孤帆の遠影碧空に尽き

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イギリスEU離脱 深まる国民分断 定まらない方向 注目される今月予定の最高裁判断

2017-01-03 22:54:33 | 欧州情勢

(首相就任が決定し、夫のフィリップ氏にキスされるテリーザ・メイ氏(2016年7月11日撮影)。【2016年7月12日 AFP】 これほど困難が予想される時期に敢えて“火中の栗を拾おうとする”のですから、よほど志の高い方なのでしょう。凡人には想像できません。)

現在も英国内ではEU離脱支持派が優勢 ただ、経済的困難への認識も広まる
今年の世界政治・経済のアジェンダで重要なものにイギリスのEU離脱(ブレグジット)手続き開始があります。
今年3月末までにEUへの正式な通告が行われ、離脱交渉が始まるとされています。

昨年6月野国民投票で示された“EU離脱支持”という結果については、イギリスは自らにとって厳しい道を選択したのでは・・・という見方が多くあり、投票後には、離脱支持派による“甘い期待”も明らかになってはいますが、少なくとも現時点では、国民世論は当時と大きくは変化していないとの調査結果もあるようです。

****英国民、現時点でもEU離脱支持が多数派 世論調査****
国民投票から半年後の現在も、英国内ではEU離脱支持派が優勢
ロンドン(CNN) 英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票から6カ月がたった今でも、離脱を支持する人が残留派を上回っていることが、CNNと英調査会社コムレスによる共同世論調査で明らかになった。

19日に発表された調査結果によると、現時点で国民投票が実施された場合、離脱に投票すると答えた人は47%に上り、残留派の45%を上回った。

6月の国民投票では52%対48%で離脱派が多数を占めていた。離脱決定を受けて通貨ポンドが急落し、明確な道筋を打ち出せない政府に批判が集中するなかでも、国民の意見は変わっていないことが分かった。

調査結果からは、英国の有権者が個人的な経済状況とは無関係に離脱を選択していることがうかがえる。EUから離脱した結果、家計が改善すると予想している人は24%にとどまったのに対し、44%は悪化するだろうと答えた。

ただ、英経済の長期的な見通しについては、離脱したほうが良くなると答えた人が47%を占め、悪くなるとみる36%を上回った。

長年の懸案となっている移民の流入については、離脱すれば減るだろうと答えた人が55%。離脱しても変わらないとの回答は32%だった。

高齢者と若者の回答にははっきりとした差があり、若者は離脱による経済的な影響を不安視する傾向が強かった。離脱を支持する人の割合は18~24歳で16%にとどまったのに対し、65歳以上では62%を占めた。

残留派が主張する国民投票のやり直しについては、反対意見が53%と半数を超え、実施するべきだという意見は35%だった。

調査は今月15~18日、イングランド、ウェールズ、スコットランドで18歳以上の英国の成人2048人を対象にオンラインで実施された。
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国民投票のやり直しについても、その必要はないとの考えが多数のようです。

もっとも、世論調査の信頼性については、アメリカの大統領選挙を受けてかなり揺らいでいるところがありますので、“2048人を対象にオンラインで実施された”という上記調査がどれほど信頼に値するのかは知りません。

国民世論は依然として離脱支持にあるとしても、どういう条件で離脱して、その結果どういう影響が出るのか誰もわからない、各自が都合のいいように“夢想”している現段階での話ですので、今後離脱手続きが動き出し、そのあたりが見えてくると、また異なる話も出てくるのかも。

上記調査でも“家計が改善すると予想している人は24%にとどまったのに対し、44%は悪化するだろうと答えた”ともあるように、現時点においても、経済的にはかなり苦しくなるのでは・・・という見方が増えているとも言われています。

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・・・しかし、今はマスコミなどでもEUから離脱した時に及ぼすマイナス影響が十分に報道されて、多くの国民は英国のプライドよりも経済を優先するようになっていると言われている。

