孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「世界の警察官」に関心がない“トランプ大統領”になれば・・・対中国政策は? 日本は?

2016-03-12 22:34:57 | アフリカ

(大統領選から撤退し、トランプ支持を明らかにしたニュージャージー州のクリス・クリスティー知事(左)ですが、その硬い、うつろな表情が「まるで人質みたい」とも揶揄されると同時に、その思惑がいろいろ取り沙汰されてもいます。【3月3日 Newsweek】)

混乱する共和党主流派
アメリカ大統領選挙で23戦15勝と共和党・トランプ候補の快進撃が止まりません。

“3月1日のスーパー・チューズデーでも、トランプ氏は11州のうち7州で勝つという好成績を収め、予備選のトップランナーの地位を確立し、3月5日にカンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、メインの4州で行われた予備選でも、ケンタッキーとルイジアナの2州で勝利した。”【3月9日 WEDGE】

3月9日時点の獲得代議員数では、トランプ氏が446名、テッド・クルーズ氏が347名、マルコ・ルビオ氏が151名、ケーシック氏が54名となっています。

次のヤマ場は、「勝者総取り」方式で15日に行われる大票田フロリダ、オハイオ両州などでの予備選とされています。

これまでとことなり「勝者総取り」となると、代議員数の多い州での結果次第では、数字が大きく動くことも充分にありますが、他の候補者の地元で予備選が行われるこれらの州でもトランプ氏の優勢が伝えられている・・・ということで、トランプ氏が共和党の大統領候補に指名される可能性がかなり現実味を帯びてきています。

この事態に、共和党主流派はかなり慌てているようにも思えます。

*****米大統領選】「トランプ大統領」誕生に強い懸念 トランプ氏vsロムニー氏 互いに非難 安保専門家も*****
・・・(前回共和党大統領候補)ロムニー氏はユタ州で演説し、「トランプ氏はペテン師、詐欺師だ。彼が公約していることには価値がない」と批判。大衆の怒りをかき立てるだけの政治手法や女性蔑視発言をいとわない気性の面からも大統領にふさわしくないと述べた。

特に安全保障面で米国の利益を損なう可能性を指摘。「大言壮語が同盟国を警戒させ、敵対国の憎しみをあおっている」とした。トランプ氏がロシアのプーチン大統領を称賛する一方で、イラク戦争を始めたブッシュ前大統領を「嘘つき」と呼んだことを挙げ、「悪が善に勝るという倒錯の一例」と語った。(後略)【3月4日 産経】
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ロムニーのこのトランプ批判については、「遅すぎた」という声がある一方、“彼の演説は、トランプ氏に対する強い反発が共和党内の中道派・穏健派の間にあることの表れで、今の時期にあれだけ批判的な演説を彼がしたということは、夏の党大会で共和党候補を党が一丸となって支持しようという雰囲気を醸成することは、トランプ氏が候補として指名された場合ほぼ不可能になるのではないか、という見方も出てきており、その場合、トランプ氏に反発する勢力がポール・ライアン下院議長を「第3の候補」を担ぐ可能性も否定できず、ロムニー氏が自ら「第3の候補」として出馬するのではないかという憶測も流れている。”【3月9日 WEDGE】

トランプ氏と争うルビオ氏からは、こんな奇策も。

****共和ルビオ氏、生き残りへ奇策=ライバルへの投票呼び掛け―米大統領選****
米大統領選の共和党候補マルコ・ルビオ上院議員(44)が15日の「ミニスーパーチューズデー」に向け、生き残りをかけた奇策に打って出た。

不動産王ドナルド・トランプ氏(69)の独走を危惧する党員に対し、オハイオ州ではジョン・ケーシック知事(63)に投票するよう呼び掛けた。

15日にはオハイオ州とともにルビオ氏の地盤のフロリダ州でも予備選が行われる。ルビオ、ケーシック両氏とも多くの世論調査でトランプ氏に先行を許している。

地元で敗れれば撤退せざるを得ないとの見方が強まる中、ルビオ氏としてはケーシック氏の生き残りを後押しすることで、フロリダ州での見返りを期待しているとみられる。【3月12日 時事】 
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まあ、戦術としてはわかりますが、大統領を争うにふさわしい方法か・・・という点では、かなり疑問です。

既成政治をこきおろすトランプ候補が共和党主流派から嫌われているのは事実ですが、“党執行部を強烈に批判する草の根保守「ティーパーティー」出身で、反主流派の急先鋒”である2位のテッド・クルーズ氏も党内の嫌われ者である点では同じです。

党内主流派にとっては、嫌われ者のどちらを選ぶかという「究極の選択」を迫られています。

****乱 分断大国)アメリカの選択:6 信じ難い主流派の提案****
・・・名門政治一家出身のブッシュ元フロリダ州知事が2月20日に選挙戦から撤退、その10日後のスーパーチューズデーでトランプ氏がリードを広げると、主流派の動揺はピークに達した。

