孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  過半数ギリギリのプラユット政権 難しい議会運営 強まる言論統制

2019-10-17 22:58:11 | 東南アジア

(7月に発足したプラユット内閣 前列中央がプラユット首相 インラック前首相も就任式では軍服姿でしたので、タイでは就任式では閣僚はこういう服を着るのでしょう。形式的に軍人の資格が与えられるのか? 画像は【7月18日 newsclip.be】)

 

【定数500に対し与党252議席 予算案審議が最初のハードル】

天皇陛下の即位に伴い、今月22日に予定されていた祝賀パレード、「祝賀御列の儀」について、政府は、台風19号の被災地への対応に万全を期すなどとして、およそ3週間延期し、来月10日に実施する方針を固めと報じられていますが、タイでも・・・。

 

****戴冠式水上行列、12月に延期=タイ****

タイのウィサヌ副首相は17日、ワチラロンコン国王の戴冠を祝う御座船の水上パレードを今月24日から12月12日に延期すると発表した。

 

パレードが実施されるバンコクのチャオプラヤ川の水の流れや気象状況を考慮し、行列の美しさを保つには延期が適切と政府が判断。国王も承認したという。

 

戴冠式の主要儀式は5月に行われており、水上パレードは一連の行事の締めくくりとなる。【10月17日 時事】 

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民政移管したタイでは7月、親軍部勢力「国民国家の力党」を軸に19党が連立する形で、それまでのプラユット暫定首相を再び首相としてスタートしています。

 

ただ、19党連立でも過半数をかろうじて超えるにすぎず、19党の足並みがどこまでそろうのか、軍部を背景としたプラユット政権の運営は必ずしも安定していません。

 

****タイ連立与党、苦しい運営 19政党で発足、1政党もう離脱****

タイのプラユット政権の連立与党から13日、タイ文明党が離脱を表明した。7月16日に19政党の連立で政権が発足して以来、初の離脱で、早くもほころびが生じた形だ。

 

同党は下院に1議席しか持たない小政党だが、下院の過半数をわずかに上回っているだけの連立与党は、より厳しい政権運営を迫られることになる。

 

タイ文明党のモンコンキット党首は13日の記者会見で、「我々の政策がとり入れられなかった」などと述べ、連立与党の中心となっている国民国家の力党を批判。連立離脱後は野党陣営にも加わらず、政権の政策に応じて是々非々で対処するとした。

 

タイ文明党の離脱で連立与党は下院500議席のうち253議席、野党は246議席となる。何とか過半数を維持しているが、この間、連立に参加した複数の小政党が処遇への不満を漏らし、タイ文明党のほかに4党が離脱を検討しているとの情報も流れた。

 

国民国家の力党が説得にあたり、タイ文明党以外の小政党は13日に記者会見し連立への残留を表明したが、関係筋によると、ポストを含めた様々な処遇の約束があったとされる。

 

軍政からの民政移管に向けた3月の総選挙では、反軍政のタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党となったが、第2党の国民国家の力党が中堅、小政党を取り込み、軍政の暫定首相だったプラユット氏の「続投」を実現させた。

 

だが、小政党の不満は根強いとされ、今後も離脱を含めた揺さぶりをかけてくる可能性がある。【8月14日 朝日】

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その後も一人が連立を離脱し、下院(定数500)で与党は252議席と、ギリギリのところに追い込まれています。

 

****タイ新政権2カ月、野党が追及強化 首相就任手続きに不備****
閣僚の海外服役疑惑も

 

タイで発足から2カ月がたったプラユット政権に対して野党が追及を強めている。首相の就任手続きに不備があったとして18日に国会で集中審議が開かれた。

 

閣僚の一人が過去に麻薬密輸の罪で海外で服役していた疑惑も浮上している。10月に本格化する2020年度予算案の審議を巡る与野党の攻防激化が必至だ。

 

「首相と内閣は明らかに憲法違反している」。18日、タクシン元首相派の最大野党、タイ貢献党のソムポン党首はバンコクの議場でプラユット首相を厳しく追及した。

 