実際に、イプソス・モリ世論調査では<経済優先支持者が49%、一方で移民の入国に反対しBrexitを支持者が39%>という結果が出ているのである。

そして、<EUから離脱した方が生活レベルは良くなると答えた者は24%で、逆に悪くなると答えた者は49%>という結果が出ている。【2016年12月1日 白石和幸氏 libedoor’ NEWS】
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【“甘い期待”を否定するEU 英国内で深まる分断
現在議論の焦点となっているのは、離脱するしても、EUからの移民の制限を優先する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」と、移民制限を諦め単一市場を優先する「ソフト・ブレグジット(柔軟な離脱)」のどちらを選ぶのかという問題です。

少なくとも、EU側は「EU単一市場に参加するためには、(人、モノ、資本、サービスの移動という)四つの自由の受け入れが必要だ」という姿勢は崩しておらず、単一市場にアクセスしながらも移民は制限するという“甘い期待”が受け入れられる余地はないとされています。

一般国民だけでなく、離脱反対派から支持派に転じたメイ首相自身にも“甘い期待”があったようです。

****英首相を悩ませるブレグジットの袋小路****
イギリスのメイ首相は16年11月末にドイツのメルケル首相と会談したが、その後は「気持ちを整理するのにしばらく時間が必要だった」と報じられた。
 
メイはイギリスのEU離脱(ブレグジット)交渉を正式に始める前の「事前交渉」を持ち掛けた。
ブレグジット後もイギリス国内で暮らすEU市民の残留と就労を認める代わりに、EU加盟国内で現在暮らしているイギリス国民にも同等の権利を認めてほしいと打診した。

だがメルケルはそれをきっぱり断ったという。

国民投票を終えた直後のイギリスには、傲慢さや高揚感があった。だがその後、ブレグジットに対するEUの反応を政府が「完全に読み違えていた」ことが露呈しつつある。(後略)【1月3日号 Newsweek日本語版】
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一時は「ハード・ブレグジット」に傾いたとも言われていたメイ首相ですが、国論が分断された状態にあって、なかなか簡単には決められない問題です。

****離脱の方向性で国論分裂=EU側は準備着々―英国民投票から半年****
英国が6月23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めて、半年が過ぎた。来年3月末までにEUへの正式な通告が行われ、離脱交渉が始まる。

だが、離脱に伴う移民制限などに関する政府の方針は依然不透明で、その方向性をめぐり国論や議会も分裂。かじ取りを担うメイ首相は、難しい立場に置かれている。
 
7月の就任以来、慎重な対応に終始してきたメイ首相は、いまだ基本的な方向性を示していない。焦点は、EU単一市場参加の経済メリットを捨ててでも国民の反発が大きいEUからの移民の制限を優先する「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」と、移民制限を諦め単一市場を優先する「ソフト・ブレグジット(柔軟な離脱)」のどちらに向かうかだ。
 
世論調査分析の第一人者、ストラスクライド大のジョン・カーティス教授は、各種調査を総合して45%が「ソフト」、41%が「ハード」をそれぞれ支持していると推定。

その上で「国民投票前と同程度に国が分裂している中で、過半数の有権者に歓迎される離脱協定を確保するのは容易ではない」と、交渉の難しさを指摘する。メイ政権は「ハード」路線とみられたが、最近になって妥協姿勢も見せ始めている。
 
メイ氏にとって誤算だったのは、11月に高等法院が出した「離脱通告には議会の承認が必要」との判断。これを来年1月に予定される最高裁判決が支持した場合、政府は独自の権限で離脱を通告することができなくなり、「ソフト」派が優勢の議会から交渉方針に干渉されたり、議会での審理が長期化して交渉開始が遅れたりする恐れが強まる。
 
一方、EU側は離脱通告に向けた準備を着々と整え、圧力を強めている。欧州委員会の英離脱交渉責任者を務めるバルニエ氏は今月6日、交渉を実質1年半で完了させたいとの意向を示し、英国による「いいとこ取りは選択肢にない」と強調した。
 
