孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エリトリア  自立への幻想

2008-07-18 16:40:40 | 国際情勢

(エリトリア南部の風景 “flickr”より By CharlesFred
http://www.flickr.com/photos/charlesfred/88585633/)

【アメリカ:テロ支援国家指定検討】
紅海に面するアフリカ北東部のエリトリア、あまり馴染みのない国のひとつです。
この国の名前を耳にするのは、アフリカでも最悪の紛争国ソマリアの関連です。
紛争の一方の当事者であるイスラム原理主義勢力を支持して、その拠点になっているといった話、そのつながりで、ソマリア紛争のもう一方の当事者エチオピア(エリトリアが分離独立した相手国でもあります)と激しく対立している話、また、アルカイダとのつながりが深いとしてアメリカがテロ支援国家指定しようとしていたという話・・・そんなところでしょうか。
いずれにしても、剣呑な話ばかりです。

エリトリアはソマリアのイスラム過激派を支援しており、過激派勢力へエリトリアからの密輸により地対空ミサイルや弾薬などが供給されていること、無政府状態に近い状態が続くそのソマリアには国際テロ組織アルカイダの幹部が潜伏しているとされることから、アメリカがエリトリアのテロ支援国家指定を検討していたのは昨年8月頃の話ですが、その後、実際に指定したという話は聞かないような気がします。
ただ、北朝鮮、イラン、シリア、キューバ、スーダンといった“ならず者国家”の類と、アメリカからは見なされているのは変わりないところでしょう。

【EUとの関係】
そんなアメリカとは犬猿の仲のエリトリアですが、EUとは友好関係が続いているそうです。
EUの執行機関である欧州委員会は、1億1,500万ユーロ(1億8,100万ドル)の支援を今後2013年までに行うことを予定しています。【7月17日 IPS】

1990年代初めにエチオピアから独立して以来、イサイアス・アフォルキ大統領が政権を握るエリトリアでは、最悪の人権侵害が起きているといわれています。
政党設立には国家による許可が必要であり、野党は存在しません。
NGOもエリトリア国内での活動を禁じられており、援助金の使途がチェックされておらず、軍備に利用しているのではないかとの懸念も持たれています。
若者は兵役を強要され、軍司令官によるレイプなどの犯罪は罰せられないとも。
そんなエリトリアと人権重視のEUの組み合わせというのは、意外な感じがしますが、現実政治というのはそんなものなのでしょう・・・。

【自立政策】
EUからの援助に触れましたが、このエリトリアは基本的には海外からの援助を拒絶している国として有名な国のようです。

****援助なんて要らない!エリトリアの自立政策****
「国際援助がいったい何をしてくれた? 
そんなものは、自国の発展を妨げるだけだ。わが国は、国際支援団体の奴隷になっている他のアフリカ諸国のような真似はしない」
国際援助に強い不快感を示すのはアフリカの小国、エリトリアのアフェウェルキ大統領だ。
アフリカの中でもとりわけ貧しい国であるエリトリアは、援助を拒む余裕などないはずだが、昨年(06年)だけで200億円以上に及ぶ援助を断った。マルクス主義を信奉している同大統領は、今は援助に頼らずに辛抱して、自立の努力をすることこそが国家の発展に結びつくと信じ、93年に大統領に就任して以来、確固とした姿勢で自立政策を推進してきた。
05年に本腰を入れ始めたこの政策は意外に上手くいっている。飢饉や病気の蔓延(まんえん)もなく、国連の調査でも、同国の健康指数は近隣諸国を上回る水準だ。「アフリカで最も冒険的な社会経済政策」と言えなくもない。
だが国際的には、その孤立政策と、近隣や西側諸国に対する好戦的姿勢のために評価されていない。かつて大統領を「アフリカのジョージ・ワシントン」と評した米国では今やその独裁的な支配体制を指し「アフリカの金正日(キムジヨンイル)」と呼ぶ声も聞こえる。
食糧援助を断るという厳しい政策は、国民の自立心を促すためで、実際、農夫たちも懸命に働くようになったというが、ここ数年、食糧事情が安定しているのは好天候のおかげだ。
政策のほころびも見え隠れする。鎖国政策のおかげで国民は慢性的な物資不足に悩まされているし、先日はコカ・コーラ社がシロップを買う外貨不足を理由に、閉鎖を余儀なくされた。街中には、初めてホームレスも現れ始めたという。国民の不満を他所(よそ)に、同大統領は、いま犠牲を払うことで、必ずや将来への道が開けると信じて疑わない。 【COURRiER Japon + hitomedia 07年11月30日】
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“好天候のおかげ”だかにせよ“意外に上手くいっている”ならいいのですが、何分外部の調査を拒否している国なのでよく分かりません。
下記のような情報もあります。

**** a myth of self-reliance(自立の幻想) ****
エリトリア人たちは疲弊して腹をすかせているのに、政府は自立政策という呪文にこだわりつづけている。
 2005年初頭に、国連はエリトリアの人口 360 万人のうち、2/3 が食料援助を必要していると推計した。これでエリトリアは世界で最も食料援助依存度の高い国の一つとなる。その後、独立調査は一切許されなくなったが、援助関係者によると、今年は収穫はましだったものの、食料を行き渡らせるには全然足りないとか。いまはまだだれも飢え死にはいないが、そろそろ飢餓が広がり始めている徴候は出ているという。
 だが外国政府や援助機関と協力するかわりに、エリトリアは去年 USAID (アメリカの援助機関) を国外追放し、食料援助を受けている人々の数も 130 万人から 7.2 万人へと大幅に削減し、さらに少なくとも 11 の援助機関に活動中止を申し渡している。その間、援助食料は倉庫で腐り、追加の輸入はないも同然となっている。
【Economist.com 2006年4月27日】(山形浩生訳) “YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page”より
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エリトリアは周辺国との紛争が絶えない国でもあります。
ソマリアに肩入れし、エチオピアと激しく対立。
スーダンとも国境紛争を経験していますし、紅海の対岸イエメンとも紛争がありました。
そんな国際関係と、自立政策・・・どちらが原因でどちらが結果かはわかりませんが、いずれにしても“唯我独尊”的な政策は非常に危ういものを孕んでいます。

もともとが最貧国ですから、天候次第では容易に飢饉が襲います。
毛沢東の自力更生をはじめ、北朝鮮、かつてのアルバニアなど、今まで“自力”“自立”を掲げて外国との関係を絶ってきた国には、あまり良い結果が出ていません。
このような国家は、例えば飢饉のような状態になっても、国民の救済よりも自らの掲げるスローガンの堅持を重視するような体質があるからでしょう。

どのような思惑でEUがエリトリアとの関係を維持しているのかわかりませんが、諸外国とエリトリア国民を結ぶ可能性がある貴重なチャンネルかもしれません。


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