孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  関係国との関係改善の動きはあるものの、イエメンの「泥沼」 防衛戦略の限界も

2021-12-11 22:55:48 | 中東情勢
(サウジのプリンス・スルタン空軍基地にあるパトリオットの砲台【12月8日 WSJ】)

【中東全体の変化のなかで、中東諸国・欧米との関係改善に動くサウジ】
中東・アラブ世界の盟主を自認するサウジアラビアは、イランへの過度な接近やサウジ王政とも対立するイスラム原理主主義ムスリム同胞団への支援を理由にカタールと断交していましたが、今年1月には断交を解除、更に今月には実力者ムハンマド皇太子がカタールを訪問し、その関係を回復しています。

****サウジ皇太子、カタールを訪問 断交解除後初めて、首長と会談****
湾岸諸国を歴訪しているサウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子は8日、カタールの首都ドーハでタミム首長と会談した。サウジの国営通信が伝えた。

サウジが今年1月に2017年から続いたカタールとの断交解除を発表して以来、初めての公式訪問で、あらためて和解を印象付けた。(後略)【12月9日 共同】
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この動きは、大きく俯瞰すれば、対中国に軸足を移すアメリカが中東での軍事的プレゼンスを縮小させるなかで、現在進行する中東における関係変化の動きのひとつと見ることができます。

****「雪解け」は本物か アラブの春から10年 中東で進む和解の試み****
2011年に始まった「アラブの春」以降、混乱が続いた中東に再び変化の波が訪れている。政治や宗教をめぐり対立してきた中東諸国の間で関係改善の動きが本格化してきたからだ。

地域紛争への軍事介入などで欧米から批判され、影響力の低下や国力の消耗を招いたことへの反省もうかがえる。「雪解け」の機運は10年に及ぶ対立の収束に結びつくだろうか。

抱き合う〝昨日の敵〟
サウジアラビアの実力者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は8日、ペルシャ湾岸のカタールを訪れ、出迎えた同国トップのタミム首長と抱き合った。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトは17年にカタールと断交し、今年1月に国交を回復したばかり。笑顔を浮かべた2人の姿は中東に広がる融和の流れを印象づけた。

11月下旬にはUAEで内政、外交に大きな影響力を持つアブダビ首長国のムハンマド皇太子が数年ぶりにトルコを訪れてエルドアン大統領と会談した。両国はリビア内戦でそれぞれ対立する陣営を支援し、無人機による代理戦争を展開した敵同士だ。だがトルコ政府高官は、UAEとの冷え込んだ関係は「過去のものになった」と強調した。

発端は原理主義
アラブの春の到来を告げた11年の反政府デモはエジプトやリビアなどの独裁政権を崩壊させる一方、新たな対立軸を生んだ。「ムスリム同胞団」の流れをくむイスラム原理主義組織が中東各国で台頭し、大きな影響力を握ったためだ。

原理主義との親和性が濃いトルコやカタールはイスラム勢力を支援し、政教一致が国是のイランとも関係を深めた。

しかし、サウジアラビアとUAE、エジプトは政治と宗教の融合を拒否。世俗の権威を認めない原理主義思想は君主制のサウジやUAEと相いれず、エジプトでは世俗派の軍出身であるシーシー大統領が同胞団を徹底弾圧した。

こうした風景を一変させたのが米国の政権交代だ。

和解機運の背景
バイデン米政権は今年1月の発足当初、中東政策の最大懸案のイラン核問題で外交による解決を目指すと言明。経済制裁と軍事力で圧力をかけたトランプ前政権からの政策転換が中東の対話機運を醸成した。

バイデン政権はサウジに関し、18年の反体制記者殺害事件でムハンマド皇太子が「拘束や殺害」を承認していたとの報告書を公表。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコがロシアのミサイルを購入した問題でも「同盟の結びつきと有効性を傷つける」と批判的な立場を鮮明にした。

