孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日中関係  構造的停滞の改善に向けて

2024-06-28 22:39:42 | 中国
(28日、北京の日本大使館で、胡友平さんの訃報を受けて掲げられた半旗【6月28日 東京】

【日中首脳会談も具体的成果は示されず】
5月27日、日中韓3カ国は、韓国・ソウルで約4年ぶりに首脳会談を開き北朝鮮を含む地域情勢や貿易などについて協議、協力を進めていくことを確認しました。

****日中韓首脳会合、中国首相「新たな始まり」 貿易などで共同宣言****
日中韓3カ国は27日、韓国・ソウルで約4年ぶりに首脳会談を開き北朝鮮を含む地域情勢や貿易などについて協議、協力を進めていくことを確認した。

中国の李強首相は首脳会談の開幕に当たり、今回の会談は「再開と新たな始まりの双方」を意味すると発言。3カ国間の包括的な協力再開を呼びかけ、そのためには政治と経済・貿易問題を分けるべきだとし、保護主義とサプライチェーン(供給網)のデカップリング(切り離し)をやめるよう求めた。

李氏は「中国、韓国、日本にとって緊密な関係は変わらず、危機対応を通じて達成された協力の精神も、地域の平和と安定を守る使命も変わらない」と述べた。

<共同宣言を採択>
3カ国首脳は共同宣言を採択し、自由貿易協定(FTA)締結に向けた協議加速や、市場開放を維持しサプライチェーンの混乱を回避する避けるというコミットメントを再確認した。

共同宣言では、日中韓が最高レベルのより頻繁な意思疎通を正式な枠組みとすることや、気候変動・保全・医療・貿易・国際平和などでの協力を呼びかけた。【5月27日 ロイター】
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日韓関係は保守・伊政権のもとで大きく改善した面がありますが、日中関係は停滞が続いています。

日中韓首脳会議に合わせ、5月26日に行われた岸田文雄首相と李強首相との日中首脳会談も具体的成果は示されませんでした。

****「成果ゼロ?」の日中首脳会談を「有意義だった」と自賛する岸田首相、拘束邦人や水産物禁輸問題はどうなる****
岸田首相自慢の外交手腕、中国・李強首相を相手に通用したか
ソウルで行われた日中韓首脳会議に合わせ、5月26日夕刻に約1時間開かれた岸田文雄首相と李強首相との日中首脳会談は、またもや「ゼロ回答」に終わった。もしくは「発表できない進展」があったのかもしれないが、日中首脳会談後の華々しい発表とはならなかった。

日本と中国の間には、いわゆる日本側が言う「4大懸念事項」が存在する。
①日本産水産物輸入禁止……昨年8月24日に、日本が福島第一原発のALPS処理水を太平洋に放出し始めたことに対し、中国が「核汚染水を海洋に放出した」として猛反発。以後、日本産水産物及び加工品をすべて輸入禁止としている。

②複数の日本人のスパイ容疑での拘束……昨年3月にアステラス製薬幹部を北京で「反スパイ法違反」などで拘束したのを始め、少なくとも5人の邦人が中国国内で「スパイ容疑」により拘束・逮捕されている。

③尖閣諸島のEEZ(排他的経済水域)内でのブイ設置……昨年7月、中国が尖閣諸島のEEZ内にブイを設置。衛星と連動させた軍事目的の海洋計測などを行っているものと見られる。

④日本人短期渡航のビザ措置……コロナ禍が明け、中国はすでに多くの国に対して、短期のビザなし渡航を認めているにもかかわらず、日本に対しては中国へ渡航するすべての日本人に対して、ビザを義務づけている。(後略)【5月28日 近藤大介氏 JBpress】
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【「構造的停滞」の日中関係 変化に必要な熱意とビジョン】
こうした会談を持てるようになったことを前進と見ることもできますが、形ばかりの対話を繰り返しても状況が動くことはない・・・という指摘も。

米中対立という環境もあるなかで日中関係をどのような方向に持っていくのか・・・熱意とビジョンが問われています。

****変貌する北東アジアの地域情勢と日中関係****
(中略)
これまでの日中関係は2つの段階をへて今に至っております。

第一段階はいわゆる72年体制の段階であります。日中国交正常化の72年から80年代のまでの日中両国は日中友好をスローガンにし、日中友好のために両国の間で抱えている問題を棚上げにし、良好な政治関係を促進していました。このような良好な関係の下で、日中の経済相互依存関係の基盤が築き上げられました。

日中関係の第二段階はいわゆる「政経分離」の段階です。90年代以降、日中両国は歴史問題、台湾問題で対立しながら、安全保障分野の相互不信が高まりつつある中でも、親密な経済関係を持続させてきました。