また、英国を除くEU27カ国首脳は15日の夕食会で、首脳会議が交渉の指針を定め、欧州委が交渉を主導するという役割を明確にした。

ただ、夕食会でまとめられた声明で、交渉への積極的関与を求めていた欧州議会に関し「定期的に情報提供する」との言及にとどまったことで議会側が反発するなど、EUとしての一枚岩の対応に課題を残している。【2016年12月23日 時事】
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国論の分断という点では、単にEU離脱にとどまらず、残留派と離脱派の間には多くの対立が生じているようです。
“離脱派と残留派の有権者は、死刑制度から環境保護までほぼすべての問題について対立している。ネット上で
のやりとりを見ると、双方が互いを心から嫌悪しているのは明らかだ。”【1月3日号 Newsweek日本語版】

民意を問うという“民主的な”国民投票は、国民の間で深刻な亀裂が深まるという結果にもなっています。

最高裁判断次第ではスケジュールに大きな変更も 結果、次回総選挙で再度民意を問う機会も
こうした分断状態にあって、メイ首相は新年に向けたビデオメッセージで「国民の団結」を呼びかけています。

****残留派に離脱支持求める=対EU交渉向け、国民の団結促す―英首相****
メイ英首相は12月31日、新年に向けたビデオメッセージを発表した。首相は欧州連合(EU)離脱が決まった昨年6月の国民投票について「わが国に幾分大きな分断をもたらした。新年は、普通の働く人々にとってより良い交渉結果を得るため、その壁を取り払う必要がある」と述べ、残留派は投票結果を前向きに捉え、離脱派と心を一つにして政府の対EU交渉を支えるよう訴えた。
 
首相は投票から半年が過ぎた今も結果に納得できない人々が多いことを認めた上で、「目の前にある(離脱という)好機に対し、利害や志を共有することでわれわれは一体になれるはずだ」と強調。

「離脱に投票した人々のためだけでなく、この国の全ての人のために良い成果を勝ち取るのだという思いを頭に入れ、交渉に臨む」と述べ、残留派に理解を求めた。【1月1日 時事】 
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ただ現実問題としては、“団結実現”というのも難しい話です。
特にメイ首相を悩ましているのが、上記記事にもあるように“11月に高等法院が出した「離脱通告には議会の承認が必要」との判断”です。

流れによっては“優勢の議会から交渉方針に干渉されたり、議会での審理が長期化して交渉開始が遅れたりする恐れ”が出てきますが、とりわけ上院がメイ首相の意向に反する可能性があるようで、“団結”とは言いつつも、閣僚からはそうした上院に対する“恫喝”まがいの発言も出ています。

****メイ英首相、Brexit妨害の場合、貴族院を廃止か****
英国の閣僚がメイ首相に、貴族院が英国のEU離脱(Brexit)を妨害した場合、断固たる措置を取るように提言した。英タブロイド紙The Daily Mailが報じた。

内閣は、貴族院の大多数を占める離脱反対派による厳しい反対に対して、政府は準備ができていなければならないと考えている。

同紙は「上院は、英国のEU離脱の途上に立ち邪魔をした場合に彼らを待つものは、実存的危機だと、認識する必要がある」と匿名の英国の大臣の発言を引用した。

そのような「危機」としては、上院の廃止ないし上院議員の数と上院の権限の大幅な削減という改革がありえる。

このプランが検討されているのは、最高裁判所でBrexitの件が検討されていることを受けてのことだと、同紙は付け加える。加盟国のEU離脱についてのリスボン条約50条は、英国議会両院の同意を得てのみ有効になりうるとの判決がなされると見られている。

先に英国のエリザベス女王はテレサ・メイ首相との会談で首相がEU離脱の計画を教えてくれなかったことに「失望した」といった。【1月2日 SPUTNIK】
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いくらなんでも世界に冠たるイギリス議会政治を揺るがす“上院廃止”はないでしょう。ただ、そうした発言・記事が出るほどにメイ首相が追い込まれている・・・という風には見えます。

