孤帆の遠影碧空に尽き

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中国  一人っ子政策撤廃 当局の思惑どおりには増えない出生数にあの手この手も

2016-03-11 21:24:05 | 中国

【3月11日 読売】

当局見積もり「労働人口3000万人増加」に疑問符 「負のスパイラル」懸念も
周知のように、中国では1979年から続いた産児統制「一人っ子政策」が撤廃され、今年から全ての夫婦が第2子まで持てるようになっています。

中国政府の狙いは、労働人口の減少をくいとめ、少子高齢化を緩めるため若年層を厚くしたいが、人口は限りある耕地や資源で養える範囲に抑えたい・・・というものです。

政府は、「一人っ子政策」廃止によって、2050年までに労働人口は3000万人が増加すると主張していますが、そうした政府の思惑どおりには進まないのではとも指摘されています。

先ず、人口動向に関する中国政府の公式見解は以下のとおりです。

****中国の人口、20年までに約14億2000万人に 政府見通し****
中国政府は5日、一人っ子政策による人口危機が進んでいる同国の人口が今後5年間で約4500万人増加するという見通しを発表した。増加人数はスペイン人口にほぼ匹敵する。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開幕した同日、中国政府は2020年までの新たな5か年計画の草案を発表し、世界最大の人口を抱える同国の人口は2020年までに「約14億2000万人」になるとの見通しを明らかにした。

前の計画が発表された2011年はまだ大半の夫婦が一人っ子政策の対象とされていた時期で、政府は2015年までに人口を「13億9000万人以下」に抑制する目標に掲げていた。

政府は今年、大きな論争を呼んできた一人っ子政策を廃止し、全ての夫婦に2人目の子どもを持つことを容認する方針を打ち出したが、実際のところは、経済的な理由から2人目を望まない夫婦は多い。

過去5年間に中国の人口は3300万人増加した。今回示された2020年の予測が正しければ、人口増加のペースは今後5年間に一層加速することになる。

中国社会では長年、男子が偏重され、女子を妊娠しても中絶したり生まれて間もなく殺害したりするケースが後を絶たず、政府は「出生性比が偏っている問題」に取り組むことも発表した。【3月5日 AFP】
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また、政府の計画では人口がピークを迎えるのが2030年頃と見られていますが、もっと早い段階で人口減少に転じるという指摘が多いようです。

そうした少子高齢化の急速な進行は、内需拡大に期待する経済運営を困難にすること、現在も遅れている社会保障制度の整備も困難にすることなどと相まって「負のスパイラル」を招くとも。

****中国で「負のスパイラル」加速の可能性 「人口減少は政府想定よりずっと早くやってくる」と人口学者が口々に****
中国政府は現在、中国の人口は2030年に増加から減少に転じるとする見解を示している。中国メディアの第1財経は1日、多くの学者が「中国の人口はもっと早く減少に転じる」、「2023年ごろだろう」と考えていると指摘する記事を掲載した。

中国では長らく厳しい産児制限が続いた。いわゆる「一人っ子政策」だ。2016年までには、届け出をすれが2人目の子を産めるようになったが、政府の思惑通りには、出生数は増えない見通しという。

記事は、現状において「3人目の子」として生まれる赤ちゃんが、2015年の場合全出生数の1655万人に対して80万人強で、出生数の5%程度しかいないことに注目。夫婦1組について「3人目の赤ちゃん」は規則違反ということになるが、それにしても小さすぎる数字で、中国人全般に「子づくり」に対する意欲が低迷しているのは明らかという。

中国政府は「2人目の出産の解禁」で、年間の出生数が300万増加すると見込んでいる。2050年までに出現する労働人口は3000万人分増加し、人口バランスにおける老齢化も緩和できるとの考えだ。そして、中国の人口が減少に転じるのは2030年と見積もっている。

しかし、人口学者の姚美雄氏が計算したところ、2050年における労働人口の増加は「3000万人には、はるかに届かない」水準にとどまるという。また、高齢者が多くなるので死亡も増え、2023年には中国の人口は減少しはじめるという。政府の見込みより7年も早いことになる。