親米国であっても、人権侵害やNATOの足並みを乱す行動は黙認しない。バイデン政権のそうした姿勢に、域内の勢力争いに明け暮れた中東諸国は軌道修正を余儀なくされた。

中国を視野に中東の軍事的プレゼンスを縮小する米政権の政策も、〝米国不在〟で域内の治安悪化を懸念する各国の融和を促した。

エジプトのフセイン・ハリディ元外相補佐官は電話取材に「関係改善の動きは、アラブの春以降の政策を見誤った国々が新たな結びつきを模索し始めたことを意味する」と分析する。

ただ、各国の政治と宗教の関係性が劇的に変わることは期待できない。サウジは宿敵イランとの関係再建を目指し直接会談を始めたが、成果は見えない。

米・イランが再開した核問題の間接協議にはイスラエルが強く反発しており、協議が頓挫すれば和解への熱意が冷める恐れも強まる。

「雪解け」が本物かどうかは、今後の動向次第で決まることになる。【12月9日 産経】
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各国のもろもろの利害を勘案して進む関係変化で、「雪解け」という言葉が示す前向きのイメージとは違和感もありますが・・・いずれにしてもイランとの核問題交渉が難航していますので、その結果次第ではまた様相が変わるかも。

サウジアラビアについて言えば、18年の反体制記者カショギ氏殺害事件で欧米との関係もギクシャクしていましたが、やや改善方向にあるようです。

“サウジ皇太子と米高官が会談 両国の緊張緩和図る”【9月29日 共同】
“米国務省、サウジへの大型武器売却を承認 バイデン政権下で初”【11月5日 ロイター】
“仏大統領がサウジのムハンマド皇太子と会談、カショギ氏事件以降初の西側首脳訪問”【12月6日 ロイター】

マクロン仏大統領の訪問については、カショギ氏殺害事件以降で主要西側諸国の指導者がサウジアラビアを訪れたのは今回が初めとなります。

“マクロン氏は3日、こうした状況でサウジを訪れればムハンマド皇太子の立場を正当化することになるとの非難を一蹴。中東地域のさまざまな危機はサウジを無視して打開できないと強調した。”【12月6日 ロイター】

【出口が見いだせない泥沼イエメン】
ただ、サウジアラビア・ムハンマド皇太子にとって頭が痛い問題は、イエメンへの軍事介入が泥沼化し、出口が見いだせないこと。

戦争は最大の金食い虫ですから、さすがの「お金持ち」サウジアラビアにとっても、(原油市場動向もあって)長期の軍事介入は財政悪化の大きな要因であり、ムハンマド皇太子が意図する「脱石油」を睨んだ経済改革の足を引っ張ることにもなります。

より直接的には、イエメン反政府勢力フーシ派からのミサイル・ドローン攻撃にさらされており、防衛に追われている面もあります。

****イエメン内戦 サウジ連合軍がフーシ派空爆、186人殺害****
イエメン内戦で暫定政権を支援するサウジアラビア主導の連合軍は13日、激戦が続くマーリブ州とバイダ州で直近24時間に複数回の空爆を行い、反政府武装勢力フーシ派の戦闘員186人を殺害したと発表した。
 
イエメン北部における政権側の最後の要衝都市マーリブをめぐる攻防戦では、連合軍は10月からほぼ連日、反政府勢力を撃退するため空爆を行っては多数を殺害したと発表している。
 
一連の空爆による死者は合わせて3000人を超えるが、イランの支援を受けるフーシ派は損害を明らかにすることはほとんどなく、AFPも死者数を独自に検証できていない。
 
反政府勢力は12日、物流の要の港湾都市ホデイダ南方の広域を掌握した。ホデイダからは2018年に政権側部隊が撤退し、停戦が成立していた。
 
軍当局者2人がAFPに語ったところによると、ホデイダ南方では13日、政権側の支配地域に向けて反政府勢力が南進を試みたことで戦闘が起きた。ホデイダの南約100キロの地点で反政府勢力側32人と政権側9人が死亡したが、政権側部隊は反政府勢力の前進を阻止したという。
 