なお、エリザベス女王云々の真偽はわかりませんが、“計画を教えてくれなかった”とは言われても、そもそもメイ首相自身の“計画”が定まっていないのが実情でしょう。

なお、国民投票やり直しはない、総選挙前倒しもイギリス議会制度では難しなかにあって、議会、特に上院の抵抗で離脱通告が遅れれば、通告を受けた離脱協定が成立する前に次回総選挙(2020年5月)で民意を改めて問うという可能性も出てくるようです。

****英国のEU離脱、まだ実現しない「本当の理由****
メイ首相が国民投票を覆す可能性も残る

(中略)英国はこのままEU離脱に突き進むのだろうか。それとも、国民投票の決定を覆し、EU離脱を回避する可能性はあるのだろうか。そのヒントは冒頭で述べた、国民投票の問いかけにある。

国民はEU残留か離脱かのみを単純に選択するもので、どのような条件で離脱するのかは何も示していなかった。その点を突き、下院の解散か、再度の国民投票が行われたら、離脱回避の民意が示されるかもしれない。

しかしメイ政権は、再国民投票の可能性を否定している。
また現行の選挙法では、次の総選挙は2020年5月。内閣不信任決議案が可決するか(議員の過半数で成立)、あるいは全議員の3分の2以上の多数決で決定する場合を除き、早期解散はできない。

もしもメイ首相が今年3月末に離脱通告を行うと、2年間の交渉期限は2019年3月中までとなり、離脱協定が成立しなくても英国のEU離脱が決まってしまう。

離脱通告を遅らせれば、総選挙で民意を問える
しかし、である。少なくとも2018年5月まで離脱通告を遅らせるならば、次期総選挙で離脱条件の民意を問うことができる。

そこで重要な意味を持つのが、昨年11月の英高等法院がミラー判決において、離脱通告には「議会の承認が必要」とされるとしたこと。

この判断が最高裁判所でも維持されれば、メイ首相がEUに離脱通告するには、上下両院の承認を待たなければならない。上下両院の意思が食い違う場合、下院の意思が優越するものの、上院(貴族院)は1年間だけ、法案の通過を遅らせることができる。

上院の多数派はEU残留派とも言われている。つまり、仮に議会の承認が当初の予定より大幅に遅れるならば、次の総選挙で今度こそ”離脱条件”が争点となり、民意がEU残留にシフトする可能性もまだ残されているのだ。

いずれにせよ英国は、未知の領域に踏み出すことになる。2017年3月末までにメイ首相が実際にEUに対し離脱通告するのかどうか。英国でもう一度「まさか」が起こるかもしれない。【1月3日 庄司 克宏氏 東洋経済online】
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ただ、離脱通告を行った後で、離脱協定(交渉期間は原則2年 ただ、双方の議会批准に半年程度かかるため実質的な交渉期間は1年半)が成立する前に“(次回総選挙の民意を受けて)離脱を撤回する”というのは可能なのでしょうか?

そういう話もなく、離脱の方向で進んだ場合も、離脱協定が成立した後の通商枠組み決定には相当の年月を要するという問題があります。EUとカナダの自由貿易協定の交渉には7年を要しています。

“交渉は、あらゆるEU法規から英国が離脱し、英EU間で通商分野など新たな関係を構築するという2段階で進められる。しかし、通商関係の構築は英国だけでなく、EU27カ国の思惑が絡み合うため、難航が予想されている。EU外交筋によると、加盟国の間ではEU市場に依拠する企業に与える影響を緩和するための経過措置が必要との認識が広がっている。”【2016年12月22日 毎日】

まあ、前例のない未知の領域ですから、何が今後起こるのかわかりません。
とりあえずは、今月中にも出される予定の「離脱通告には議会の承認が必要」かどうかに関する最高裁判断が注目されます。




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