孤帆の遠影碧空に尽き

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米中  「融和」的な首脳会談の一方で、米政権が仕掛ける「半導体戦争」 中国の技術革新止まる?

2022-11-24 22:00:33 | 国際情勢
(【2021年12月9日 日経ビジネス】)

【米中首脳会談 「安定した低空飛行」】
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は、11月14日、インドネシアのバリ島で会談を行いました。対面での米中首脳会談は、3年5カ月ぶりでした。

米中の対立・競争が激化するなかで行われた会談でしたが、予想されたように特段目新しい話は報じられておらず、とにもかくにも両国トップが対面で話すことに意味があったという感じ。敢えて言えば、信頼醸成のひとつでしょうか。

****米中「安定した低空飛行」維持の見通し 首脳会談開催で対話環境整う****
◇青山瑠妙 早稲田大大学院教授

中国共産党大会と米中間選挙が終わったタイミングで米中首脳会談が開催でき、前向きなイメージを打ち出せたことには重要な意味がある。

8月のペロシ米下院議長の訪台後に中断していた気候変動問題などの交渉も再開する見通しになり、衝突回避に向け対話できる環境が整った。

対立の流れを変えるには至らなかったが、少なくともバイデン米政権1期目の残り2年は米中が「安定した低空飛行」を維持できる見通しがついたのではないか。

習近平国家主席個人の外交成果をアピールできたことは中国にプラスとなった。特に台湾問題で、台湾を領土とみなす中国の立場に異を唱えない「一つの中国」政策を米国が少しずつ変えることに不安を抱いていた。会談でバイデン大統領から「一つの中国」政策の堅持を引き出せたのは中国の成果だ。

習指導部にとっては3期目発足後初の首脳会談だった。共産党の歴史を振り返ると、新体制後に他国と敵対的になった場合、体制が変わるまでその方向が続く特徴がある。米側はこの機をとらえ外交努力を続け、前向きな結果につなげた。

米国は中国との競争を管理しつつ関係安定化に道筋をつけた。17日に中国との首脳会談を控える日本も中国に対して言うべきことは言いつつ安定した関係を築くよう努めることが重要だ。【11月15日 毎日】
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【習近平主席にとっては、「大国としての役割」を意識させた“融和劇”は成果】
また、核の使用や核による威嚇に懸念を示す「ロシア牽制」を交渉材料に「大国」米中の協力の重要性を意識させる一定の“融和劇”を演出できたことは、中国・習近平氏にとって大きな成果となったとの見方もあります。

****習近平がバイデンから得た大戦果とは?ロシア一人負けの米中融和劇****
(中略)
米中会談の評価はドイツのケース(11月4日 ショルツ首相訪中、習近平主席と会談)にも重なり、ウクライナでロシアが核を使用することに対する中国の懸念と米中の協力姿勢が交換されたようにも見えた。

ただこの会談で注目すべきは、米中双方が「大国としての役割」を意識させたことだ。米中の協力が国際社会の利益でもあるという視点が各所にちりばめられていたのだ。これは中国側が繰り返してきた「対立よりも大局を」という呼びかけに、ある程度アメリカも応えたと理解できる。(中略)

中国側が長文で会談の中身を報じたのに対してアメリカ側の発表はそっけないものだったが、そのことも会談の成果が中国側に大きかったことを示している。世界のメディアも概ねそうしたとらえ方をしたのではないだろうか。

例えば、インドのNDTVは、「3年ぶり米中首脳会談でバイデン大統領と習近平国家主席はウクライナに対し核兵器を使用しないよう足並みをそろえてロシアに警告しました。長時間に及んだこの首脳会談では、両国の緊張関係を衝突に発展させてはならないという認識で一致しました」と伝えている。(中略)

ドイツZDFにいたっては、「両大国は経済面と軍事面でライバルであり関係は損なわれています。しかし会談では予想を超える歩み寄りもありました」と、会談の成果の大きさに焦点を当てたのである。

