孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メキシコ  さすがの「麻薬戦争」もピークを越した? ブラジルにとって代わるメキシコ経済?

2012-05-06 21:57:31 | ラテンアメリカ

(今年2月、15トンの覚醒剤が押収された際の写真です。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6888331737/
“メキシコ国防省は9日までに、薬物密造施設を摘発し、覚醒剤のメタンフェタミン約15トンを押収したと発表した。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、2009年に世界中で押収されたメタンフェタミンの約半分に当たる異例の大量押収。
メキシコで台頭している麻薬密輸組織が、従来のコカインや大麻に加え覚醒剤も本格的に取り扱い始めたことを示す。AP通信によると、15トンのメタンフェタミンは主な密輸先である米国の末端価格で約40億ドル(約3000億円)に相当する”【2月10日 毎日】

終わらない抗争
凄惨な殺戮が続き、社会不安を引き起こしている、メキシコにおける麻薬組織と政府軍の争い(警察は、怖れと癒着で殆んど無力な状態)、また、麻薬組織間の抗争・・・いわゆる“麻薬戦争”については、これまでも再三取り上げてきました。

最近、目にした記事としては下記があります。凄惨さは相変わらずです。

****橋から吊るされた9人の遺体発見、メキシコ****
米国との国境に近いメキシコ北部ヌエボラレドで4日、女性4人と男性5人の遺体が橋から吊り下げられているのが見つかった。メキシコ軍関係者が明らかにした。
現場には、麻薬組織の抗争を示唆するメッセージが書かれた大きな垂れ幕が下がっていた。

軍当局者は、9人は犯罪組織のメンバーだとの見解を示し、遺体は両手を縛られているほか、拷問を受けた痕跡があると述べた。
ヌエボラレドは米テキサス州のラレドに近く、一帯は麻薬組織の拠点となっている。【5月5日 AFP】
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また、2月には刑務所内における組織間の抗争も報じられています。

****刑務所暴動で44人死亡 メキシコ、麻薬組織間の抗争か****
メキシコ北東部アポダカの刑務所で19日未明、受刑者らによる暴動が起き、少なくとも44人が死亡した。AP通信などによると、激化する麻薬組織間の抗争によるものとみられる。死亡した受刑者らは手製のナイフで刺されたり、石などで殴られたりしたという。

受刑者らが別の監房の受刑者らを襲撃したといい、地元当局者は、麻薬組織の「セタス」と「湾岸」の争いが原因だとみて調べている。当局は、看守らも暴動に関与したり巻き込まれたりしていないか調べている。【2月20日 朝日】
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政府軍による麻薬・武器押収の様子などは、パルモさんの有名ブログ「ザイーガ」で4月28日「終わらない抗争、鳴り止まぬ銃声。メキシコ麻薬戦争の裏側、押収された武器・麻薬」(http://www.zaeega.com/archives/53850985.html)として、取り上げられてもいます。

暴力急増のペースが鈍る?】
ただ、私のブログで前回取り上げたのが、約半年前の11年10月24日「メキシコ麻薬戦争  警官集団辞職、記者は出社拒否 個人のネット情報への報復も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111004)ということで、国際ニュースへの露出頻度はやや減っているようにも見えます。

“メキシコの「麻薬戦争」に関して言えば、かつての目もくらむような暴力急増のペースが鈍り、地域によっては減少している。その理由は定かでないが、連邦治安維持費が74%も増加すれば、どんな国でもいずれは効果を生むだろう。”【4月16日 JB PRESS】との指摘もあります。

大統領選挙 与党候補苦戦
しかし、カルデロン大統領が推し進めてきた麻薬戦争によってもたらされた社会不安に関しては、国民の不満も強く、7月1日投票のメキシコ大統領選挙では、与党・カルデロン大統領が推す候補の苦戦が伝えられています。

麻薬戦争が沈静化に向けて変化しつつあるのか・・・そのあたりは情報が少なく、何とも言えませんが、一つの政策が効果を表すまでには時間がかかり、効果が出始めた頃には、その政策のもたらす痛みへの不満から政権が苦境に陥っている・・・という展開は、メキシコに限らず一般的に見られる現象でもあります。

****メキシコ大統領選まで2カ月****
「麻薬戦争」・貧困が争点
メキシコ大統領選挙が2カ月後に迫りました(7月1日投票。任期6年)。死者5万人の「麻薬戦争」や貧困問題などが争点にあがっています。
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世論調査によると、野党第1党・制度的革命党(PRI)のペニャ・ニエト候補が与党候補に大きな差をつけています。
同国では2000年の大統領選挙で71年間政権の座にあったPRIが敗れ、中道右派・国民行動党(PAN)が政権につきました。

PRIはメキシコ革命の中で民族主義的勢力が結成しました。民主化を促進した側面もありますが、次第に利権政治や腐敗、不正選挙が横行。新自由主義路線も取り入れました。
国民のうっせきした不満がPAN政権を誕生させ、06年の選挙でもPANが勝利しましたが、今回はPRIが12年ぶりに政権を奪還する勢いです。