この「政経分離」を基調とする日中関係を支えてきたのは、強靭な経済交流と深い人的交流です。しかし、今の日中関係は新たな段階に差し掛かっているのではないかと思います。

米中対立を基調とする国際環境において、日中両国の関係は大きな制約を受けています。こうしたなかで、日中両国の関係は「政冷経冷」の時代に入るのか、新たな「政経分離」の時代に入るのか。今、私たちは時代の分かれ目に差し掛かっているように思います。

国際関係の制約のなかで、もちろんこれまでと同じような「政経分離」の形態をとることは難しいといえます。おそらくこれからの政経分離は安全保障分野や先端技術で対立しつつも、実務的な経済関係を維持するといった形の「政経分離」の流れになるのではないでしょうか。(後略)【6月9日 青山瑠妙氏 早稲田大学教授 グローバル・フォーラム】
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大国外交を進めて国際社会における影響力の向上を求め、自国の価値観を広めて国際秩序の変革を目指す習近平政権を相手にして、「構造的停滞」とも指摘される日中関係を改善させる糸口はどこにあるのか?

****日中関係は構造的停滞関係のままなのか****
習近平政権の「微笑み」が日本にも始まった。韓国での首脳会談で李強・国務院総理は岸田総理と和やかに握手し、訪日した劉建超・党対外連絡部長は、日本の各界に笑顔を振りまいた。

だが、中国と欧米との間の対話と比べて、日中間の意思疎通はレベルも頻度も心許ない。また、ハイレベル交流が始まっても、日中間の懸案には具体的進展はない。

中国外交部定例会見では、報道官が台湾や福島第一原発の処理水で日本に注文をつける場面が多い。日中関係はどうなっているのか、習近平政権の構造的な問題に着目して考えたい。

ネット世論に縛られる中国
習近平政権でなくても、中国にとって、日本との関係は難しい。日本はかつての「侵略者」であり、日本への融和的な態度は時に中国国内で政治的に問題視される。かつて、胡耀邦党総書記(当時)は、親日的であることを理由の一つとして失脚させられた。過去に中国で発生した反日デモは、一部が反政府デモに発展したりもした。

以前周恩来に仕えていた中国人に、1972年の日中国交正常化は中国共産党だから出来たと言われたことがある。反日感情がまだ根強かった当時、共産党は大局的観点から日本に賠償請求を求めないことを決め、党組織を使って中国国民に対して日本の一般国民と軍国主義者を区別するように繰り返し教育し、国交正常化を実現したと。共産党統治の長所は世論に流されずに大所高所から政策を決定・実施できることだ、と彼は強調していた。

だが、中国社会にインターネットやSNSが普及すると、多くの中国人は新聞やテレビなどの公式報道を見ず、ネット記事やWeiboなどのSNSから情報を得るようになった。党の教育宣伝は、以前ほど国民に浸透しなくなっている。

また、中国のネット空間は一定の制約があるものの、その制約の中で意見が言えるので、当局はSNS上にある意見のトレンドを「民意」として敏感になる。

中国国内のネットやSNS上では、日本について否定的な反応が多い。中国当局はネット上の「民意」を意識して、また時にこれを利用して、日本との関係で強い対応を取りがちになる。(中略)

習近平によってどう変わったのか
もともと難しい日中関係は、習近平の統治によってどう変わっただろうか。習近平は、統治の正統性を中国の強さに求め始め、2017年の第19回党大会で、中国は「立ち上がり、豊かになるから、強くなることへの飛躍」を遂げたと宣言した。外交面でも、習近平は自国の権益のための闘争を求めた。中国は主権に関する主張を強め、南シナ海でベトナムやフィリピンと頻繁に衝突するようになり、日中間でも海をめぐる対立が固定化した。

また、「強い中国」のため、習近平政権は、大国外交を進めて国際社会における影響力の向上を求め、自国の価値観を広めて国際秩序の変革を目指すようになった。

これに対して、日本は「法の支配」を掲げて既存の国際秩序を擁護し、欧米とともに普遍的価値を推進する。日本は、習近平の打ち出した「一帯一路」構想や「人類運命共同体」構想に対して警戒を隠さない。日本は中国の外交戦略上の協力が難しくなり、中国外交における対日関係の優先度が下がってしまう。

米中対立も日中関係にマイナスの影響を与えている。米国は中国の台頭に警戒を抱き、同盟国とともにこれを抑えようとする。日本は、米国の同盟国として先端技術の対中輸出制限などで協力するので、中国にとって日本は対抗する相手にすらなってしまう。

