孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  徴兵制を嫌って国外脱出する若者 南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況

2024-03-18 23:05:14 | ミャンマー

(【3月10日 NHK】)

【徴兵制を嫌って国外脱出する若者】
ミャンマー情勢については、少数民族武装勢力及び民主派勢力の武装闘争に対して3年前のクーデターで実権を掌握した国軍が劣勢にたっていること、兵士の脱走・投降などもあって兵員不足になった国軍が徴兵を発表したことなどを2月15日ブログ“ミャンマー 脱走・投降相次ぐ国軍 徴兵を実施で若者に動揺・反発 “軍政崩壊”の可能性も?”で取り上げました。

徴兵対象は18歳以上の国民で、男性は35歳、女性は27歳までが対象で、エンジニアなどの専門職は男性が45歳、女性が35歳まで引き上げられるという内容です。

徴兵制は2010年に導入が決定されましたが、これまでは運用せずに志願制を維持していました。国軍兵の投降・脱走が相次ぎ、戦力を強制的に確保する必要性に迫られた形です。

国軍の兵力は30万~40万人とされてきましたが、シンクタンク「米平和研究所」は23年5月に15万人ほどと推定しています。

なお、国民の動揺を鎮めるため、軍の報道官は2月20日、「今のところ女性を徴兵する計画はない」とする声明を発表しています。

状況はその後大きくは変わっていません。

****ミャンマーで戦闘激化 多数の市民が犠牲に****
ミャンマーでは国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化するなか、市民が犠牲となる事態が相次いでいます。

現地メディアは13日、ミャンマー西部ラカイン州の市場近くで、国軍による砲撃を受けた市民らの様子を伝えました。映像は2月29日に撮影されたもので、重火器が撃ち込まれて少なくとも21人が死亡、30人以上が負傷したということです。

ラカイン州では、少数民族の武装勢力と国軍との衝突が激化していて、9日にも市民が巻き込まれ8人が死亡しました。

OCHA(=国連人道問題調整事務所)は11日に声明を発表し、「住宅地での無差別攻撃が市民の命を犠牲にしていることを深く憂慮する」としています。【3月14日 ANNニュース】
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徴兵対象となる若者では国外に脱出する者も多数出ています。

****ミャンマー 徴兵制発表から1か月 隣国タイに出国の若者相次ぐ****
ミャンマーで実権をにぎる軍が徴兵制の実施を発表して10日で1か月となりました。対象となった若者たちの間では徴兵から逃れようと、隣国タイに出国するケースが相次いでいます。(中略)

若者の間では徴兵を逃れようと、隣国タイの大使館などに長期ビザを求める人が殺到し、第2の都市マンダレーでは旅券事務所の前に集まっていた2人が死亡する事故も起きています。

こうした中、タイ北部チェンマイの大学では今月、大学の英語科の入学試験が行われましたが、100人の定員を大幅に上回る2100人の応募があり、そのほとんどがミャンマー人でした。

このうち、最大都市のヤンゴン出身の32歳の男性は「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない」と、タイに逃れてきた理由を話していました。

大学の担当者は「大学始まって以来の応募者数です。ミャンマーからの学生たちにできる限りの支援を提供するよう努めたい」と話していました。

軍は来月に最初の5000人を徴兵するとしていますが、女性は対象外にすると発表するなど、若者の間に広がる動揺と反発の鎮静化をはかっています。

徴兵制逃れるため タイの大学目指す若者は
ミャンマーはASEAN=東南アジア諸国連合の加盟国であるため、タイへの入国は14日以内の滞在であれば、ビザを取得する必要はありません。

ミャンマー最大都市のヤンゴンからタイ北部チェンマイにやってきたマウ・ピュさんは(仮名・32歳)今月5日、チェンマイにある大学に入学するための面接をオンラインで受けました。

過去に軍に対する抗議デモを組織したこともあるマウ・ピュさんは「家にいるのが安全ではないのでタイに逃れてきた。ミャンマーの若者はみな国を出たがっている。徴兵されたくないのが主な理由だ」と話しました。

さらに、去年、民主派の武装勢力に加わった双子の兄の存在も、出国までして徴兵を逃れたい大きな理由になったといいます。

マウ・ピュさんは「私の兄やすべての友だちが民主派勢力だ。軍に加わり、彼らを撃つつもりはない。徴兵を逃れたいのはお互いを殺し合うことに反対だからだ。誰かを銃で撃ちたくないし、誰からも銃を突きつけられたくない。軍の独裁下のミャンマーにとどまる考えはなかった。なんとしてもタイに長期間滞在したい」と話していました。