与党のバスケス・モタ候補が苦戦を強いられているのは、カルデロン大統領が軍を投入し、米国が装備などで支援をしている麻薬対策で逆に治安が悪化しているからです。
市民も巻き込んだこの5年余の犠牲者は約5万人。「麻薬戦争」「内乱状態」といわれ、身の危険を理由に自治体首長が不在という事態も生じています。

メキシコ国立自治大学のナロ学長は、「現在の対策は機能していない」と指摘。国連中南米カリブ経済委員会のバルセナ事務局長は「社会的不平等が麻薬犯罪の温床だ」と強調します。
しかし、バスケス・モタ候補は、「犯罪の広がりと深刻化を阻止してきた」と現政権の取り組みを積極的に評価しています。

ペニャ・ニエト候補は、暴力とのたたかいのカギは経済成長と雇用促進にあると主張。治安対策の戦略を見直すといいます。
メキシコは米国発の経済、金融危機の影響を中南米のどの国よりも大きく受けました。北米自由貿易協定のもと、輸出の8割以上が米国向けという体質がすすんだ結果です。農業の衰退も顕著です。

国連によると、メキシコの貧困人口は09年の34・8%から10年には36・3%に増加。この問題も与党の苦戦につながっています。
中道左派・民主革命党(PRD)のロペス・オブラドール候補は、2度目の出馬。暴力拡大の大本には貧困と失業を増大させた新自由主義の問題があるとして、現行の経済モデルを国民本位に転換することを主張する唯一の候補です。

前回選挙では現大統領と大接戦を繰り広げましたが、選挙不正があったとして結果を認めず、道路封鎖などの抗議行動が一部市民の不評を買いました。
こうした経過に加え、今回の候補者選出の過程でPRDの内紛があらわになりました。PRDの影響力低下によって、政権批判がPRI候補支持に流れやすい状況が生まれているようです。【5月1日 赤旗】
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上記【赤旗】は、メキシコの抱える貧困問題を指摘しています。
【赤旗】ですから、北米自由貿易協定のもとでのアメリカ経済との関係強化によってもたらされた経済全体の問題点としています。
ただ、メキシコ経済はマクロ的に見ると、比較的良好な状態にあるというのが一般的認識です。
アメリカとの関係も、アメリカ経済が改善すれば、牽引力となります。

****メキシコ財務省:1-3月期の経済成長率は約4%****
4月30日(ブルームバーグ):メキシコ財務省は30日、1-3月期の同国の経済成長率が約4%だったと発表した。国内消費が引き続き速いペースで拡大したほか、メキシコの輸出の80%を占める米国の鉱工業生産の恩恵を受けた。 同省によると、国内消費と投資は雇用と融資の拡大で支えられた。【4月30日 Bloomberg.co.jp】
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メキシコの前途は多くの人が思っているよりずっと明るいのかもしれない
南米の新興国と言えばブラジルが代表格ですが、今後メキシコがブラジルにとって代わるのではないか・・・との推測もなされています。
メキシコの貧困の問題は、多くの国々が直面している、経済自由化によってもたらされる経済成長における格差拡大という側面も大きいのではないでしょうか。もちろん対策は必要ですが。

先に引用した【4月16日 JB PRESS】では、英フィナンシャル・タイムズ紙の記事を紹介しています。

****ブラジルの陰から抜け出すメキシコ****
(2012年4月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
筆者はかつてカルロス・スリム氏に、自国について、なぜメキシコ人がこれほど悲観的で、ブラジル人がこれほど楽観的なのか尋ねたことがある。世界一の富豪で、最大規模の投資を両国で行っているスリム氏は、こう答えた。「単純な話だ。彼らはブラジル人で、我々はメキシコ人だからだ」

これは洞察に富んだ発言だった。多くのメキシコ人は自国について悲観しており、世界も彼らの感情を共有してきた。一方、4月上旬のジルマ・ルセフ大統領のワシントン訪問でも見受けられたブラジルの好況に対する自信は、国民の想像力をかき立てた。(中略)

10年前はブラジルより優位だったメキシコ
当時は、中南米地域の真の経済大国はどこかという活発な議論があった。多くのメキシコ人にとって、その答えは明白だった。メキシコは民主主義への移行を完了したばかりで、同国経済はブラジル経済より大きかった。メキシコは健全な銀行システムさえ擁していた。

一方、ブラジルはやっと通貨危機から立ち直り始めたところで、投資家はブラジルが危険な左翼、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ氏を大統領に選ぼうとしていることに大きな不安を抱いていた。

両国の立場はあっという間に逆転した。ブラジルは盛んに喧伝される「BRICs」諸国の一員となり、この4カ国の中でも中国に次ぐ2番手につけた。メキシコは取り残され、今やその経済規模は、2兆6000億ドルに上る巨大なブラジル経済の半分となっている。一体何が起きたのか?