ホデイダをめぐっては、暫定政権と反政府勢力が2018年末にスウェーデンで開かれた和平協議で停戦に合意したが、その後も両者の衝突が繰り返し発生している。 【11月14日 AFP】
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****サウジ主導連合軍、イエメン首都の軍事目標への空爆を予告*****
サウジアラビア主導の連合軍は24日、イエメンの首都サヌアの「正当な」軍事目標に対して空爆を開始すると発表し、民間人に対して標的となる場所に集まったり近づいたりしないよう求めた。

イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、2015年3月にサウジ主導の連合軍がイエメンに介入して以来、無人機やミサイルを使ってサウジに越境攻撃を繰り返している。【11月24日 ロイター】
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****サウジ首都上空でミサイル迎撃=イエメン武装組織が発射****
サウジアラビア国防省によると、首都リヤドの上空で6日夜、イランの支援を受けるイエメン武装組織フーシ派が発射した弾道ミサイルが迎撃された。国営通信が7日伝えた。ミサイルの破片が住宅街に落下したが、大きな被害や死傷者はなかった。
 
これを受け、サウジ主導の連合軍は報復として、イエメンの首都サヌア近郊のフーシ派拠点を空爆した。【12月7日 時事】 
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【フーシ派のドローン攻撃に今後も耐えられるのか】
(おそらくイランの支援があると思われる)フーシ派によるミサイル・ドローン攻撃は、下記【WSJ】記事によれば、毎日のように恒常化しているようです。

サウジアラビアはアメリカ供与のパトリオットで迎撃していますが、度重なるフーシ派の攻撃でパトリオットが枯渇してきているようです。パトリオットによる防御はドローンに対しては不十分な面があり、また、費用的にも安価なドローンの数十倍、百倍近いコストがかかります。

****サウジが迎撃ミサイル枯渇の危機、米に供給要請****
サウジアラビアは地対空ミサイル(SAM)「パトリオット」の迎撃ミサイルが底を尽きつつあるとして、米国や湾岸・欧州諸国に対して迅速な追加供給を強く求めている。
 
背景には、イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」によるドローン(小型無人機)・ミサイル攻撃にさらされていることがある。米国とサウジの当局者が明らかにした。サウジはイエメン内戦に介入しており、フーシとは敵対関係にある。
 
サウジ軍はパトリオットでフーシ派の集中砲火の大半をかわしているものの、空中で相手の兵器を撃ち落とす手持ちの迎撃ミサイルが極めて危険な水準まで落ち込んでいるという。
 
一方、米軍はこれまで自国部隊を守り、サウジにも安全保障を提供してきた軍装備の多くを再配置した。中国への対抗を重視し、中東から距離を置くバイデン政権の戦略に沿った動きだ。
 
米当局者は間もなくサウジの要請を正式に承諾する見込みだが、サウジ当局者はパトリオットの迎撃ミサイルを十分に確保できなければ、継続的な攻撃を受けて多大な犠牲者を出す、もしくは重要な石油施設に甚大な被害が及ぶ恐れがあるとして危機感を強めている。

フーシ派は1月にも王室関連の建物を攻撃したが、負傷者は出なかった。
 
サウジ政府の要請は、中東とりわけサウジに対する米国のコミットメントを試すことになりそうだ。バイデン政権は人権問題、サウジが主導するイエメン内戦、2018年10月に発生した反政府派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害事件など一連の問題を巡って、サウジ政府との関係を再構築することを目指している。
 
米・サウジ関係のぎくしゃくぶりを反映するように、9月に予定されていたロイド・オースティン米国防長官によるサウジ訪問は突然、中止された。オースティン氏はその後、記者団に対して、日程の問題でサウジが訪問を中止したと説明している。同氏は先月、再び中東を訪れたが、サウジには立ち寄らなかった。

