孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  事前の資格審査で「結果の出ている」議会選挙 アメリカとの過度の緊張を避けたい思惑も

2024-03-02 23:01:36 | イラン

(イラン (今回議会選挙ではありませんが)投票する女性【Pars Today 2月26日】 イランではヒジャブの被り方で、その女性の宗教的傾向、ひいては政治傾向がわかります。この写真の女性のようにきちんとした被り方をする女性の多くは敬虔なイスラム教徒で保守強硬派支持と推測されます。一方、街中には敢えて前髪を見せるような形で被る女性も多くいます。)

【改革派・穏健派排除で形骸化した議会選挙 議席数より投票率が民意反映】
従来、国際政治に大きな影響力を有するイランの議会選挙はメディアに注目されてきましたし、このブログでも何回も取り上げたことがあります。

8年前の2016年選挙では、欧米諸国との間で核開発問題で合意を取り付け、市民生活を疲弊させてきた経済制裁解除を実現した保守穏健派ロウハニ大統領(当時)の進める協調・改革路線が基盤を固めるのか、あるいは保守強硬派の巻き返しで政治的求心力を失う形になるのかが注目されました。

しかし、トランプ政権の対応(18年5月、核合意離脱)もあって、核合意・制裁解除路線は破綻。保守強硬派が勢いを増す中で21年6月大統領選挙で保守強硬派のライシ大統領が圧勝・・・政治状況は保守強硬派が完全に権力を握る形になっています。

従来からイランの選挙は事前の資格審査でのふるい落としは行われていましたが、保守強硬派が完全に権力を掌握する状況で、改革派・保守穏健派の出馬すら認められない流れが強まり、選挙は形骸化しています。

そのため前回20年2月の議会選挙も、20年2月24日ブログ“イラン国会議員選挙 体制を支える保守強硬派圧勝 しかし記録的低投票率 さらには新型肺炎の脅威”でも取り上げたように、国民の関心は著しく低下しました。

そしてその流れは更に強まり、3月1日に行われた今回選挙は、事前審査ですでに結果は決まっているとして、国民にも、国際的にもほとんど関心をもたれていません。

****「結果出ている。投票行かない」 イランで3月1日国会選 保守派が優勢維持か****
イランで3月1日、国会選が行われる。欧米に融和的な改革派や穏健派の候補が事前審査で失格になり、反米の保守強硬派が過半数を維持するとの見方が有力になっている。

米欧の経済制裁で生活苦にあえぐ国民に閉塞(へいそく)感が拡大。イスラム教シーア派の指導部への不満が広がり、投票率は低迷すると予想されている。

イラン国会は一院制で定数290。任期は4年。国会選に約2万5千人が立候補を届け出たが、「護憲評議会」の事前審査によって約1万5千人にまで絞り込まれた。

評議会は候補者の適格性を判断する役割を持ち、最高指導者ハメネイ師の影響下にある聖職者ら保守派が支配している。審査によって、すでに出馬表明していた改革派や穏健派の多くが立候補を阻まれた。

「選挙結果はもう出ている。投票には行かない」
2月28日、粉雪が舞う首都テヘランの中心街にあるフェルドシ広場で、オミドさん(38)がそう話した。

タクシーの運転手だが、妻と子供2人を養うには収入が足りず、日中は街頭に立ってヤミ両替をしている。
オミドさんは「この国を見てくれ。経済悪化でみな腹も満たせない」と話し、反米保守強硬派のライシ大統領の失政を非難した。

たびかさなる欧米の制裁で続く経済低迷を背景にして、市民の不満は募る一方だ。2年前には頭髪を覆うスカーフ「ヘジャブ」を適切に着用していないとして、警察に拘束された女性=当時(22)=が不審な死を遂げ、大規模な抗議デモが全土に拡大した。

指導部は不満を抑えるため、選挙前にもかかわらず引き締めを図ってきた。
今年1月には、ヘジャブをかぶらなかった30代の女性にむち打ち74回の刑を執行したと発表した。このほかにも、22年のデモの際に警官を殺害したとして男性(23)を処刑した。

