孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  プーチン圧勝のシナリオに沿った大統領選挙投票始まる

2024-03-15 23:26:59 | ロシア
(【3月15日 TBS NEWS DIG】 選挙は、政権が考える「愛国的立場」を示すセレモニーか)

【反対派の立候補を阻止し圧勝確実、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点】
15日から3日間、ロシアで大統領選挙の投票が始まっていますが、反対派の立候補を阻止した形式的選挙で国民にい支持されていることを誇示するためのパフォーマンスに過ぎず、プーチン大統領の圧勝は確実です。

****ロシア大統領選15日から投票 プーチン氏の圧勝確実、焦点は得票率****
任期満了に伴うロシア大統領選(任期6年)の投票が15日、始まった。通算5選を目指す現職のプーチン大統領(71)の圧勝が確実視され、投票率と得票率をどこまで伸ばすかが焦点となる。投票期間はこれまでの1日から3日間に延長され、17日午後8時の投票締め切り後、速やかに開票される。

2022年2月からロシアがウクライナで「特別軍事作戦」を続ける中での異例の選挙となり、同9月に一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部4州の占領地域でも投票を強行。支配の既成事実化を図る構えだ。

立候補者は無所属のプーチン氏のほか、共産党のハリトノフ下院議員(75)▽極右・自由民主党のスルツキー党首(56)▽政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長(40)――の3氏がいる。いずれも政権に異を唱えない「体制内野党」の候補だ。

選挙戦では、国民に負担を強いる特別軍事作戦の早期終結を提唱する声はあったものの、論戦の機会は乏しく、これまで以上に低調となった。大統領選の実施は民主政治を演出するのが主目的との見方が強い。

一方、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏も出馬を目指したが、ともに事務手続き上の不備を指摘される形で立候補を認められなかった。

2月中旬には反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が北極圏の刑務所で獄中死を遂げたが、追悼の動きは限定的で、政権を揺るがすような大きなうねりとはなっていない。

プーチン氏の陣営は、得票率で過去最高だった前回18年の77%を上回る、8割以上を目指すとされる。高い投票率と得票率を記録することで、特別軍事作戦への支持を示す根拠としたい思惑もあるとみられる。

有権者はどのような思いで投票に臨むのか。モスクワ市民に話を聞いた。

55歳の女性は「物価も住居費も公共サービスも全て高い。飢えてはいないが何とかしてほしい」と訴える。
20歳の男子学生も「物価や医療費が高いので、賃金をもう少し上げる必要がある」と話した。
43歳の医療従事者の女性は「経済の発展を望む」と回答。
3人とも生活や経済面の課題を指摘したものの大きな不満はなく、プーチン氏を支持しているという。

プーチン氏以外に投票するという人にも話を聞いた。「意見を言うことを恐れなくてもよい、自由で民主的な国に暮らしたい」。50代の女性はこう打ち明けた。
18歳の女性も「誰もが普通に話せるようになってほしい」という。
24歳の男性は「何かを変える時だ」と言い切った。世論の大勢が長期政権による安定を望む一方、変化を求める声も存在している。【3月15日 毎日】
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【ソ連崩壊の混乱からロシアを回復させたプーチン・・・根強いプーチン支持】
反対派の立候補を阻止した形式的選挙ではありますが、プーチン大統領に対する支持・信頼が一定に存在することも事実でしょ。

特にソ連崩壊後の経済・社会混乱を経験した年齢層においては、混乱を収めて秩序を回復した指導者としてのプーチン氏への強い信頼があるというのは常に指摘されるところです。(プーチン政権下でのロシア経済の回復・成長はプーチン大統領の手腕というより、主力輸出品である石油価格の高値という好環境によるところが大きいという指摘もありますが)

****【プーチン登場前夜】氷点下20度の中で食べ物や家財道具を売って糊口をしのぐ老人たち 道端には息絶えた人々も ソ連崩壊後のロシアを襲った地獄の90年代****
(中略)
氷点下20度の真冬のモスクワで立ち並ぶ老人たち
 995年のモスクワの冬は、高校時代に地理の授業で習ったとおりの極寒の世界だった。10月ごろから気温が急激に下がり始め、12月にはマイナス20度ほどまで下がった。(中略)

しかし、それは多くの市民が現在のモスクワのように暖かい家やオフィスにいて、仕事や生活をしていることを意味してはいない。

「お兄さん、このブドウ買わないかい。〝氷菓子〟にはなっていないよ」 「黒パンはどうだい。安くしておくよ」 「キャベツならうちだって売っているよ。買っておくれ」

大学から最寄りのベラルースキー駅に向かう途中には常に、極寒のなか、何十メートルにもわたって立ち並び、道端で物を売る老人たちの姿があった。

風よけもなければ、椅子があるわけでもない。吹き曝しのなか、薄汚れた分厚いコートや帽子をかぶり、お世辞にもきれいとは言えない袋に入れてきた、いつ売れるかもわからない〝商品〟を両手に持って、道行く人々に声をかけていた。中には、家財道具や、どこから仕入れてきたのかまったく不明の家電のリモコンやコンセントなどを売る人もいた。

