孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パリ同時テロを受けて強まる米仏、ロシアの対IS作戦 シリア内戦の政治解決に向けた動きも加速

2015-11-17 23:06:34 | 中東情勢

(14日、ウィーンで開かれた多国間外相級協議に出席したケリー米国務長官(中央)とロシアのラブロフ外相(奥右)ら(AP=共同)【11月15日 共同】 
ウクライナ問題で国際社会からはじき出されたロシアですが、すっかり国際社会の中央に復帰したようです。)

ウクライナ問題の幕引きを図るロシア
ウクライナが解決しないうちにシリアにも・・・と活発なロシア・プーチン大統領の戦略ですが、ウクライナではこの数か月戦闘はほとんど行われていません。

さしものロシアも原油安と経済制裁のなかで二正面作戦を続行するのは負担が重すぎ、ウクライナでは出口を模索していると思われます。

****ウクライナ・シリア「2正面作戦」の撤収を図るプーチン****
ウクライナ東部は停戦順守

シリア空爆とは対照的に、ウクライナ東部の戦闘は下火になり、停戦合意はほぼ順守されている。ウクライナ政府軍と東部親露派は10月、小火器の撤去を行った。戦車など重火器類も既に、前線から15キロまで遠ざけられた。昨年4月に始まった東部の戦闘の死者は双方合わせて8000人を超えたが、今年2月の停戦合意がようやく履行されつつある。

その背景には、東部の武闘派指導者が穏健派に交代したことがあろう。主戦派のモズゴボイ野戦司令官が5月に何者かに暗殺され、その後親露派指導部内で武闘派の退潮が続いた。親露派は11月に強行するとしていた独自の地方選挙を来年に延期した。いずれもロシアが背後で画策した可能性がある。

モスクワ・タイムズ紙(10月18日)は、「ロシアのウクライナ東部介入は裏目に出た。ウクライナ軍は予想以上に善戦し、西側は予想以上に対露制裁で結束した。

プーチン大統領は東部親露派の主張を軽視するようになり、自らもウクライナ南東部のノボロシア地域を取り戻すという構想を放棄したようだ」と書いた。

プーチン大統領は当面、不利な2正面作戦を避け、シリアで攻勢に出て、ウクライナ東部では戦術的撤退を選択しつつあるようだ。(後略)【10月30日 名越健郎 フォーサイト】
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独自の地方選挙を強行しようとするなど、ミンスク合意を台無しにしかねない強硬な東部親ロシア派は、もはやプーチン大統領にとっては邪魔な存在ともなりつつあるようです。

****プーチン大統領のシリア介入に悲鳴上げる親ロ国****
縮小に向かうドンバス(ウクライナ東部)事業
・・・・ロシアの目的は2月のミンスク停戦合意に表われているように、この地域に自治権を付与して、ウクライナ内にとどめることにある。そうすることで、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止し、かつ財政はウクライナ側に負わせることができる。

実現すれば、ローコスト・ハイリターンな事業となる。そのため、ロシア政府はドンバスの人民共和国の「国家承認」や「ロシア連邦への編入」を考えていない。(中略)

人民共和国内のロシア編入派が排除されている。例えば、ドネツク人民共和国のナンバー2であるプルギン人民議会議長が議長職から解任されるという事件が9月に起きている。

プルギン氏は、ウクライナ側との武力衝突で功績があった人物で、人民共和国内でロシア編入派の急先鋒だった。親ロ的であろうと、こうした人物は、今のロシア政府にとって迷惑な存在である。【11月10日 藤森 信吉氏 JB Press】
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ロシアの厳しい財政事情のもとで、ウクライナ東部やモルドバの沿ドニエストルなど親ロシア派勢力は「仕分け作業」の対象となっているようです。

ウクライナについては、11月に入っても関係国の間で協調的な方向で動いています。

****停戦履行なら対ロ制裁解除=米長官****
ケリー米国務長官は2日放映のロシア・テレビ局「ミール」のインタビューで、ウクライナ東部情勢に関し、2月の停戦合意が完全履行されれば対ロシア制裁を解除する考えを示した。(後略)【11月3日 時事】
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****重火器撤去完了「12月初旬」・・・ウクライナ東部****
ウクライナ情勢を巡り、独仏露とウクライナの4か国の外相は6日、ベルリンで会談した。

