(25日、モスクワ郊外の大統領公邸で、ウクライナでの軍事作戦に参加した兵士の母親らと会談するロシアのプーチン大統領【11月26日 毎日】)
【国内動揺をなだめるのに腐心するプーチン大統領】
プーチン大統領は9月下旬に予備役兵を対象にした30万人規模の動員を発表しましたが、対象外の市民に招集令状が届くなど、強引な手法が明らかになりました。
政権は、30万人の動員は完了し、追加の動員は計画していないとしていますが、年明けにも大規模な追加動員が始まるとの見方も出ています。
そうした中、穴の空いた防弾チョッキやさびだらけの自動小銃が支給されたなどと告発するSNSの投降も相次ぎ、国民に政府や軍への不安や不満が広がっています。
「本当だろうか?」と信じがたいような情報も。
****ロシア予備役500人超死亡 手で塹壕掘り、砲撃で大隊全滅―ウクライナ***
ロシアの複数の独立系メディアは6日までに、ロシアが一方的に「併合」したウクライナ東部ルガンスク州で、動員令によって招集されたロシア軍予備役の1個大隊がほぼ全滅したと伝えた。500人以上が戦死した可能性が高いとされる。
大隊は、ロシア中部ボロネジ州の予備役で編成されていた。生存者や親族の証言を総合すると、11月1日に「領土防衛隊」として前線の15キロ手前に到着し、深夜に前線へ展開。隊員らは塹壕(ざんごう)を掘るよう命じられたが、スコップは多くて「30人に1本」しかなく、手で掘らざるを得なかったという。【11月7日 時事】
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ロシア軍はウクライナで苦戦が続き、深刻な兵力不足に悩まされているとみられており、プーチン政権としては動員兵の命が軽んじられている”とのイメージが国民に広まるのは避けたいところです。
プーチン大統領は25日、ウクライナ侵略に参加している兵士の母親ら17人とモスクワ郊外で面会、家族らの意見を聞く姿勢をアピールしています。
****プーチン大統領、兵士らの母親と面会 ほとんどが職業軍人の母親ら…監視団体「プロパガンダに過ぎない」****
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ侵攻に関わる兵士らの母親と面会しました。動員兵の待遇などへの不満が高まる中、家族らの意見を聞く姿勢をアピールした形です。
プーチン大統領「あなた方が忘れられたと感じないように、私たちはあらゆる努力をしていきます」
プーチン大統領との面会には兵士らの母親17人が招かれ、「息子を亡くした」という母親らがウクライナ侵攻への支持などを表明しました。
予備役の動員を巡っては、先月末、目標の30万人が集まったとして国防省が完了を発表しましたが、金銭が支払われなかったり、短期間の訓練で前線に送られて死亡した、などの情報が独立系メディアを通じて広がり、家族の間に不安と不満が募っていました。
しかし、今回の面会に招かれたのはほとんどが動員兵ではなく職業軍人の母親らで、「動員」の監視団体「母と妻の協議会」は、「面会はプロパガンダに過ぎない」と批判しています。【11月26日 日テレ NEWS】
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息子を亡くしたという母親に対しては、「交通事故で約3万人が死亡し、アルコールが原因の死亡も同数だ」「人はみないずれ死ぬ。問題はどう生き、どう死ぬかだ」と。(なるほど・・・と納得するか、冗談じゃないと怒るかは、人によるでしょう)
息子らへの軍服の支給が不十分だと母親が訴えると、「服の供給は改善されたと聞いている。最新の情報だ」と対策を講じていると回答。
別の母親が食事の待遇改善を訴えると、「問題はほぼ解決したようだが、すべてが順調ではない。確認しよう」と約束したそうです。
もちろん、事前のシナリオがあっての問答ですが、それにしてもプーチン大統領にとってはつらい時間だったかも。
【報じられているほど“不甲斐ない”訳でもなさそうなロシア軍】
上記のような状況を含め、ウクライナ支援の側に立つ日本では、ロシア軍に関してはその劣勢、窮状、まともではない様子が多々報じられていますが、ただ、「本当にロシア軍はそんなに不甲斐ないのか?」と慎重に判断することは必要かも。
ウクライナ軍反攻の成果と大々的に報じられているロシア軍ヘルソン撤退にしても、軍事的にはロシア軍の見事な作戦だったと評価されてもいます。
