孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メコン川  変容の背景に中国のダム建設 中国「メコン川協力が国と国の関係の手本」

2023-12-25 23:18:31 | 中国
(漁に使う木造船に乗り「漁は好きだから続ける」と話すソムサック・ナンタラットさん=タイ北部チェンライのドーンティ村で2023年11月19日、武内彩撮影【11月30日 毎日】)

【水量、魚や堆積物が減少するなど変容するメコン川】
チベット高原から南シナ海へ約4350キロを流れるメコン川は、流域の中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムに住む数千万人の農業や漁業を支えています。

近年、そのメコン川の水量が大きく減少し、流域に暮らす人々の生活を脅かしています。

****漁師ら「食べていけぬ」 タイ・メコン川 温暖化で水量激変、漁獲減****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで30日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開幕する。焦点の一つが、温暖化による「損失と被害」を受けた国を支援する基金のあり方だ。資金拠出をめぐって先進国と途上国が対立する中、中所得国のタイは支援の対象から外れる可能性もある。

タイ北部チェンライのドーンティ村は、ラオス国境を流れるメコン川沿いにある。11月中旬、漁師のソムサック・ナンタラットさん(46)が川に仕掛けた網に小さな淡水エイが約1カ月ぶりにかかった。淡水エイが揚がるのは以前は珍しくもなかった。だが、今は月に1匹も取れればいい方だ。「こんなに魚が取れないんじゃ、漁で食べていくのは無理だ」。川に浮かべた木造船の上で、ナンタラットさんは肩を落とした。

中国のチベット高原を源流に、インドシナ半島を蛇行して南シナ海に注ぎ込む全長約4800キロのメコン川は、流域に暮らす約6000万人の暮らしを支える。チェンライの川沿いにはドーンティ村を含めて43の村落がある。雨期になればメコン川の水量は増え、乾期になれば減る。流域の住民は、季節によって川の水量が変わる自然のサイクルに合わせ、漁業で生計を立ててきた。

ところが、ナンタラットさんらの生活に今、異変が起きている。1990年代以降に上流や支流でダムが相次いで建設されたことに加え、異常気象による降水量の減少などで、季節ごとの川の水量が激変して不安定になり、魚が取れなくなった。市場に卸せるほどの漁獲量はなく、ナンタラットさんはネット交流サービス(SNS)を通じて細々と魚を売りながら、やっとのことで生活している。

メコン川の下流域にあるタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムでつくる「メコン川委員会」は「気候変動により過去10年で流量が減った」と指摘する。

メコン川下流域では2019年、過去100年で最悪といわれる干ばつに襲われた。降水量の少なさに加え、上流の中国にあるダムが水不足に備えて放水量を制限したことも被害を深刻にしたとされる。さらに20年以降も雨期の降水量がこれまでの平均を下回った。同委員会は、メコン川での漁獲量は、気候変動の影響も考慮すると40年までに07年と比べて40%も減ると予測している。

30年近くこの流域を調査してきた環境NGO「リビングリバーサイアム」のソムキャット・クンチンサ氏は「ダムの建設で水量や水流が不安定になった。さらに洪水などを引き起こす異常気象が漁獲量の減少に拍車をかけている」と話す。チェンライの川沿いでは、漁師の多くが農業に転向したり、山あいのプランテーションで働くために移住したりして、漁村の生活は一変した。

ナンタラットさんも午前中は飼料用トウモロコシの畑に向かい、午後から1人乗りの木造船で川に出て網を仕掛ける。川の水位が下がる2〜4月に収穫していたカイと呼ばれる川藻も激減した。

