孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  「サウジ・ファースト」の観点から中ロとの関係も維持 UAEとの競合関係

2024-06-22 22:12:45 | 中東情勢

(2021年12月にサウジアラビアのムハンマド皇太子を迎えるUAEのムハンマド大統領。2人の敵対関係が取りざたされている【2023年10月3日 WEDGE】)

【アメリカと同時に中ロとも関係を持つ「サウジ・ファースト」】
長年アメリカにとって中東戦略の拠点でもあったサウジアラビアとの関係は、バイデン政権のもとで、カショギ氏殺害事件やサウジのイエメン介入などでギクシャクしたものになりました。

しかし、石油価格の面でも、中東情勢安定化でも、サウジアラビアの協力は不可欠であり、バイデン政権は関係修復に動いています。

サウジアラビアとしては、例えアメリカとの関係を修復したとしても、一方でロシア・中国とも関係を保ち、「サウジ・ファースト」の立場からその利益を最大化するという戦略は続くと思われます。

****「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理*****
<アメリカと協力関係を続け、その一方で中ロに接近、屈指の経済成長率で巨大な影響力を手にしたサウジアラビアが構想する「ビジョン2030」の未来とは>

ジョー・バイデン米大統領が11月の大統領選に向けて国内各州で激戦を繰り広げるなか、ホワイトハウスも世界で重要性を増すプレーヤーと影響力を争っている。

その1つが、実は長年にわたるアメリカのパートナー、そして国内外の政策で大きな転換を図ろうとしている国、サウジアラビアだ。

サウジアラビアは地政学的に大きなカギを握るだけでなく、アメリカの選挙で重視される問題でも多大な役割を担っている。イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が選挙戦の大きな論点である今、中東では極めて重要な位置を占めている。さらには、世界最大の原油輸出国として原油価格を決定する強力なプレーヤーでもある。

インフレはアメリカの有権者の最大級の関心事だから、サウジアラビアはこの点でも重要な存在になり得る。(中略)

頭文字を取って単に「MbS」と呼ばれることも多いムハンマドの主導する変革は、国内に大きな変化をもたらしている。グローバル化の傾向がさらに強まり、石油依存からの脱却が進み、ムハンマドが掲げる野心的な「ビジョン2030」計画に沿った取り組みも行われている。

こうした変化は、アメリカのライバルである中国やロシアを含むほかの主要国とのより強固な関係の追求にもつながる。サウジアラビアとアメリカの政府当局者は、両国のパートナーシップの重要性を強調し続けている。

だが最近の対立や、協力関係の将来をめぐって行われている面倒な交渉から、中東でアメリカの戦略的な足がかりとなってきたサウジアラビアとの関係の行く末について、強い疑念が生じていることも確かだ。

「注目点の1つは、サウジアラビアにとって最大の石油輸入国であり、武器や技術を無条件で供給してくれる中国の重要性が増していることだ」と、サウジアラビアの政治専門家アリ・シハビは本誌に語った。

シハビはシンクタンク「アラビア財団」の設立者で、現在は「ビジョン2030」に盛り込まれた未来志向の巨大プロジェクトであるNEOMの顧問を務める。

「もう1つは、対米関係が当てにならないと考えられていること。ワシントンの政治情勢によって大きく変わり得るからだ」(中略)

両国の関係は第2次大戦中に戦略的パートナーシップへと拡大し、冷戦期にはさらに発展した。(中略)サウジアラビアは、中東全域でイランの影響力に対抗するアメリカの取り組みの中心だった。

同盟国を増やすという選択
世界有数の原油輸出国であり、メッカとメディナというイスラム教の2大聖地を抱えるサウジアラビアの特別な影響力から、アメリカは長く恩恵を受けている。サウジアラビアも地域的な紛争では、米国防総省の支援を受けてきた。だが近年は、両国の利害が分かれ始めている。

分裂はバイデン政権下で特に顕著になった。台頭する皇太子と親密な関係を築いた前任者のドナルド・トランプとは異なり、バイデンは強硬路線を取っている。(中略)

バイデンへの冷遇とは対照的に、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は22年12月、初の中国・アラブ諸国サミットをサウジアラビアで開き温かい歓迎を受けた。