彼らがこのような〝商売〟をせざるを得ない理由は明白だ。年金がもらえないか、もらっても生活できるレベルではなかったためである。

ソ連時代は、曲がりなりにも食べることには困らない程度の年金が支給されていたが、ソ連が崩壊すると、その社会保障システムも大混乱に陥った。年金の支給は遅滞が続き、仮に支払われたとしても、急激なインフレでその価値は消えた。

最低限の生活を賄うこともできない年金額を前に、彼らは極寒の中でも、わずかな収入を求めて路上で物を売るほかなかった。【3月5日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
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【ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には不満も そうした不満・批判をコントロールする政権】
しかし、こうしたプーチン大統領の神通力も、ソ連崩壊当時の混乱を経験していない若者層には必ずしも通用せず、長期政権、自由な発言ができない社会への批判・不満が存在します。

特にウクライナ侵攻後の“動員”は自分自身に直接降りかかる厄介ごとであり、反対や、国外脱出もありました。

プーチン大統領は、抗議行動を行うような者や国外脱出してまでも反対する不満分子は「裏切り者」としてむしろ国外に追い出して、残った者をコントロールする道を選択、動員に当たっては大都市若者層の不満が大きくならないように地方居住者や少数民族を中心に行いました。 それでも残る批判は力で抑えつける・・・。

****【戦時下のモスクワ】国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実*****
(中略)
多くのロシア人の若者らにとって、国外脱出は決して容易な決断ではなかった。(中略)ウクライナ侵攻を受けた欧米諸国による経済制裁により、ロシアから海外に向かう国際便の数は激減した。(中略)

航空券の価格は高騰し、私財を投げうってチケットを手に入れても、突然の飛行キャンセルで出発できないケースもあった。脱出した人々に、高所得者や子供を持たない若者らが多いのは、これらの問題をクリアできる財力があったためだ。(中略)

私の知人にも、国外脱出を目指したものの「お金がない。どうしても出国できない」との理由で、やむなくロシアにとどまった人もいた。
 そのような人々は、本音を包み隠しながら、ロシア国内での生活を続けているのが実態だ。

さらに、脱出できたとしても、海外で長期間生活できる十分な財産を持っているとは限らず、職が見つからなければ、帰国を余儀なくされる可能性もある。

しかし、国外脱出者や、政権に批判的な行動をとる自国民に対し、プーチン大統領は極めて冷酷な対応をとった。侵攻開始から約3週間後の2022年3月16日には、プーチン大統領は政権幹部に対しこう語ってみせた。

「(西側は)当然、いわゆる第五列、つまり、裏切り者たちに期待をかけているのだろう」「ロシア人は、常に本当の愛国者と裏切り者を峻別することができる。そのような者たちは、口に偶然飛び込んできたコバエのように、吐き出してやればいい」(中略)「(裏切り者の海外脱出は)ごく自然なことであり、社会の浄化には必要なことだ。その結果として国家は強化され、人々はさらに団結し、あらゆる挑戦に対する準備が整えられるに違いない」

第五列とは、自国にいながら敵に通ずるとされる〝裏切り者〟のことを指す。プーチン大統領はここで明確に、たとえロシア国民であっても、欧米諸国に共鳴する者らは裏切り者だとし、徹底的に排除する姿勢を鮮明にした。(中略)

プーチン大統領は反体制派、また積極的な反政権活動をしていなくとも、国外脱出をしてまでロシアを離れようとする国民については、むしろ国外に退去してもらった方が、その後の国内を統制しやすいと考えていたと推察される。

もちろんこれは、海外でも仕事を得られるほど有能な自国民の頭脳流出が起きるという点で、ロシア経済には大きなマイナスであることは間違いない。ただ、中長期的な国内産業の発展と、目前の戦争勝利のための国内の引き締めのどちらを選ぶかで、プーチン大統領は間違いなく後者を選んでいた。こうして、戦争に疑問を持つ若者たちの声はさらに弱くなっていった。

地方の貧困地域に偏る動員 モスクワと最大100倍近い死亡率の差
戦争に反対するモスクワの若者らの思いは、厳しく抑圧されていた。しかし、開戦から約4カ月という短期間ですでに、市内の反戦ムードが沈静化した背景には、もうひとつの理由があった。それは、ウクライナの前線に送られる兵士らが、圧倒的に地方に偏っていたという現実だ。(中略)

若年層の、人口1万人あたりに占める戦死者の割合でいえば、(極東の)ブリヤート共和国は28.4人でロシア全土で首位となり、続いてブリヤート共和国の西にあり、テュルク系のチベット仏教徒が多いトゥバ共和国(27.7人)などとなった。上位のほとんどは、少数民族が多く住むロシアの地方が占めていた。

これに対し、首都モスクワの人口1万人あたりに占める戦死者の割合はわずか0.3人で、モスクワ州全体でも1.7人だった。ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクも1.4人で、モスクワとブリヤート共和国の死亡率は、実に100倍近い差がある。

