(フランドル地域の分離を主張する集会 黄色地の旗がフランドルのオフィシャルフラッグ 道路を引きずられているのがベルギー国旗 最後尾の方はなにやらスキンヘッドで怖そう。 この写真、必ずしもベルギー人一般を表してはいないように思います。
“flickr”より By Skender )
個人的には殆どヨーロッパに興味がないので、ベルギーと言うと「首都ブリュッセルにEU本部が置かれている・・・」程度のイメージしかありません。
もう少し頭を絞ると、数十年昔、高校の地理の授業で教わった「ベルギーという国は北部(フランドル地域圏)にはオランダ語系のフラマン語を話すフラマン人、南部(ワロン地域圏)にはフランス語またはワロン語(フランス語の方言的なものだそうです。面倒なので以下、両方まとめて“フランス語”と略します。)を話すワロン人が住んでいて・・・」といった記憶がかすかに残っています。
人口的には、ベルギーの人口約1050万人のうち、フラマン語のフランドル地域圏に600万人、フランス語を話すワロン地域圏に350万人、フランス語人口が大半を占める首都ブリュッセルに100万人が住いんでいます。
ベルギーは1人当たりのGDPが世界最高クラスですが、工業・サービス業が発達した北部のフランドル地域に比べ、石炭・鉄鋼業が衰退した南部のワロン地域では失業率が2倍以上あります。
北部と南部では言語が違うことから、労働者の需給にギャップが生じても、南北間の人的交流が生じにくく、これも失業率の格差が縮まらない一因となっているそうです。【ウィキペディア】
そんな事情で、この両者の間には政治的緊張もあるようです。
昨年12月には公共TV放送が、「北部フランドル地域圏が分離独立する・・・国王はコンゴ(旧ベルギー)へ亡命した・・・」という、オーソン・ウェルズの“火星人襲来”のような、まことしやかな偽情報を臨時ニュースとして流したところ、国中が大騒ぎになりました。
(TV局の趣旨は“議論を喚起するため”というもののようですが。)
今年7月には、“次期首相として組閣要請を受けているキリスト教民主フランドル党のイブ・ルテルム党首が、TV局の取材で「今日21日(建国記念日)は何の祝日か?」と聞かれ答えられず、またベルギー国歌を歌うよう求められてフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌った。記者に、本当にそれがベルギー国歌「ラ・ブラバンソンヌ」の歌詞だと思っているのかと問われると「分からない」と答えた。・・・”というニュースもありました。【7月23日 AFP】
建国記念日は私も知りませんのでともかく(ベルギー人も建国記念日の由来を知っているのは5人にひとりとか)、国歌はどうでしょうか?
ルテルム氏はフラマン語系の政治家ですが、冗談か皮肉かでフランス国歌を歌ったのか、口にしたくなかったのか、本当に知らなかったのか・・・よくわかりません。
冗談なら、この話は敢えて世界配信にならないような気もしますが。(当然知っていると思えば、記者もこんな質問しないと思いますし。)
本当に知らなかったなら、ベルギーにおける“国家”の位置づけが気になります。
日本でも県歌とか市歌なんてありますが、多くの人は私を含め知りません。
ベルギー国歌もその程度の認識しかされていないということでしょうか?
