(【10月1日 NNAアジア経済ニュース】)
【国内安定を求める中国が支援 現実には民主派排除で進む】
内戦状態が続くミャンマーの軍事政権は民主派を排除した形での来年の選挙実施に向けて、その準備としての国政調査を実施しています。
国内の安定を求める点では利害が一致する中国がこの軍事政権の選挙・国政調査を後押ししています。
****中国、ミャンマーの選挙を支援 王外相、軍政トップに表明****
中国の王毅外相は(8月)14日、ミャンマーの首都ネピドーで軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。15日付のミャンマー国営英字紙によると、王氏率いる中国側代表団は、軍事政権が早ければ来年にも実施する意向の選挙に向け「必要不可欠な支援を提供する」と表明した。
中国側は、選挙の準備として軍政が今年10月に開始予定の国勢調査にも技術支援を提供すると述べた。
ミャンマーでは内戦状態が続き、民主派政党は既に解散。選挙も国勢調査も、全土での公正な実施は不可能なのが実情だ。軍政には、中国の支援を得ることで、選挙プロセスの正当性を得る狙いがあるとみられる。【8月15日 共同】
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****ミャンマー国軍トップと中国外相が会談 内戦状態が懸案、安定化に向け*****
ミャンマーで実権を握る国軍のミンアウンフライン最高司令官は14日、首都ネピドーで中国の王毅外相と会談した。内戦状態のミャンマー情勢は国境を接する中国にとっても懸案で、両国は安定化に向けた協力を名目に距離を縮めている。
中国外務省などによると、会談で王氏は「民主化プロセスを再開し、長期的な平和と安定を実現する道を見いだすことを支持する」と述べ、早期の民政移管に向けて取り組むよう呼びかけた。ミンアウンフライン氏も「継続的な支援を期待する」と応じたという。
軍事政権は国勢調査を経て、2025年中の総選挙実施を目指す。ただ、民主派指導者のアウンサンスーチー氏が率いた「国民民主連盟(NLD)」などは排除されたままだ。ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。
新華社通信によると、王氏は訪問中、かつて旧軍政トップとして独裁体制を敷き、引退後も国軍への影響力を維持するタンシュエ氏とも面会した。6月にも国軍出身のテインセイン元大統領と北京で会い、総選挙の確実な実施をミンアウンフライン氏に促すよう求めたと伝えられる。
中国にとってミャンマーは、陸路でインド洋に抜ける要衝だ。中国内陸部雲南省からミャンマー西部のチャウピュー経済特区につながる「経済回廊」は習近平国家主席が打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」の主要ルートの一つで、道路や鉄道の建設プロジェクトが進む。
インド洋から原油や天然ガスを運ぶパイプラインも整備されており、米国との対立が長期化する中国にとってはエネルギー戦略の上でも重要なルートだ。中国としては、ミャンマー国内の混乱を早期に解消し、自国への影響を最小限にとどめたいとの思惑がある。
雲南省に隣接する北東部シャン州で少数民族武装勢力との戦闘で劣勢に立つ国軍も中国を頼りにする。歴史的なつながりなどから少数民族側に影響力があり、今年1月にも一時的な停戦を仲介した。今月上旬に同州にある国軍の拠点が陥落して事態が切迫する中、調停への期待は大きい。
国内の安定を求める点では一致する両者だが、思惑にはずれもある。米シンクタンク・米国平和研究所のジェイソン・タワー氏は、「中国の調停は投資を拡大するために国境地帯で軍の影響力を弱めることを重視している」と指摘。「危機に乗じて安全保障上の影響力を強める可能性が高い」と分析した。【バンコク武内彩、北京・岡崎英遠】
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“ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。”とのことですが、実際どのように中国が軍事政権に働きかけているのかは知りません。
現実には民主派を排除した形で進行しています。
****ミャンマー軍政、10月1日から国勢調査 25年の総選挙に向け****
ミャンマーの国営メディアは2日、全国規模の国勢調査が10月1─15日に行われ、収集したデータは来年の総選挙に使用されると報じた。
軍政トップのミンアウンフライン国軍総司令官は2日のテレビ演説で、「国勢調査は正確で精密な有権者名簿の作成に活用できる。これは自由で公正な複数政党制による民主的な総選挙を成功させるための基本的な要件だ」と述べた。
軍政が提案する選挙は見せかけに過ぎないと広く非難されている。民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)など多くの政党は登録しなかったため解散させられており、選挙結果が西側諸国に認められる可能性は低い。
民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と述べ、国際社会や近隣諸国は選挙と国勢調査を非難すべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
軍政トップのミンアウンフライン国軍総司令官は2日のテレビ演説で、「国勢調査は正確で精密な有権者名簿の作成に活用できる。これは自由で公正な複数政党制による民主的な総選挙を成功させるための基本的な要件だ」と述べた。
軍政が提案する選挙は見せかけに過ぎないと広く非難されている。民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)など多くの政党は登録しなかったため解散させられており、選挙結果が西側諸国に認められる可能性は低い。