その象徴が、連邦議員を20年以上務めたリンジー・グラハム上院議員の発言だった。同日深夜の報道番組で発した言葉に、誰もが耳を疑った。

「トランプ氏を阻止する唯一の方法として、クルーズ氏に結集するしかない」

クルーズ上院議員は、党執行部を強烈に批判する草の根保守「ティーパーティー」出身で、反主流派の急先鋒(きゅうせんぽう)だ。この若手議員をグラハム氏は露骨に嫌悪し、「トランプとクルーズのどちらを選ぶかというのは、銃殺と毒殺の違いだ」とすら語っていた。

そんな相手を支持するのか。そう司会者に問いただされ、グラハム氏は答えた。「自分でも自分の言っていることが信じがたいが、答えはイエスだ」

トランプ氏を止めなければ党が壊れる。具体的なすべも見当たらぬまま、エスタブリッシュメントが異端児の阻止に動き出した。【3月12日 朝日】
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もっとも、党内のクルーズ嫌いも相当なもので、“クルーズに決まるぐらいならトランプを受け入れる”という声もあるように聞いていますので・・・・。

中国嫌いではあっても・・・
ここまでトランプ候補の本戦出馬の可能性が高くなり、しかも民主党クリントン候補が、マイノリティー票を集めてリードはしているものの、若い年代からの支持が極端に低いという状況では、もしかしてトランプ氏が・・・という可能性も考えざるを得ない情勢です。

トランプ氏が勢いを得ている背景は、既成政治・エスタブリッシュメントへの有権者の不満・反感があると言われていますが、それはそれとして、日本が直接影響を受ける、彼の国際政治への認識はどういうものでしょうか。

主張がころころ変わるトランプ氏ですが、例えば対中国については、筋金入りの「反中」だとの指摘もあります。

****トランプ大統領”なら南シナ海問題にどう対応? 「反中」は筋金入り 日本にも影響****
・・・・ヒラリー氏や夫のビル・クリントン元大統領はかつて、中国との親しい関係が報道されたが、トランプ氏の姿勢はまったく違う。

昨年8月、中国の習近平国家主席が訪米する直前、トランプ氏は、オバマ大統領が「国賓」として厚遇することを批判し、「私ならば晩餐(ばんさん)会は開かず、ハンバーガーでも出す」と言い放っている。

当時、サイバー攻撃や南シナ海問題で、米国内でも反中感情が高まっていたこともあるが、トランプ氏の「反中」は筋金入りだという。

国際政治学者の藤井厳喜氏は「トランプ氏は4年前の大統領選では、ほぼ『アンチ・チャイナ』だけで途中まで注目された。今回、自身のパーソナリティーを前面に出して、オバマ政権の弱腰外交や移民政策、過激組織『イスラム国(IS)』を批判しているが、総合的な外交・安全保障政策はまだ不明だ。ただ、基本的な反中姿勢は変わらない」と分析する。(中略)

もし、「偉大な米国の復活」を掲げ、「やられたらやり返す」が持論のトランプ大統領が誕生したら、中国の詭弁(きべん)は許さないとみられる。(中略)

前出の藤井氏は「(中略)大統領になれば『アンチ・オバマ』『アンチ・チャイナ』だけに、南シナ海問題でも強硬になるだろう。かつて、ケネディ大統領がキューバ危機で海上封鎖をしたように、軍事基地化した人工島の海上封鎖でも検討するのではないか。トランプ氏は、日本にも駐留経費の負担(思いやり予算)増額や、役割分担を求めてくるはず。覚悟が必要だ」と語っている。【3月4日 夕刊フジ】
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実際、北朝鮮問題で中国への“暴言”が話題になったことも。

****米トランプ氏「北朝鮮問題を解決しないなら、中国を潰してしまえ」 中国で怒りの声続々****
これまで、テロ問題などに絡むイスラム教徒に対する排他的発言で、強い批判を浴びつつも支持層を広げてきた米大統領選のドナルド・トランプ共和党候補が、今度は北朝鮮と中国問題で「吠えた」。「北朝鮮問題を解決しないならば、中国を潰してしまえ」と述べたという。環球網が報じた。

トランプ候補は続けて「貿易関税を引き上げるか、貿易そのものを中止してしまえば、2分以内に中国は崩壊する」と述べたという。米テレビ局のCNNの取材に答えて6日、北朝鮮が7日に核実験を実施したことについての考えを披露した。

