孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルとサウジの関係正常化を仲介するアメリカ パレスチナ、イランの存在、核開発の問題も

2023-09-23 23:22:08 | 中東情勢

(20日、ネタニヤフ氏(左)と握手するバイデン氏(ニューヨーク)=AP 【9月20日 日経】)

【バイデン大統領 イスラエルとサウジアラビアの関係を正常化することで、中東地域でのアメリカの負担を減らそうとの思惑か】
20日、国連総会出席のため訪米したイスラエル・ネタニヤフ首相とバイデン大統領の会談が行われました。

アメリカはイスラエルを支える同盟国ですが、保守強硬派で、特に「史上もっとも右寄り」の政権を率いるネタニヤフ首相と、パレスチナ国家樹立による「二国家共存」で中東地域の安定を基本路線とするアメリカ民主党政権は、反りが合わないところもあります。

また、ネタニヤフ政権が進める司法改革が三権分立を損なうと国内での強い反発を招いていますが、バイデン政権としても疑念があるところ。

そうしたやや溝もある両国関係を反映して、昨年12月に首相に復権したネタニヤフ首相はこれまで訪米しておらず、今回が初の訪米会談。場所もホワイトハウスではなくニューヨーク・・・となったようです。

今回の会談の中心議題はイスラエルとサウジアラビアの関係正常化。

アメリカは中国との競争を念頭に安全保障の軸足をアジアに移しており、イスラエルとサウジアラビアの関係を正常化することで、中東地域でのアメリカの負担を減らそうとの思惑があると言われています。

****ネタニヤフ首相がバイデン米大統領と会談、サウジアラビアとの和平合意に向け協議****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9月20日、国連総会が開催されている米国ニューヨークでジョー・バイデン米大統領と会談した。

イスラエル首相府によると、40年以上の付き合いがあるネタニヤフ首相とバイデン大統領は予定より長い約1時間にわたり、良好かつ友好的な会談を行ったとしている。

バイデン大統領は会談の冒頭で、ネタニヤフ首相を2023年内にホワイトハウスでの追加会談に招待するとした。会談では主に、イスラエルとサウジアラビアの間で歴史的な和平合意を結ぶ方法について話し合われたとしている。

ネタニヤフ首相は、中東全体や米国を脅かすことになるイランの核兵器開発を阻止できるのは確かな軍事的脅威だけとし、イランの核兵器開発阻止に向けたバイデン大統領の確固とした姿勢に謝意を表明した。

また「ともに協力することで、歴史を作り、この地域とその先のより良い未来を作ることができると信じている。また、ともに協力することで、その未来を脅かす勢力、とりわけイランに立ち向かうことができる」と述べた。

ホワイトハウスによると、ヨルダン川西岸地区で続いている緊張と暴力について、バイデン大統領は、イスラエル人とパレスチナ人の間の公正で永続的な和平を促進するための緊急措置を取る必要性を強調した。

また、ネタニヤフ政権が進める司法改革について、バイデン大統領は、できるだけ広範なコンセンサスがない限り、イスラエルの民主主義体制を根本的に変更することへの懸念をあらためて表明した。(後略)【9月22日 JETRO】
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アラブ諸国との関係改善を進めるイスラエルとしても、アラブ諸国の盟主たるサウジアラビアとの関係改善は地域における孤立から脱出し、安全保障を強固にするうえで重要でしょう。サウジアラビアとしてもイスラエルの技術力は欲しいところ。

【サウジ皇太子「最大の歴史的合意に日々近づいている」、ネタニヤフ首相「劇的な突破口に近づいている」 しかし、高いハードルとなるパレスチナ問題】
ただ、イスラエル・サウジアラビアの関係正常化に関しては高いハードルもあります。 まずはパレスチナ問題。

アラブ諸国がイスラエルとの関係正常化に走るなど、パレスチナを支援する「アラブの大義」がいかに形骸化しているとは言え、アラブの盟主を自任するサウジアラビアとしてはパレスチナを見捨てる形のイスラエルとの関係正常化はできません。

パレスチナ・アッバス議長もそのあたりを牽制しています。

****イスラエル・サウジ接近をけん制=パレスチナ議長が国連演説****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は21日、国連総会で演説し、「(パレスチナ人が)完全な権利を手にする前に中東和平を実現できると考えるのは妄想だ」と強調した。米国が仲介するイスラエルとサウジアラビアの関係正常化に向けた動きをけん制したとみられる。【9月22日 時事】 
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サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子も、「(合意は)日々近づいている」としつつも、イスラエルにパレスチナ問題での譲歩を求めています。

****イスラエルとの国交、正常化へ…サウジ皇太子「最大の歴史的合意に日々近づいている」****
サウジアラビアの実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子は20日放送の米FOXニュースのインタビューで、バイデン米政権が仲介するイスラエルとの国交正常化は「冷戦終結後、最大の歴史的合意になる」との考えを示し、「(合意は)日々近づいている」と述べた。