「川の変化に動植物が適応できなくなっている」。それが、漁師らの一致した見方だ。20年前に30人ほどいた村の漁師は次々と漁をあきらめ、今は10人ほどしかいない。

約60キロ下流のパッインターイ村も状況は同じだ。20年ほど前までは50世帯以上が漁をしていたが、今は畑で野菜を栽培する傍ら約10人が漁をするだけだ。アムノイ・スワンディさん(55)は「メコン川ではもう食べていけない」と漏らす。雨期には1日10キロの魚が取れたが、最近はゼロの日が多い。「以前は季節ごとに漁場を変えていた。だが、過去の知恵が役に立たなくなった」と話す。

タイ政府は、地球温暖化による影響に適応する対策として、メコン川流域で養殖の導入や洪水対策の護岸工事などを進めた。だが、養殖は不安定な水量などに影響されて軌道に乗せるのが難しく、一部の護岸工事は岸辺での農業を妨げることになった。

政府機関「気候変動・環境研究所」のアトサモン・リムサクル上級研究員は「今まさに損害を受けている住民には『適応』策が必要だ。だが、効果を検証するには時間も資金もかかる。国際的な支援が必要だ」と訴える。

クンチンサ氏は言う。「温暖化の責任を押しつけ合う議論が続いているが、その間にしわ寄せを受けるのはメコン川流域の漁師らだ。問題を引き起こした側が、まず責任をとるべきだ」【11月30日 毎日】
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タイ・チェンライ付近は2010年に観光しましたが、メコン川水系のコック川を小さなボートでミャンマー国境近くの町まで4時間余り遡ったことがあります。当時の川岸のどかな風景が忘れられませんが、今は随分変わってしまったかも。

****ベトナムのメコンデルタ、35年までに砂枯渇の可能性 WWF報告書****
世界有数の穀倉地帯とされるベトナム南部の三角州メコンデルタで、2035年までに砂が枯渇する可能性を警告する報告書が5日発表された。砂の採掘や上流のダムによるせき止めが原因と指摘されている。

メコン川が南シナ海に注ぐ河口にあるメコンデルタは、生物多様性ホットスポットであり、数千万人の暮らしと食料を支えている。

だが上流の水力発電ダムの影響で土砂の流量が減り、生態系の維持に不可欠な川底の砂が急激に減少。世界自然保護基金によると、好景気の建設部門による砂の採掘がこれに拍車を掛けている。

WWFの報告書「ベトナム・メコンデルタの砂量」は、年間3500万〜5500万立方メートルの砂が採掘されており、このままのペースでいけば「採掘可能な砂はあと10年でなくなる」と警告している。

報告書を共同執筆者したセファー・エスラミ氏はAFPに対し、砂が枯渇すれば、塩害の被害を受ける地域が10%拡大すると指摘。また気候変動と海面上昇の脅威が迫る中、「川岸の浸食や洪水が増え」、メコンデルタの存続自体が危うくなると述べた。

調査によると、昨年デルタに流れ込んだ砂はわずか400万立方メートルで、過去の平均700万立方メートルを大きく下回っている。 【10月6日 AFP】
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個人的な話ですが、メコン川は大好きで、あちこちで観光しています。ベトナムのメコンデルタの中心都市カントーを旅行したのは2001年。カントーはメコン最大の支流ハウザン(後江)の南西岸の大都市です。更にメコンデルタの奥の地域を観光したいとも考えていますが・・・。

ベトナムに限らずメコン川を船で遊覧していると、川砂を採取している光景をよく目にします。 東南アジア諸国のことですから資源保護などはあまり重視されず、「無秩序・勝手に採取しているのでは・・・」、「そのうち砂もなくなるだろうに・・・」と思うこともあります。

【最上流で中国が建設するダムの影響】
メコン川の変容の背景には、上記の記事でも指摘されているように、温暖化や砂採取などのほかに、上流でのダム建設の影響があります。

ダムは流域国が建設していますが、最上流で、かつ、多数のダムを建設している中国の問題がよく指摘されています。

****メコン川を脅かす中国の水力発電ダム****
メコン川はチベット高原から約5,000キロメートルにわたって伸び、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアを通り、最終的にはベトナムのメコンデルタに至る。東南アジアで最長のこの川は、農業や漁業で水路に依存している人々の生活に欠かせない栄養豊富な堆積物を運んでいる。