京都大学 中西嘉宏准教授 “軍の思いどおりにはいかないだろう”
ミャンマー情勢に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は「そもそも若い人たちが海外に出ようとしていた中で、今回の徴兵制でさらに、なりふりかまわず、徴兵から逃れたい若者が海外を目指し、一種の社会的なパニックが起きている。

武器を渡す新兵が軍のために働くのか。どこかで銃口を軍側に向けないか。軍はそうしたことを精査しないまま徴兵を進めている。兵隊を増やして戦況を有利に変えていくという軍の思惑はうまくいかない可能性が高い」と分析しています。【3月11日 NHK】
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中西氏も指摘しているように、国軍に忠誠心がない・・・というより、反感が強い若者を無理やり徴兵して銃をもたせても、その銃口がどちらに向けられるのか・・・ますます国軍の混乱が拡大する恐れもあります。

崩壊前のアフガニスタン軍でもタリバンに内通する者が多く、米軍は前の敵だけでなく、後ろのアフガニスタン軍からも銃口を向けれらる事態が多発していました。

【違法入国を警戒する周辺国】
上記記事ではタイ北部チェンマイの大学にミャンマー人入学希望者が殺到していることなども指摘されていますが、それは正規の手続きを踏んだミャンマー出国者でしょう。タイを含め周辺国は違法な入国者の増加に警戒を強めています。

****ミャンマー徴兵制で若者が「脱出」模索 周辺国が違法入国警戒****
ミャンマーで国軍と民主派など抵抗勢力との内紛が長期化するなか、国境を接する周辺国がミャンマーからの避難民に厳しい対応を取り始めている。

インド北東部のマニプール州政府は8日、不法入国したとされるミャンマー人の送還を始めたと明らかにした。

2021年2月のクーデター後に多くの人が国境を越えたが、国軍が今年2月に徴兵制の開始を発表して以降はさらに脱出する人が増えた。インドやタイは避難者の流入や在留が自国の情勢不安や治安悪化につながりかねないと警戒する。

マニプール州のビレン・シン首相は8日、自身のX(ツイッター)に「インドに不法入国したミャンマー人の最初の一団を送還した」という文章とともに、ミャンマー人とみられる女性たちが移送用トラックで空港に連れてこられる様子を映した動画を投稿した。同州では23年5月に200人以上の死傷者を出すインド内の民族間の衝突が起きており、州政府はミャンマー側から避難民が押し寄せることで社会がさらに不安定化すると過敏になっているとみられる。

ロイター通信によると、州政府は少なくとも77人の送還を予定しているという。送還の一報に米国務省の報道官が懸念を表明したと伝えられるが、インドは難民の送還を禁じる難民条約に加盟していない。

また、約1600キロにわたり国境を接するミャンマーとインドは18年に自由移動制度を設け、国境付近の住民は16キロ以内はビザなしで往来が可能となった。ところが2月にインド政府は国内の安全と北東部の国境沿いの人口構造を維持するためとして制度廃止の方針を示し、政府高官が国境沿いにフェンスを設置する考えを明らかにした。

一方、ミャンマーとの国境が最長の2400キロ超に及ぶタイも密入国者の増加を警戒する。ミャンマー国軍が18歳以上の国民を対象に4月から毎月5000人の招集を始めると明らかにすると、若者たちは徴兵を逃れるため国外への脱出を模索。ミャンマーの最大都市ヤンゴンにあるタイ大使館には就労や就学ビザを求める人が殺到し、受付人数を制限せざるをえない状況に陥った。

混乱は続いており、経済的な理由などから合法な手段で入国できない密入国者が増える可能性がある。タイのセター首相は「合法に入国するのであれば歓迎するが、違法の場合は法的に厳しく対処する」と、くぎをさした。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、クーデター後にタイに避難した人はおよそ4万5000人とされる。タイ政府はこれまで、過去にもミャンマー難民を受け入れてきた経緯や労働力としての需要などから滞在をある程度は容認し、最近は国境付近での人道支援も拡充している。