もう少し深刻な話が“南北対立で新内閣が組閣できず、政治的空白が150日続いている”というもの。
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北部オランダ語(フラマン語)圏と南部フランス語圏との対立が先鋭化するベルギーで、6月10日の総選挙後、新政権が成立しない政治空白期間が150日を超え、過去最長を更新した。ベルギー王室は改めてオランダ語(フラマン語)圏とフランス語圏の「対話」を要請しているが、事態は膠着(こうちゃく)化しそうな雲行きだ。
ベルギーは6月10日の総選挙で中道右派政党・キリスト教民主フランドル党(CD&V)が勝利し、ルテルム党首が国王から組閣を命じられた。党首は南部フランス語圏地域の政党との連立政権を目指したが調整に失敗し、一時は組閣を断念。しかし、国王は9月末に再度、党首に組閣を命じ、党首もCD&Vとフランス語圏のリベラル派を結集した中道右派政府の誕生を目指したが、調整は難航している。
ベルギーのメディアは政治空白の長期化について、チェコとスロバキアの分裂国家を例に、ベルギーも両語圏に分裂する恐れを指摘している。【11月13日 産経】
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こうした中、先週7日の連邦下院委員会で、ブリュッセル首都圏(フランス語系が8割を占める都心エリアとフラマン語系が過半を占める郊外自治体を併せた圏域 地理的にはフランドル地域圏に囲まれているが、政治的には従来からフランス語系政治家が抑えていると言われています。)について、首都圏から郊外自治体を分離しようという案がフラマン語圏議員によって強行採決されました。
連立が進まない事態に対する揺さぶりですが、フランス語系住民にとっては、こうした動きは“「いんぎんな形の(暴力を使わない)民族浄化」(英誌エコノミスト)と映る”とも報じられています。【11月12日 時事】
ベルギー国家は「共同体」と「地域」の2層からなる連邦組織です。
「共同体」は言語によるもので、フラマン語・フランス語・ドイツ語(非常に小規模)の各「共同体」
「地域」は地理的な区分で、北部のフラマン語地域、南部のフランス語地域、そしてブリュッセル首都圏
93年憲法で連邦制として規定されており、連邦政府は、外交や国防、社会保障などといった限定された権限しか持っていません。
その他の権限が、「共同体」「地域」に移譲されていて、「共同体」政府の主な権限は、文化政策(マス・メディアなど)、教育政策、社会保障をのぞいた厚生政策、「地域」政府の主な権限は都市計画や環境といった生活環境の管理、経済政策、地方自治体(県・コミューン)の行政監督となっています。
「共同体」「地域」には、立法権のほか、どのような政府を構成するかについての権限も与えられています。
将来的には憲法制定権も与えられると考えられているそうです。
(All About “ベルギー政治の基礎知識2007”
http://allabout.co.jp/career/politicsabc/closeup/CU20071012A/index.htm より抜粋)
非常に複雑です。正確に記述するともっと複雑のようです。
なんやらよくわかりませんが、(日本人からすると)おそろしく“手の込んだ”装置で国家を形成・維持しているようです。
もとより、世界の多くの国は国内に複数の民族・人種、文化を抱えているほうが一般的で、その間に政治的緊張が存在することもごく普通のことです。
アメリカの人種問題、マレーシア・インドネシア・インドなどの他民族国家、多くの国々に存在する少数民族問題、スーダンのアラブ系とアフリカ系の対立、ルワンダのフツとツチの抗争、イラクの宗派対立・・・。
内紛・対立は別にアジア・アフリカだけでなく、カナダのケベック、スペインのバスクなど世界中その手の問題だらけです。
日本は海岸線で明瞭に区切られた国土に、もちろん在日とかアイヌ(ウタリ)の方などいますが、数のうえではほぼ単一に近いような民族が単一の文化をもって暮らしていますし、移民なども西欧各国に比べればまだ少ないので、私などにとっては、国家・民族・国土などというのは“最初から存在している自明の空気みたいな”存在で、普段これらを意識することは殆どありません。
こういう条件は世界的にはむしろ例外の部類でしょう。
ベルギーの連邦制は、そういった日本人の目からすれば、いかにも“つくられたもの”のような感じもしますし、すでに一部“家庭内別居”に踏み込んでいるようにも思えますが、ベルギー国内では“完全離婚”を求める声は極右政党などを除くとそんなには強くないとも聞きます。
ベルギー国民は“地域、国家、ヨーロッパ”という3層のアイデンティティーを持っているとも言われます。
ただ、今後EUの機能が拡充すれば、中間にある“国家”の存在意義も改めて問われるかもしれません。
ヨーロッパでは近年の分離例としては、協議離婚が成立したチェコスロバキアの“ビロード離婚”(93年)もありますが、ユーゴスラビアのように血で血を洗う事態になったケースもあります。
現代社会では、伝統的な規制が緩み、経済環境が変化するなかで、“家族”が崩壊し、社会の単位が“個人”へ移行しているように思えます。
そのような動きとも連動するように、他民族国家を規定していた制約がゆるみ、グローバル化のなかで、各民族が独自の自立権を求めて次第に分化していくことが多いようにも見えます。
これまた、数十年前、高校の政治経済の授業で教わったホッブス、ロック、ルソーなどに立ち返り、“国家とはなんぞや?”という問いが必要なのかも。
(ナポレオンが作ったフランドル地方に残る運河 世界最高水準の所得と美しい国土 分離でも何でも“好きにすれば?”と言った感じも。“flickr”より By benppiper)
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