孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国ラオス鉄道開通  ラオスにとっては「夢の高速鉄道」 中国にとっては「一帯一路」の実現

2021-12-03 23:04:25 | 東南アジア
(ビエンチャン駅で2日、中国とラオスを結ぶ鉄道の開通を前に儀式を行う僧侶=ロイター【12月3日 朝日】)

【「この鉄道はラオスを内陸国から連結国へと変える。人々の生活を向上させる」(ラオス公共事業交通相)】
ラオスの首都ビエンチャンと中国の雲南省昆明を結ぶ鉄道の開通式が3日、ラオスのビエンチャンで行われ、習近平国家主席はオンラインで出席。ラオスのトンルン国家主席との会談で「新たな歴史の起点に立ち、ラオス側と一帯一路の質の高い発展を推し進めたい」と述べています。

“東南アジアで唯一の内陸国ラオスでは初の長距離鉄道で、輸出量や貨物収入、中国人観光客の増加といった経済効果に期待がかかる。中国にとっては巨大経済圏構想「一帯一路」の東南アジア展開の実績を国内外に印象付けることになる。”【12月3日 朝日】

発展著しい東南アジアにあって、正直なところラオスの影は薄い感も。
そんな小国ラオスと結ぶ鉄道が注目されるのは、この中国ラオス鉄道が将来的にはラオスからさらにタイ、マレーシア、シンガポールへとつながる、東南アジアにおける壮大な中国「一帯一路」の第1段階にあたるためです。

一方で、全ての関連記事が指摘するのが「債務のわな」の不安。

****ラオス、中国と鉄路で直結 建国以来の悲願に潜む「わな」****
東南アジアのラオスで初の長距離鉄道が12月3日に開通する。本格的な鉄道は建国以来の悲願で、経済発展への期待は大きい。中国雲南省昆明からの鉄路とつながる。

中国にとっては巨大経済圏構想「一帯一路」を東南アジアへ広げるための重要な路線だ。ただ、建設費も技術も中国に依存した事業はラオスが「債務のわな」に陥るリスクが潜む。
 
開通するのは、ラオスの首都ビエンチャンと中国国境のボーテンを結ぶ総延長422キロの単線。旅客と貨物の併用で総駅数は三十余あり、このうち旅客駅は10となっている。中国の昆明からビエンチャンまでは約1千キロに達する。
 
運用される車両の最高速度は時速160キロ。10月中旬、ラオス国旗を構成する赤、青、白を施した外装の9両編成の列車が中国からビエンチャン駅に到着した。ラオスのビエンサワット公共事業交通相は「この鉄道はラオスを内陸国から連結国へと変える。人々の生活を向上させる」と強調した。
 
ラオス政府は、中国への農産物の輸出増、中国や周辺のASEAN諸国との貿易量増加による貨物収入、中国人観光客の増加など鉄道開通による経済効果に期待を寄せる。
 
鉄道建設と運営は中国側が7割、ラオス側が3割を出資した合弁会社が担う。建設費は総額約60億ドル(約6837億円)で、その60%は中国輸出入銀行からの借り入れだ。60億ドルはラオスの国内総生産(GDP)の3分の1に相当する巨大な事業だ。
 
ラオスを専門としているアジア経済研究所研究員の山田紀彦さんによると、ラオスにとって長距離鉄道の敷設は近代化の象徴として建国以来の悲願だった。

1970年代には旧ソ連に建設支援を打診したが実現しなかった。中国との交渉が始まったのは2001年。当初中国は乗り気ではなかった。ラオスの返済能力を疑問視していたという。

ところが13年に中国が「一帯一路」構想を発表すると、ラオスの鉄道計画が具体化し、15年に建設プロジェクトに両政府が合意した。
 
中国は「一帯一路」の一環として中国からラオスを経てタイ、マレーシア、シンガポールまでを結ぶ鉄道構想がある。ラオスの鉄道開通はその構想を最初に実現させた路線としてアピールできる。
 
中国と鉄道で結ばれることで、ラオスへの中国企業の流入は加速し、ラオスの中国依存は強まる。仮に鉄道の採算が上がらずに、債務問題が生じて沿線の開発権などを中国が獲得すれば、援助を受けた側が外交や経済の圧力に屈する「債務のわな」にラオスが陥ったとみなされ、中国への欧米からの批判が高まる可能性がある。
 
山田さんは「ラオスの鉄道は動き出したら失敗するには大きすぎる事業だ。中国にとっても債務問題は起きてほしくない。両国ともに経済的成果を上げていることを示す必要がある」と指摘する。

