(【11月17日 WSJ】 ウクライナは相次ぐドローン攻撃について、ロシアに供給されたイラン製ドローンによるものだと主張していますが、そのイラン製ドローンの部品の3分の1が日本製だとの報告が)
【イラン製ドローンの部品のほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた】
ウクライナ攻撃でロシア軍がイラン製ドローンを使用していること、イランは当初ロシアへの供与を否定していましたが、その後「少数の無人機を侵攻前に供与した」と限定的に認めたものの、ウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア軍が大量使用している実態と異なるとして「イランはまだ嘘をついている」と批判していること・・・などは、11月7日ブログ“イラン バイデン米大統領は「解放する」とは言うものの熾烈な当局のデモ弾圧 対露ドローン供与問題”でも取り上げました。
そのイラン製ドローンに日本製部品が多数使用されている(確認部品のほぼ3分の1)とのことです。
****イラン製ドローン、部品の大半は西側製 ウクライナ分析****
ウクライナの情報当局が同国で墜落した複数のイラン製ドローン(無人機)を分析した結果、部品の大半は米欧など同志国の企業によって製造されていたことが分かった。
事情に詳しい関係者やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した資料によると、西側当局者らはこの問題に対し懸念を強めており、米政府は調査に乗り出している。
ウクライナ情報当局はWSJが確認した資料の中で、墜落したイラン製ドローンの部品のうち、4分の3は米国製との推定を示した。ウクライナ軍は複数のドローンを撃墜したほか、イラン製「モハジェル6」1機は当局が飛行中にハッキングし無傷で着陸させたという。
部品の詳細はウクライナの軍情報部が特定し、首都キーウ(キエフ)を拠点とする非営利団体「独立反汚職委員会(NAKO)」が確認した。NAKOの報告書をWSJは閲覧した。
この報告書によると、ウクライナ当局が特定した200個以上のドローン部品のうち、半分ほどは米国に拠点を置く企業によって、ほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた。
米国で輸出規制を担当する当局者と部品の製造元とされた企業はWSJの取材に対し、部品の出所を確認できなかったか、あるいはコメントの要請に応じなかった。
イランの国連代表部は西側製の部品の使用についての質問には答えなかったが「技術専門家のレベルでウクライナと会談し、ドローンや部品の出所を巡る主張について調査する用意がある」と述べた。
米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)を創設したデービッド・オルブライト氏は、イランのドローンに外国製部品が組み込まれた経緯を突き止めることが重要との認識を示した。
ISISは先月、イラン製ドローンに関する独自の分析を発表。その中で、中国企業がイランに対し、ドローン生産向けに西側製の模造品を供給していることを示唆する証拠もあると指摘していた。
米商務省で輸出管理を担う産業安全保障局(BIS)は西側で製造された部品を巡り調査を開始したと関係者は語る。
商務省高官は具体的な問題に対するコメントは避けつつ、「ウクライナの人々への攻撃を目的とした武器がウクライナに流入する」事態への対処は「最優先事項」との認識を示し、これに関連した不正輸出があれば調査する方針を示した。
ロシアはイラン製ドローンを使い、ウクライナの主要インフラを攻撃してきた。
こうした西側製の部品は、イラン製ドローンの拡散を食い止めようとする当局が直面する困難を浮き彫りにしている。
問題となっている部品の多くは輸出規制の対象になっていないと安全保障関係者らは指摘する。インターネットで購入し、他国を経由して目立たずにイランに送ることは容易だという。
ウクライナ情報当局の資料とNAKOの報告書によると、モハジェル6に搭載されたサーボモーターは日本企業の利根川精工によって製造された。同社はコメントの要請に応じなかった。
日本の経済産業省は昨年、無許可でサーボモーターを中国に輸出しようとした疑いで利根川精工を告発した。国連の調査で、イラン製ドローンに同社製の部品が使われていることが見つかっていた。利根川精工は日本のメディアに対し、軍事ドローンに使われるとは知らなかったと説明した。
NAKOの報告書などによると、半導体大手2社、独インフィニオン・テクノロジーズと米マイクロチップ・テクノロジーの関連会社は、イラン製ドローンに搭載された電子部品を製造していた。
在米日本大使館の広報担当者は、日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行うと述べた。【11月17日 WSJ】
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【軍事転用取引の現場 「利根川精工」のケース】