独DPA通信などによると、ドイツのシュタインマイヤー外相は、ウクライナ政府軍と親露派武装集団がウクライナ東部からの重火器の撤去を12月初旬までに終えることで合意したことを明らかにした。今年2月、双方による停戦合意で重火器の撤去が決まっていた。【11月7日 読売】
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ただ、戦闘はおさまっても、ウクライナ政府は破綻寸前の財政という難題を抱えており、債権国ロシアの協力が望めないなかで苦しい状況にあると見られていました。

しかし、これについても情勢は急変したようです。

****プーチン氏、突然柔軟に・・・・ウクライナ債務見直し****
ロシアのプーチン大統領は16日、主要20か国・地域(G20)首脳会議閉幕後の記者会見で、ウクライナが抱える30億ドル(約3600億円)の対ロシア債務について、12月に迎える返済期限の見直しに応じる用意があると表明した。

ウクライナは2014年3月に南部クリミアを併合したロシアと対立しているが、13年12月に30億ドルの財政支援をロシアから受けており、その返済を求められている。ウクライナ問題をめぐるロシアと米欧の関係悪化が続く中、プーチン氏は経済状況が厳しく返済が困難なウクライナに突然、柔軟な姿勢を示し、国際社会の意表をついた。

大統領は30億ドルについて年内の一括返済は求めず、米国か欧州連合(EU)、国際金融機関が返済を保証することを条件として、16年から18年までの3年間に10億ドルずつ返済する案を示した。【11月17日 読売】
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介入するにしても、撤収するにしても、なかなか機敏なプーチン大統領です。
いずれにしても、ロシアのウクライナからの撤収の方向は一段と明確化したように思えます。

国際テロへ方針転換したISに対し、ロシア・米仏が軍事対応を強化
ウクライナから抜け出したロシアが向かう先はシリアです。
かねてよりシリアへの介入を強めていたロシアですが、テロの脅威が表面化したことで更に対応を強めるものと思われます。

ただ、泥沼の長期戦に陥ることは避けたいところで、短期の軍事介入で政治解決に向けた道筋をつけたい思惑でしょう。

エジプト・シナイ半島上空でロシア旅客機が墜落した事件では、テロによるものとする英米の指摘に対し、シリア介入に関する国内世論が厳しくなることを警戒して「テロ説」を認めるのに慎重だったロシアですが、結局「テロ説」を認めるところとなっています。

****<ロシア機墜落>テロと断定・・・・プーチン氏「犯人見つける****
ロシアのプーチン政権は17日、10月末にエジプト東部シナイ半島で起きたロシア旅客機墜落の原因について、機内に仕掛けられた手製爆弾によるテロと断定した。
ロシアの治安機関・連邦保安庁(FSB)のボルトニコフ長官がプーチン大統領に調査結果として報告した。

プーチン氏は「必ず犯人を見つけ出し、処罰する」と述べ、ロシア軍によるシリア領空爆の強化も指示した。FSBは犯人に関する情報の提供者に5000万ドル(約61億6000万円)の賞金を出すと発表した。【11月17日 毎日】
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ロシアはテロと断定したうえで、敵対するシリアのイスラム過激派への攻撃を更に強化する方針です。

****シリア空爆強化を明言=ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は17日、エジプト・シナイ半島での旅客機爆破テロを受け、シリアでの空爆を強化すると明言した。【11月17日 時事】 
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****イスラム国」にミサイル攻撃=ロシア海軍****
フランス紙ルモンド(電子版)は17日、仏国防省の情報として、ロシア海軍が地中海から巡航ミサイルで「イスラム国」が首都とするシリア北部のラッカを攻撃したと伝えた。【11月17日 時事】 
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パリ同時テロを受けて、フランスは「フランスは戦争をしている」「ISを撃破する」(オランド大統領)と、対IS攻撃を一段とエスカレートさせています。