さらに、習近平政権は、外交に対する共産党の指導を強め、党内でも党総書記に権限を集中させた。習近平が外交面で果たす役割が大きくなり、二国間関係を進める上で習近平と対話することが重要になる。

しかし、日本との関係はそもそも政治的リスクが大きい上に、東シナ海の問題など難しい問題が多い。中国の外交当局は、習近平を日本と対話させることに慎重になる。両国間の政治レベルのパイプも細っており、首脳外交を進めにくい。習近平と対話できない日中関係は、なかなか進展しない。

構造的停滞のなかで何が出来るか
現在、日中関係はいわば構造的停滞関係とも言うべき状態にある。両国間では対立が基調になり、前向きな案件は進めにくい。日中首脳会談が一回行われても懸案は進展しないし、対話もすぐには活発にならない。

しかし、このような状況は放置しておいていいのだろうか。中国には14億の巨大市場があり、優秀な人材や先進的な技術もある。中国と賢く付き合い、中国をうまく活用してこそ、日本は継続的な成長を実現できる。

日中両国がまず目指すべきは、いろいろな懸案はあっても、安定的に対話できる関係の構築である。中国側から見ると、米中対立のなかで日本の顔が見えにくくなっている。2020年から2年間勤務した北京では、中国人有識者から、「日本との関係をよくするには米国との関係を改善すればいい」「中国外交における日本の重要性が落ちている」といった意見を多く聞いた。

中国は欧米との関係でも対立が目立つが、対外関係全体のマネージと衝突回避のため、米国との意思疎通は続けようとする。欧州は米国に近い存在だが、EUとしての存在感や米国との立場の違いもあるので、中国は欧州とも対話を続ける。日本外交の独自性を見せることで、中国に日本との意思疎通の必要性を感じさせる必要がある。

また、構造的な停滞のなかにあっても日中間の経済活動は進めていけるのが望ましい。中国は日本にとって最大の貿易相手であり、多くの日本企業が中国市場で利益を得ている。

経済安全保障のため、中国との経済活動を見直したりする動きもあるが、同時に、日本の産業界はリスクに備えつつ、中国のイノベーション力などを活用しようとしている。中国も、多くの地方政府幹部や中国企業が日本を訪問するなど、日本との経済面での関係強化に積極的である。

日中関係における不確定要素も減らしていくことが望ましい。特に、台湾問題は中国にとっては国の一体性に関わる問題であり、台湾独立には理屈ではなく感情的に反応する。台湾の民意も、台湾独立ではなく現状維持にある。台湾海峡の緊張は、日本にとっても有益ではない。台湾に関する言動には慎重な対応が求められる。

習近平政権だから出来ること
習近平政権は日中関係にとって有利な面もある。習近平の国内政治基盤は比較的強く、大胆な政策決定ができる。(中略)

最近の中国も、日本との関係を少しでも良くしたいというシグナルを送っている。昨年11月の日中首脳会談で、日中両国は「戦略的互恵関係」の構築を確認し、建設的・安定的な日中関係を目指すことで合意した。5月の日中首脳会談では、李強国務院総理は、安定的な日中関係構築のために日本側が中国側とともに努力することを望むと述べ、中国側も努力する姿勢を見せた。

日本との関係が重要だと習近平に思わせるような「仕掛け」を作れれば、習近平政権は日本との対話により積極的になり、国内を抑えて懸案の解決に真剣になるだろう。

中国の提唱している構想をそのまま支持することはできないが、一定の条件の下で前向きに検討するとか、問題点を指摘しつつその精神は共有するといった姿勢を見せられないか。

中国側が日本に期待している養老・介護分野で、象徴的な案件ができないか。日中関係はなかなか前には進まないが、習近平政権だからこそ出来ることもある。【6月12日 町田穂高氏 Asia Pacific Initiative】
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【最近の事件から 「靖国神社落書き男」事件と蘇州・胡友平さんの死の痛み】
日中間で起きた最近の事件から二つほど。
日本について否定的な反応が多いSNSから派生した事件が「靖国神社落書き男」事件

****靖国神社落書き男に日本が怒る、旅行会社11社の訪日観光ビザ申請手続き権を取り消す―台湾メディア****
台湾メディアの三立新聞網は16日、靖国神社落書き男など中国の「小粉紅(シャオフェンフォン)」が日本で頻繁に無秩序な行為をしているため、在広州日本国総領事館が広東省と福建省の著名旅行会社11社の訪日観光ビザ申請手続き権を取り消したと報じた。総領事館が各旅行会社に宛てた書面が流出した。