「我々にとってパレスチナ問題は非常に重要だ。(合意には)その部分を解決する必要がある」とも述べ、対パレスチナで強硬姿勢をとるイスラエルのネタニヤフ政権をけん制した。【9月22日 読売】
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一方のイスラエル・ネタニヤフ首相も「劇的な突破口に近づいている」としながらも、「パレスチナ人に拒否権を与えるべきでない」と、サウジアラビアとの関係正常化とパレスチナ問題を切り離す姿勢を示しています。

****イスラエル、サウジとの関係正常化は近い=ネタニヤフ首相****
イスラエルのネタニヤフ首相は22日にニューヨークでの国連総会で、サウジアラビアとの関係正常化が近づいていることを確信していると表明した。

一方、ネタニヤフ氏はパレスチナ人に拒否権を与えるべきでないと主張した。サウジや米国は、パレスチナ人を関係正常化のプロセスに参加させるよう求めている。

イスラエルがサウジとの関係を正常化する可能性があるとの期待は今週高まった。サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は関係正常化へ向けて日に日に合意に近づいていると言及。ネタニヤフ氏とバイデン米大統領は会談で、イスラエルとサウジの関係正常化を巡って協議した。

ネタニヤフ氏は「私たちはさらに劇的な突破口に近づいていると確信している。それはイスラエルとサウジの歴史的な和平だ」と訴え、「バイデン氏の指導力で私たちはサウジとの和平を実現できると信じている」とも語った。

ネタニヤフ氏は、パレスチナ人との何らかの融和を模索する意向を示しつつも「アラブ諸国との新たな和平条約を巡ってパレスチナ人に拒否権を与えてはならない」と主張した。【9月23日 ロイター】
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【問題を複雑にするイランの存在 サウジは米に相互防衛条約を求める】
イスラエルとサウジアラビアの関係正常化を複雑にさせるもうひとつの問題がイランの存在。また、そこに関連してサウジアラビアの核開発も絡んできます。

サウジアラビアは中国の仲介でイランとの関係を正常化させてはいますが、対立を続けてきたイランがサウジアラビアにとって極めて懸念すべき存在であるということは変わってはいません。

イランとイスラエルは、イスラエルが頻繁にイランの核施設やシリア領内拠点を攻撃する極めてホットな「戦争状態」にあります。サウジアラビアとしては、もしサウジアラビアがイスラエルと関係正常化すれば、イランはサウジアラビアがイスラエルによるイランの核施設攻撃を助けると考えてサウジアラビアに何らかの攻撃をしかけてくるとの不安があります。

そうした不安を払拭するためにサウジアラビアをアメリカに安全保障を求めています。

****米サウジ、相互防衛条約を協議 日米安保、米韓同盟モデルか****
米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は19日、米国とサウジアラビア両政府が相互防衛条約の締結に向けた協議を進めていると報じた。米国が同盟国の日本と結ぶ日米安全保障条約や、韓国と締結した米韓相互防衛条約をモデルにしようとしている。複数の米政府当局者の話として伝えた。

米国はサウジとイスラエルの国交正常化を目指し、仲介を続けている。サウジの実権を握るムハンマド皇太子は米国との条約締結がイスラエルとの関係構築に向け重要な要素になるとみているという。

条約はサウジや中東地域の他国が攻撃された場合に、米サウジ両国がそれぞれ軍事支援をすることを想定している。【9月20日 共同】
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ただ、アメリカとサウジアラビアが相互防衛条約を結ぶとなると、もしサウジアラビアがイランに攻撃されたらアメリカはイランと戦争をするのか? という話にもなって、慎重になるべきとの指摘もあります。

****サウジとイスラエルの関係正常化とイランの複雑な関係****
2023年8月30日付のフォーリン・ポリシー誌で、サーブ中東研究所上級フェローらは、サウジアラビアがイスラエルと関係正常化すれば、イランはサウジアラビアがイスラエルによるイランの核施設攻撃を助けると考えてサウジアラビアを懲罰し、サウジ側は、米国との軍事同盟がイランの攻撃を抑止すると考えるかもしれないが、米国はサウジアラビアのためにイランと戦争する用意があるかよく考えるべきだと論じている。

米国と中東では、サウジアラビアがイスラエルと関係を正常化する可能性について議論されている。関係正常化の見返りの一つは、米国がサウジアラビアと正式な防衛条約を結ぶ事だが、これは、サウジアラビアが最近、イランと結んだ関係正常化の合意を危うくするだろう。

イランはイスラエルと敵対関係にあるだけでなく、長年「戦争」の状態にあるからである。17年にはイスラエル軍はシリア他の中東でイランとその代理勢力に400回以上の空爆を行っている。

仮にサウジアラビアがイスラエルを受け入れれば、イランはサウジアラビアに対してあらゆる事をするだろう。19年にサウジの石油施設を攻撃したように、直接的またはイエメンのホーシー派等の代理勢力を利用してサウジアラビアの安全を脅かすかもしれない。