もちろん、会談が和やかに終わったからといって米中の対立が一気に解消されるわけではない。両国はすでに構造的にも対立が避けられないライバル関係にあり、米議会は対中強硬姿勢で一致し、世論もそれを後押ししているのだ── 【11月24日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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【バイデン政権が仕掛ける「半導体戦争」 日本など同盟国にも足並みをそろえることを要請】
“(融和劇の一方で)両国はすでに構造的にも対立が避けられないライバル関係にあり、米議会は対中強硬姿勢で一致し、世論もそれを後押ししている”ということの表れが、バイデン米政権が10月7日に発表した、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置です。

****米、半導体製造装置巡る対中輸出規制を大幅拡大へ****
バイデン米政権は7日、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を発表した。これには米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置が含まれた。

商務省はこれまでに半導体製造装置メーカーであるKLA、ラム・リサーチ、アプライド・マテリアルズに文書で輸出制限を通知しており、新たな措置はこれに基づくもの。一部の措置は即時適用されるという。

3社は文書の存在を確認しており、具体的には、14ナノメートル未満のプロセスを用いる先端半導体を製造する中国の工場に半導体製造装置を輸出することが原則禁じられた。

今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990年代以降で最大の転換となる可能性がある。措置適用となれば、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場および半導体設計業者への支援が強制的に打ち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性がある。

ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の技術・サイバーセキュリティ専門家、ジム・ルイス氏は、今回の措置は冷戦最盛期の厳格な規制を想起させるとし、「中国は半導体製造を諦めないだろうが、新たな措置により大幅に遅れる」と述べた。

政府高官は前日、今回の措置の多くは海外企業が中国に先端半導体を販売したり、中国企業に対し独自の先端半導体の製造が可能な装置を提供したりすることを防ぐのが目的とする一方、同盟国が同様の措置を実施するという確約を取り付けたわけではなく、引き続き協議していると語った。

一方、ある当局者は「われわれが実施している一方的な規制は、他の国々が参加しなければ、時間とともに効果を失うと認識している」とし、「また、海外の競争相手が同様の規制を受けなければ、米国の技術的なリーダーシップを損なう危険性がある」とした。

アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の国防政策専門家、エリック・セイヤーズ氏は、今回の措置は単に競争の場を公平にしようとする動きではなく、中国の進歩を阻もうとするバイデン政権による新たな動きを反映しているとした。

今回の措置を受け、半導体製造装置メーカーの株価が下落した。

米当局は米国および同盟国の企業に対し新たな措置の免除が認められるライセンスも提供しており、韓国の半導体メモリー生産大手SKハイニックスは中国工場の操業継続に向けてライセンスを申請した。【10月8日 ロイター】
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10月12日には、バイデン米大統領は外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表、その中で中国を「国際秩序を変える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と位置付け、同盟・友好国と共に長期的に対抗していく姿勢を鮮明にしています。

****米安保戦略、中国との競争優先 ロシア危険視****
米政府は12日、外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表した。国際社会で唯一の競争相手と見なす中国に勝つことを優先課題とした上で、「危険な」ロシアの抑制にも取り組むとした。
 
同戦略の発表はロシアによるウクライナ侵攻の影響で遅れていた。米政府は、2020年代は紛争を抑制する上でも、気候変動という共通の大きな脅威に立ち向かう上でも、「米国と世界にとって決定的な10年になる」と説明。米国は「中国に対する持続的な競争力の維持を優先しつつ、依然として極めて危険なロシアを抑制していく」とした。

中国については、「インド太平洋地域に強力な影響圏を構築して世界屈指の大国となる野望を持っている」と指摘し、「国際秩序をつくり変える意図を持ち、その目標を推進する経済力、外交力、軍事力、技術力を強めている唯一の競争相手」と位置付けた。 【10月13日 AFP】
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その後、半導体に関しては以下のようにも。

“米半導体製造装置のKLA、中国への供給を一部停止=新規制で関連企業ジレンマ―独メディア”【10月12日 レコードチャイナ】
“半導体企業は米国の対中弾圧で巨額の時価総額を失う―米メディア【10月13日 レコードチャイナ】
“米国が中国系米国人の半導体事業従事を規制、中国の半導体企業にさらに打撃―台湾メディア”【10月15日 レコードチャイナ】
“半導体装置メーカー・ASML、米国の従業員に中国向けサービス停止を指示―台湾メディア”【10月16日 レコードチャイナ】
“米国の対中半導体規制は「ブーメラン」に?―中国メディア”【10月22日 レコードチャイナ】