****へルソン撤退は「敗走」ではなく、ロシアの珍しく見事な「作戦成功」と軍事専門家****
<ヘルソン撤退はプーチンにとって大きな打撃であることは確かだが、軍事的に見れば賢明な選択で、実施も過去の「敗走」とは大違いだった>
11月9日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はウクライナ南部ヘルソン州の州都へルソンからロシア軍を撤退させる方針を表明し、11日には撤退完了を発表した。この動きはセルゲイ・スロビキン総司令官の提案によるものとされるが、複数の専門家たちは、今回の撤退の動きからはロシア軍の「弱さ」よりむしろ「軍事戦略の進化」が伺えたと分析している。
米海軍分析センター(CNA)でロシア研究プログラムの軍事アナリストを務めるマイケル・コフマンはキーウ・インディペンデント紙のインタビューに対し、ヘルソンから撤退するというロシアの戦略には「困惑させられた」ものの、一方でロシアは過去の失敗から学んでいるように見えると述べた。
(中略)「(今回は)組織だった撤退であり、イジュームで見られたような多くの死傷者や装備品の放棄を伴う「敗走」ではない。ロシアは残る兵力と装備の大部分を撤退させることに成功したようだ」
つまり今回のヘルソン撤退は、ロシア軍が進化していることを示しているとコフマンは指摘する。ロシアの軍事作戦の「変化」を強く示唆する、いくつもの重要な過去との違いがあるからだ。
軍全体の指揮系統にも進化が
米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問も本誌の取材に対し、ヘルソンのロシア軍部隊は、あまり激しい戦闘が起きていなかったイジュームを守っていた部隊よりもよく統制されていたと語った。
軍の指揮系統も、現在の方が優れているようだ。(中略)これによってロシア軍はドニプロ川の西岸で壊滅するリスクを避け、東岸地域の守りを固めるために兵力を再配分することが可能になった。
ヘルソンはウラジーミル・プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻において、ロシア軍が唯一、占領できた州都だった。それを手放すことはプーチンにとって政治的な打撃ではあるが、軍事的な視点から見れば賢明な選択であり、その実行もうまくいったとカンシアンは言う。「その証拠に、捕虜になったロシア兵も失われた装備もほとんどなかった」
「しかも今回の『成功』は、橋や船が絶え間なく攻撃を受ける中で大きな川を渡らなければならないという、きわめて困難な軍事的状況下で成された」(後略)【11月18日 Newsweek】
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東岸地域の守りを固めるロシア軍に対し、ウクライナ軍が渡河作戦で攻撃することは非常に難しいとも言われています。
【国際的な支援は心もとないロシア 身内からも停戦要求】
もっとも、ロシア軍が兵員や武器の供給に窮しているのは間違いないでしょう。
国内ではまかないきれない兵器・物資に関し、イラン・北朝鮮の協力を仰いでいます。
****イラン無人機、ロシアで生産へ 数百機、秘密合意と米紙報道****
米紙ワシントン・ポストは19日、イランで開発された無人機(ドローン)をロシア国内で生産することで両国が合意したと伝えた。
今月上旬にイランで開かれた会合で秘密裏に合意をまとめ、数カ月以内に数百機の生産を開始できるよう主要部品などの移送に向けて動いているという。ロシアはウクライナへの攻撃でイラン製無人機を多用している。
米安全保障当局者らの話として伝えた。ロシアは自国で無人機を生産して備蓄を増やし、精密誘導弾の不足を補えるようになる。ロシアとイランの安保協力強化を示す動きで、生産に至れば戦局にも影響しそうだ。国際社会の反発も予想される。【11月20日 共同】
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ロシア国内でのドローン量産によって「戦争が長期化する可能性がある」とも指摘されています。
****北朝鮮、軍需工場に砲弾の追加生産を指示、ロシア輸出用か****
北朝鮮国防省は先月末、軍需工場に砲弾の追加生産の指示を下した。ウクライナへの侵略戦争を行っているロシアへの輸出用の可能性がある。(中略)
急な生産指示に人手が足りず、勤務経験のある人を3〜4ヶ月の期間で再雇用するほどだという。工場内では「長期保管するための砲弾ではないようだ」という話が飛び交っているという。