ただ、混乱に乗じてミャンマーからの違法薬物の密輸入やオンライン詐欺などの犯罪が多発しており、治安悪化への懸念は強まっている。

徴兵制を巡っては、ミャンマーの独立系メディアが西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の男性が国軍に強制的に連行されていると相次いで報じた。国軍側は否定しているが、国連は「若い男性が街中で誘拐されている」と強い言葉で非難。

国内で迫害されてきたロヒンギャはクーデター前からバングラデシュなど周辺国に逃れて不安定な生活を送っているが、徴兵制がそうした状況に拍車をかけることになりそうだ。【3月13日 毎日】
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最後のロヒンギャに関する情報も懸念されるところです。

政情不安なミャンマーからは日本へ向かう者も増えています。

****増えるミャンマーからの留学生…母国に政情不安、就職を目指して来日****
ミャンマーからの留学生が急増している。軍事クーデターにより政情不安が続く中、多くが安定した環境の日本で学び、就職を目指して来日しており、ここ3年で倍増した。生活に困窮する学生も目立ってきており、民間団体が支援に乗り出している。(中略)

21年2月のクーデター以降、ミャンマー人の来日は増えている。出入国在留管理庁によると、滞在者は20年末の3万5049人から23年6月時点は6万9613人に増え、多くが技能実習生として入国。留学生は20年末の4371人から、23年6月時点は、8876人になった。(中略)

困窮学生の支援に課題も
生活に困窮する留学生も出てきており、NPO法人「ミャンマーKOBE」(神戸市)には21年以降、留学生から相談が相次ぐ。

日本語がネックになり、仕事に就けないケースも多く、食料や布団などを無償提供している。現地の日本語教育機関に100万円の借金をして来日した男子留学生は「食べるものにも困る時がある」と漏らす。

同法人の猶原信男理事長(72)は「継続的な支援が必要だ。過重な借金を背負わずに学べる環境を整えることが求められている」としている。【3月18日 読売】
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【ミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況】
国外の他、少数民族武装勢力「解放区」へ逃げることも。ただし、空爆などはありますが。
下記は、チェンマイなどがあるタイ北部と国境を接するミャンマー南東部カヤー州の少数民族武装勢力「解放区」の状況です。

****ミャンマー「解放区」の実像:3年前のクーデターの勢いが衰えた国軍に立ち向かう武装勢力の姿****
<若者たちの抵抗運動の膨大な熱量は国軍を退けて、少数民族武装勢力と国内避難民が新たな街を作る。東部タイ国境に面するカヤー州の現地を歩いた>

一夜明けたら「お尋ね者」になっていた。3年前のことだ。ミャンマーの著名な政治評論家タータキンは当時、アウンサンスーチーと彼女の率いる国民民主連盟(NLD)の熱烈な支持者として知られていた。

しかし2021年2月1日、国軍がクーデターを起こし、民主的に選ばれたNLD政権を倒して政治家や活動家多数を一斉に検挙した。タータキンも標的となっていたが、どうにか難を逃れた。そして同国中部のマグウェ地方を脱出し、南東部にあるカレン民族同盟(KNU)の支配地域に逃れた。

仏教系のビルマ族が多数を占めるこの国にあって、KNUは1940年代から活動する少数民族系の武装組織であり、一貫して民族の自治と連邦制国家への移行を求めている。連邦制も自治も国内の少数民族が長年にわたって唱えてきた大義であり、今は多数派ビルマ族の多くも支持している。

だからKNUも広く国内の民主化勢力と連帯し、3年前のクーデター後に誕生した各地の抵抗勢力を支援し、初めて武器を取った人たちへの軍事訓練も行っている。

伝統的に、KNUの支配地域は隣国タイと国境を接するカレン州の一部、それも主として山間部に限られていた。
だが3年前のクーデター後には、カレン州の北に位置する東部カヤー州でも軍政に対する激しい抵抗運動が始まった。そして昨年末の時点では、ついに都市部にまで反政府勢力の支配地域が広がった。

具体的には、カヤー州メーセ郡の全域とデモソ郡の大部分などだ。国軍に追われたタータキンも、今はカヤー州デモソ郡で暮らす。

「ここは連邦制民主主義の国みたいに思える」と彼は言った。「いろんな立場の人が協力し合い、みんなが反軍革命を支持し、参加している」

新旧の少数民族勢力が連携
今のカヤー州で反軍闘争を主導しているのは、3年前のクーデター後に結成されたカレンニー国民防衛隊(KNDF)だ。

1950年代から活動している武装勢力のカレンニー軍や、共産主義のカレンニー民族人民解放戦線(KNPLF)の支援を受けて力を付けてきた。(中略)