問題視しているのは7月16日の新内閣発足時の首相の宣誓式だ。タイの憲法は首相が就任に先立ち、憲法で定めた文言を国王に対して宣誓すると規定している。ところがプラユット氏は「憲法を擁護し順守する」との部分を読み落とした。

 

野党は「違憲であり内閣の発足は認められない」と批判。プラユット氏は国会での討論を避けてきたが、18日にようやく集中審議に応じた。

 

同氏は言及を避けたが、ウィサヌ副首相が「国王と政権の間の問題」と答弁し、既に国王から支持を得ており批判は当たらないとした。与党は幕引きにしたい考えだが、野党は追及の構えを崩さない。

 

9月に入って政権内にスキャンダルも持ち上がった。オーストラリア紙シドニー・モーニング・ヘラルドが、タマナット農業協同組合副大臣が豪州で1993年に麻薬密輸の罪で逮捕され4年間服役したと報じた。

 

タマナット氏は3月の総選挙後の連立工作で小政党の支持をとりつけ、政権樹立をまとめた功労者とされる。本人は疑惑を否定するが、同氏には学歴詐称の疑いも浮上しており、野党は首相の任命責任の追及を強める。

 

国会の論戦は今後、20年度予算案(19年10月~20年9月)が焦点となる。新政権発足の遅れで、与党は年内に可決し20年1月からの執行を目指す。

 

憲法の規定で19年10月以降は社会保障費などの義務的経費は前年度予算を踏襲して執行できるが、景気刺激策など新規施策は予算案が成立しないと実行できない。

 

予算案を審議する下院(定数500)は与党が252議席とわずかに半数を上回るだけだ。もともと254議席で野党と僅差だったが、小政党所属の2人が、政策が反映されないとして相次ぎ離脱した。人事などに不満を持つ与党議員がさらに造反すれば、予算案は否決される可能性がある。

 

一連の疑惑に国民は厳しい視線を向けている。タイ政治に詳しいタマサート大学の水上祐二客員研究員は「国民の不満が爆発すれば政権は追い込まれる」と指摘する。

 

タイの19年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比2.3%増で、4年9カ月ぶりの低成長だった。米中貿易戦争の影響で輸出が減り、国内消費にも陰りが見えている。政治混乱で新年度の予算執行が遅れれば、さらに経済が悪化する恐れがある。【9月18日 日経】

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“プラユット氏は「憲法を擁護し順守する」との部分を読み落とした”・・・・“うっかり”でしょうか?

内容が内容だけに、“意図的に”ということは?

 

上記記事にもあるように、まずは予算案審議が問題となりますが、予算案の趣旨説明を行う第1読会が今日10月17日に行われたと思われます。(そのような予定になっていましたので)

 

****下院議長が警告 「予算案が否決されたら恐ろしい結果になる」**** 

来年度(今年10月~来年9月)予算案の第1読会が10月17日に予定されていることについて、チュアン下院議長は9月25日、「予算案が可決されなかったら、その結末は恐ろしいものになる」と述べ、与党は同案否決をなんとしても阻止する必要があるとの見方を示した。

 

下院では与党と野党の議席数が拮抗しており、場合によっては、予算案が否決されるケースも考えられるという。

 

チュアン議長は、否決された場合の政治的混乱について明言を避けているが、政界筋によれば、プラユット首相が下院を解散して総選挙に打って出ることも考えられるとのことだ。【9月26日 バンコク週報】

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下院議長が恫喝するような発言をするというのも日本では考えられませんが、タイですので・・・・

 

第1読会ではプラユット首相が予算案を説明し、第二読会を開くことが可決されれば、第2・第3(最終)読会は来年1月に行われる予定になっています。

 

定数500に対し252議席ですから、相当に厳しい締め付け、あるいは利益供与などの懐柔策が取られるのでしょう。

 