北朝鮮国防省は今年9月と今月、「ロシアに兵器や弾薬を輸出したことはなく、今後もそのようにする計画もない」との内容の談話を発表している。また、ロシア政府も今月9日、北朝鮮がロシアに武器を供給しているとの報道を否定している。
しかし、米国は、北朝鮮がロシアに武器輸出を行っていることを示す情報があるとしている。北朝鮮はまた、武器以外にも、現在ロシアが占領しているウクライナ東部のドンバス地域に、自国の労働者を送り込む予定だと伝えられている。【11月21日 デイリーNK】
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「軍事大国」ロシアとしては、外国に兵器を頼るというのは忸怩たるものがあるでしょうが、(欧米の支援を受けるウクライナに対し)頼る相手が(国際的に孤立している)イラン・北朝鮮というのは甚だ心もとないところ。
中国は言葉の上でいくらロシアを支持したとしても、習近平主席はプーチン大統領の“泥船”に乗り込むつもりは毛頭ないでしょう。武器などの実質的な支援は期待できません。
ロシアが国際的には“身内”の支持も失いつつあることは多くの報道のとおり。
****ロシア主導会議でプーチン氏にウクライナ停戦要求 露の求心力低下****
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO、旧ソ連6カ国で構成)は23日、アルメニアの首都エレバンで首脳会議を開いた。
プーチン露大統領にウクライナとの停戦を求める声が上がったほか、アルメニアのパシニャン首相がロシアやCSTOに不満を述べ、共同宣言への署名を拒否する一幕もあった。ウクライナ侵略で進んだロシアの求心力の低下と、CSTOの足並みの乱れが改めて示唆された形だ。
ベラルーシのルカシェンコ大統領はウクライナ情勢について「停戦交渉を始めるべきだ」と指摘。「メディアには最近、ロシアがウクライナで敗戦すればCSTOは崩壊するとの論調がある」とし、「CSTOは存続し続けるが、団結が必要だ」と述べた。ウクライナ侵略がCSTO諸国を動揺させていることを暗に認めたものだ。
カザフスタンのトカエフ大統領も「ウクライナ情勢は和平を模索するときが来ている」と訴えた。
会議では一方、パシニャン氏が「過去2年間でアルメニアはアゼルバイジャンから3回攻撃を受けた」と主張。「わが国のCSTO加盟がアゼルバイジャンに攻撃を思いとどまらせなかったのは遺憾だ」「攻撃はロシアの停戦維持部隊の存在下で行われた」と指摘した上で、「こうした状況では共同宣言に署名できない」と述べた。
「逆風」にさらされた形のプーチン氏は、CSTOが「第二次世界大戦での勝利という共通の記憶」で結びついているとし、「ロシアはCSTO諸国に必要な支援を提供し、同盟の強化に全力で貢献する」と強調。パシニャン氏との個別会談でも「われわれは信頼と深いルーツを持つ同盟国だ」と述べるなど、CSTOの結束を維持したい考えを鮮明にした。
タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は会議後、「アルメニアはCSTOを離脱しない」と指摘。同盟が揺らいでいるとの観測の打ち消しに追われた。
アルメニアとアゼルバイジャンの間では2020年秋、係争地ナゴルノカラバフ自治州を巡る大規模紛争が発生。ロシアの仲介で停戦が成立したが、アルメニアは同州の実効支配地域の多くを失った。アルメニアとアゼルバイジャン間では今年9月にも衝突が発生し、CSTOはアルメニアの介入要請を事実上拒否。ロシアが友好国アゼルバイジャンとの対立を避けたとされ、アルメニアはロシアへの不満を強めていた。
9月にはCSTO加盟国であるキルギスとタジキスタンの間でも大規模な武力衝突が発生。一連の衝突の背景には、CSTOへのロシアの影響力の低下があるとの見方も出ている。
CSTOはロシアとベラルーシ、アルメニア、カザフ、キルギス、タジクの6カ国で構成。ただ、ウクライナ侵略ではベラルーシを除く各国がロシアから一定の距離を置く動きを強めるなど、足並みの乱れが指摘されてきた。【11月24日 産経】
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国外からの「もういい加減してしてほしい」といった声は、おそらく国内的にもあるでしょう。
一方のウクライナしても、欧米の「支援疲れ」は常に指摘されるところ。国内の市民生活も困窮を極めています。
そうした内外の声に押される形で、ロシア・ウクライナが停戦交渉に・・・という可能性はなくないところです。