「一帯一路」の重要路線 でも中国の宣伝控えめ
「(中国の)一帯一路と『内陸国から連結国へ』という(ラオスの)戦略を結びつけるシンボルとなる成果だ」。中国外務省報道官は10月の定例会見で新鉄道の意義を強調した。
 
雲南省の地元メディアも新鉄道の試乗会の様子を報じ、「国際列車」らしく乗務員が中国語、ラオス語、英語を操る様子や、山岳地帯で工事が難航した様子などを伝えている。
 
ただ、29日現在、政府や国営メディアの宣伝ぶりは抑制的だ。背景には、一帯一路にそそがれる厳しい視線への自覚がありそうだ。
 
習近平(シーチンピン)国家主席は19日、一帯一路に関する会議を開き、「一帯一路が直面している新たな状況を正しく認識しなければならない」と述べ、プロジェクトの「質」の向上を訴えた。中国外務省関係者は「スピードを重視しすぎ、様々な弊害が出ていることをトップが認識した証しだ」と語る。
 
中国からすれば、昆明―ビエンチャンの路線は、タイなどに延伸してインド太平洋と結ぶことで戦略的な価値が上がる。新路線が近隣国をはじめ国際社会の目に「失敗例」と映れば痛手となるだけに、開通後の運営にも神経を使いそうだ。【11月30日 朝日】
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【陸路で1日以上かかるビエンチャン~ボーテン間が3時間強に短縮】
“山岳地帯が多いため、約200キロが75カ所あるトンネル部分となる。  ラオス国旗の模様を施した旅客列車は食堂車付きの9両編成で定員は720人。最高時速160キロで、陸路で1日以上かかるビエンチャン~ボーテン間が3時間強に短縮される。同区間の運賃は一等車が52万9000キップ(約5500円)、二等車が33万3000キップ(約3500円)。”【12月2日 時事】

現地の人々にとって、これまでの(おそらく今後も)この地域における主な移動手段は鉄道より安価で便利なバスでしょう。
1日がかりのバス旅が3~4時間に短縮・・・ただし、上記の料金設定は“最低賃金が月1万2000円程度の同国では安くはない額だ。”【12月2日 日経】というのが実際のところ。

国外観光客にとっては福音。(私も期待している一人ですが)
コロナの問題が解消されれば、間違いなく中国から観光客が大挙して押し寄せるでしょう。

“昆明からビエンチャンまで直行するとしたら、全長1000kmを表定速度120km前後で走ったとして、全線の所要時間は8時間強”【11月11日 東洋経済online】

****観光客殺到の恐れも****
さらに心配すべき問題として、ラオス各地への「オーバーツーリズム」がある。ラオスはこれまで「交通が不便」「行きにくい」という事情もあって、古くからの文化や環境が守られてきた。

とくに、ユネスコの世界文化遺産に登録されているルアンパバーンは「アジア最後の桃源郷」ともいわれる古都だが、ここにも中国ラオス鉄道が乗り入れることになる。【11月11日 東洋経済online】
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ただ往々にして「オーバーツーリズム」云々は「古き良き姿を残したい」という(無責任な)部外者の考えるところで、成長・発展を願う現地の感情とは異なる面も。

当面は“両国ともにコロナ対策で厳しい国境管理を行っているため、本格的な運行はまだ先になりそうだ。むしろ、中国区間の途中にある西双版納(シーサンパンナ)傣族自治州が中国きっての観光都市の一つであることから、当面は中国国内旅客の観光需要が主体となる可能性が高い。”【11月11日 東洋経済online】とのこと。

【ラオスにとっては「夢の高速鉄道」 中国なしでは将来は語り得ない現実】
何はともあれ、ラオスにとっては「夢の高速鉄道」です。

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一般的に高速鉄道とは時速200キロ以上で走るものを指す。中国ラオス高速鉄道の最高時速は160キロで、最高時速320キロの東北新幹線「はやぶさ」の半分程度。JRの特急「サンダーバード」より少し速い程度だが、これまでタイ側から延びる3.5キロメートルの在来線しか持たなかったラオスにとっては「夢の高速鉄道」だ。

市民は歓迎ムードに沸く。「交通手段が増えるのは国にとって良いこと。人生でせめて一度は乗りたい」。ラオスの女性会社員、ホンパカイポーン・オーンナムヴォンさん(35)は声を弾ませる。