“日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行う”・・・ただ、「国益を考えない生産者が中国など外国勢力と結託して・・・」といったイメージと実際は異なり、当事者には購入者が何に使用するかよくわからないことも。
上記記事にもある利根川精工は社長、取締役、従業員2人の計4人の零細町工場で、書類送検当時90歳の社長は「まさかうちのモーターが…」と語っています。
****軍用ドローンに転用可能「高性能モーター」を輸出…都内業者が中国・イエメンに****
軍用ドローンなどに転用可能な高性能モーターを中国企業に無許可で輸出しようとしたとして、警視庁公安部は、東京都大田区の精密機械メーカー「利根川精工」と男性社長(90)を外為法違反(無許可輸出未遂)容疑で近く書類送検する方針を固めた。モーターは実際に中国や内戦が続く中東イエメンに輸出されており、公安部が実態を調べる。
外為法違反容疑で書類送検へ
捜査関係者によると、利根川精工は昨年6月、経済産業省の許可を得ず、軍事転用可能なモーター150個(計約500万円相当)を中国の企業に輸出しようとした疑いがある。東京税関の検査で発覚した。
モーターは電子信号を受信してドローンなどの動きを制御する仕組みで、優れた防水・防じん性能も備える。中国では農薬散布用の無人ヘリコプターに搭載される予定だったという。
UAEで押収されたモーター(国連専門家パネルの報告書から) 一方、国連の専門家パネルが昨年1月に公表した報告書によると、利根川精工は2018年11月、イエメンの企業にモーター60個を輸出したが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で押収された。
同じモーターは16年にアフガニスタンで墜落したイランの無人機の残骸からも見つかっていた。専門家パネルは、モーターがイランと関係の深いイエメンの反政府武装勢力「フーシ」の支配地域に出荷され、爆発物を積む軍用ドローンや、軍用ボートに使われる予定だったと分析した。【21年7月6日 読売】
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“モーターは輸出先のメーカーを経由して別の中国企業に送られる予定だった。この企業の親会社は中国人民解放軍と取引があったとみられる。”【21年7月6日 nippon.com】
****「なぜ中国人がうちに…」外事警察に摘発された90歳社長の告白****
賛否両論が渦巻くオリンピック一色の東京で、小さな町工場を経営する90歳の老社長が頭を抱えていた。中国に自社製のモーターを輸出しようとしたところ、外為法違反容疑で警視庁に書類送検されたのだ。中国では軍事転用される危険があったとされる。
「まさかうちのモーターが…」。零細企業の技術を中国側が求めた理由は何だったのか。立件から6日で1カ月。事件の背景を追った。
従業員2人の町工場
警視庁に書類送検された「利根川精工」は東京都大田区の住宅街の一角にあった。建物は3階建てで自宅も兼ねている。1962年創業。従業員はずっと数人しかおらず、現在も社長、取締役、従業員2人の計4人という有限会社だ。
会社を訪ねると、社長が室内に招き入れてくれた。事務所は6畳もないようなスペースでパソコンやプリンター、本棚が所狭しと並ぶ。取材中、会社の電話が複数回鳴った。「あんたは国賊だ」。警視庁の発表後、無言や嫌がらせ電話が相次いでいるという。
「なぜうちが中国に着目されたか分からない」。当惑しながら、社長は中国企業からアプローチがあった時のことを語り始めた。
“中国商社員”の飛び込み営業
3年ほど前のことだった。外出先から会社に戻ると、見慣れない男性が、連れてきた通訳を通じて従業員と話し込んでいた。「農薬散布用ヘリコプターに使うので、モーターを売ってほしい」。男性は中国の商社社員を名乗り、日本語でモーターの回転角度など細かい性能についても注文をつけたという。
名刺を受け取った記憶はない。男性は「妻」という女性と4~5歳くらいの子どもを連れていた。(後略)
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この利根川精工社長は不起訴となっています。
****不正輸出未遂疑い不起訴 東京地検、軍用ドローン部品****
東京地検は25日までに、軍用ドローンの部品に使われる恐れがあるモーターを中国企業に不正輸出しようとしたとして、外為法違反(無許可の貨物輸出未遂)の疑いで書類送検された東京都大田区の機械製造会社「利根川精工」の社長(91)を不起訴とした。22日付。会社の関係者は会社も不起訴になったと明らかにした。【7月25日 共同】
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「利根川精工」側にどの程度の認識があったのかを含め、上記記事以上の情報は知りません。
【当局の強引な捜査が“冤罪”を生むことも 噴霧乾燥装置製造の「大川原化工機」のケース】
軍事転用が可能かどうかは微妙で、“冤罪”を生む取り締まる側の強引な手法が問題視されるケースも。
生物兵器の開発に転用可能とされる液体を粉状に噴霧乾燥させる機械をめぐる「大川原化工機」の案件。
