(【11月12日 日経】 3年ぶりに対面で実施されたASEAN首脳会議でしたが・・・)
【エスカレートするミャンマー国軍の暴力 ASEANのミャンマー対応も硬化】
前回ミャンマーを取り上げたのが10月14日ブログ“「ならず者国家」ミャンマー軍事政権との付き合い方”ですが、それ以降の約ひと月の間の主な出来事としては、少数民族記念日のコンサート会場への国軍による空爆がありました。
****ミャンマー軍がコンサート会場を空爆 アーティストや観客ら約80人死亡****
クーデター後の混乱が続くミャンマーで23日、国軍が、対立する少数民族組織の創立記念コンサートを空爆し、アーティストや観客らおよそ80人が死亡しました。
AP通信などによりますと、ミャンマー北部カチン州で23日、少数民族組織・カチン独立機構が創立記念日を祝うコンサートを開催中、国軍の戦闘機が会場を空爆し、およそ80人が死亡しました。
爆弾は会場のメインステージ近くに投下され、死者の中には、地元の有名アーティストや、組織の幹部も含まれているということです。また、ほかにもおよそ100人がケガをしたということです。
ミャンマーでは、去年2月のクーデター後、民主派と少数民族武装勢力が連携し国軍に抵抗を続けていて、特に地方で戦闘が激化しています。【10月25日 日テレNEWS】
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ASEANと国軍は昨年4月に暴力停止やミャンマー国内での対話を仲介するASEAN特使の派遣など5項目について合意しました。国軍トップのミンアウンフライン総司令官は8月、「今年中にいくつかの合意を履行する」と述べましたが、国内で弾圧の手を緩めていません。
7月には民主派4人の死刑を執行。
9月16日、北西部ザガイン地方域にある村の僧院学校が軍のヘリコプターから空爆を受けて児童11人が死亡。
更に今回のコンサート会場空爆と、ミャンマー国軍の暴力はエスカレートするようにも。ASEANの対応も厳しさを増しています。
****ミャンマー情勢「進展どころか悪化」 ASEAN特別外相会合で協議****
東南アジア諸国連合(ASEAN、10カ国)は27日、インドネシアの首都ジャカルタで特別外相会合を開き、昨年2月に国軍によるクーデターが起きたミャンマー情勢について協議した。
同4月の臨時首脳会議で合意した国軍による暴力の即時停止などの5項目に進展がないことから、ミャンマー側の履行に向けた行動に期限を設ける必要性を確認した。
議長を務めたカンボジアは声明で、「ミャンマーでは今も、非常に厳しく、危うい状況が続いている」と指摘。5項目について「明確で実践的、かつ期限を切った行動を通じて、さらに履行を確実なものにする」よう各国代表が求めたと説明した。
会合開催を呼びかけたインドネシアのルトノ外相は会合後の記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか、悪化している」と述べた。ミャンマー側は出席しなかった。
5項目についてミャンマー国軍側は、年内に履行するとしている。ただ進展が見られないことから、マレーシアのサイフディン外相らが見直しの必要があると指摘していた。
会合は11月にカンボジアで予定されるASEAN関連首脳会議を前に、方針を確認する形となった。【10月27日 毎日】
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ASEAN議長国は持ち回りで今年はカンボジアが務めていますが、カンボジアはASEAN内にあっては中国の代弁者的な役割。ミャンマー国軍との関係も重視する中国の意向を反映してか、フン・セン首相はこれまでミャンマーを訪問して国軍司令官と会談するなど、軍事政権に対しては宥和的とも見られる対応をとってきました。
そのカンボジアにしても、ミャンマー軍事政権に対して厳しい対応を迫られています。
****ASEAN議長国カンボジア、ミャンマーの暴力激化に警鐘****
東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアは、ミャンマーでの暴力の激化に警鐘を鳴らし、自制と戦闘の即時停止を呼びかけた。(中略)
議長国カンボジアは声明でミャンマー最大の刑務所への爆撃、カレン州での紛争、23日にカチン州で発生し少なくとも50人の死亡が報告されている空爆を例として指摘。
「犠牲者の増加、そしてミャンマーの一般の人々が耐えてきた計り知れない苦しみに深い悲しみを覚える」とした。
さらに、紛争は人道状況を悪化させるだけでなく、昨年ASEANと合意した和平「コンセンサス」実現に向けた努力も台無しにしていると批判した。
暴力の最大限の自制と即時停止を強く求め、全ての当事者が対話を追求するよう求めた。【10月26日 ロイター】
議長国カンボジアは声明でミャンマー最大の刑務所への爆撃、カレン州での紛争、23日にカチン州で発生し少なくとも50人の死亡が報告されている空爆を例として指摘。
「犠牲者の増加、そしてミャンマーの一般の人々が耐えてきた計り知れない苦しみに深い悲しみを覚える」とした。
さらに、紛争は人道状況を悪化させるだけでなく、昨年ASEANと合意した和平「コンセンサス」実現に向けた努力も台無しにしていると批判した。
暴力の最大限の自制と即時停止を強く求め、全ての当事者が対話を追求するよう求めた。【10月26日 ロイター】
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【ASEAN加盟国間で温度差 有効な対応がとれない実態】