人口学者の黄文政氏は、出生人口のピークは2017年で、年間出生数は1750万人から2000万人と予測する。しかし2018年には激減し、2020年までの平均で年間出生数は1650万人から1850万人と、最低ラインの場合現在とほとんど変わらないという。

同じく人口学者の顧宝昌氏は、政府が「2人目の出産を望む可能性がある」として計算に入れている女性のうち、40歳以上の人が50%以上と指摘。「2人目の出産を解禁」しても、政府が期待する効果はでないだろうとの考えを示した。

顧氏が全国各地で調査したところ、「2人目の子を作っても、経済的事情で育てるのが難しい」、「2人目を生むと、女性は仕事に影響が出る」、「子どもを見てくれる人がいない」などと言う夫婦が多かったという。

中国経済の柱はこれまで、外需と投資だった。しかし、リーマンショックなどは「外需はあてにならない」教訓を示した。投資についても、「リターンを真剣に考えない投資」が多く行われ、深刻な財政難に陥った地方政府も多い。

中国政府はそのため、内需拡大に力を入れることになった。そして内需拡大ための大きな障害のひとつが、社会保障制度が未整備であることとされる。老後などに不安を持つ人が出費を避けるからだ。

少子高齢化が進行してから社会保障制度を整備するのは極めて難しい。社会保障制度を確立しないと、経済運営が困難になる。経済運営が困難になれば、社会保障制度の整備は困難になる。社会保障制度が整備できなければ、内需拡大もや少子高齢化の緩和が難しくなる――。

中国経済と中国社会の構造問題で、「負のスパイラル」が加速する可能性は否定できない。【2月3日 Searchina】
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現実問題として、子育て費用などを理由に2人目をためらう夫婦が多いのが実情で、“上海の華東師範大学による調査では、夫婦共に「2人目が欲しい」と回答したのは25%。地方でも同じ傾向で、東北部・吉林省では16%にとどまった”【3月11日 読売】とも。

法定産休拡大や減税なども
期待しほど出生数が増えない、ということは中国政府が期待する労働人口増加も少子高齢化減速も思うようには進まない・・・・という事態に、対策も打ち出してはいるようです。

****中国当局が「増えぬ出産」に危機感、「法定産休」が最大で180日に****
中国共産党機関紙「人民日報」系のニュースサイト「人民網」によると、中国で31カ所ある「省クラス行政区画(以下、省)」のうち12カ所が、女性の出産に対して政府として保証する「産休」期間を延長した。最も長い福建省では最大で180日間。配偶者の男性に認められる「付き添い産休」は最大で25日間だ。

同措置の背景には、当局の当初思惑通りに出生数が増えるめどが立っていないことがある。中国では長年に渡って実施した厳格な産児制限、いわゆる「一人っ子政策」により、急速な高齢化の進行、労働人口の減少という弊害が顕著になった。そのため2016年冒頭までに、夫婦が届け出をすれば2人目の子の出産を認めることにした。

しかし、届け出をする夫婦は予想より大幅に少ない状態だ。政府は2050年までに出現する労働人口は3000万人分が増加すると主張していたが、人口学者の多くは「3000万人増加には、はるかに届かない」と見ている。

中国では夫婦共働きが一般的であり、多くの女性は「出産は仕事に影響する」と考えていることが、出生数の伸び悩みに直結しているとされる。「産休」の延長は、「出産しやすい環境」を整備する意味がある。

「産休」は省ごとに定められている。これまでに改定を発表した省で、最も長く定めた福建省の場合には158−180日間だ。山西、安徽、江西、山東、四川の各省と寧夏回族自治区では158日間だ。天津市や浙江省など最も短い省でも128日間と、4カ月以上を認めた。

また、配偶者の男性に認められる「付き添い産休」は、最長の広西チワン族自治区などで25日間、最短の天津市や山東省では7日間だ。

結婚に対して認められる「婚休」は、最長の山西省で30日間だ。ただし、その他の省では3日間程度の場合が多い。一定の年齢を超えてから結婚した場合に認められた、「婚休」に追加される「晩婚休」はこれまで最大で30日間だったが、すべて撤廃された。