小粉紅とは、中国における1990年代以降に生まれた若い世代の民族主義者のこと。

日本メディアによると、靖国神社で1日、神社名が書かれた石柱に赤いスプレーで「Toilet」と落書きされているのが見つかった。

中国版インスタグラムとも呼ばれるSNSの「小紅書(レッド)」に、半袖シャツに短パン姿でサングラスをした男が、靖国神社と書かれた石柱に向かって放尿するような仕草をした後、赤いスプレーで「Toilet」と落書きする様子を映した動画が投稿されていたことが分かった。

男は自らを「アイアンヘッド」と名乗り、英語で「日本政府による汚染水の海洋放出に対して、われわれには何もできないのか。おまえらに目に物見せてやる」などと話した。

警視庁公安部は捜査の結果、この人物が中国籍の男ですでに日本を出国し、中国に帰国したと明らかにした。
中国メディアの報道やSNS上の投稿などによると、男は中国で「鉄頭」のハンドルネームでさまざまな活動をしていた「お騒がせインフルエンサー」的な人物だという。【6月16日 レコードチャイナ】
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構造的停滞の日中関係を更に険悪にさせかねない事件ですが、中国政府もこうした動きを支持している訳ではないでしょう。ただ、非常に敏感な「民意」にも関わるものとして扱いに苦慮する類でしょう。日本政府もそうした中国側の立場にも一定に配慮することも必要になります。

もう一つは蘇州市で日本人母子が刃物で襲撃された事件。
事件自体はあってはならない痛ましいものですが、犯人の男を阻止しようとした中国人女性、胡友平さん(54)が死亡したことで、日中双方に対応が見られます。

****日本大使館が半旗=死亡の中国人女性悼み―蘇州邦人襲撃****
北京の在中国日本大使館は28日、江蘇省蘇州市で日本人母子が刃物で襲撃された際、犯人の男を阻止しようとした中国人女性、胡友平さん(54)の死を悼み、半旗を掲げた。

金杉憲治・駐中国大使は「(胡さんの)勇気ある行動に改めて深い敬意を表するとともに、心からのお悔やみを申し上げる」と哀悼の意を表明。中国当局と連携し、邦人の安全確保に「全力を尽くす」と述べた。

中国外務省の毛寧副報道局長は28日の記者会見で、胡さんの行動を「中国人の優しさと勇気を体現した」とたたえた。【6月28日 時事】 
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****蘇州市が故・胡友平さんに称号を追授へ 「正義のため勇敢に行動した模範」****
江蘇省蘇州市人民政府によると、同市で6月24日に発生した刃物による傷害事件で、女性や子どもへの襲撃を身を挺して阻止し、重傷を負った胡友平さんが26日に亡くなった。蘇州市は胡さんの行為を「正義のための勇敢な行動」と認定し、現在「正義のため勇敢に行動した模範」の称号を追授する手続きを進めている。(中略)

今回の凶悪な事件において、生死を分けるような局面で、中国人の一般市民が無意識に身を挺し、他の罪なき人々が刃物で刺されるのを防ぎ止めた。この勇気ある行動は感動を呼び、中国社会で高く評価されている。今回の市政府による追授や、インターネット上にあふれる追悼からも、そのことがうかがえる。

我々は全ての被害者に、国境を越えた人道的なお見舞いを申し上げる。我々は犯罪行為を強く非難すると同時に、犯罪行為に直面した時に中国人の一般市民が示した正義感にも目を向ける必要がある。暴力に直面した時、中国人と外国人に区別はなく、あるのは正義と犯罪行為の戦いだ。今回の件は中国社会全体の善良性、友好性、勇敢な精神を反映しており、これらの特質はすでに中国社会のDNAに組み込まれている。

日本の民間世論にも中国社会との共鳴が起きていることに我々は注目している。日本の少なからぬネットユーザーが、救いの手を差し伸ばした胡さんの行動に敬意を表し、彼女の快復を祈り、繰り返し感謝の意を表していた。

これらはいずれも、中日民間交流における最も真実の感情だ。そこには暴行に対する厳しい非難と勇敢な行動への敬意や称賛という共通の価値観があることに目を向ける必要がある。

蘇州は外国人の比較的多い都市であり、多くの外国企業が進出している。これは、40年余りに及ぶ中国の改革開放で、互いに融け合い切り離せなくなった中国と世界の構造の縮図でもある。

中国の対外開放の扉は大きく開け放たれていく一方であり、日本人を含む各国の人々が中国を訪れ、旅行や観光、投資や事業を行うことを歓迎する。これから中国を訪れるますます多くの外国人が、さらに友好的で親切かつ法治的な環境を感じることになるだろう。(編集NA)【6月28日 人民網日本語版】
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胡友平さんの尊い死が日中の絆を再認識させる形で、災い転じて・・・となればいいのですが。
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