大部分において、その答えは中国だ。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したことで、メキシコの製造業者が力を失い、メキシコ企業はコストがはるかに安いライバル企業に仕事を奪われた。政治的なリーダーシップも弱かった。
メキシコの国内経済はいまだに、特に国営石油会社ペメックスなどの独占企業に圧迫されている。国民のムードは、6年間で5万人の死者を出した組織犯罪との戦いで一段と悪化した。

対照的に、ブラジルはどんどん力をつけていった。ブラジル経済は、最大の貿易相手国である中国からの飽くなきコモディティー(商品)需要の恩恵を受けた。ルラ・ダ・シルバ氏は、多くの人が恐れたような危険人物では全くなかった。

また、ブラジルはメキシコよりもうまく国内市場の寡占問題に対処した。国営石油大手ペトロブラスを自由にし、同社が株式を上場して、莫大な埋蔵石油を探査するために外国企業と組むことを認めた。

メキシコの最大の貿易相手国である米国がドットコム危機やサブプライム危機に喘ぐ一方で、ブラジルは長い好況を謳歌した。ブラジルは本当に「o melhor pais do mundo(世界最高の国)」に見えた。世界で最も幸運な国の1つだったのは間違いないだろう。

最大の貿易相手国である米国と中国の命運
今、その運が変わりつつあるのかもしれない。この10年間で初めて、中国、ひいてはブラジルについて、以前ほど強気になれない理由がある。一方、米国、ひいてはメキシコについて、以前より強気になるだけの理由もある。

中国は賃金と輸送費の上昇により競争力が低下した。北米企業のサプライチェーンは既に短くなっている。米国経済が回復すれば、メキシコの製造業者は利益を得るはずだ。

また、メキシコは世界的な自動車生産国にもなった。自動車業界は昨年、230億ドルの輸出を生み出し、石油産業や観光産業を上回った。また、これらは安っぽい「マキラドーラ」の工場でもない。フォルクスワーゲン(VW)や日産自動車が、メキシコの各種貿易協定を利用して自社の車を全世界に売っているのだ。

メキシコの「麻薬戦争」に関して言えば、かつての目もくらむような暴力急増のペースが鈍り、地域によっては減少している。その理由は定かでないが、連邦治安維持費が74%も増加すれば、どんな国でもいずれは効果を生むだろう。

だが、ブラジルはスピードバンプにぶつかった。同国はもはや、コモディティー価格の果てしない上昇を当てにできない。より重要なのは、ブラジルが深刻なコスト問題を生んでしまったことだ。欧米諸国での紙幣増刷による、いわゆる「通貨戦争」の影響を除く現地通貨建てで見ても、ブラジルの人件費は過去10年間で、実質ベースで4分の1も上昇した。

これが国内の製造業者を脅かし、メキシコとの間で見苦しい保護主義的な貿易論争を招き、その結果、地域の統合を後退させることになった。

スリム氏が言ったように、ブラジル人は生来、楽観的なのかもしれない。だが、一連の状況を受け、ブラジルは不安に怯え、メキシコは自信を抱いているように見えるようになった。

こうした相対的な運命の部分的な逆転は、ブラジルの輝きをいくらか鈍らせた。ブラジルを羨望していたメキシコ政府高官はもう、以前のようにBの字を聞いただけで顔をしかめることはなくなった。それでも、ブラジルは少なくとも1つの重要な教訓を与えてくれる。

ブラジルが与える重要な教訓
過去17年間にわたり、ブラジルは幸運にも、フェルナンド・エンリケ・カルドソ氏を皮切りに優れた大統領が続いてきた。対照的に、真のリーダーシップを発揮した最後のメキシコ大統領はカルロス・サリナス氏で、同氏の任期は論議を呼ぶ状況の中で1994年に終わった。

制度的革命党(PRI)のテレビ映りの良い45歳の大統領候補、エンリケ・ペニャ・ニエト氏が世論調査の通りに7月1日の大統領選で勝ったら、ブラジル流の戦略的ビジョンを打ち出してくれると考えるのは、過大な期待かもしれない。

確かに、ペニャ氏はペメックスに外国資本を受け入れさせ、経済をもっと競争にさらすと述べている。だが、PRIは12年間にわたり、野党として似たような構想を潰してきたため、実行に関しては当然の疑問が残る。

それでも、改革に向けた機運は高まっている。昨年、メキシコ経済はブラジル経済よりも速い成長を遂げた。そして、ブラジルが民主主義に移行してから20年以上経ったのに対し、メキシコの一党支配が終わってから12年しか経っていない。メキシコの政治はこの先、好転する可能性がある。結論を出すには、まだ早いのだ。

ブラジルの規模は、同国が中南米首位の座を再び明け渡す日が来る可能性が低いことを意味している。だが、長期的に見れば、メキシコの前途は多くの人が思っているよりずっと明るいのかもしれない。スリム氏の言うような気難しいメキシコ人にとっても。【4月16日 JB PRESS】
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「麻薬戦争」のイメージが強いメキシコですが、経済的見通しはそう悲観したものではないようです。

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