イランはサウジアラビアが米国と友好関係にある事は受け入れているが、イランに対して武力行使を躊躇しないイスラエルと関係を結ぶのは別の話である。また、イランは、その核施設に対する攻撃をイスラエルが行うことを恐れ、関係正常化によってサウジアラビアがイスラエルに便宜を図ると考えている。

イスラエルとの関係正常化によりサウジアラビアが失うものは大きい。イスラエルとパレスチナが争っている「エルサレム問題」は、イスラム世界にとって重要な宗教的関心事である。もし、サウジアラビアがエルサレムを諦めるならば、イランは、サウド家に対して激しい政治的圧力を掛けるであろう。

いずれにせよ、サウジアラビアがイスラエルとイランの双方と関係正常化は出来ない。仮にイランが、サウジとイスラエルとの関係正常化を理由にサウジを懲罰するならば、米国は、サウジアラビアのためにイランと戦争するだろうか。さらに、イランが代理勢力を使う場合、米国はどうするのか。簡単な答えは無い。

サウジ側は、防衛条約を期待している。サウジアラビアと米国は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に対するイラン側の対応についてよくよく意見を聞いた方が良い。もちろん、イランの反応を恐れてこの条約を思い止まるべきでは無いが、米国もサウジアラビアも慎重に進めるべきである。(中略)

一つ気になるのは、上記の論説では、関係正常化の見返りとして、米国とサウジアラビアの防衛条約には触れているが、もう一つの見返りとして噂されている米国のサウジアラビアの原子力開発への協力について言及が無いことである。

ムハンマド皇太子が「仮にイランが核武装すれば」という条件付きとは言え、核兵器保有について公言しており、この話はどうなっているのだろうか。アジア同様、中東地域においても、核の傘(拡大抑止)、核シェアリング等が議論されることになるのだろう。【9月22日 WEDGE】
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【サウジ アメリカに民生用核開発計画への支援を求める 中東での核開発競争の危険も】
上記記事の最後で触れられている核開発の問題。
核開発を進めているとされるイランにサウジアラビアは強い警戒感を持っており、イランが持つならサウジも・・・という考えです。

****サウジ皇太子「イランが核を持てば我々も持つ」 米番組で警戒感示す****
サウジアラビアで実権を握るムハンマド皇太子は20日に放送された米FOXニュースのインタビューで、イランの核開発疑惑を巡り「もしイランが核を持てば、我々も持たなければならなくなる」と述べた。

サウジは今年3月に中国の仲介でイランと関係正常化に合意して以来、関係改善を進めているが、イランに対して引き続き警戒感を抱いていることを示した格好だ。

インタビューでムハンマド氏は核兵器について「核を保有する必要はない。使用できないからだ。もし使用すれば、世界との大きな戦争となる」と警告。そのうえで、イランが保有すればサウジも核武装する姿勢を示した。両国は長年、中東の覇権を争い、2016年には断交した経緯がある。

また、イスラエルとの国交正常化を巡っては「日々歩み寄っている」と指摘し、「いい交渉が続いている」と明らかにした。一方、「我々にとってはパレスチナ問題が非常に重要だ。解決しなければならない」と指摘し、解決の必要性を改めて強調した。

この問題を巡っては、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが8月、サウジはイスラエルを国家承認する条件について仲介役の米国と大筋合意したと報じていた。サウジは民生用核開発計画への支援やイスラエルのパレスチナ政策での譲歩などを求めているとされる。【9月21日 毎日】
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サウジアラビアが核兵器を保有するルートとしては、サウジアラビアが資金的に核開発を支援したパキスタンから有事の際に核兵器を譲り受けるという密約があるとされる件があります。

加えて、サウジアラビアはアメリカに「民生用」ということではありますが、核開発計画支援を求めているとされます。

****サウジでウラン濃縮計画か 米イスラエル交渉で浮上****
21日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を目指す交渉の中で、仲介役の米国が正常化の見返りとしてサウジでウラン濃縮を行う計画が浮上していると報じた。

民生用と伝えているが、実現すれば中東でイラン以外にもウラン濃縮をする国ができ、核拡散リスクが高まる。

事実上の核保有国イスラエルはこれまで中東各国の核開発を警戒してきた。専門家は同紙に対し、イスラエルがサウジでのウラン濃縮を容認すれば「劇的な政策転換になる」としている。サウジには中東で覇権を争うイランに核開発で出遅れているとの焦りがある。【9月22日 共同】
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もし、サウジアラビアが核開発に踏み出せば、“イスラエルとサウジアラビアの関係を正常化することで、中東地域でのアメリカの負担を減らそう”というアメリカの思惑とは逆に、中東が極めて危険な核開発競争の場にもなりかねません。

パレスチナ問題でイスラエル側の譲歩があるのか、イランの存在を念頭にアメリカはサウジアラビアとの相互防衛条約を結ぶのか、サウジアラビアの核開発を認めるのか・・・非常に大きな問題、高いハードルが待ち受ける、アメリカが仲介するイスラエルとサウジアラビアの関係正常化です。
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