とは言うものの、カンボジア・ラオス・タイ・ベトナムなどミャンマー軍事政権に宥和的な国と、マレーシア・インドネシア・シンガポールなど厳しい対応を求める国の間で温度差があり、「全会一致」「内政不干渉」を原則とするASEANとして有効な対応が取れない状況が続いています。
****「加盟国に決断求める」シンガポール外相 ミャンマー問題で手詰まりのASEAN****
<軍政によるクーデターと民主派弾圧が続く彼の国に隣国が打つ手はあるか?>
東南アジア諸国連合(ASEAN)によるミャンマー問題への和平・対話の仲介工作が暗礁に乗り上げている。ミャンマーを含めた加盟国10カ国の間に厳然と存在する仲介に向けた温度差がその主な要因だ。1
1月8〜10日にカンボジアの首都プノンペンで開催予定のASEAN首脳会議に向けた加盟各国の外務省担当者による事前交渉でも、難しい意見の集約が進められている。
これまでASEANはミャンマー問題の解決に向けて、2021年4月のASEAN緊急首脳会議で採択された議長声明の「5項目の合意」を共通プラットフォームとしてきた。ところが、今ではその有効性に疑問を示す加盟国が増えてきたことも「全会一致」「内政不干渉」を掲げるASEANの結束した対応策打ち出しを困難にしているという実状がある。
シンガポール「困難な決断すべき時」
11月1日、シンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相はASEAN円卓会議で「ミャンマー問題はこのままでは今後数十年間にわたって続く可能性がある。このためASEANは困難な決断をする時が来た」との見解を示し、今後2週間の動きを注視するとも述べた。
ミャンマーでの2021年2月1日の軍によるクーデターで、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主政府が打倒された直後から、シンガポールはマレーシア、インドネシアと並んでミャンマー軍事政権への厳しい姿勢を表明。軍政への批判を続けてきた。
2022年になってもミャンマー軍政が「5項目の合意」のうちの「即時武力行使の中止」と「全ての関係者とASEAN特使の面会」の2項目について拒否し続けていることから、ASEANの一連の会議にミャンマー軍政の代表を招待しない状況が続いている。
11月のASEAN首脳会議にもミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する予定はなく、9カ国の首脳会談となる見通しだ。
マレーシアが民主勢力代表招致に前向き
こうした手詰まりの状況を打開すべくマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相は、ASEANの一連の会議に軍政代表ではなく、軍政に対抗して武装抵抗闘争を全土で展開している民主派勢力の「国民統一政府(NUG)」の代表を招致するべきだとの姿勢を明らかにしている。
これは事態打開の一策として注目されたが、10月27日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN特別外相会議では引き続きミャンマー軍政に「5項目の合意」の履行を求めていくことで意見が一致。マレーシアによる「NUG代表の招致」は議論されなかったという。
特別外相会議終了後、インドネシアのルトノ・マルスディ外相は記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか悪化している」との認識を示し、ASEANとして何ら有効は打開策を見いだせないことへの焦燥感を表した。
ただ特別外相会議ではミャンマー軍政に対して「5項目の合意」の完全履行に対して期限を設ける必要性を確認した。とはいえ、この期限に関しては外相会議は明確にしておらず、首脳会議に決定を委ねる形となった。
議長国カンボジアの融和姿勢がネックに
これまで何度も指摘されたことだが、ASEAN内部ではミャンマー軍政の後ろ盾となっている中国と親しいカンボジアやラオス、ベトナムなどがミャンマー軍政に融和的姿勢を示し、ASEANが一致してミャンマーへの強硬姿勢をとれないネックとなっている。
特に今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やASEAN特使に任命されたプラク・ソコン外相は複数回に渡ってミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官など軍政幹部と直接会談して「5項目の合意」の履行を迫ったが、軍政の頑なな拒絶の姿勢を崩すことはできなかった。
それにも関わらすカンボジアは5月に自国で開催したASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招待し、軍政代表が「重要な会議に招待されたことに感謝する」などと述べる事態になった。
こうした議長国カンボジアの「全加盟国参加での対話を通じた打開策を探る」との姿勢に基づく「スタンドプレー」に対してマレーシアやシンガポール、インドネシアなどは「煮え湯」を飲まされてきた。
今回シンガポール外相が「重大な決断の時」として「今後2週間に何が起きるかその動きに注視する」と述べた背景には、現在各国外務当局を中心した準備交渉の成果が11月8日から予定されるASEAN首脳会議及び関連会議で主要議題となることが見込まれている事情がある。
その首脳会議でシンガポールやマレーシア、インドネシアなどが、ASEANのミャンマー問題に対する大きな転換を期待していることをシンガポール外相が代弁したとの見方が有力視されており、ASEAN首脳会議での議論が注目されている。【11月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【首脳会議でも進展なし 問われる存在意義】
