関係を戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げした。豪州紙オーストラリアン・フィナンシャルレビュー(AFR)は豪州にとりインドは「中国とは異なり、大きなプラスをもたらす」存在だと指摘した。

特に資源大国である豪州にとり、中国は大口の輸出先だが、外交関係悪化を受けて貿易の多様化を模索している。経済成長を遂げるインドは接近したい相手で、アルバニージー氏の訪印には財界関係者らも同行した。

AFRはウクライナ侵略をめぐるインドの対露融和姿勢など懸念材料もあるが、2国間関係は「今後も緊密化していくだろう」と予測している。【3月10日 産経】
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【安全保障面では米欧基軸の外交政策】
安全保障面では米欧基軸の外交政策が続いています。

“日米豪印、オーストラリアで海上共同演習へ 海洋安保の強化ねらう”【3月10日 日系メディア】

****米でAUKUS首脳会合 インド太平洋安定化へ結束 次世代攻撃型原潜を共同開発****
バイデン米大統領は13日、インド太平洋における米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合を西部サンディエゴで主催した。

3カ国首脳は中国の覇権的な海洋進出に対抗するため、2030年代前半までにオーストラリアが米原子力潜水艦を最大5隻購入することや、米英が共同で次世代攻撃型原潜「オーカス」を建造する計画を発表。バイデン政権は長期に及ぶ中国との競争を見据え、米国を中心とした民主主義陣営の抑止力強化に全力を挙げる構えだ。

会合にはバイデン氏、スナク英首相、アルバニージー豪首相が出席。バイデン氏は両首相とともに演説し、「オーカスの目的は世界情勢が急速に変化する中でインド太平洋の安定を維持することだ」と語り、今回の成果を域内外の同盟・パートナー諸国との連携強化につなげると強調した。

ホワイトハウスによると、今回合意した計画は複数のフェーズ(段階)に分けられる。第1フェーズでは今後の数年間で米英潜水艦による豪州への寄港実績を積み上げ、原潜の運用・建造に関連する豪州側への訓練を加速。早ければ27年にもインド太平洋を巡回する米英潜水艦のローテーション部隊を設置する。

第2フェーズの30年代前半には豪州が、通常動力型潜水艦の退役による戦力の穴を埋めるため米国からバージニア級攻撃型原潜3隻を調達。豪州はさらに2隻を追加購入することもできる。さらに第3フェーズでは英国の設計と米国の技術による次世代攻撃型原潜オーカスを開発し、英国で30年代後半に、豪州で40年代前半にそれぞれ建造する。

首脳会合が行われたサンディエゴは米太平洋艦隊の主要拠点。3カ国がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いがある。【3月14日 産経】
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中国はもちろん反発しています。
“中国、米英豪の原潜導入合意に警告 「誤った危険な道」”【3月14日 AFP】

この原潜開発参加にはオーストラリア国内でも批判が強いようです。労働党のキーティング元首相、自由党のターンブル元首相が批判を。

****豪元首相2人が原潜反対 AUKUS「最悪の合意」****
オーストラリアのキーティング元首相が15日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の導入について、巨額の費用を理由に「歴史上最悪の合意だ」と批判した。

ターンブル元首相も16日、原子力産業のないオーストラリアには技術者が少なく「非常に大きなリスクを伴う」と反対した。

与野党の首相経験者による攻撃に国内で衝撃が広がっている。アルバニージー首相や閣僚は終日、釈明に追われた。

キーティング氏は1990年代に首相を務めた与党労働党の重鎮。15日に全国記者クラブで講演し、オーストラリアで広がる中国脅威論について「歪曲であり真実ではない」と主張した。

13日に米サンディエゴで行われた米英豪の3首脳による記者発表を「歌舞伎ショー」とやゆ。バイデン米大統領とスナク英首相がうれしそうにしていたのは、オーストラリアが最大3680億豪ドル(約32兆円)を「米英の軍事産業に支払うからだ」と皮肉った。【3月16日 共同】
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