孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  「現状維持」の蔡英文新政権発足にあたり、「一つの中国」を認めるよう強まる中国の圧力

2016-05-10 20:04:03 | 東アジア

(議場で手を振る「時代力量」の委員たち。右から2人目が黄国昌主席=台北市で1日、毎日新聞助手・曽彦晏撮影【2月2日 毎日】
2014年3月、中国とのサービス貿易協定に反発した学生らが立法院を占拠した「ヒマワリ学生運動」の関係者が中心となり結党した「時代力量」は、総統選挙では蔡英文氏を推しつつ、立法院において5議席を獲得しました。
「一つの中国」原則への態度を敢えて曖昧にしている蔡英文氏に対し、時代力量は「一つの中国、一つの台湾」の立場を鮮明にしており、また、より急進的な改革を求めており、蔡氏の政権運営に影響を与える可能性があると注目されています。)

【「私は(中国人ではなく)台湾人だ」】
1月16日に行われた台湾総統選挙において、台湾の「現状維持」を訴える民主進歩党の蔡英文氏が、馬英九政権が進めてきた中台協調の継続を掲げる国民党・朱氏を圧倒して勝利しました。

蔡氏圧勝の背景には、自分たちを「中国人」ではなく「台湾人」として認識する民意の変化があると指摘されています。

****台湾で「私は中国人」と思う人、低下し続け11%に=台湾メディア・聯合新聞調べ****
台湾メディアの聯合新聞によると、2016年になってから実施した実施した民意調査で、「私は中国人」と考える台湾人は、過去最低の11%だったことが分かった。「私は(中国人ではなく)台湾人だ」と回答した人は73%で、過去最高だった。

聯合新聞は、20年前の1996年と10年前の2006年の調査結果とあわせて紹介した。

「私は中国人」と考える人は96年調査では31%、06年調査では20%と減り続け、今回の調査では11%にまで低下した。

「私は(中国人ではなく)台湾人だ」は96年には44%、06年には55%と増え続け、今回の調査では73%に達した。

「台湾人でもあり中国人でもある」は96年調査では15%程度で、今回の調査では10%程度に減少した。「台湾人なのだから中国人だ」は過去2回の調査でも10%に達したことはなく、今回調査では1%程度だった。

世代別では若い世代ほど「自分は中国人ではない」と考える人の割合が大きくなり、20−29歳の世代では「私は(中国人ではなく)台湾人だ」と回答した人は85%に達した。

台湾では、戦後になり大陸から来た人とその子や孫を「外省人」と呼ぶ。戦前からの台湾住民は「本省人」だ。

「外省人」は自分を中国人と認識する場合が多かったが、若い世代では意識が大きく変化しているという。

まず、自分自身が中国から移ってきた第1世代の「外省人」は、自分を中国人と考えるのは当然だ。台湾生まれの「第2世代・外省人」は、父母の考えに強い影響を受けるが、中国大陸で生活したことはないので、「自分は中国人」との信念を揺らぎやすくなる。

第3世代になると祖父母から中国大陸での暮らしなどの話を聞いても「別の国のこと」に感じられ、自分については「台湾で生まれ育った。だから台湾人」との感覚になるという。

「中国大陸との統一」を目指す国民党支持者でも、若い世代では「私は台湾人」と考える人が増えているとされる。馬英九総統は第2世代の外省人に属するので、台湾が達成した価値を強調したり、中国に歩み寄ったり、同じカテゴリーに属さない人から見た場合、理解が難しい言動を示すとの指摘もある。

中国大陸メディアの参考時報網は、聯合新聞の調査結果について、陳水扁時代の「脱中国教育」が大きく影響した主張した。【3月16日 Searchina】
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中国 「一つの中国」容認を求めて外交戦を再開
ただ、台湾にとって中国は経済関係においても、安全保障上も極めて重要な相手であることは動かしがたい事実でもありますので、蔡英文氏も総統選勝利直後、中台関係について「挑発せず、予想外のことをせず、対等な交流の道を探る」と述べ、「現状維持」を改めて強調しています。

しかし、中台の統一を最大の「核心的利益」と考える中国からすると、「一つの中国」を認めておらず、独立志向の強い民主進歩党の蔡英文政権成立は看過できない事態であり、5月20日に蔡政権が発足するのを前に、「一つの中国」を認めるように台湾への圧力を強めています。

国民党政権時代には“休戦”していた外交戦を再開する方針です。

****中国、台湾と外交関係の奪い合い再開へ、民進党次期政権に圧力、「独立志向」を警戒****
中国国務院(政府)台湾事務弁公室は16日、「(国民党の馬英九政権が誕生した)2008年から『台湾独立』への反対と『92年コンセンサス』の堅持を政治的な基礎に両岸(中台)は平和的発展の新局面を切り開いた」との声明を発表した。民進党への強硬姿勢は避けながらも「一つの中国」を改めて認めるよう迫った形だ。
 