その数カ月後、サウジアラビアは北京の仲介でイランと国交を回復し、中国とロシアが大きな影響力を持つ2つの多国間ブロックに参加する。上海協力機構とBRICSだ。

いまバイデンは、ガザ戦争に関連してサウジアラビアとの関係修復を再び試みている。

ホワイトハウスが目指すのは、いわゆる「メガディール」をまとめること。具体的には、アメリカとサウジアラビアの安全保障協力を強化する、イスラエルとサウジアラビアが国交を正常化する、そしてパレスチナ国家の樹立に向けた道筋をつくる、といったものだ。

しかし、サウジアラビアはアメリカとの交渉に強い姿勢で臨んでいる。自国の地政学的な影響力が強まっている状況を生かして、国益を最大化しようとしているのだ。

OPECプラス、アラブ連盟、イスラム協力機構(OIC)の有力メンバーであり、G20諸国の中でも屈指のペースで経済成長を遂げているサウジアラビアは、そうした戦略を追求しやすい立場にある。

ほかには、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコといった国々も同様の外交姿勢を実践している。これらの国々は、国際政治でどの陣営と連携するかが流動的で、地政学上の勢力図の大きなカギを握っている。 米シンクタンク「ジャーマン・マーシャルファンド(GMF)」は、こうした国々を「グローバルなスイング・ステート」と呼ぶ。 

「このような国々にとって世界秩序がより不安定に、より複雑に、より多極化するなかで、連携する国を増やすことは理にかなった選択」だと、GMFの研究員であるクリスティナ・カウシュは本誌に語っている。 

「サウジアラビア政府は、例えて言えば結婚ではなく、複数の相手と流動的な関係を育むことこそ、世界の不安定化がもたらすダメージを抑え、自国の強みを最大限生かすための方策だと考えている」 (中略)

グローバルな「懸け橋」に?
バイデン政権は「外交的対話を強化し、サウジアラビアを公然と批判することを減らし、地政学的な違いを考慮し、両国の利害の違いに配慮する」とともに「経済・安全保障問題での歩み寄り」によってサウジアラビアとの関係を改善できると、サウジアラビアの著名なジャーナリストで研究者のアブドゥルアジズ・アル・ハミスは感じている。

(中略)バイデン政権の取り組みが成功しても、サウジアラビアはアメリカの利害と対立しかねない国へのシフトを続けるだろう。ほかの大国との連携強化にはさまざまなメリットがあると、ハミスは指摘する。

同盟を多様化して国際社会でのサウジアラビアの足場を強化し一国依存を減らす、貿易相手・投資先を多様化してサウジ経済を強化する、複数の主要国との関係を強化して地域の「力の均衡(バランス・オブ・パワー)」の確立に寄与するなどだ。

「ほかの主要国との関係構築において、この路線はムハンマドが王位に就いても変わらない」と、ハミスは言う。「こうした関係には戦略的・経済的メリットがあるからだ」

アメリカがサウジアラビアの「スイング・ステート」的立場を受け入れることが関係安定化・強化のカギだと、サウジアラビアの地政学アナリスト、モハメド・アルハメドは指摘する。(後略)【6月21日 Newsweek】
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【目指す脱石油においても中ロ含めた幅広い国際関係がメリット】
サウジアラビアも、同じく湾岸諸国の産油国アラブ首長国連邦(UAE)も、国の将来を見据え、過度な石油依存からの脱却を図っています。

その点でも、アメリカだけでなく、ロシア・中国とも関係を保つことは大きなメリットとなります。

****サウジとUAE「ポスト石油時代」に向けた鉱業参入****
<EV普及で世界の石油需要は鈍化、サウジやUAEは鉱業分野への参入を図っている>

中東ではたいていの国が石油(と天然ガス)に頼って生きている。だが一部の裕福な国は先を見越して、同じエネルギー部門でも別の資源に目を向け始めた。クリーン・エネルギーへの転換にも電動車両用バッテリーにも欠かせないリチウムやコバルト、希土類などの重要鉱物だ。

石油で稼いだ資金をため込んできたサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、過度な石油依存から脱却して将来への布石を打つため、重要鉱物の採掘とそのサプライチェーンへの投資を増やしている。

なにしろ今は、そうした鉱物の産出・精製で中国が過大なまでのシェアを誇り、そのせいで地政学的な緊張が高まっている。西側諸国は、もちろん中国を迂回したサプライチェーンを確保したい。中東諸国も、この機に乗じて「ポスト石油」時代への道を切り開きたい。