****初公判4日前に起訴取り消し 不正輸出事件で異例の判断****
生物兵器などに転用が可能な噴霧乾燥装置「スプレードライヤ」を中国と韓国に不正に輸出したとして、外為法違反(無許可輸出)罪などで起訴された精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)と同社社長の大川原正明氏(72)、元取締役の島田順司氏(68)について、東京地検は30日、いずれも起訴を取り消した。両氏の初公判期日は8月3日に指定されていたが、4日前に起訴を取り消す異例の判断となった。
両氏は昨年3月に警視庁公安部に逮捕されて以降、今年2月に保釈されるまで1年近くにわたって勾留された。両氏とともに逮捕された同社顧問の男性は体調の悪化により勾留の執行が停止され、その後死亡したため東京地裁が公訴棄却を決定していた。
地検公判部によると、起訴後に被告側の弁護人からの主張を踏まえて再捜査した結果、装置が貨物の輸出規制を定めた省令に該当しない可能性が浮上。「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができる」という要件を満たすかどうかに疑問が生じ、追加の立証には相当の期間を要するため、被告側の刑事裁判の負担を考えて起訴の取り消しを決めたという。
大川原化工機の広報担当者は30日、産経新聞の取材に対し「当初から無罪を主張しており、社員としても無罪を信じていた。当然の結果だと思う」とコメントした。【2021年7月30日 産経】
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****中国への不正輸出容疑で逮捕、その後起訴取り消し…分断招く経済安保、国民生活にも影響****
◆全く身に覚えなく…勾留11カ月、取引先失う
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長(73)は2020年3月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を中国に不正輸出したとして逮捕、起訴された。全く身に覚えのない話だった。
兵器製造に転用できる性能はないと独自の実験を重ねて反論。初公判直前に起訴は取り消されたが、勾留は11カ月間に及び、取引先を失った。「売り上げは減少し、有罪にされたら会社を畳むしかなかった」
当時は米中対立の激化を背景に、日本でも先端技術の流出を防ぐ「経済安全保障」の必要性が叫ばれていた時期。大川原さんは、捜査当局が法整備を見据えて「実績として摘発したかったのでは」と推し量った。
先の通常国会で成立した経済安全保障推進法は、半導体をはじめとする「重要物資」の供給網から中国などを切り離すことにもつながる内容だ。規制違反への罰則もあるが、その対象などは法律で具体的に示されず、政省令で決められる内容は138項目もある。何が対象になるか不透明で、企業の自由な経済活動を萎縮させかねない。
今後、国際的なモノのやりとりに一定の制約がかけられる。その範囲が広がるほど、戦前のようなブロック経済に近づく。自由貿易の恩恵を受けてきた私たちのくらしへの影響は避けられない。【6月20日 東京】
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****起訴取り消し、1130万円補償へ 「無罪受けるべき理由」―東京地裁****
生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして外為法違反罪などで起訴され、その後起訴を取り消された化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(72)らによる刑事補償請求で、東京地裁が長期の勾留に対し計1130万円の支払いを決定したことが9日、同社長らの代理人弁護士への取材で分かった。
決定は7日付。平出喜一裁判長は「起訴事実が審理されれば、無罪判決を受けるべき十分な理由がある」と判断したという。
大川原社長と元役員の島田順司さん(68)は昨年3月に警視庁に逮捕され、起訴後も勾留が継続。今年2月に保釈されるまで332日間にわたり身柄拘束された。同様に逮捕、起訴された元顧問の男性は胃がんが判明し、昨年11月に勾留停止となるまで240日間拘束された。元顧問はその後、死亡した。
地裁は刑事補償法上の上限である1日1万2500円の支払いを決定。大川原社長と島田さんがそれぞれ415万円、元顧問は300万円となる。(後略)【2021年12月09日 時事】
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なお、「大川原化工機」の大川原正明社長(72)らは、「捜査機関から謝罪がないことは本当に残念」と語っており、捜査当局による違法な逮捕・勾留などで損害を受けたとして、国と東京都に慰謝料など計約5億6千万円の国家賠償を求めて東京地裁に提訴しています。
以上、「利根川精工」のケース、「大川原化工機」のケースなど、“軍事転用防止に向けてた厳格な輸出管理”というのは容易ではありません。