民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と述べ、国際社会や近隣諸国は選挙と国勢調査を非難すべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
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【国政調査開始 民主派は「国民から情報を収集し、脅すために使う」との批判も】
そして今日10月1日、予定通り国政調査が始まっています。
****ミャンマー軍政、25年総選挙実施へ国勢調査 戦闘激化で非難も****
ミャンマーの軍事政権は1日、総選挙実施の前提となる国勢調査を始めた。有権者名簿の作成が目的で、2025年中の選挙実施を目指している。ただ、21年のクーデターで全権を握った国軍と、抵抗する民主派や少数民族の武装勢力との戦闘は激化しており、調査を全国的に実施するのは難しい情勢だ。
調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。
国軍はアウンサンスーチー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」が圧勝した20年の総選挙に不正があったと訴え、自らの統治を正当化してきた。このためクーデター以来、有権者名簿に基づく選挙を約束してきた。
しかし、軍政は治安悪化を理由に非常事態宣言を繰り返し、実施を先送りしてきた。この間に武力衝突は激化し、避難民は300万人を超えた。
国境を接する周辺国への影響も大きく、軍政が関係を重視する中国も情勢の安定化と早期の選挙実施を求めているとされる。
国勢調査やその後の選挙を確実に行いたい国軍は9月末、抵抗勢力側に選挙への参加や政治的解決に応じるよう呼びかけた。背景には戦闘で劣勢に追い込まれていることや、自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫(ひっぱく)している状況があるとみられる。
一方、抵抗勢力側は呼びかけに批判的だ。独立系メディアによると、少数民族武装勢力の幹部らは「日々爆撃により市民を虐げている国軍こそ武装解除すべきだ」「国際社会を欺くための策略だ」と非難。民主派の「国民統一政府(NUG)」も選挙の正当性を否定する。【バンコク武内彩】
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“自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫”というのは、先の大雨被害です。軍事政権が国際支援を求めるというこれまでにない“異例”の対応を行ったことも注目されました。
****ミャンマー「壊滅的な状態」大雨で384人犠牲 88万7000人が被災か****
ミャンマーの軍事政権は、今月(9月)上旬の大雨で384人が犠牲になったと発表しました。国連機関は推定で88万7000人が被災したとし、被害が深刻な地域では「壊滅的な状態」が続いていると報告しています。
ミャンマーでは今月上旬、台風11号から変わった低気圧の影響で大雨が降り、首都ネピドーや第2の都市マンダレーなど各地で洪水や地滑りが発生しました。
ミャンマーの軍事政権は21日、この大雨による死者は384人となり、依然として89人が行方不明になっていると発表しました。
ミャンマーでは3年前のクーデター以降、軍と民主派勢力の内戦状態が続いていて、300万人以上が国内避難民となっています。
OCHA=国連人道問題調整事務所は、今回の大雨で避難民を含む推定88万7000人が被災したとし、最も深刻な被害を受けた地域では家屋や水源、電力インフラなどが広範囲にわたって破壊され、「壊滅的な状況」が続いていると報告しています。【9月23日 日テレNEWS】
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“調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。”・・・他には、家の間取り、海外に住む家族の有無なども
民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と批難していますが、内戦状態というなかで国軍側に個人情報を提供することには確かに不安もあるかも。
調査は15日までですが、戦闘が激しい地域は12月まで延長するようです。
ただ、調査には軍事政権を支える民兵組織が同行するということで、不審なことがないか取り調べみたいな雰囲気も。
****10月1日から国勢調査開始、各地で緊張高まる****
軍評議会(SAC)は、10月1日からミャンマー全土で国勢調査を開始する。各地でミャンマー軍や警察による警備が強化されているほか、首都ネピドーやヤンゴン、マンダレーなどの都市部では軍用車両が巡回するなど緊張が高まっている。
国勢調査は15日まで実施される予定で、調査には民兵隊やミャンマー軍系暴力集団「ピューソーティー」隊員などが帯同する。調査が完了した住宅には、識別用のシールが貼り付けられるという。
SAC統制下の連邦選挙管理委員会は2025年11月に総選挙を実施するとしているが、導入が予定される拘束名簿式の比例代表制については、これまでのところ具体的な発表はない。【10月1日 MYANMAR JAPON】
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【軍事政権による形式的選挙に冷ややかな国民】
軍事政権が強行する選挙で、現在の危機状態を脱出できるかについては、ミャンマー国内では否定的な声が大きいようです。
****国勢調査開始、多難の選挙へ[政治] 危機脱出「できない」が8割****
ミャンマー軍事政権は10月1日、国勢調査を開始する。来年実施予定の総選挙の有権者リストを作成するためのものだが、選挙は国軍に有利な展開になる見通しで、抵抗勢力の強い反発が予想される。
シンガポールのシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」によると、7~8月の現地調査では回答者の8割近くが、選挙による危機脱出は「できない」と答えており、情勢打開につなげることは困難な状況だ。
国勢調査は15日までの予定で実施される。選挙について軍政は、民主派指導者アウンサンスーチー氏の率いた「国民民主連盟(NLD)」が大勝した2020年総選挙に不正があったとの立場を崩していない。
やり直し選挙を「自由で公正」なものにすると主張しているが、NLDを排除しつつ国軍が権力を維持するためのものというのが実態だ。
選挙には、特に昨年10月から支配地域を拡大する少数民族武装勢力の動向も大きく影響する。軍政の作成する有権者リストは限定的なものになりそうだ。国民の国軍への反感はより根深くなる可能性もある。
調査員の安全確保も難しい。最大都市ヤンゴンの市民はNNAに、「すでに一部で国勢調査が始まっているが、大々的に行うと抵抗勢力を刺激してしまう」と話した。国勢調査を拒むつもりはないが、軍政に協力的と見なされて抵抗勢力からの攻撃の対象となることが怖いという。
■NUG無視の政治参加要求
軍政は9月26日、少数民族武装勢力と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」に対して停戦と政治的な手段による問題解決を呼びかける声明を出した。ただ、軍政に対抗する民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」への言及はない。互いを「テロリスト」と非難し合う両勢力の譲歩姿勢は見られない状況だ。
軍政のゾーミントゥン報道官は声明に関する翌27日の説明で、「市民が自由に投票する権利を守るため、安全保障と平和、安定が不可欠だ」と語った。「民主主義に反して武力による抵抗を望む勢力」がNUGやPDFを発足させたとの見方を示し、PDFによる市民の殺害などを非難した。
大国間の対立にミャンマーが巻き込まれる懸念や、国際的な団体や少数民族武装勢力などの意向が同国を不安定にさせている状況があり、国内の結束が重要だとも訴えた。
軍政はクーデター後、少数民族武装勢力に和平を持ちかけつつ、民主派を弾圧してきた。数百存在するとされるPDFは総称で、少数民族武装勢力あるいはNUGが影響力を有する部隊、独立系の部隊など多岐にわたる。
国軍は民主派勢力の弱体化を狙い、これまでも各PDFに停戦を呼びかけてきた。国勢調査を意識して妨害を避けるために政治参加を求めているが、呼びかけは事実上の降伏勧告となっている。
■複雑な市民感情、選挙に悲観的
軍政は国勢調査の結果速報を12月中に、各地域・州の詳細を来年中に公表するとしている。これに基づき有権者情報を整理し、来年にも選挙に踏み切りたい方針だ。
ただ、ISEASユソフ・イシャク研究所が発行する「フルクラム」は9月24日に掲載した「選挙がミャンマーの政治的危機の脱出口となるか?」という記事で、市民が選挙に複雑な感情を持ちつつ悲観的に捉えていると指摘した。
同研究所によると、「現地調査チーム」(安全のため詳細は非公表)は21年12月~22年1月、24年7~8月にそれぞれ数百人を対象に意識調査を実施。「選挙で危機を脱出できるか」という質問に対し、「できない」と答えた人の割合はそれぞれ67%、76%。「できる」との回答は2割を下回った。
21~22年の調査時はNLDの参加に期待を示す人も一定数いたが、同党は23年3月下旬に期限を迎えた政党としての再登録を見送り、次期選挙への参加資格を失った。NLDの中央作業委員会は、設立36周年を迎えた9月27日の声明に、軍政による選挙を認めない方針を盛り込んだ。
「選挙が実施されれば投票するか」という質問に対しては、24年調査で「投票しない」が76%と大勢を占めた。選挙は、市民が冷ややかな目線を送る、形だけのものになる可能性が高そうだ。
一方、政治的解決に向けた他の選択肢もない。20年選挙でNLDを支援していた男性はNNAに、「誰も未来を示せない。このまま紛争が続けば国が崩壊するだけだ」と話した。
軍政はこれまで、現行体制を正当化する非常事態宣言の延長を繰り返してきた。選挙準備を進める背景には中国からの圧力もあるとされる。選挙が実現するかどうかも不透明だ。各勢力が武力に依存する状況が今後も続く恐れがある。【10月1日 NNAアジア経済ニュース】
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【日本、対ミャンマー外交を格下げ】
なお、これまで軍事政権とも関係を維持してきた日本は“対ミャンマー外交の格下げ”(軍事政権との関係をこれまでより薄める対応)を行っています。
****日本、対ミャンマー外交を格下げ 駐在大使の後任は臨時代理****
丸山市郎・駐ミャンマー日本大使が週内にも離任し、後任の大使は赴任せず吉武将吾公使が臨時代理大使を務めることが26日分かった。対ミャンマー外交の格下げとなる。複数の外交筋が明らかにした。
後任大使を派遣すれば、2021年2月のクーデターで実権を握った軍事政権への信任状提出が必要。日本が軍政を承認したと受け止められる恐れがあり、派遣を回避した。
クーデター後も国軍との「独自のパイプ」を維持し、欧米と一線を画していた日本の外交的存在感は、低下する可能性が高まった。日本外交筋は「ミャンマーの重要性は変わらない。丁寧に説明し理解を得たい」と話した。【9月26日 共同】
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“クーデター後も国軍との「独自のパイプ」”と言いつつも、軍事政権への便宜供与はあっても、ミャンマー民主化にはほとんど何も実績を残していないようにも見えますので、軍事政権と距離を置き、軸足を軍事政権への民主化要請に重点を置く形に変更するのはよいことと思われます。