****フランス軍 シリアのIS拠点ラッカを空爆****
フランスのパリで起きた同時テロ事件を受けて、過激派組織IS=イスラミックステートに対するフランス政府の対応が注目されるなか、フランス軍は15日、シリアにあるISの拠点に対して空爆を行ったと発表しました。

パリで起きた同時テロ事件について、フランス政府は、過激派組織ISによる犯行とみています。

フランス政府の対応が注目されるなか、フランス軍は15日夜、ISが一方的に首都と位置づけるシリア北部のラッカで、ISの拠点2か所に対して空爆を行い破壊したと発表しました。標的としたのは、ISが司令室や武器庫、それに訓練所などとして使っていた施設だとしています。

また、今回の作戦はアメリカ軍と協調して行ったということです。

フランスのメディアは、今回の空爆について、フランス軍がことし9月からシリアで行っている空爆の中で最も大きな規模だったとしています。

テロ事件のあと、フランスのバルス首相は地元テレビに出演して、「われわれは戦争状態にある。シリアでも敵を攻撃して全滅させなければならない。この戦争に必ず勝つ」と述べています。
今回の発表は、事件のあとも空爆を継続して行うことでテロにきぜんと立ち向かう姿勢を示したものとみられます。【11月16日 NHK】
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ISによって「われわれはフランスのパリを破壊した。われわれは米国のワシントンを破壊するだろう」とテロ予告を受けた形のアメリカも、攻撃をエスカレートさせています。

****<米軍>IS石油輸送車116台破壊 資金源の根絶狙う****
過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を実施している米軍主導の有志国連合がシリアで、ISの資金源となっている盗難石油の大型燃料輸送車を総攻撃し、燃料車116台を破壊した。米軍が16日明らかにした。

これまで非戦闘員の運転手が犠牲になるのを避けるために控えていたが、パリでの同時テロなど大規模テロを防ぐためには資金源根絶を優先させる必要があると判断、攻撃に踏み切ったとみられる。(中略)

燃料輸送車の運転手には非戦闘員もいるとされ、空爆で巻きぞえにする恐れもあった。高官によると、米軍は空爆前に上空から避難を促すリーフレットを投下するなど警告したうえで作戦を実施したという。【11月17日 毎日】
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これまで反政府勢力を支援してきた欧米ですが、そうした支援にもかかわらずISがこれまで決定的なダメージを受けることなく存続してこれた背景には、「シリア内戦・IS台頭は、なんだかんだ言っても中東での出来事であり、自国に直接被害が及ぶものではない・・・」という欧米側の認識と、そこから生まれる“本気になれない”対応があったのではないでしょうか。

「欧米諸国・ロシアはイスラム過激思想に感化されやすい若者が自国でトラブルを起こさずにISにひきつけられて国外に出て行く、そしてシリア・イラクの戦闘で死んでいくのは好都合とも思っているのでは・・・(自国に戻ってくるのは困りますが)」というのは、まったくの個人的な邪推ですが。

しかし、パリ同時テロのような形で自国への脅威が顕在化した以上、これまでのような“手ぬるい”対応では済ませられない・・・というところにもなっているのでは。
旅客機を爆破されたロシアも同様です。

アメリカ、フランス、更にロシアの対IS攻撃における協調も検討されています。

****イスラム国」攻撃強化へ=仏大統領、米長官と会談―容疑者追跡続く・パリ同時テロ****
フランスのオランド大統領は17日、パリ同時テロを受けて訪仏中のケリー米国務長官と会談し、過激派組織「イスラム国」への対応を協議した。

ケリー長官は会談後、記者団に「過激派組織と効果的に戦うためのあらゆる方策を話し合った。『イスラム国』の中核への攻撃を強めなければならない」と述べ、米仏両国が一層の情報共有などで合意したことを明らかにした。

オランド大統領は16日の演説で「フランスは戦争状態にある。われわれのシリアでの敵は『イスラム国』だ」と述べ、同組織壊滅への強い決意を表明。シリアでの空爆を続ける米国、ロシアとの協力を深める意向を示している。