しかし、このメコン川が干上がってきている。ワシントンD.C.に本拠を置くシンクタンク、スティムソン・センター(Stimson Center)の分析によると、近年、その水位は記録的な最低レベルにあると、ラジオ・フリー・アジア(Radio Free Asia)が2022年に報じている。

メコン川下流域では、人が歩いて渡れるほど水位が低いこともある。15年前には年間1億4,300万トンと推定されていた重要な堆積物の多くがブロックされている。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の2023年8月の報告書によると、このような状況は下流域の約6,000万人の人々の食料不安と環境危機の一因となっているという。

専門家らは、気候変動の影響を認めながらも、この川の危機の直接の原因は中華人民共和国によるメコン川上流(中国では瀾滄滄と呼ばれる)での水力発電ダムの建設にあると述べている。

ダムは魚の移動経路を遮断し、堆積物や栄養分を閉じ込める物理的障壁となり、その波及効果により水位の低下や塩水の侵入が起こる」と世界自然保護基金は2023年10月に報告している。

ロイター通信が2022年12月に報じたところによると、中国はメコン川の支流に少なくとも95の水力発電ダムを建設している。また、1995年以来、主流の巨大ダムを11基建設しており、今後更なる建設も計画し、ラオスの2つのダム建設にも協力した。

下流の危機の一因となるのはダムだけではなく、その管理方法であり、アナリストらは中国政府が他のメコン諸国をほとんど考慮せずに行動していると主張している。

スティムソン・センター東南アジアプログラム(Stimson Center’s Southeast Asia Program)のディレクター、ブライアン・アイラー(Brian Eyler)氏はVOAに対し、中国は「雨季には川から水を汲み上げ、乾季には水力発電のために水を戻している。そしてそれにより、現在生じている干ばつの状況をさらに悪化させている」と語った。

同氏は、「中国は雨季に大量の水流が必要とされることを認めるべきだが、これまでのところ中国はこれを否定している」と述べている。

メコン川委員会は、2040年までにデルタ地帯に到達する川由来の土壌は毎年500万トン未満になると推定している。同委員会は流域に隣接する国々によって1995年に設立され、加盟国と協力して水資源の管理に取り組んでいる。しかし、中国は近隣諸国と水共有協定を締結していない。

ベトナムの家族の農場で40年以上米を栽培しているトラン・ヴァン・クン(Tran Van Cung)さんは、「川は堆積物を運んでこないし、土壌は塩分化している」とロイターに語った。

60歳のクンさんは、最近の収穫量では数年前の収入のわずか半分にしかならず、2人の子供たちと近所の人たちは仕事を求めてこの地域を離れていると語った。「沈殿物がなければ、私たちは終わりだ」とクンさんは嘆く。

カンボジアの漁師ティン・ユソス(Tin Yusos)さんとその妻と孫娘は、2021年に自宅兼ボートに乗ってプノンペン近くのトンレサップ川とメコン川で釣りをしていた。「まだたくさんの魚が釣れていた頃は、このような釣りをした日には約30キロぐらい魚が釣れていたが、今では1キロちょっとしか釣れない。今は魚がいない」とティンさんは話す。【12月12日 FORUM】
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【中国 「メコン川協力が国と国の関係の手本に」】
・・・と、ここまでの話は、これまでもメコン川について取り上げてきた過去のブログと内容的にはほぼ同じです。今回敢えてその同じ話題を取り上げたのは、腰を抜かすような↓の記事を見たからです。

****瀾滄江・メコン川協力が国と国の関係の手本に―中国外交部****
22日に行われた外交部の定例記者会見で、記者から今月25日に開催される瀾滄江・メコン川協力第4回指導者会議について、「中国は瀾滄江・メコン川協力の現状をどう評価しているか、今回の会議にどのようなことを期待しているか」との質問がありました。