トランプ候補の「ロジック」はこうだった。そもそも中国が、「世界の警察官」を米国が務めていることを嫌がった。「ピョンヤンが引き起こした問題は北京が解決する」ことを望んだ。トランプ候補は「だったら、中国は身を挺してこの問題を解決せねばならない。中国が援助しなかったら、北朝鮮人はメシも食えないんだ」と主張。現在の米国の役割は「中国に圧力をかけて、北朝鮮問題の処理に着手させる」ことで、そのために「貿易停止」も辞さないべきという。(後略)【1月8日 Searchina】
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勇ましい発言ですが、ただ、トランプ氏には、かつてのブッシュ大統領のように「世界の警察官」としてイラクやアフガニスタンに出兵するといった考えは全くありません。

*****トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機****
・・・・トランプの主張は「排外、政治的正しさへの反抗」といった「表層」をはがしてしまえば、その中身は、「小さな政府ではなく必要な福祉施策は行う」「自由貿易より国内雇用」「世界の警察官でなく仲介役」といった政策から成り立ち、妊娠中絶に理解を示すなど宗教保守派とも一線を画している。・・・・【3月2日 Newsweek】
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こうした従来の共和党の方向とは全く異なる彼の基本姿勢が、共和党主流派にとって彼を受け入れがたい一番の理由でもあります。

嫌いな相手とも利益のためなら手を組むのがビジネスマン
非常に驚いたのは、彼の中国・天安門事件に関する認識です。

****トランプ氏、天安門事件を「暴動」と呼ぶ 米大統領選TV討論会****
米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏は10日、米CNNによるテレビ討論会で、1989年に中国・北京(Beijing)の天安門広場で行われた民主化運動を「暴動」と呼んだ。

司会役のジェイク・タッパー)氏は、トランプ氏が1990年に米男性誌プレイボーイ上で述べた天安門事件についてのコメントに対して批判が上がっていることを受け、トランプ氏のコメントを求めた。

これに対しトランプ氏は、天安門で起きたことを支持していないと強調した上で、「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と発言した。

1989年6月、中国共産党は、学生主導のデモ隊が民主的な改革を求めて平和的な座り込みの抗議行動を行っていた天安門広場に、デモ鎮圧のため戦車を投入。数百人、あるいは一部の推計によると1000人以上の人々が死亡した。【3月11日 AFP】
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トランプ氏はビジネスマンですから、「人権」とか「民主化」とか、一文の得にもならないことには興味ないようですし、ましてや、自由主義世界の価値観を守るためにアメリカが犠牲を払うという考えもないでしょう。

また、ビジネスマンですから、利益のためなら嫌な相手とも容易に手を結びます。
中国が好きか嫌いかという問題と、中国と手を組むかどうかという問題は全く別物です。ビジネス世界にあっては。
価値観を重視する立場とは異なり、条件さえあえば手のひらを反すような対応もあり得ます。

彼が重視するのはあくまでもアメリカ国内の雇用・経済であり、中国がその点を侵害しない限り、アジアで何をやろうがアメリカの知ったことではない・・・とも推察されます。

中東に関しても、ロシアがテロリストを潰してくれるなら大いに結構・・・という考えでしょう。

その点では、リベラル・ホークとも言われるクリントン氏の方が中国・ロシアへの姿勢は厳しいものになるでしょう。言い換えれば、そうした価値観を捨てきれないところで、現実政治において解決策を見いだせるのか?というところが彼女の問題でしょう。

“トランプ大統領”になれば、アメリカの国益優先という本音の政治になり、国際情勢も大きく変わるでしょう。
ただ、そのとき日本は中国に「お好きなように」と差し出される危険も。

かつて中国高官が、「太平洋のハワイから東部を米国がとり、西部を中国がとるとことで合意できないか」と太平洋分割案をアメリカ側に持ちかけたとされていますが、これは中国側の本音であり、“トランプ大統領”なら、アメリカの実益に合致すれば大いに検討するところかと思われます。

少なくとも、日本等への“守ってやっているのだから、カネを出せ”という圧力は確実に強まります。

****トランプ氏、軍事費見直し示唆 社会保障制度の維持強調****
米大統領選の共和党候補者指名争いで首位を走るドナルド・トランプ氏(69)が10日、米国の社会保障制度を維持するため、外国の駐留米軍経費など、同盟国防衛のための軍事費を見直す考えを示唆した。

トランプ氏はフロリダ州マイアミであった同党討論会で、現行の社会保障制度を維持する考えを強調。必要な財源について司会者から聞かれると、「我々はより強力な軍事力を持つ必要があるが、ドイツやサウジアラビア、日本、韓国の面倒を見なければならない。狂気じみた北朝鮮が何かするたびに米国は艦船を派遣するが、事実上、米国が得るものは何もない」と話し、日本を含めた外国の駐留米軍経費を削減する可能性に言及した。【3月11日 朝日】
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日本などの「面倒を見る」のが非常に不満そうです。
アメリカが面倒を見てくれない・・・とれなば、今度は日本国内では「軍事力を高めないと・・・」という議論にもなるのでしょう。

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