あるサウジ政府関係者によると、同国への攻撃はここにきて頻度を増している。サウジが受けたドローン攻撃の数は11月が29回、10月25回、弾道ミサイルによる攻撃は11月が11回、10月が10回だった。これに対し、2020年2月は弾道ミサイルによる攻撃が5回、ドローンが1回にとどまっていた。
 
米政府は人権問題などを巡り、サウジに懸念を抱いているものの、米当局者は自国を守るためにも、石油資源が豊かなサウジを防衛する義務があると感じている。原油価格の高騰が足かせとなっている足元の状況を踏まえれば、サウジ防衛の重要度はさらに増すと考えているという。2019年にはサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの施設が攻撃を受け、一時は生産停止に追い込まれた経緯がある。
 
米・サウジ当局者によると、サウジはこれまで大半の攻撃を防いでおり、ドローン、ミサイル攻撃の約9割は迎撃できている。
 
ただ、迎撃ミサイルをさらに確保すれば、長期的な予算の問題は未解決のままとなる。迎撃ミサイルは1発およそ100万ドル(約1億1400万円)。これに対し、ドローンは小型かつ単純な設計で比較的安価と指摘されており、内情に詳しい関係筋は「1万ドルの空飛ぶ芝刈り機」だと表現している。
 
サウジ当局者は「テロ武装勢力による武装ドローンは世界の安全保障上の脅威としては比較的新しく、これに対抗する手段も進化している」と話す。
 
サウジが安全保障を巡り懸念を抱えていることや、米政府に迎撃ミサイルの供給を要請したことは、これまで報じられていなかった。
 
サウジは米防衛大手レイセオンが製造するパトリオットの迎撃ミサイル数百発を提供するよう米国に要請している。また親しい関係にあるカタールなど湾岸諸国や欧州諸国にも接触している。米当局者2人によると、米国務省は目下、サウジに対する迎撃ミサイルの直接売却を検討している。国務省はまた、カタールなど他国の政府からサウジに渡る分についても承認する必要がある。米国務省とレイセオンはコメントを控えた。
 
ただ、サウジは迎撃ミサイルを希望通り確保できたとしても、なおぜい弱な状況にある。パトリオットの迎撃ミサイルは弾道ミサイルによる攻撃に対抗するよう設計されており、小型のドローンは想定外なためだ。

例えば、パトリオットの砲台は360度回転することができず、時にサウジ国内から発射されることもあるドローンを効果的に迎撃できない。米当局者が明らかにした。これまで少なくとも1回は、サウジが保有するパトリオットのミサイル砲台の後方にドローンが突っ込み、破壊したケースがあったという。
 
サウジ当局者は「(同国は)さまなざま種類のロケット弾、弾道ミサイル、無人航空機(UAV)による攻撃に対処している」と指摘。「それぞれを迎撃するには異なる能力が必要で、われわれはこれら飛翔(ひしょう)体に対抗できるよう、システムの増強と多角化に積極的に努めている」と述べた。
 
対ドローン技術の開発に詳しい専門家らによると、米国はドローン攻撃に対する正式な反撃プログラムを持っておらず、迅速に対ドローン技術をサウジに移管することもできない。【12月8日 WSJ】
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サウジアラビアの石油施設が被害を受けるようなことになれば、サウジアラビアだけでなく、中東原油に大きく依存する日本にとっても大問題となります。

そうした世界経済への影響を考えると、アメリカとしてもサウジアラビアの防衛を支援せざるを得ないでしょう。
ただ、AIドローンがこれまでの戦争のパターンを変えつつあることは、このブログでも取り上げてきました。

サウジアラビアがパトリオットでいつまでドローン攻撃に耐えられるのか。(その点では、パトリオットを使用する日本の防衛戦略の見直しにも関係してくる問題でしょう)
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