アメリカ・バイデン政権は日本やオランダなど半導体製造装置に関係する同盟国に協調を働きかけています。

****対中半導体輸出規制に同盟国も足並み、近く合意へ=米高官****
バイデン米政権は、先端半導体製造装置の対中輸出を制限する米国の新規制に足並みをそろえることで同盟国と近く合意する見通し。商務省高官が27日明らかにした。

商務省は今月、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を発表した。

ただ、米企業だけでなく東京エレクトロンやオランダのASMLホールディングなども半導体製造装置を生産していることから、主要同盟国に同様の装置輸出規制を導入するよう説得できなかったとして批判を浴びた。

エステベズ商務次官(産業安全保障担当)は米シンクタンクCNASのインタビューで、日本やオランダをはじめとする同盟国による同様の規制導入について「近く合意できる見通し」と述べた。

広範囲にわたる新規制のどの部分について同盟国の合意を得られるかとの問いには、半導体と製造装置を含む「全範囲を検討している」と答えた。

規制には米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置も含まれた。エステベズ氏は、各国が自国で同様の制度を導入すれば、米国のルールから免除される可能性があると述べた。【10月28日 ロイター】
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今や兵器生産にも高性能半導体が欠かせず、中国にとって半導体は石油と同じくらい重要なものとなっており、アメリカはそこを押さえる「半導体戦争」を仕掛けています。

*****「中国の技術革新は少なくとも5年は止まる」“半導体戦争”アメリカ輸出規制の衝撃**** 
半導体は確保必至の戦略的物資
アメリカ政府内では当初、キーウへの猛攻が始まれば陥落まで3日も持たないだろうと囁かれていた。しかし、ロシアの大軍はピタリと止まった。ウクライナ軍はアメリカが供給した携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」で反撃を開始し、ロシア軍によるキーウへの本格攻撃をすんでのところで阻止したのだ。

しかし、長引く侵攻で、「ジャベリン」のアメリカ国内の在庫枯渇が問題視されるようになった。新規の製造がままならない。その大きな理由が半導体不足だという。「

ジャベリン」システム一つにつき、250個以上の半導体が使用されているという。半導体はもはや単なる部品ではなく、確保しなければならない戦略的物資となっているのだ。

世界的に注目が集まっているこの半導体と米中間の覇権争いに着目した著書が10月にアメリカで出版され、大きな話題を呼んでいる。本のタイトルは『CHIP WAR』。直訳するとその名も「半導体戦争」だ。
著者でタフツ大学准教授のクリス・ミラーさんに話を聞いた。

中国にとって半導体は石油と同じくらい重要
――半導体を巡る米中の攻防に注目して本を執筆しようと考えたきっかけは何か?

軍事技術について研究していくうちに、半導体が過去数十年にわたる軍事技術の中核的存在であることが分かったのです。さらに驚くことに、中国は石油を輸入するのと同じくらい、半導体を輸入するのに資金を投じていたことがわかったのです。

世界情勢を読み解くうえで、私の考えを根本的に変える発見でした。半導体を中心に据えなければ、実は過去75年間の世界の動静を理解できないということが分かったのです。まさにこの期間の軍事力や大国の栄枯盛衰は、すべて先端半導体へのアクセスと生産に関係していたのです。

――アメリカ商務省は10月7日、先端半導体技術を巡り、中国との取引を幅広く制限する措置を発表したが、どのような意味があるのか?

この新しい規制は、中国が先端半導体や、その製造に必要な部品の輸入を困難にさせ、高度な技術力の獲得を大幅に遅らせることを目的としています。

アメリカは、次世代の軍事システムには、先端半導体とそれが可能にするコンピューティングパワーが不可欠になるとの結論に至っています。

中国は、軍事技術の面で近年驚くべき速さで革新を遂げていますが、先端半導体関連の輸出制限を講じることで、アメリカは技術面での優位性を保てると考えているのです。中国が今後も先端半導体をアメリカや日本などの国から輸入する。そんな現状の依存関係を維持することこそ、アメリカの戦略なのです。(中略)

製造装置の世界市場を牛耳るのは日米蘭の5社
――中国は先端半導体の国産化に莫大な予算をつぎ込んでいますが、アメリカによる輸出規制は中国の技術革新を阻止できるか?