00年から08年までの前回の民進党政権時代に台頭した「台湾独立」志向の再燃を警戒する中国は、中台それぞれが「一つの中国」を認め合う「92年コンセンサス」で台湾を縛り続けたい考え。しかし、民進党がこれを受け入れる可能性が低いことを念頭に、今後は外交圧力を強める方針に転換する。
 
関係筋によると、蔡英文次期政権の政策や台湾の世論を見極めながらも、中国は「馬政権時代に封印してきた台湾との“外交戦”を再開する」という。台湾が外交関係をもつ中米・太平洋・アフリカ諸国など20カ国以上に、チャイナマネーをチラつかせて台湾と断交させ、中国と国交樹立するよう求める外交圧力だ。
 
かつて中台は、それぞれが「中国を代表する唯一の政権」を主張して、外交関係を結ぶ国の奪い合いを繰り広げた経緯があるが、対中融和策に転じた馬政権時代に入ってから、中国は取引材料として台湾との外交戦を“休戦”していた。
 
さらに、台湾との貿易や観光客の訪台、中台間の直行便で新たな規制を設けるなど、経済面からも圧力をかけるものとみられる。【1月16日 産経】
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00年から08年までの前回の民進党政権時代に比べ、現在は中台の“体力差”は遥かに大きなものとなっており、中国はもはや台湾がまともに争って勝てる相手ではありません。

****一つの中国」、台湾へ圧力 中国、ガンビアと国交 外交で切り崩し****
中国の習近平(シーチンピン)指導部が、5月に台湾総統に就く蔡英文(ツァイインウェン)・民進党主席に対し、中台がともに中国に属するという「一つの中国」原則を受け入れるよう圧力を強め始めた。

3年前まで台湾と外交関係のあったガンビアとの国交を回復。蔡氏が応じなければ、台湾と外交関係を結ぶ国々の切り崩しを再開する構えを示した。
 
中国とガンビアは17日に国交回復に関する共同コミュニケに署名。中国外務省は「我々は『一つの中国』原則のもとで台湾の対外交流問題を処理し、(中国と台湾は別々だとする)いかなる活動にも反対してきた」との談話を出した。
 
中国は、前回の民進党政権期(2000~08年)には、台湾と外交関係を持つ国に中国への国交切り替えを迫ったが、対中融和路線の国民党の馬英九(マーインチウ)政権の間はこうした動きを封印。ガンビアは13年に台湾と断交していたが、中国は国交回復に応じていなかった。
 
ここに来て国交回復に踏み切った背景には、民進党の独立志向への中国の強い警戒がある。蔡氏が中国の要求をのまなければ「台湾の対外関係を巡る中国の対応も変わるとの警告」(北京の外交筋)というわけだ。

台湾は中南米やアフリカなどの22カ国と外交関係を持つが、ほかにも中国との国交を希望する国があるとされる。
 
中米歴訪中の馬氏は中国に「強烈な不満」を表明。蔡氏は18日、「両岸(中台)関係の健全な発展は両岸共同の責任だ。国際社会で角を突き合わせる必要はない」との談話を出した。【3月19日 朝日】
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中国とガンビアの共同声明には「ガンビア政府は、世界に中国はただ一つしかなく、中国政府がすべての中国を代表する唯一の合法的な政府であり、台湾は分割できない中国の領土の一部分と認める」との文言が盛り込まれており、中国の主張を丸呑みした形になっています。

ガンビア(西アフリカにあって、セネガルに取り囲まれたような小さな国です)の場合はすでに台湾と断交していましたが、中国がその気になれば、台湾が現在外交関係を持っている国を引きはがすことも可能でしょう。

4月には、中国との外交関係があるケニアが台湾籍の容疑者を、これまでの慣例に反して、中国へ送致した件が問題となりました。これも中国による外交戦のひとつと考えられています。

****中国に送致、台湾反発 ケニア、台湾人45人を逮捕****
ケニアが振り込め詐欺にかかわったと見られる台湾人45人を中国に送致し、台湾で猛反発が起きている。中国が台湾を自国の一部とする「一つの中国」原則を押しつけたとの受け止めが出ているためだ。一方、中国人が詐欺の標的になったことから、中国側は司法管轄権を主張している。
 
台湾側によると、ケニア警察は2014年11月、ナイロビ近郊を拠点に、電話などで中国人相手に振り込め詐欺を働いていたと見られる台湾人や中国人のグループ77人を逮捕。このうち台湾人23人と、別の詐欺事件で逮捕された台湾人22人が今月、中国へ送られた。台湾当局は中国に送致しないよう求めたが、ケニア警察は無視したという。
 
中国外務省は「ケニアが『一つの中国』原則を長期にわたって堅持していることを高く評価する」としたが、台湾当局は台湾人容疑者に対する管轄権は台湾にあると主張。対中政策を担う大陸委員会の夏立言(シアリーイエン)主任委員は12日、中国の張志軍(チャンチーチュン)台湾事務弁公室主任に電話で「積み上げてきた相互信頼を傷つけるものだ」と抗議し、45人を迅速に台湾に送還するよう申し入れた。
 