バルス仏首相は17日、地元ラジオで「オランド大統領は来週ワシントンとモスクワを訪れ、オバマ米大統領、プーチン・ロシア大統領と会談する」と語った。(後略)【11月17日 時事】
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11月14日ブログ「パリ同時多発テロ 劣勢に立ち始めたISが国際テロを強化か シリア問題・難民問題への影響も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151114)でも取り上げたように、今回のパリ同時テロについては、シリア・イラクで包囲網を狭められつつあるIS側の方針転換によるもの・・・との指摘がなされています。

****仏、ISと全面対決 国際テロへ、IS戦術転換か****
・・・・(ISは)本拠地とするイラクとシリアでは苦戦を強いられている。イラクでは13日に北部の拠点であるシンジャルが、クルド人部隊に奪還された。西部アンバル州ラマディでも、イラク治安部隊が攻勢を強めている。また、シリア政府軍は10日、ISが2年間占拠を続けてきた北部アレッポ近郊の空港を解放した。

今回の同時テロが標的としたのは、ISと敵対するフランスの首都で、世界的に著名な国際都市パリ。そこで、大規模なテロを「成功」させれば、組織の知名度が格段に上がる。IS側には、過激思想を支持する各国の富裕層から寄付金を集め、戦闘員の志望者を増やしたいとの思惑もあったとみられる。

AP通信によると、イラク政府はパリでテロ事件が起きた前日の12日、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が戦闘員に対し、欧米やロシア、イランなど交戦する国に対する攻撃命令を出したとの情報を覚知。フランスを含む関係国に通知していたという。(後略)【11月17日 朝日】
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ISの国際テロへの方針転換は、欧米・ロシアの対応を本格化させる形で、自分の首を絞める形になりかねないものにも思えます。

もっとも軍事作戦の強化によって、仮にISがシリア・イラクで消滅したとしても問題が解決する訳ではなく、各国におけるイスラム教徒が社会から疎外された状況が続く限り、テロの脅威もなくならないことは言うまでもないところです。

その意味では、今回のようなテロによってイスラム教徒への目が更にきつくなるようであれば、将来的なテロの新たな温床ともなりかねません。

シリア内戦の政治解決に向けた動きも加速
一方、パリ同時テロを受けて、IS対策と表裏の関係にあるシリア内戦の政治解決に向けた動きも、早期解決を図るロシアを軸として始まっています。

****シリア和平へ行程表、18か月以内に民主選挙****
シリア内戦の解決を目指し、ウィーンで20か国・機関が参加して行われた関係国会合は14日、アサド政権と反体制派の交渉を年内に開始し、18か月以内に民主選挙を実施することを骨子とした政治行程表の履行で合意した。

国際社会がパリ同時テロをきっかけに、イスラム過激派組織「イスラム国」伸長を招いた主要因である内戦の解決に動き出した形だ。

共同声明は、国連主催の下で年内に交渉を開始し、その後6か月以内に「包括的で宗派に偏しない統治機構」を樹立、交渉開始から18か月以内に「自由で公正な」選挙を実施することを目指すとした。

10月下旬、ロシアの提案として伝えられた和平案に沿った内容で、行程表作りはロシア主導で進められた模様だ。

シリア内戦をめぐっては、昨年1月に政権側と一部の反体制派が参加した和平会議が開催されたが、成果なく頓挫。アサド政権は今回、対話に前向きな姿勢を示しており、大統領の即時退陣を主張して対話を拒み続ける反体制派連合組織「国民連合」が交渉に応じるかどうかが当面の焦点となる。【11月16日 読売】
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アサド大統領の処遇や反体制派の扱いについて、未だ米ロの間で溝はあるようですが、対IS軍事作戦での協調が進めば、シリア内戦の政治解決についても“落としどころ”に到達する可能性も高まると思われます。

なお、アメリカは従来同様、穏健な反体制派によるシリア国家を主張していますが、これに関しては「穏健派?そんなものあるのかい?」というロシアの方が現実に近いようにも思えます。

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