先端半導体を製造するために何が必要か考えてみてください。製造装置から製造過程で必要な薬剤まで、国産で製造することは不可能なのです。

最先端半導体の製造分野を見てみると、アメリカ企業3社とオランダ企業1社、日本企業1社が大きな役割を担っていることがわかります。この5社の技術がなければ最先端半導体を製造することはまずできないでしょう。

少なくとも今後5年は、中国がこの分野で大きな進歩を遂げるとはとても思えません。その先は何とも言えませんが、私の予想では、10年後の中国はまだ最先端技術に追いつくのに苦労しているのではないかと思います。
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TechInsights(テックインサイツ)発表における2021年世界半導体製造装置の売上高上位5社ランキングによれば、1位はアメリカのApplied Materials社、2位にオランダのASML社、3位アメリカのLam Research社と続き、4位には日本の東京エレクトロンが入っている。5位はアメリカのKLA社だ。そして実にこの上位5社が製造装置市場全体の約70%を独占しているのだ。

中国は、半導体分野では最終的な組み立てや検査では世界シェアを有しているものの、先端半導体の製造に欠かせない製造装置の分野では、ほとんど市場シェアを持っていない。

アメリカがそこをうまくついた輸出規制なのだ。アメリカのレモンド商務長官は、製造装置市場で大きな存在感を放つ日本やオランダにも協力を促している。

インタビューの最後に、半導体戦争に最終的に勝利するのは誰なのか聞くと、「未知数」としながら、「かなりの自信を持って言えるのは。中国が主導的地位を築くことは非常に難しくなった」とミラー氏は語った。【11月24日 FNNプライムオンライン】
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当然ながら、中国からの「報復」が想定されます。アメリカに足並みをそろえる日本も「覚悟」が必要になります。

****号砲は鳴った 米中半導体戦争に日本も備えるべし****
10月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストのラナ・フォルファーが、バイデン政権の最近の中国に対する半導体輸出規制は、中国の戦略に対する反応であると論じ、中国のあり得べき報復に備えてサプライチェーンの強化を図るべきことを強調している。

バイデン政権の最近の半導体に関する対中輸出規制については、中国に対する経済戦争の布告だという説もあるが、米国は中国に単に反応、それも遅く反応しただけである。

中国が「中国製造2025計画」をもってサプライチェーンのデカップリングへの道を開いたことを想起すべきである。これは7年前に公表され、2、3年のうちに西側の技術、特にチップから自立する欲求が明示されていた。中国は技術開発に深く根差した軍産複合体であり、成長してその地域的な経済の軌道に他の諸国を取り込む余地を有する市場である。

現在、高性能チップの軍事と民間の使用を分離することがほぼ不可能な時代にあって、これらの製品を最大の敵対国に届け続けるのかという問題がある。チップ・セクターの米国企業と従業員は中国から出国しつつある。しかし、チップを使う米国のブランド企業は、政府に何処までデカップリングは進むのかを問い始めている。

その答えは、新規制にどの位例外が認められるのかによる。中国が次にどう出るかにもよる。中国はレアアースの輸出を制限するかも知れない。レアアースは国防産業や電気自動車で使われる。

中国は自動車に使われる中国製の非高性能チップの輸出を制限出来ることだろう。これを米国で製造あるいは同盟国から大量に調達するには少なくとも2年はかかると見られる。中国は色々な電子部品の輸出を削減し広範囲の品目のインフレを促進するこかもしれない。

結論は、供給源の重層化である。一つは、非高性能チップや部品のインドや東欧での生産増強であろう。企業は在庫は悪であるとの考えを再考すべきだろう。リスク計算には、より大きな在庫コスト、積み上げに要する時間と運転資本、新たなサプライチェーンに枢要な物品を分配し補充する価格が組み込まれなければならない。

政府はチップだけでなく食料、医薬品、エネルギー、PPE(個人用防護具)を含む最も枢要なサプライチェーンのリストを精緻なものにする作業を続けなければならない。商務省がこの情報蒐集を主導するべきである。(後略)【11月24日 WEDGE】
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