自給自足の営みが多く残るラオスは国連の定める「もっとも開発が遅れている国」の一つ。初めての本格的な鉄道に、トラブルも頻発している。

「鉄道橋の送電線に排尿しないで」「線路で草や木を燃やしたり、家畜を放したり、作物や木を植えたりするのは禁止」――。鉄道の運営会社はフェイスブックなどの交流サイトや現地メディアを通じたルールの周知に追われている。鉄道を近くでみようと線路に立ち入ってしまう市民も多く「安全のため柵にのぼらないで」「線路から2メートル以内に近づかないで」などと訴える。

線路の部品が盗まれる被害も相次いでいる。9月には大量のボルトを盗んで売ろうとした男性を警察が逮捕。10月には線路のケーブルを切断しようとした男性が感電死した。ラオスの公安当局は鉄道の部品を盗むことの危険性を訴え、金属くずのディーラーなどに対して疑わしい部品の取引はしないよう通告した。【12月2日 日経】
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【中国にとっては「一帯一路」の実現 ラオスからタイへ、更にマレーシア・シンガポールへ】
中国にとっては、再三指摘されるように、インド洋につながる「一帯一路」の第1弾として非常に重要。
今回のラオス・ビエンチャンに続いて、更にタイ・バンコク、そしてマレーシア、シンガポールと・・・。

****ラオス、初の高速鉄道開通で中国傾斜加速****
(中略)小国ラオスの鉄道建設がここまで注目されるのは、背後に中国の「一帯一路」が控えるからにほかならない。

インド洋への経済覇権拡大を目指す中国にとって、ラオスとミャンマーを経由するルートの確保は欠かせない。ともに雲南省から鉄道を延伸させ、北京まで乗り入れさせる計画を持つ。安全保障もさることながら、貿易拡大が当面の狙いだ。

このうち、ミャンマー・ルートについては今年2月の国軍クーデターで先行きが見通せなくなった。ラオス・ルートがにわかに現実味を帯びるようになった。

既にラオスの隣国タイとは中老鉄路をさらに延伸させ、ビエンチャンのメコン川対岸ノンカイから首都バンコクを結ぶ高速新線「タイ中高速鉄道」に接続させることで合意している。実現すれば、昆明までの約1650キロの長大な国際鉄道が完成する。経済的な優位性は揺るぎのないものとなる。

バンコクへの乗り入れは2028年ごろになるとされるが、それまではラオスまでトラック輸送で代替させる計画。タイからはコメや鶏肉、ドリアン、さらには中国料理で欠かせないツバメの巣などが中国向けに輸出される予定だ。中国14億人の胃袋を満たす新たな生命線の一つと位置づけられている。

一方、通過地点に陥る可能性の高いラオスだが、悲観はほとんど聞かれない。ダム建設など中国依存は高く、中国なしでは将来は語り得ないからだ。

西側からは「債務のワナ」などと揶揄(やゆ)されるものの、代替策も支援もなく、声に耳を傾ける余裕もない。ひたすら中国傾斜を強めていくだけだ。【11月30日 SankeiBiz】
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中国ラオス鉄道が接続するラオスとタイを結ぶ鉄道にも、今後に向けた準備の動きがあるようです。

****「中国規格」でラオス直結、国際鉄道は成功するか****
発展招くか、「人民元経済」に取り込まれるか

(中国と東南アジアの鉄道計画)
(中略)
触れ込みは「中国初の国際鉄道」
中国ラオス鉄道は、ラオスの首都ビエンチャンと中国国境のボーテンを結ぶ417kmの路線で、全線電化・標準軌(軌間1435mm)の単線鉄道。国境の中国側の街、磨憨(モハン)で雲南省の省都昆明までの路線(596km)に接続し、国際鉄道を形成する。

(中略)中国ラオス鉄道は当初から貨物列車の運行も前提としている。(中略)

中国はラオス区間をすべて「中国規格」の鉄道として建設、国境を越えて自国の車両が自由に行き来できるようになることから、中国メディアは「中国初の国際鉄道」と伝えている。

国際的プレゼンスの拡大に余念がない中国は、さまざまな国際輸送ルートを確保しようとしている。歴史的に社会主義国との連携が強い中国はロシア、モンゴル、北朝鮮への国際鉄道ルートを持っているが、これに加えて2011年には中国と欧州を結ぶ鉄道貨物輸送サービス「中欧班列」が運行を開始、今では主にカザフスタン経由のルートで年間1万本もの国際貨物列車が走っている。

