孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アマゾンの「孤立部族」は“絶滅危惧種”として隔離・保護されべき存在か? 彼らの人権は?

2017-01-04 22:40:31 | 人権 児童

(ブラジル国立先住民保護財団(FUNAI)が公開したペルー国境近くのアマゾンの熱帯雨林に住む先住民(2008年5月29日提供)。全身を赤く塗り、カメラマンの乗った航空機に弓矢を向けている。【2008年05月31日 AFP】)

南米アマゾンの先住民の話。

*****ボリビアの先住民パカワラ、絶滅の危機*****
ボリビア領アマゾンの先住民パカワラの人々が、絶滅の危機に瀕している。パカワラを研究している人類学者によると、生存者として知られていた5人のうちの1人が、12月31日に死亡した。
 
同国のサン・アンドレス大学教授のウィグベルト・リベロ氏は「ボリビア領アマゾンの最後のパカワラ女性の1人、バヒさん(57)が北東部の地元の村トゥフレで死去した」と述べた。「彼女の部族は絶滅の危険がある」と同教授はツイッター(Twitter)に投稿した。
 
パカワラは、ボリビアで確認されている36の先住民の一つ。狩猟、漁業、農業を営んで暮らしてきた。しかし、パカワラの人口は、別の先住民チャコボと結婚する人や、祖先の地を離れる人が増えた中で次第に減少していった。【1月4日 AFP】
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アマゾンの先住民に限らず、地域文化とか伝統文化といった“少数派”は、何らかの対策を講じない限り、周囲の“多数派”に飲み込まれて、やがては消えていく・・・という流れになりやすいものです。

上記記事を見て思い出したのが、年末に見た、同じ南米アマゾンのジャングルに暮らす「孤立部族」の件です。

こちらに関しては、大袈裟な言い様にもなりますが“こうした「孤立部族」に我々文明社会はどのように接するべきか”、やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないものを感じました。

****アマゾンの「孤立部族」を偶然撮影、部族名も不明****
ブラジルの熱帯雨林地帯に住む「孤立部族」の新たな写真が空から撮影された。今や地球上からほとんど姿を消した新石器時代のような生活の様子が写真に収められ、驚きをもって受け止められている。

およそ4年ごとに移動繰り返す
ブラジル人写真家リカルド・スタッカート氏がヘリコプターから撮影した高解像写真には、アマゾンのジャングル奥深くで他との接触を完全に断って生活している部族の姿がとらえられている。(中略)

スタッカート氏の高倍率の写真は、ブラジルとペルーの国境近くで撮影された。一連の写真から、今まで専門家たちが見逃していたこと、たとえば精巧なボディペイントやヘアスタイルなどが明らかになっている。(中略)

この部族は、2008年に国際的な注目を浴びたことがある。赤いボディペイントを施した先住民たちが低空飛行する飛行機に向けて弓矢を構えている写真をFUNAI(ブラジルの国立先住民保護財団)が公開したからだ。
 
(長年FUNAIに務め、40年以上にわたってブラジルの先住民部族を研究している)この地域の先住民グループに詳しいメイレレス氏によると、部族はそのときから何度も移動している。(中略)

今回、メイレレス氏は、自宅の電話でナショナル ジオグラフィックの取材に答えてくれた。「先住民たちは、約4年ごとに移動しています。動き回ってはいますが、同じ部族であることに変わりはありません」

雷雨を迂回したときに偶然発見
(中略)メイレレス氏は、この部族がよい状態で暮らしていることを見て安心した。食料も十分で、健康的な生活を送っているようだ。

マロカとよばれる共同住居のまわりには、トウモロコシ、キャッサバ、バナナ畑などがあり、80人から100人ほどの集落は十分養えているようだ。近くにある同じ部族の別のマロカと合わせれば、合計300人ほどの人数になるとメイレレス氏は考えている。
 
もうひとつ衝撃的だったのは、ヘリコプターに向かって放たれたたくさんの矢だった。メイレレス氏は、これを健全な抵抗のサインだと考えている。「これはメッセージなのです。『邪魔をせず、そっとしておいてほしい』という」

ペルーでは脅威にさらされている
ブラジル領内のアマゾンの他の地区とは異なり、アクレ州は森や先住民を保護するために厳しい警備をおこなっている。今のところ、アクレ州の先住民たちは安全に暮らせているようだ。

しかし、国境を越えたペルーのジャングルでは、違法な伐採、金の試掘、麻薬取引などが横行している。この脅威は甚大で、過去、いくつかの部族が完全に姿を消したほどだ。

「伐採者や試掘者が入りこんでくれば、先住民たちは暮らしていけなくなります」とメイレレス氏は話す。「彼らがこの地球から消えてしまうかもしれません。それも、私たちが知らない間にです」
 
(中略)この部族は外部との平和的な接触を続けることがないため、名前すら知られていない。ブラジルの政府は、彼らを単に「ウマイタ上流の孤立先住民」と呼んでいる。

この体験を伝えるために
(中略)スタッカート氏は近く『ブラジルの先住民』という本を出版する予定だ。ヘリコプターから村を見たときのぞくぞくするような衝撃を後に続く世代にも追体験してもらうことで、先住民たちに対する興味や良心を呼び起こしたいと願っている。

「驚くほど強烈で、感情的でした」とスタッカート氏はそのときのことを振り返る。「他ではできない体験で、心に深く刻まれています。私たちは人が月に行く時代に生きています。それでも、ここブラジルには、何万年も昔と同じ生活を続けている人々がいるのです」【2016年12月26日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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“2008年に国際的な注目を浴びた”ときの記事が以下ののものです。