これまでに「産休」の改訂した省は12省だが、今後は全国に広がることがほぼ確実な情勢だ。【2月23日 Searchina】
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現在開催されている全人代でも多くの提案がなされているようです。

****全人代2016)出生増へ提案続々 「二人っ子」でも少子化危惧****
中国は少子化を食い止めることができるのか。「一人っ子政策」を終えて初めて迎えた全国人民代表大会(全人代)で、これまでとは一転、出生数を増やすための方策についての発言が相次いでいる。産児制限の放棄を求める声も上がるが、社会の変化に当局が追いついていない様子も浮かぶ。

全人代で公表した「第13次5カ年計画」からは、過去の計画が示し続けてきた人口の抑制目標が姿を消した。全人代の代表(議員に当たる)で、計画策定に助言する役割も果たした中国社会科学院の蔡ホウ・副院長は朝日新聞の取材に、「人口の変化はもう緩やかになっており、抑制の必要はなくなった」と説明する。

中国は今年1月、すべての夫婦に2人目の子どもを産むことを解禁した。長年の一人っ子政策で、一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均を示す合計特殊出生率は1・5~1・6程度に落ちこんでいるとされる。

蔡氏は「制度変更で出生率が1・8程度まで回復するのが理想だが、簡単ではない。人々がお金が足りずに子どもを養えないと感じているからだ」とみる。

「二人っ子政策」で子どもを産めるようになる夫婦9千万組のうち、産もうと考えている夫婦は26%にとどまる、との調査もある。

「2人目を産んだ夫婦には各種の減税策を設けるべきだ」(上海の張兆安代表)。全人代に集った代表らからは、出生数の増加を目指した政策提案が相次いでいる。各代表には、少子化が地方経済にとって重しになる、との危機感も強い。

全人代と同時に開催している全国政治協商会議の李ワイ常務委員は、「遅くても2017年末までには全面的に計画出産を放棄するべきだ」と踏み込んだ。

改革の足を引っ張る要因とも見られているのが、一人っ子政策の執行を担った国家衛生・計画出産委員会の存在だ。「委員会は今すぐ出産の管理ではなくサポートに使命を変えるべきだ」(広東省の黄細花代表)と変化を求める声が上がる。

だが、同委の李斌主任は会期中の記者会見で、産児制限を終える時期を問われて「計画出産の国策はこれからも長期、堅持する」と返した。【3月11日 朝日】
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少子化に悩んでいるのは中国だけでなく、日本を始め、韓国・台湾・シンガポールなども同じです。
生活水準向上に伴って顕著になってきますが、社会における女性の置かれている状況、子育て・教育の負担感なども絡んだ問題で、対応には社会全体の意識改革を伴う難しい課題です。結果、日本も大きな成果を出せずにいます。

無戸籍者問題
一人っ子政策については、単に撤廃するだけではなく、同政策が生んだ多大な「無戸籍者」への戸籍付与という喫緊の課題もあることは、昨年12月10日ブログ“中国 「一人っ子政策」廃止を受け、同政策の生んだ弊害「無戸籍者」への戸籍付与を決定”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151210でも取り上げたところです。

****ふたりっ子の中国:9)戸籍がない 政府に陳情、監視の日々****
2001年4月19日。当時7歳だった北京市の李雪さん(22)は「私は学校に行きたい」と書かれた紙を掲げて、父親が運転するオート三輪に乗って市内を走っていた。

李さんは、昨年廃止された一人っ子政策のもとで第2子として生まれ、両親が罰金を支払わなかったために戸籍がない。両親は、李さんが戸籍がなくても小学校に通えるよう政府への陳情や訴訟に奔走していた。

李さんによると、家族3人で天安門広場に近い北京市公安当局の庁舎にさしかかったとき、陳情活動を警戒する公安関係者に呼び止められ、庁舎に連行された。間もなく自宅近くの派出所から3人の警官もやって来た。