中台間では11年、フィリピンで捕まった台湾人容疑者が中国に送られ、問題になった。それ以来、中台のグループによる外国での犯罪は中台の当局が共同で調べ、逮捕した容疑者はそれぞれに送還されていた。
 
中国側には台湾人を首謀者とする詐欺事件頻発へのいらだちがある。台湾事務弁公室の報道官は13日の会見で、詐欺により毎年100億元(約1700億円)以上が中国から台湾に流れていると明かした。【4月14日 朝日】
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中国が進めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても、参加を希望していた台湾ですが、高いハードルを課される形で、結局参加見送りを余儀なくされています。

****台湾、AIIB参加見送り 中国主導に「尊厳保てない****
台湾の馬英九(マーインチウ)政権は、中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加見送りを決めた。張盛和・財政部長(財政相)が12日、中央通信に語った。台湾を自国の一部と考える中国を通しての加盟申請を求められ、尊厳が保てないと判断した。
 
馬政権はAIIBの創立メンバー入りを目指して加盟の意向を表明したが、中国が認めなかった。その後も尊厳と対等性の確保を前提に加盟を求めていたが、中国政府出身の金立群AIIB総裁が今月7日、「加盟には大陸(中国)財政部を通じた申請が必要」と明言していた。
 
AIIBは「主権を持たない申請者は、国際関係上の責任を持つメンバー国による申請か同意で加盟できる」と取り決めている。金氏の発言はこの規定を台湾にも適用する考えを示したもので、台湾側は「受け入れられない」とした。【4月13日 朝日】
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WHO総会参加で“踏み絵”を迫る
アジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては“参加見送り”でも済みますが、国民の健康に直結する世界保健機関(WHO)となるとそういう訳にはいきません。

中国の圧力でWHO総会への招請状が遅れていましたが、やっと届いた招聘状には「一つの中国」に関する“踏み絵”が含まれていました。

台湾としては、参加しても「一つの中国」を認めたことにはならないとの判断で参加を決定しています。

****WHO総会参加、「一つの中国」受け入れを 台湾新政権に中国が警告****
ジュネーブで今月開かれる世界保健機関(WHO)総会への台湾の参加をめぐり、中国が20日に発足する台湾の民進党政権に「一つの中国」原則を受け入れるよう警告した。新政権側は8日、「参加は受け入れを意味しない」とした上で、「健康は基本的人権」として総会参加を決めた。
 
総会は新政権発足直後の23日に開会する。台湾は1971年、中国の国連加盟に伴いWHOを含めた国連機関から脱退。総会にも参加できなくなったが、2008年に対中関係改善を掲げた国民党・馬英九(マーインチウ)政権が発足して中国が対応を軟化させ、09年からオブザーバー参加が認められていた。
 
ところが、今年はWHO事務局からの総会への招請状が台湾になかなか届かなかった。蔡英文(ツァイインウェン)次期総統が率いる民進党は、大陸中国と台湾がともに「中国」に属するという「一つの中国」を認めない立場で、中国が圧力をかけていると見られていた。
 
6日に台湾の招請が確認されたが、招請状には、「中華人民共和国」が中国を代表する政府だと認められた国連決議や「一つの中国」原則に沿った招請だと明記されており、新政権に踏み絵を迫っていると受け止められた。

中国の国務院台湾事務弁公室の報道官は同日、招請は中台が「一つの中国」を確認したと中国側が位置づける「92年コンセンサス」に基づく手配だと強調。こうした政治的基礎が失われれば来年以降の参加継続は難しいとした。
 
ただ、台湾では、この国連決議は国連における中国の代表権を定めたもので、台湾の地位とは関係ないとの解釈もある。このため、新政権側は参加しても「一つの中国」を認めたことにはならないと判断。中国に「WHO参加に対する政治的干渉で、全く受け入れられない」と抗議を表明した。【5月10日 朝日】
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ガンビアやケニア、あるいは中国がつくったAIIBならともかく、代表的な国際機関でもあるWHOにあっても中台関係という極めて微妙な政治問題が中国の意思で左右されるというのは不思議な感もあります。日米などの中国への牽制はないのでしょうか。まあ、それが現実の力関係なのでしょう。

****一つの中国」認めなければ・・・台湾新総統に警告****
中国共産党機関紙・人民日報は5日付1面で、20日に台湾新総統に就任する民進党の 蔡英文 ( ツァイインウェン )氏に対し、「(中台が『一つの中国』原則を認めるとした)『1992年合意』を認めなければ、中台の平和発展の政治的土台は破壊される」と警告し、圧力を強める姿勢を鮮明にした。
 
同紙は、蔡氏が主張する中台関係の現状維持は「空手形」だと非難。「『一つの中国』を堅持するのか、あいまいな態度で台湾独立の主張を放棄せず、中台関係を再び動揺させるのか、新指導者は必ず答えねばならない」と強調した。【5月8日 読売】
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圧倒的な“体力”をもとに圧力を強める中国に対し、その圧力をかわしながらの「現状維持」というのは極めて高度な政治力を要する政治選択です。
蔡英文新政権はスタートから、中台関係という最も基本的な、かつ最も困難な問題に直面することになります。

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