米中ロと同時に商売ができる
「この分野で、ぐっと存在感を増してきているのがサウジアラビアとUAEだ」と言うのは米シンクタンクの戦略国際問題研究所に所属するグレースリン・バスカラン。「両国とも、クリーン・エネルギーへの転換で世界の石油需要が先細りとなり、石油頼みの経済モデルでは成長を維持できないことを理解している」

だからサウジアラビアは石油依存からの脱却を目指す成長戦略「ビジョン2030」で、鉱物資源の開発事業に約1億8200万ドルの資金を振り向けた。ちなみに政府の試算によれば、同国には2兆5000億ドル相当の鉱物資源が眠っている。

「わが国は経済大国への転換期にある」と、鉱業資源省のハリド・アルムダイファ次官は現地メディアに語っている。「第1段階で国内の鉱物資源を開発し、第2段階で国外の資源をわが国に集め、第3段階でサウジを(資源流通の)ハブとする」

この壮大なビジョンの実現には多くの国の協力が必要になる。既に同国はコンゴ民主共和国やエジプト、モロッコ、さらにはロシアやアメリカとも鉱業部門での協力に関する覚書を交わしており、米政府と組んでアフリカ諸国での採掘権を取得する交渉を始めているとの報道もある。

UAEもコンゴ民主共和国での採掘事業に関する総額19億ドルの契約を結び、銅資源の豊富なザンビアとも同様の合意に近づいている。

前出のバスカランによれば、サウジもUAEも資金力に不安はない。「今はリチウムやニッケル、コバルトの価格が下がっていて、たいていの欧米企業が新規投資に慎重になっているなか、この2つの国は札束をちらつかせている」

とはいえ、こうした事業へ外資を呼び込むには環境への配慮を含め、いくつもの課題を解決しなければならないだろう。重要鉱物に詳しい英ウォルバーハンプトン大学のハミド・プーランに言わせれば、「採掘の倫理性・持続可能性を確保するには環境的・社会的に厳格な規制が必要であり、特に大量のエネルギーを消費する精製の工程では省エネ化の推進が不可欠となる」。

そのとおりだが、サウジのような国には他国にない強みがある。裏の事情に通じたあるアナリストが言っている。「ああいう国はロシアとも中国とも、アメリカとも同時に商売ができる。これはすごい財産だ」【6月21日 Newsweek】
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【方向性を同じくするサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の競合】
国際情勢でも存在感を示し、、脱石油の方向性でも一致するサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は、緊密な関係にあり、指導者間には以前からの友好関係もありますが、同時に(性格・方向性が似通っているだけに)競合的なライバルともなっています。

****「サウジアラビア v アラブ首長国連邦」中東地域の主導権をめぐる静かなる地政学争い****
<ガザ紛争と地域の平和的共存を目指す動きの水面下で、アラブ世界は今後、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎える>

イスラエルとハマスの戦争は、平和的共存が地域の新しい潮流になりつつあるなかで始まった。
こうした中東の変化を象徴するのが、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の同盟関係がかつてないほど緊密に見えることであり、それぞれの国で実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相とムハンマド皇太子の友好的に見える関係だ。

2017年にサウジアラビアとUAEは、アラブ世界でソフトパワーを拡大しようとするカタールに対抗して断交に踏み切った(21年に和解)。

14年から続くイエメンの内戦では15年に両国が軍事介入を行い、親イランのシーア派武装勢力のフーシ派と対立している。そして、それぞれが中国とロシアに接近し、アメリカとの同盟関係から距離を置いた、より独立した政策を取っている。

ただし、この友愛的に見える同盟関係の水面下で、アラブ世界の主導権をめぐる地政学的争いが静かに繰り広げられている。

まず、外国投資をめぐる大規模な競争だ。09年に湾岸協力会議(GCC)の中央銀行の本部をサウジアラビアの首都リヤドに置くという決定にUAEが反発し、GCCの通貨統合は今も実現していない。
12~22年のUAEの投資流入額の対GDP比はサウジアラビアの約3.5倍に達し、主な多国籍企業の中東本部の約7割がドバイにある。

一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で22年に原油価格が高騰し、サウジアラビア経済は8.7%の成長を達成。国内への大規模な資本流入を生んだ。
また、サウジアラビアはペルシャ湾地域に進出している外国企業に対し、自国領内に本社を移転するよう強く迫っている。