李さんは、そのとき見た光景が忘れられない。警官は母親をののしって殴り、左足が不自由な母親は床に崩れ落ちた。止めようとした父親も警官に引き倒されて暴行を受けた。李さんは別の警官に抱きかかえられ、両親に近づくことを許されなかったという。「恐ろしくて、ずっと泣いていた」

両親は2カ月余り寝込んだ。父親は公安局に被害を訴えたところ、警官らは「父親たちが勝手に転んだだけ」と暴行を否定。「暴行の事実は認められない」と結論づけたという。

その6年ほど前から、陳情を繰り返す李さん一家は当局に警戒され、執拗(しつよう)な監視を受けていた。

李さん一家を注意深くうかがう人たちを目にするようになり、尾行されることもあった。やがて、自宅の周囲で、警官や役所の職員、町内会員ら20人ほどが交代で監視するようになった。国慶節など北京に人が集まる時期には陳情をさせないためか、24時間態勢で監視下に置かれた。父親が公安当局に通報したが、取り合ってくれなかった。

父親が14年に病気で亡くなった時も、自宅の外に監視役がいた。最近は不審な人物を見かけなくなったが、自宅から表通りに出る道に複数の監視カメラが設置されている。李さんは「戸籍をもらえないだけでなく、どうしてこんなひどい仕打ちを受けるのか」と憤った。【2月3日 朝日】
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国家責任を問う声も ただ、一人っ子政策の闇の部分に光が当てられることは・・・
一人っ子を亡くした親たちによる、一人っ子政策を進めた国を相手取った訴訟も起こされているようですが、その理由が「2人目の出産が認められなかったために、老後の介護などで子供から得られる利益を失った」というのもで、社会保障制度が不十分で、子供に頼るしかない中国の実情を反映しているようにも思えます。

****一人っ子政策巡り国を提訴 中国、子を亡くした180人****
中国政府が昨年廃止した「一人っ子政策」をめぐり、一人っ子を亡くした親たち約180人が昨年5月、「2人目の出産が認められなかったために、老後の介護などで子供から得られる利益を失った」などとして、国に補償を求めて一斉提訴していたことがわかった。一人っ子政策を実施した国の責任を問う集団訴訟は極めて異例だ。

一人っ子(独生子女)を失った「失独家庭」は100万世帯に上るとされ、高齢化が進む。訴訟が他の請求運動や政府の支援策に影響する可能性がある。

訴訟関係者によると、原告側は多額の罰金を科されるなどした一人っ子政策を守ったために第2子を産めず、精神的苦痛や、子供による介護が受けられなくなるといった損害を受けたと主張。「公共利益のために犠牲になった」として、1人当たり最高約60万元(約1080万円)前後の補償などを国に求めている。

原告らはネット上で交流するなどして連携し、2010年ごろから最終的に3千人以上が政府に補償を求める陳情を展開。認められなかったことから、約180人が昨年5月に北京市第1中級人民法院に提訴した。

同法院は訴えを受理せず、高裁に当たる高級人民法院も「国家の政策調整の範囲内で、裁判所が受理する案件ではない」などとする判断を示した。原告側は最高裁に当たる最高人民法院に不服申し立ての手続きをとっている。

原告の一人で、中学校入学を控えた一人息子を亡くした遼寧省の50代男性は「息子の生前、第2子を中絶してあきらめた。我が子から老後の世話を受けられないのは、一人っ子政策のせいだ。国家や共産党に逆らうつもりはないが、できるだけ早く解決してほしい」と訴える。

中国政府は昨年10月、1979年から続けていた一人っ子政策を廃止してすべての夫婦が2人を産めるようにすることを決め、今年1月1日から実施している。【1月26日 朝日】
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中国政府ならずとも、こうした要求には応じられないでしょうが、当事者の抱える問題は深刻でもあります。

また、「一人っ子政策」推進のもとで行われてきた非人道的措置(強制中絶など)の全容に光が当てられることは、現体制が続く限りはありえないでしょう。

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