ブチャに駐留していたロシア軍の兵士らも、ブリヤート共和国やチェチェン共和国から来ていたことがわかっている。バハというまだ20歳の若年兵士は、「ウクライナに来なければ、殺されていた」と語っていた。彼もその名前から、少数民族の出身だと推察される。メディアなどの目が届かない辺境の地で、無理な動員が行われている実態が浮かび上がる。

広大なロシアの国土の辺境にある地方都市は、経済的にも大都市の住民より困窮しており、当局による動員を避けることは容易ではない。さらに、これらの地方自治体には、中央政府から派遣された元官僚などがトップに座り、中央政府に忠誠心を見せることで昇進を狙う動きもあるとされ、動員が苛烈になるとの指摘もある。

いずれにせよ、地方の若者を取り巻く環境との〝差〟をつけることで、モスクワ市民の不満のガス抜きがなされている側面が否めない。(後略)【3月2日 WEDGE 黒川信雄著『空爆と制裁 元モスクワ特派員が見た戦時下のキーウとモスクワ』より】
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【批判勢力には容赦ない圧力も】
そして、若者層を中心に存在するプーチン批判が選挙で表面化しないように、最大の批判者ナワリヌイ氏を極寒の刑務所で獄中死に追いやり、特別軍事作戦の継続に反対するリベラル派のナデジディン元下院議員や女性ジャーナリストのドゥンツォワ氏は手続き上の不備という難くせをつけて選挙から排除・・・というのは周知のところです。

更に、リトアニア在住のナワリヌイ氏側近にもロシア当局の“長い手”が及んだ・・・とも。

****ナワリヌイ氏側近襲撃、ロシア特殊部隊が関与=リトアニア当局****
リトアニアの情報当局は14日、ロシア反政府活動家の故アレクセイ・ナワリヌイ氏の側近を長年務めたレオニード・ボルコフ氏が同国内で襲撃された事件で、ロシアの特殊部隊による犯行だったとの見方を示した。

ボルコフ氏は12日、リトアニアの首都ビリニュスで襲撃された。腕を骨折し、脚をハンマーで約15回殴られて負傷したという。

リトアニアの国家安全保障局のヤウニスキス局長は記者団に対し「ロシアの特殊部隊による犯行だと思われる」と述べ、「(リトアニアに拠点を置く)ロシアの反体制派の安全にわれわれはもっと注意を払う必要がある」と述べた。

「(ロシアの情報機関は)真剣にこの地域をターゲットにしており、行動を起こしている」との見方も示した。

北大西洋条約機構(NATO)に加盟するリトアニアは、ロシアやベラルーシの反体制派の拠点となっている。【3月15日 ロイター】
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ロシアの特殊部隊による犯行なのかどうかは証拠も示されてはいませんが、脚をハンマーで約15回殴られて負傷・・・「裏切り者」はどこにいようが許さないといった見せしめ的な犯行のようにも思えます。

出馬が排除されたナデジディン元下院議員の周辺にも圧力がかかっているようです。

****ロシア大統領選、侵攻反対の元議員陣営で身柄拘束相次ぐ*****
ロシア大統領選挙が15日に始まるのを前に、立候補が認められなかったウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員の陣営で、選挙スタッフやボランティアが複数、身柄を拘束された。

少なくとも陣営のスタッフ1人が身体への攻撃を受けたと証言した。ナデジディン氏は数週間前に出馬は不可能だと認めたが、その後も同氏の陣営は活動を続けており、ナデジディン氏は選挙監視員の訓練と出口調査のための資金集めを行っている。

大統領選は既にプーチン氏の勝利が確実になっているが、地元メディアやナデジディン陣営の関係者によると、同氏の立候補が禁止された2月以降、これまでに関係者少なくとも17人が拘束された。ウラジオストクの選対事務所では13日午前に少なくとも3人のスタッフが拘束され、2人の居場所が分からなくなっている。【3月14日 ロイター】
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【選挙の正当性を誇示するための“あの手この手”】
批判勢力にそうした圧力をかける一方で、選挙の正当性を誇示するために投票率アップのためのあの手この手も。

****ロシア大統領選の投票始まる 上司に“投票報告”義務の会社も****
ロシア大統領選挙の投票が日本時間の15日朝から始まりました。

反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛けています。

これに対して国営企業などを中心に、従業員は16日までに投票を済ますように圧力が掛けられているということです。

また、モスクワの住宅公社の従業員は15日に投票したことを上司に報告するように義務付けられていると独立系メディアが伝えています。

ブリャンスクの学校では、教師は投票していない保護者に対して16日までに電話で催促することが求められているということです。【3月15日 テレ朝news】
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“反体制派は「反プーチン」の民意を示すため、17日正午に一斉に投票所を訪れるよう呼び掛け”・・・ロシア検察庁がこうした運動に参加すれば処罰すると警告しています。

“プーチン政権は、今回から投票期間を3日間に増やしただけでなく、投票しやすいようにオンラインによる電子投票も導入しました。投票率をあげることで自らの票も上乗せするシナリオを描いているとみられます。”【日テレNEWS】

まあ、ロシアのような強権支配国家における検証しようもない電子投票となれば、最後はいかようにも数字はつくれる・・・というところも。「それを言っちゃあ、おしまいよ」ではありますが。
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