サウジアラビア(世界最大の石油輸出国)とUAE(同5位)のエネルギー政治の綱引きは、両国の競争をさらに激化させている。

21年夏には、OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成されるOPECプラスの減産措置の延長をめぐって両国が公然と対立した。その後、サウジアラビアが主導権を握っていることにUAEが異議を唱え、OPEC脱退を検討するかもしれないという噂が流れた。

経済多角化のビジョン対決
国際社会における威信をめぐる競争では、権威ある国際会議の開催を通じてソフトパワーを増強するために戦略的な投資を重ねている。

サウジアラビアは17年に未来投資イニシアチブ(FII)を設立し、UAEは23年にUNCTAD(国連貿易開発会議)の世界投資フォーラム(WFI)を首都アブダビで開催した。

21年にはUAEがドバイで中東初となる国際博覧会(万博)を開催。サウジアラビアは30年にリヤドで開催する。また、昨年12月にドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が、今年2月にアブダビでWTO(世界貿易機関)閣僚会議が開催された。

最も重要な競争は、それぞれの国が追求する「ビジョン」戦略に関連するものだ。UAEは10年に国家開発計画「ビジョン2021」を掲げ、多角化を進めてきた。
ハリファ港とジュベル・アリ港を軸とする戦略的イニシアチブを通じて世界的な交通とビジネスのハブとしての地位を獲得し、国営航空会社エミレーツ航空の成功がそれを支えている。

一方、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンも16年に、経済多角化の野心的なロードマップ「ビジョン2030」を打ち出した。
目玉は紅海沿岸の砂漠地帯に建設する未来都市「NEOM」構想で、地域で傑出したインフラ、交通、テクノロジー、ビジネス、金融のハブを目指す数千億ドル規模の取り組みだ。

サウジアラビアはさらに、23年に政府系ファンドが100%出資するリヤド航空を設立(就航は25年の予定)するなど、海と空の物流のハブに変貌するために1000億ドル以上を投じている。

なかでも、中東・北アフリカ地域で最大規模かつ最も交通量の多い港湾になるとされるジッダ・イスラミック港への巨額の投資を通じ、港湾におけるUAEの優位に挑戦しようとしている。

興味深いことに、イランとの関係改善が、一連の競争を激化させるかもしれない。中国の主導によるイランとサウジアラビアの和解は、サウジアラビアとUAEが地域で共有する主要な脅威を効果的に排除し、ペルシャ湾北部と南部の長年にわたる地政学的対立を緩和した。

この地域は今後、イランとGCCの地政学的競争から、サウジアラビアとUAEの地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎えるかもしれない。

通商政策では、サウジアラビアが21年7月に、国内の工業生産を強化するために保護主義的な政策を導入。外資奨励のために優遇措置が取られているフリーゾーンで製造された製品やイスラエルからの輸入品を使った製品を、特恵関税の対象外とした。

こうした規制はUAE経済の根幹をなすフリーゾーンに真っ向から挑戦するもので、UAEとイスラエルの貿易関係が発展することに対する明確な反論である。

アメリカの中東政策に打撃
その対イスラエル政策でも、両国の距離が開く可能性がある。UAEは20年にアメリカの仲介でアブラハム合意に署名し、イスラエルと国交正常化を果たしたが、サウジアラビアは署名を見送った。イスラエルとUAEは包括的な経済協定を結ぶなど、2国間関係を強化している。

イスラエルとハマスの戦争は、サウジアラビアとの国交正常化のプロセスを減速させている。しかし、サウジアラビアはアブラハム合意の礎になるべき存在であり、対話は復活するだろう。

ムハンマド・ビン・サルマンがイスラエルとの国交正常化に向けて、特に核開発や安全保障面でさらなる譲歩を探っても不思議ではない。そうした動きは、UAEのムハンマド皇太子の対イスラエル政策に圧力をかけるだろう。

サウジアラビアとUAEの溝が広がるにつれて、互いの「重り」として、ロシアや中国、さらにはイランとの関係改善が加速することが考えられる。その結果、アメリカの中東戦略の有効性が弱まり、アメリカは中東の重要性を再評価することになるかもしれない。

イスラエルとハマスの戦争が勃発したように、サウジアラビアとUAEの地政学的な競争激化が、中東はより平和になるという単純な見方を覆す可能性は十分にある。【6月19日 Newsweek】
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