軍事政権を実質的に引き継いだような現憲法下の議会・内閣ですが、それでもプラユット首相は難しい議会運営という軍事政権時代とは異なる民主主義の洗礼を受けることになります。

 

【進まぬ規制改革】

プラユット政権のもとでの規制改革を推進する動きがほぼ止まっているとの報道も。

19党(現在は17党?)の寄り合い所帯では、それどころではないのでしょう。

 

****タイ新政権3ヵ月 進まぬ規制改革に懸念広がる ****

「この国の縦割り行政がこの先変わるとは思えない」。在タイ米国商工会議所の元幹部で米国人弁護士のデイビッド・ライマン氏はこう語る。タイ政府は持続的な経済成長を目指しているにもかかわらず、規制改革が進んでいないからだという。

 

タイでは、2014年に(インラック政権打倒のためのデモを主動した)人民民主改革委員会(PDRC)が「選挙の前に改革を」と唱え、陸軍のプラユット司令官(当時)によるクーデターへの道を開いた。

 

軍事政権は国家改革推進会(NRSA)を設置し、17年には新憲法が公布され、ほぼ半年後に国家戦略20カ年計画が策定された。

 

そのうち重点分野の改革を進めるために始まったのが規制の廃止プロジェクトだ。だが19年7月にプラユット新政権が発足して以来、規制改革を推進する動きがほぼ止まっており、懸念が広がっている。(後略)【10月13日 日経】

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【軍政時代に逆戻りした言論統制 野党の憲法改正論議も捜査対象】

一方、政権批判を許さない言論統制が強まる傾向にあることが指摘されています。

 

****タイ政府の言論統制強まる…「軍政時代に逆戻り」*****

タイで当局による言論統制の動きが強まっている。

 

フェイスブック(FB)への投稿を巡って活動家が逮捕され、インターネットに接続できる飲食店などはデータの提出を求められることになった。

 

約5年間の軍事政権を経て今年7月に発足したプラユット政権が、批判的な言動を抑える狙いがあるとみられる。

 

タイ警察は8日、「国家の安全に関するコンピューター犯罪法違反容疑で、憎悪を拡散する『不適切な内容』をFBに投稿した人物を逮捕した」と明らかにした。名前は伏せたが、国の安全を脅かしたとの疑いをかけられたようだ。

 

複数の地元メディアは、軍政を批判してきた政治活動家の男性(25)が7日に逮捕され、「再び同様の投稿をしない」との条件で8日に釈放されたと報じた。

 

王室関係者が移動する際の交通規制が渋滞を起こしているとのツイッター上の議論が、この男性の投稿により広がったと指摘されていた。

 

プティポン・デジタル経済社会相は8日、インターネットカフェなどに対し、過去90日間の利用者の閲覧履歴を提出するよう求めた。プティポン氏は「社会不安をあおる『フェイクニュース』の調査のためだ」と述べており、反社会分子の調査が目的とみられる。

 

野党も言論統制を通じた攻撃対象となっている。南部パッタニー県で9月に行われたセミナーで憲法改正を巡る論議の場にいた野党党首ら12人について、国内治安維持部隊は今月初旬、騒乱扇動に関する容疑に基づく捜査を地元警察に要請した。

 

憲法改正論議が「国家の治安を脅かす」との判断だが、野党側は「そのような意図はない」と反論している。

 

このほか、反政府活動家を取材しようとしたベルギー人ジャーナリストが当局に一時拘束され、取材をやめるよう警告された。タイの外国特派員協会は4日、「報道の自由を不当に侵害する」との声明を出した。

 

いずれも、軍政を引き継ぐ形で発足したプラユット政権に不都合な動きを封じる思惑があるとみられる。スラチャート・バムルンスック・チュラロンコン大学教授(政治学)は「軍政時代に逆戻りしている」と指摘している。【10月9日 読売】

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野党の憲法改正論議が「国家の治安を脅かす」として捜査対象になるのであれば、およそ民主主義とは言い難い政治体制と言わざるを得ません。

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