****アマゾン奥地に新たな先住民、写真公開 違法伐採で生存の危機****
公表された写真には、先住民はカメラマンが乗った飛行機に向かって弓矢を向けている姿が写っている。

この写真を管轄するFUNAIの環境保護部門のJose Carlos dos Reis Mereilles氏はエスタド・ジ・サンパウロ紙に対し、この先住民の存在は数年前から知られていたが、「完全に孤立した先住民が暮らしていることを立証し、ペルーからの違法伐採により彼らが深刻な危機にあるということに注意を呼び掛けるためにこの資料を公開することを決めた」と述べた。(中略)

英国の先住民支援団体サバイバル・インターナショナルはウェブサイトで、ペルーで進む違法伐採によって居住区を失ったペルーの先住民がブラジルの先住民に接触し、先住民の生存が危ぶまれていると訴えている。同団体によるとブラジル領内には推定500人が暮らしている。

スティーブン・コリー代表は「国際社会は目を覚まし、国際法にのっとって彼らの居住区を保護しなければならない。さもなければ彼らは絶滅してしまうだろう」と述べた。

サバイバル・インターナショナルによると地球上には外界との接触を持たない部族が100以上暮らしている。【2008年05月31日 AFP】
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なお、“この先住民の存在は数年前から知られていたが”とありますが、実際には、その存在は1910年以来記録されているとのことです。【2008年6月22日 “Secret of the 'lost' tribe that wasn't”http://mg.co.za/article/2008-06-22-secret-of-the-lost-tribe-that-wasnt

「国際社会は目を覚まし、国際法にのっとって彼らの居住区を保護しなければならない。さもなければ彼らは絶滅してしまうだろう」・・・現在は、上記部族が暮らす地域の位置等は秘密にされているようです。

“何万年も昔と同じ生活を続けている人々がいる”というのは、間違いなく驚異的なことですし、非常に興味深いことです。

ただ、その保護のために場所も秘密にし、接触を避け、将来的には保護区を設定して絶滅を避ける・・・・という話には、“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”も感じます。

もし、対象が動物・植物であれば、絶滅危惧種の保存ということで、そのような措置で何ら問題でしょう。
しかし、驚異的な生活様式を持つ「孤立部族」とは言っても、我々と同じ人間です。

“メイレレス氏は、この部族がよい状態で暮らしていることを見て安心した。食料も十分で、健康的な生活を送っているようだ。”・・・・そうでしょうか?単なるメイレレス氏の“印象”ではないでしょうか?

上空から少しばかり眺めただけで、彼らの長期的な食糧事情、ましてや健康状態までわかるでしょうか?

まあ、食料に関しては遭遇時にあっては問題なかったかもしれません。しかし食料事情は気象条件などで長期的には大きく変動します。「孤立部族」のような低生産性社会にあっては“飢餓”の危険がつきまといます。

熱帯ジャングルということで食料事情については比較的恵まれているにしても、“健康”については非常に厳しい状況が容易に想像できます。

上空から目視された人々が“健康的な生活を送っているよう”に見えたのは、そうでない人々はみな死んでしまうからに他ならないでしょう。

乳児死亡率はどうでしょうか?怪我・病気の生存率はどうでしょうか?
おそらく、現代文明社会なら助かる命が、あっけなく失われている社会が「孤立部族」社会でしょう。

もし我々の社会の中に、宗教的、あるいは何らかの事情によって文明を完全に拒否し、助かる命も失われるにかませる、教育といったことも全く行わない、原始生活を送る人々が存在したら、我々は彼らを好意的に遇するでしょうか?(アーミッシュのような自給自足生活を送る人々は現実に存在しますが、もっと完全な孤立・原始生活を行う集団を今想定しています)

恐らく人権保護団体は、少なくとも子供たちはそういう集団から救い出すべきだと、当局に対応を求めるでしょう。

しかし、そういう完全な孤立・原始生活を行う集団が「孤立部族」という絶滅が危惧される人々の場合には、逆に接触が禁じられて“孤立状態”が保護される・・・・結果的に健康・衛生も教育も何ら問題にされない。

「孤立部族」は人間ではないのでしょうか?絶滅危惧種の鳥や獣と同じ扱いでいいのでしょうか?・・・・と言うと棘がありますが、“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”というのは、そういう話です。

前出“Secret of the 'lost' tribe that wasn't”において、メイレレス氏は「たとえ拷問を受けても、彼ら部族の居場所は教えない。いつ外界との接触を望むかは、私でもほかの誰でもなく、彼らが決めることだ」と語っています。

しかし、外界に関する詳しい情報を持たない彼らがどのようにして判断できるのでしょうか?
単に、外界を本能的に“敵”として避けているだけではないでしょうか?

そうやって外界を避け続ける間にも、助かる命が失われていくのは、彼らの判断・選択の結果でやむを得ないことでしょうか?

外界と接触すれば、おそらく現在の生活様式は失われるでしょう。
例え、朝になったら伝統的な衣服に着替えて“村に出勤”し、観光客相手に槍や弓矢を見せ、素朴な昼食を作り、夕方になったら帰宅して、着替えて電子レンジで料理する・・・・そういうことになったとしても、それはそれで彼らの選択です。メイレレス氏の言い様を借りれば、「私でもほかの誰でもなく、彼らが決めることだ」ということです。

快適な生活を送りたい、安全な生活を送りたい、うまいものも食べたい、酒を飲みたい・・・それらは我々と同じ人間である以上、等しく保護されるべき権利ではないでしょうか?

そうした権利を与えることなく、珍奇な“絶滅危惧種”として保護したいというのは、彼らを同じ人間として見ていないことになるのではないか?・・・というのが“やや引っかかるというか、どう考えるべきか判然としないもの”です。

彼らが安心して暮らせる環境を保護したいという、メイレレス氏ら関係者の「孤立部族」を支援する心情・熱意を疑う考えは毛頭ありませんが・・・。

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