汪文斌報道官は、「瀾滄江・メコン川協力は運命共同体の建設を目標とし、流域の6カ国が協議し、共同で建設し、共有する初めての新型地域協力メカニズムだ」と示した上で、「この7年間、急速な発展を遂げており、『指導者がリードし、全面的にカバーし、各部門が参与する』という瀾滄江・メコン川構造が形成されている。

また『平等に接し、誠実に助け合い、家族のように親しむ』という瀾滄江・メコン川文化が育まれ、国と国の関係の模範、地域協力の手本、南南協力のベンチマークとなっている」と述べました。

さらに、「現在、流域の各国は急速な発展と現代化に向かう重要な岐路に立っている」と強調するとともに、「今回の指導者会議を通じて、流域の国家運命共同体構築の推進を中心に、総合的発展やグリーン環境保護、科学技術革新、安全ガバナンス、人文交流などの分野での協力の強化に重点に置き、流域の経済発展ベルト構築の推進を深く議論し、域内諸国の共同発展の実現、現代化への協力に積極的な貢献をすることを期待している」と述べました。【12月24日 レコードチャイナ】
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別にメコン川の問題を中国だけの責任と批判するつもりはありません。中国には中国の事情もあるでしょうし、他の流域国にも問題はあるでしょう。

ただ、前出【FORUM】にもあるように、中国政府が他のメコン諸国をほとんど考慮せずに行動しているとの批判が強く存在しています。

そうしたなかで「メコン川協力が国と国の関係の手本」と言ってのける中国政府の厚顔ぶりに驚いた次第です。

中国がいかに経済的に成長し、軍事的に巨大化し、国際政治で重きをなすようになっても、日本を含めた周辺国から恐れられることはあってもリスペクトされないのは、こうした傍若無人ぶりにあります。

中国はいつになったらそのことに気付くのか?
『平等に接し、誠実に助け合い、家族のように親しむ』・・・・是非ともそうありたいものです。

【国際河川管理の難しさ ナイル川でも】
メコンに限らず、国際河川のダム建設は上流国・下流国の利害が対立する難しい問題です。
メコンと並んで何回か取り上げたこともある、ナイル川のエジプト・エチオピアの対立もうまくいっていないようです。

****エジプト、エチオピアと水争い ナイル川巨大ダム巡り「交渉決裂」****
ナイル川の水資源を巡り、上流で巨大ダムを建設しているエチオピアと下流に位置するエジプトが対立している問題で、エジプト政府は19日、ダムの管理方法に関する交渉が決裂したと発表した。

両国の首脳は7月、4カ月以内に解決することで合意し、交渉が続いていた。希少な水資源を巡る対立の難しさが改めて浮き彫りになった。

問題となっているのは、エチオピア高原を水源に持つ「青ナイル」沿いでエチオピアが2011年から本格的に建設を始めた「大エチオピア・ルネサンスダム」。

最大貯水量は青ナイルの平均年間流水量の約1・5倍とされ、エチオピアはすでに段階的に貯水を始めている。エジプトはこのダムが将来的に水不足を引き起こす懸念を強めている。

交渉では、エジプトはダムの管理方法などについて法的拘束力のある合意を求めているとされる。エジプト水資源・かんがい省は声明で、「交渉は、エチオピアが技術的・法的な合意を一貫して拒否しているため失敗に終わった」と批判した。

エジプトは水需要の9割以上をナイル川に依存しており、水資源の確保は死活問題だ。ダムにより水不足が深刻化すれば、両国間で緊張が高まる可能性がある。【12月20日 毎日】
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交渉が決裂・・・エジプト側には「軍事行動に訴えてでも・・・」という強硬論が以前からありますが、さすがに完成している「大エチオピア・ルネサンスダム」を破壊するというのはシシ大統領もできないでしょう。多分。
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