今回の中国ラオス鉄道も、「中国とインドシナの小国間の鉄道リンク」と考えるのはいささか軽率で、ASEANでも経済規模が大きいタイへの直結をうかがうルートとして今後の動きを見るべきだろう。ビエンチャンはラオス・タイ国境の目と鼻の先に位置する街だ。

タイ国鉄は、同国東部のノンカイとラオス側のタナレーン駅(ビエンチャン近郊)間のわずか5kmを走る短距離の国際列車を運行している。

今でこそ、ラオス―タイ間は旅客列車しか走っていないが、メーターゲージ(軌間1m)の線路はタナレーンからタイ、マレーシアを通ってシンガポールまで繋がっている。ノンカイに住む日本人男性は「中国からの貨物をラオスまで運び、タナレーンでタイ行き貨車に載せ替えてASEAN各国に運べるようになるポテンシャルは大きい」と語る。(中略)

一方、中国ラオス鉄道の開業というタイミングを受け、タイ側の動きも進んでいるようだ。
前述のノンカイ在住の男性によると、最近になって「タイ―ラオス間の国際列車はもともとの気動車列車から貨車・客車の混合列車に種別変更された」という。中国ラオス鉄道との貨物の積み替え拠点となるタナレーン駅までのCTC(列車集中制御装置)化も近いとされ、列車の増発に備えた動きが進んでいることを物語っているようだ。

現地の経済振興についても「ノンカイ駅周辺に国境検査場のための用地がすでに確保されている」といい、「中国からの列車がビエンチャンに乗り入れることで、ノンカイ乗り換えでバンコクと昆明を行き来する時代が来る。そうなるとノンカイにトランジットついでに立ち寄る人も増え、観光地としての地位が上がるのではないか」と、開業特需にも期待が集まっているようだ。

この先東南アジアを目指すのか
中国の公式メディアでは、中国ラオス鉄道への期待がさまざまな文言で語られている。例えば、「中国・ASEAN自由貿易地域の建設がさらに促進される」「中国主導の協力プロジェクトであるこの鉄道の開通で、東南アジアの経済発展に新たな風を吹き込むことができる」といったような内容だ。

大量・高速の輸送手段がなかったラオスにとって、鉄道の開通が同国の経済・社会の発展に寄与することは間違いないだろう。ただ、ラオスがいわゆる「人民元経済」に過度な形で取り込まれることが、ASEAN10カ国が考える未来と合致するのかどうか気になるところだ。

中国が打ち出す「一帯一路」計画には、鉄道をさらに南方へ延伸してタイ、マレーシア、シンガポールを結ぶ考えもある。「中国ラオス鉄道はその第一歩」という論調も多いが、マレーシアの首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道については2020年末、マレーシア政府が財政難を理由として正式に断念した。

コロナ禍の中、「中国初の国際鉄道」が開通しても、持てる機能を全面発揮するまでにはまだ時間がかかりそうだ。だが、中国が東南アジアの「より中枢」へと勢力を伸ばそうとする動きは引き続き注視すべきだろう。【11月11日 さかい もとみ氏 東洋経済online】
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【事業失敗、「債務のわな」は回避したい中国】
上記のような南方へ延伸してタイ、マレーシア、シンガポールを結ぶ・・・という計画が遅れると、中国ラオス鉄道の収益も期待どおりにはいかず、いわゆる「債務のわな」の問題が表面化します。

もっとも、中国としても国際的に注目されているなか、欧米から「それみたことか!」と言われるような事態は絶対に避けたいところでしょう。

****ラオスで「一帯一路」鉄道開通 総額6780億円は中国依存****
(中略)巨額な事業費をつぎこんだプロジェクトには課題も残る。

ラオスより先のタイやマレーシアなどへの延伸構想は遅れが目立つ。採算性が悪化して債務返済に窮した場合、インフラの利用権を中国に奪われる「債務のわな」に陥るとの懸念は根強い。

中国は今回の鉄道事業を「(広域経済圏構想の)一帯一路のモデル」(共産党系メディアの人民網)と位置づけており、利用の低迷で事業失敗のイメージが広がるのは避けたいのが本音だ。

中国メディアによると、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、当面は旅客の移動は国内に限り、貨物のみ国境間を行き来する見込みだ。

中国の鉄道関係者は「当面の収益は厳しいが、国際的な物流コストが上昇する中、貨物分野で収益を上げることができる可能性がある」と指摘する。今後、ラオスから銅やカリウム、コメなどの鉱物や農産物の輸入が大幅に増えるとの観測もある。【12月2日 日経】
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