反米保守の頂点に立つ最高指導者ハメネイ師は84歳の高齢で、指導部は権力継承をにらんで反米保守の勢力を維持することに躍起だといわれる。

イランでは、国政選挙の投票率が体制新任の度合いを測るバロメーターとされてきた。20年の前回選で保守強硬派が全議席の7割超を獲得したが、投票率は約43%となり、1979年のイスラム革命以来、最低を記録した。今回の投票率はさらに落ち込んで30%を割り込むとの予想もある。

1日は最高指導者の選出・罷免の権限がある「専門家会議」(定数88)の選挙も行われるが、2015年に欧米などと核合意を締結した穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となった。強引に反米保守の支配を目指す指導部の意向が見て取れる。【2月29日 産経】
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ヒズボラ、フーシ派、ハマスなど中東各地の親イラン勢力を支援しているイランですが、市民生活が苦しいなかで必ずしも国民にそうした対応が支持されている訳でもありません。

“政治家が信用できないため投票に行かないという52歳の男性は「社会全体が経済制裁の影響を受けて、外国から物を輸入できず、商品の質は落ちています。われわれ自身が弱っているのにハマスに興味なんて持てません」とハマスなどへの支援を批判していました。”【2月23日 NHK】

民意が反映しない形骸化した議員選挙、唯一の注目点は投票率がどうなるか・・・でしょうか。議席数より投票率の方が民意がどこにあるのかを知る手掛かりになりそうです。

84歳の最高指導者ハメネイ師の健康状態は思わしくないとも推測され、今回議会選挙と同時に選挙が行われる「専門家会議」のメンバー(任期8年)が、その任期中に新たな最高指導者を選ぶことになる事態が予想されますが、議会選挙同様に、保守穏健派のロウハニ前大統領が事前審査で失格となるなど、保守強硬派の意向が貫徹される流れとなっています。

上記【産経】記事にもあるように、保守強硬派による社会締め付けは強化されています。

****グラミー賞のイラン人歌手に禁錮3年8月、「ヘジャブ」抗議デモに連帯示す楽曲****
イランで女性の髪を隠すスカーフ「ヘジャブ」の強制着用に抗議するデモに連帯する曲を発表し、米グラミー賞に昨年新設された「社会変革のための最優秀楽曲賞」を受賞したイラン人歌手シェルビン・ハジプールさん(26)は1日、SNSへの投稿で、地元裁判所から扇動罪などで禁錮計3年8月の有罪判決を受けたと明らかにした。
 
ハジプールさんは22年にイラン全土に広がったヘジャブ抗議デモで、X(旧ツイッター)に投稿された抗議コメントを歌詞に採り入れた「バライエ」(ペルシャ語で「〜のために」)を発表し、人気を博した。同年10月に情報当局に逮捕された。現在は保釈中。【3月2日 読売】
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なお、イランメディアPars Todayは、下記のようにイラン政治・選挙の“秀逸性”を自画自賛しています。

****西アジア諸国と比較したイランの選挙の秀逸性****
(中略)イランの選挙では政治的競争が行われていることが挙げられます。イランの選挙においては、個人もしくは組織・団体の間に真の競争が存在し、結果が事前に分かる出来レースではなく、投票内油次第で結果が決まるほどのレベルにあります。

たとえば、2017年の大統領選挙では、当選者は全投票の50%をわずか0.5%超えるという僅差で勝利を確定させました。

一方、一部の地域諸国の選挙では、大統領選挙で当選する候補者や国会選挙で勝利する政党が全体の約9割の得票を獲得するなど、選挙において競争がほぼ存在しない状況が示されています。

したがって、イランにおいては、選挙への人々の参加に基づいてより良い候補者が選ばれていると言えるのです。【Pars Today 2月26日】
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かつてはそんな時代もあった・・・と言うべきか。(私も以前は“神権政治と批判されるイランだが、イメージより民意を反映した選挙が機能している”という主旨のブログ記事を書いたこともあります)

記事は、“敵はイランの選挙に反対する大規模なプロパガンダ攻撃を仕掛け、人々に選挙に参加しないよう呼びかけています”とも。 「敵」が何者かについては触れていませんが、アメリカもしくは欧米、その影響を受けた勢力を指すのでしょう。