今は、両者とも(少なくと表面的には)強気姿勢を崩していませんが。
(ただ、ロシアにしても、ウクライナにしても、国内の強硬派主戦論を抑えることは容易ではないでしょう)
【ウクライナ側の戦争犯罪に関する情報も】
ロシア軍による住民殺害・拷問などの戦争犯罪は多々報じられていますが、「ウクライナ側だって・・・」と拡散したのが投降したロシア兵士を殺害する動画。
****「ウクライナ軍が露兵殺害」動画が波紋 捕虜か偽装降伏か****
投降した10人超のロシア兵をウクライナ兵が現場で射殺したとされる動画が交流サイト(SNS)で拡散され、国連が調査に乗り出すなど波紋を広げている。
ロシアは「無抵抗の捕虜を殺害した戦争犯罪だ」とウクライナを非難。一方、ウクライナは22日、「ロシア兵は降伏を偽装してウクライナ兵を攻撃した」とし、ロシア側に違法行為があったと反論した。
問題の動画は二つあり、ともに18日にSNS上に投稿された。一つ目は、建物から両手を上げて出てきたロシア兵の部隊が地面に伏せる様子を地上から撮影。動画の後半で叫び声が上がり、銃声が収められていた。
二つ目は、同じ場所でロシア兵が血を流して倒れている様子を空中から撮影したもの。撮影場所はウクライナが11月中旬に奪還した東部ルガンスク州の集落マキエフカとされた。
ロシアは18日、「違法な捕虜殺害だ」と主張し、戦争犯罪として訴追手続きを進めると表明。一方、ウクライナも動画について捜査を開始すると発表した。
ロイター通信は21日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の広報官が「動画を調査している」と述べたと報道。タス通信も22日、「迅速な調査が必要だ」とするハク国連事務総長副報道官の記者会見での発言を伝えた。
ウクライナ検察当局は22日、ロシア兵は降伏を装ってウクライナ兵を攻撃したために射殺されたと指摘。偽装降伏は国際法違反だとして、刑事訴追手続きを開始したと発表した。
ロイターによると、OHCHRはこれに先立つ15日、「ロシアとウクライナの双方で捕虜への拷問が行われている」との見解を発表。ロシアは拷問を否定し、ウクライナは違法行為があれば関係者を処分するとの方針を示している。【11月23日 産経】
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【ロシアは子供連れ去りも】
ロシア側については住民殺害・拷問以外に、子供の連れ去りも。
****名目は「キャンプ」、ロシアがウクライナの子供を強制連行…帰らぬ2人の我が子に母「毎日涙」****
ロシアが9月末に一方的に併合したウクライナの東・南部4州で、ウクライナ人の子供が「キャンプ」や「リハビリ」の名目でロシアに強制連行され、行方不明になる事例が相次いでいる。
南部ザポリージャ州エネルホダルの女性薬剤師(41)は、10歳と12歳の息子2人がキャンプに参加したまま約1か月戻らずにいる。本紙のSNS取材に「毎日、涙に暮れている」と焦りをにじませた。
この女性は10月、街を占領しているロシア側の当局が企画した露南部クラスノダール地方での「サマーキャンプ」に2人を預けた。「地下シェルターで過ごしてきた子供たちに、ビタミン豊富な食事や休息を与えてあげたい」と思ったからだ。ザポリージャ原子力発電所が立地するエネルホダルは8月以降、砲撃が続いていた。
キャンプには、エネルホダルや周辺の村から約500人が参加し、バス10台で出発。10月15日から6日間という説明だったが、1週間後、当局から「子供は当面戻らない。ロシアの学校に通わせるので衣類を送るように」と通告された。女性は「子供を取り戻したいがロシアに行く手段もない」と無力感をにじませた。
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今月14日のビデオ演説で強制連行の規模を「特定されているだけで子供1万1000人」としている。子供の強制連行には、幼いうちにロシアの価値観を植え付け、ウクライナ人としてのアイデンティティーを喪失させる狙いなどが指摘されている。エネルホダルのドミトロ・オルロフ市長はSNS取材に、「子供たちは人質に取られた」との見解を示した。【11月20日 読売】
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こうした報道を目にすると、戦争は1日も早く終わらせた方がいいという単純な結論になります。