ASEANは特別外相会議の結果を受け、11月の首脳会議で今後の対応を本格的に協議する方針としていました。
そのASEAN首脳会議が11日、カンボジアで開かれました。
会議が開催されるカンボジアを訪問した国連事務総長も事態改善を強く訴えています。
****国連総長、国軍に民主化移行要求=「ミャンマーは終わりなき悪夢」****
国連のグテレス事務総長は12日、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が開かれているプノンペンで記者会見し、クーデターで権力を握ったミャンマー国軍に対し、直ちに民主化への移行作業を軌道に乗せるよう強く求めた。
グテレス氏は「市民に対する無差別攻撃はぞっとさせられる」と国軍を非難。「終わりのない悪夢の状態。地域の平和と安全の脅威にもなっている」と語った。
また、「組織的な人権侵害は受け入れられない」と述べ、国軍に国民の声を聞き、政治犯を解放するよう要求。「それこそが安定と平和をもたらす唯一の策だ」と強調した。【11月12日 時事】
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しかし、“やっぱり”と言うべきか、首脳会議でも具体的な進展は見られませんでした。
****ASEAN首脳会議、ミャンマー問題「ほぼ進展なし」…国軍への対応で隔たり大きく*****
カンボジアのプノンペンで11日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、ASEAN側がミャンマー国軍に求めている暴力停止などについて、具体的な履行期限の設定で合意できなかった。履行計画の策定は外相による協議に委ねられた。
会議終了後に発表された文書では、昨年4月にASEANで合意した暴力停止や、当事者間の対話の開始など5項目について「ほぼ進展がない」と明記。
ASEAN交渉筋によると、国軍への対応を巡って各国の意見の隔たりは大きく、合意に至らなかったという。5項目については、外相による協議の結果次第で修正や追加の可能性がある。ミャンマーの資格停止についての議論は出なかった。(後略)【11月12日 読売】
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****ASEAN首脳会議 ミャンマー問題で合意5項目の実施計画策定へ****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は11日にプノンペンで開いた首脳会議で、混迷の続くミャンマー問題について、昨年4月の臨時首脳会議で合意した暴力停止などの5項目を実施する計画を策定することなどを決めた。
首脳会議後に公表された文書によると、外相会議で計画を策定する。5項目履行に向けて国連などの支援を求めることも決めた。(後略)【11月12日 毎日】
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当事者ミャンマーも参加せず、期限設定や資格停止などミャンマー軍事政権への強い圧力もかけられない状況で「実施計画」と言ってもその有効性ははなはだ疑問です。
ASEANの文書を受けてミャンマー外務省は声明で「現状と5項目実施に取り組むミャンマー政府の努力を反映していない」と抗議したとのこと。
なお、これまでミャンマー国軍批判の急先鋒ともなっていたマレーシアは国内総選挙を優先して首相が不参加。これでは、決まるものも決められません。
結局、実質的な進展はなく、来年議長国のインドネシアに引き継ぐことになります。
今回首脳会議において、ASEANへの東ティモール加盟が原則承認され、また、アメリカとの関係も強化されることになりました。
****東ティモールがASEAN加盟へ…1999年のカンボジア以来の新規加盟で11か国に****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は11日にカンボジア・プノンペンで開いた首脳会議で、東ティモールのASEAN加盟を原則として承認することを決めた。
ASEANへの新規加盟は1999年のカンボジア以来で、ASEANは11か国になる。【11月12日 読売】
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****米とASEANが連携強化 中国に対抗、関係格上げ****
バイデン米大統領は12日、カンボジアの首都プノンペンで東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議に出席した。双方の関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げ。ASEANとの関係を昨年、一足先に格上げした中国に対抗し、東南アジア諸国との連携を一層強化する。
米ASEANの関係はこれまで「戦略的パートナーシップ」だった。今後は協力分野をエネルギーや気候変動対策などにも広げる。
バイデン氏が大統領就任後、東南アジアを訪問するのは初めて。バイデン政権はASEANとの関係をインド太平洋戦略の中核として重視しており、米中の綱引きが激化しそうだ。【11月12日 共同】
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ただ、加盟国の暴力・人権侵害に対し有効な対応をとれない状況では、今後のASEANの存在意義についてもあまり期待できません。
議長国がカンボジアからインドネシアに交代することで多少は・・・というところもありますが、「全会一致」「内政不干渉」の枠組みの中では難しいでしょう。