【アメリカとの過度の緊張高まりを抑制したいイラン】
国際面では、イラクで活動する親イラン武装組織が1月28日にヨルダン北東部の米軍施設を攻撃し、米兵3人が死亡したことで、アメリカとの間の緊張が高まりましたが、イランとしては対米緊張を過度に高めたくないのが本音で、事件直後にイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官がイラクを訪問して、関係組織の抑制に務めたようです。

(1月28日の攻撃については、WSJ報道によれば“米軍が敵の無人機を自軍のものと勘違いしたため、迎撃に失敗したと報じた。米軍の無人機も同時刻に拠点に戻ってくるところだったという”【1月30日 時事】ということで、米兵に死者が出たことは、親イラン組織・イランにとって想定外だったのではないでしょうか。イランは関与を否定しています。)

****イランの精鋭「コッズ部隊」司令官、民兵組織に対米攻撃の自制を求める 緊張激化を回避か****
ロイター通信は18日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官が1月下旬にイラクを訪問して親イラン民兵組織の代表者らと面会した後、駐留米軍施設への攻撃が途絶えたと報じた。

訪問はヨルダンの米軍施設が攻撃されて米兵3人が死亡した直後で、米国との緊張激化を避けたいイランの思惑がうかがえる。

イラク政府筋などの話を基にロイターが伝えたところでは、コッズ部隊のガアニ司令官は1月29日、イラクの首都バグダッドの空港で複数の民兵組織の代表者らと面談した。「イラクのイスラム抵抗運動」によるとされるヨルダンの米軍施設攻撃から48時間以内という迅速ぶりだった。

ガアニ氏は、米軍による各組織の幹部や施設への攻撃を回避するため、目立たないようにすべきだと述べたという。多くの組織が同意し、反米最強硬派と目される「神の党旅団(カタイブ・ヒズボラ)」は翌日、対米攻撃の一時停止を表明した。2月4日以降、イラクとシリアの米軍施設への攻撃は起きていないという。

ある組織の幹部はロイターに、「ガアニ氏の介入がなければカタイブ・ヒズボラに軍事作戦を停止させることは不可能だった」と述べた。ただ、カタイブ・ヒズボラの幹部が2月7日の米軍の攻撃で殺害されており、いつまで自制するかは不透明だ。【2月19日 産経】
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イラン革命防衛隊の元幹部もアメリカとの直接対決を望んでいないことを語っています。

****「米国との直接対決望まず」 イラン革命防衛隊幹部が会見 要衝の海峡安定が「シグナル」****
イラン革命防衛隊の元幹部キャナニモガッダム・ホセイン氏が1日までに、首都テヘランで産経新聞の取材に応じた。パレスチナ自治区ガザの戦闘を受け、中東各地の親イラン民兵組織と米国、イスラエルの間で軍事的緊張が高まる中、原油輸送の要衝ホルムズ海峡は平穏に推移していると指摘し、「これは緊張を高めるつもりはないというイランの米国へのシグナルだ」と述べた。

レバノンやイラク、シリア、イエメンの親イラン民兵組織は「抵抗の枢軸」と称して、ガザでイスラエルと戦闘を続けるイスラム原理主義組織ハマスへの連帯を表明し、イスラエル本土や米軍施設のほか、紅海周辺を通る船舶への攻撃を行ってきた。

ホセイン氏はこれらの民兵組織は「それぞれの地域の人民を守るために戦っている」とし、イランは資金や武器を供与していると明言した。半面、ウクライナに侵略するロシアと米欧の緊張が続く中、イランが米と衝突すれば第三次世界大戦に発展しかねないため、「イラン自身は米国との直接対決は望んでいない」との見方を示した。

その根拠としてホセイン氏は、イランが自国に面するホルムズ海峡の原油タンカーの航行を妨害していないことを挙げた。「米国は海峡周辺の情勢が悪化すれば、多大な損害を被ることを熟知している」とも述べた。

紅海周辺で船舶攻撃を続けるイエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」については、「イランの統制下にない」とし、約1カ月前に中国に訪問した際に会談した中国共産党関係者には、「攻撃を止めたければ彼らと直接交渉するしかない」と助言したという。【3月2日 産経】
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「米国との直接対決望まず」・・・まあ、それはそうでしょう。バイデン政権も同様でしょう。
ただ、イランにしても、アメリカにしても「譲れない一線」もありますので、「もしトラ」ということになれば、「望まない」対決も・・・という危険も大きくなります。
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