実際、カヤー州にいる反軍勢力のイデオロギーはさまざまだが、互いに解放区を分け合い、州都ロイコーの攻略戦でも手を結んだ。昨年11月のことだ。

折しも、その2週間前にはミャンマー北部で主要な少数民族武装勢力3組織が一斉に蜂起して大規模な攻勢に出て、中国との国境の検問所も含めて、支配地域をかなり拡大していた。

カレンニー(現地語で「赤いカレン族」の意)の反軍勢力は現在、あえて幹線道路には出ず、その代わりデモソとシャン州のモービーを結ぶ道路など、一般道の多くを掌握している。

「つまり今の反軍勢力には、これらの道路の通行をいつでも遮断できる能力があり、国軍側にはその能力がないということだ」とホージーは指摘した。こうした力関係の逆転は全国各地で見られるという。

カヤー州内の解放区には今、タータキンのような反体制派が身を寄せている。また戦闘で住む家を追われた民間人が生活を再建する場ともなっている。

キリスト教徒で20歳の女性エリザベス(ミャンマーの人は一般に姓を持たず名前だけを名乗る)は昨年、激戦地のデモソ郡東部から西部へ逃げてきた。

学業は断念せざるを得なかったが、今は大量の避難民の需要を満たす市場にできた新しい衣料品店で働いている。
「私の村には仕事がなかった」とエリザベスは言う。

「クーデターの前も村で働いていたけれど、小遣い程度の稼ぎにしかならなかった。でも今はまともな給料をもらえている。だから家族も養える」(中略)

住民が支援する抵抗運動
しかし今のデモソには強いコミュニティー精神がある。 (市場で屋台の床屋を営む)ゾースウェイは隣の飲料問屋のオーナーから土地を借りているが、地代は余裕のあるときに払えばいいと言われている。

利益をため込まず、収益を反軍闘争に寄付している店も多い。評論家のタータキンは貸本屋とギターの販売店を営んでいるが、生活費として必要な金しか手元に残さず、残りは抵抗組織に寄付している。

貸本屋を始めたのは、もっと崇高な使命感からだ。
「ここの若者はみんな銃を持っていて、戦うことしか考えていないが」とタータキンは言う。 「人が地に足を着けて生きるには信仰と芸術も必要だと思う」(中略)

(息子を国軍に連れ去られ州都ロイコーから逃げてきた)アーシャは今、ロイコーに比べたらデモソのほうが安全だと思っているが、それでも故郷は恋しい。

「ここだって完全に安全じゃない。空爆もあるしね」と彼女は言った。「安全が保証されるなら、すぐにでもロイコーへ帰りたいよ」

それでも避難先のデモソで生計を立てられる人は恵まれている。新しいビジネスを始めるためのスキルや資本を持たない人にとっては、ここでの生活も厳しい。

状況が一変する可能性も
(中略)KNDFのマルウィ副司令官によると、国軍は州都ロイコー防衛のためにデモソやメーセから兵を引いた。
おかげで今は、こうした地域が反軍勢力の支配下にある。(中略)

今や反軍政の火の手は国内各地で上がっているから、国軍としても全てには対応できず、戦略的な要衝に戦力を集中せざるを得ない。 国際危機センターのホージーによれば、例えばロイコーだ。

州都であり、近くには重要な水力発電所があるし、首都ネピドーからも遠くない。一方、タイと国境を接する山間の町メーセなどの優先順位は低い。

ではデモソの町はどうか?
「デモソの状況は微妙で、どちらへ転んでもおかしくない。今のところは無事だが、ひとたび国軍がロイコーの制圧に成功すれば、次はデモソへ攻め込むかもしれない」とホージーは言う。

だから油断は禁物。 「全てが不安定だ。今の解放区も、いつ取り返されるか分からない」【3月18日 Newsweek】
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カヤー州には行ったことがありませんが、首長族が暮らす地域。タイ北部には、長年の政情不安をうけて脱出した首長族の観光村(欧米人権団体は「人間動物園」と批判)があって、そうした場所には行ったことがあります。 そのあたりの話はまた別機会に。
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