孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  立法会選挙に示された、異論を排除する「中国式民主」の実態

2021-12-20 22:06:01 | 東アジア
(「香港のため自分のために投票を」と呼びかける路線バスのラッピング広告。【12月18日 朝日】)

【独自の「中国式民主」とは?】
「民主主義サミット」を主催するなど「民主主義」を対立軸として押し出し、中国・ロシアを「専制主義」として批判するアメリカに対し、中国・習近平政権は「中国式民主」があると主張しています。

王毅外相は、「民主の実践は国情によって異なり、一つの型や規格しかないということはありえない」とも。

中国は「中国の民主」と題する白書を発表し、独自の「中国式民主」として「全過程人民民主」なるものをアピール。アメリカの民主主義は欠陥をないがしろにしており、投票のときしか有権者の声を聞かないとも批判しています。

****中国流「民主」掲げ対抗 「一部の国の専売特許でない」 米サミットに抗議****
米国が日欧などを招いて開く民主主義サミットを前に、中国共産党政権が「民主主義は一部の国の専売特許ではない」との大々的な宣伝キャンペーンを始めた。

「全過程人民民主」という概念を掲げ、中国には自国の実情に根ざした民主主義があると主張。政治システムやイデオロギー領域でも米国の「覇権」に挑む姿勢を鮮明にしている。

「ある国が民主的か否かはその国の人民が判断すべきで、国際社会が一緒に判断すべきだ。今、ある国が民主の旗を振って分裂をあおり緊張を高めている」
 
4日、中国政府が開いた記者会見で、国務院新聞弁公室トップの徐麟主任が米国を念頭に語気を強めた。3日には王毅(ワンイー)国務委員兼外相が、友好国パキスタンのクレシ外相と電話会談し「米国の目的は民主主義ではなく、覇権を守ることにある」などと対米批判を重ねた。
 
中国では外務省が2日に「何が民主で、誰が民主を定義するのか」と題する座談会を開いたほか、各地の大学やシンクタンクが同様の討論会を開催。国営メディアも民主主義についての記事やインタビューを相次ぎ掲載しており、民主主義サミットに抗議する一大キャンペーンの様相だ。
 
政府やメディア、大学なども動員した動きが、習近平(シーチンピン)指導部の強い意向を反映しているのは明らかだ。

 ■自国の政治を「全過程人民民主」
しかし、習指導部の狙いは、民主主義サミットによる「対中包囲網」の打破だけではなさそうだ。
 
中国政府は4日、「中国の民主」と題する白書を発表した。白書は「長い間、少数の国々によって民主主義の本来の意味はねじ曲げられてきた。一人一票など西側の選挙制度が民主主義の唯一の基準とされてきた」と主張。

中国が自国の現実や歴史に根ざして実践する民主主義を「全過程人民民主」と呼び、ソ連崩壊後、信じられてきた欧米型の民主主義の優位を相対化しようとする習指導部の決意を強く打ち出した。
 
「全過程人民民主」の全体像ははっきりしないが、地方レベルの直接選挙や人民代表大会など、中国では政策の立案から実施まで様々なプロセスで民主制度が機能しているとした。
 
さらに、「中国は民主主義と専政(強力な統治)の有機的な統一を堅持する」「民主主義と専政は矛盾しない。ごく少数の者をたたくのは大多数の人々を守るためであり、専政の実行は民主を守るためである」とも主張。共産党の支配を支える現在の政治システムを正当化している。
 
体制に批判的な人権派弁護士らの摘発や、香港紙「リンゴ日報」への弾圧など、中国の権威主義的な統治に対する米欧の批判はやまない。

だが、政治分断で混乱する米国を尻目に、中国側は自国の制度への自信を深めている。そうした意識が民主主義サミットを機に噴き出した形だ。

 ■白書「中国の民主」の主な内容
・各国の民主主義は各国の歴史と文化、伝統に根付いており、道筋と形態は異なる
・中国共産党の指導は全過程人民民主の根本的な保障。中国のような大国で14億人の願いを伝え、実現するには堅強な統一指導が必要
・権力乱用はいわゆる政権交代や三権分立ではなく、(人民代表大会、行政、司法、世論などの役割を合わせた)科学的な民主監視によって解決する
・よい民主とは社会の分裂や衝突をもたらすものではない【12月5日 朝日】
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【「愛国者」の踏み絵のもとでの立法会選挙 単なる「民意反映」のパフォーマンス】
欧米・日本の現在の制度が多くの問題を抱えていることは、中国に批判されるまでもなく事実であり、特に最近は分断された政治情勢で民主主義が有効に機能しない状況も多々見られます。

さはさりながら、中国の政治形態が民主主義の名に値するものなのか、「専政の実行は民主を守るため」とか「科学的な民主監視」が何者なのか・・・常識的には「民主主義」の対極にある「専制主義」を擁護しているだけのように思えます。

実際、中国支配のもとで「民主主義」がどのように変質していくか、中国の考える「民主主義」がどういうものなのか・・・今回の香港の立法会選挙は明確に示してくれました。

“立候補が認められたのは親中派約140人と、親中派が推薦した中間派の十数人のみ。政府に忠誠を誓わないと立候補が取り消されるため、民主派政党は擁立を見送り、候補はゼロとなった。”【12月20日 朝日】

****「愛国者」による香港議会選、親中派が圧勝 「秩序を回復」と中国****
19日に投開票が行われた香港の立法会(議会、定数90)選挙で、親中派の候補者が圧勝した。一方、一般有権者が投票できる直接投票枠(定数20)の投票率は、過去最低を記録した。

地元ニュースサイト「HK01」によると、90議席中82議席が親中派・親香港政府派の立候補者によって確保された。反体制の「非建制派」の当選者は1人のみで、残りの7議席については、当選者の政治的背景が不明だという。

今回の選挙は、中国政府が香港の選挙制度を大幅に変更して以来、初の投票だった。当局は香港の安定のために必要な改革だとしているが、民主主義を弱体化させる狙いがあると批判する声もある。

こうした中、中国政府は20日、「香港の民主発展」と名付けられた白書を発表。中国主導の改革によって、香港は「秩序の回復した」新時代に突入したと述べた。

中国は今年3月、「愛国者」重視の選挙制度改正案を可決し、立法会選挙の候補者は中国政府寄りの選挙管理委員会などの事前審査を受けると決めた。これによって事実上、民主派勢力は選挙から排除されることになった。

立法会の定数90議席の内、直接選挙で選ばれるのは20議席に過ぎない。40議席は中国政府寄りの選管が選び、30議席は伝統的に中国政府寄りの職能団体が選ぶ。

選挙に先立ち、香港政府は登録有権者450万人に一斉メールを送るなどして、投票を呼びかけていた。
しかし、実際の投票率は30.2%と、過去最低を記録。AFP通信が投票前日に取材した20代の会計士の女性は、「結局のところは北京(中国政府)側の人間が勝つので、私の一票には何の意味もない」と、投票に行かないと述べていた。

一部の民主活動家は市民に、投票をボイコットするか、抗議の表現として白票を入れるよう呼びかけていたた。白票の投票は合法だが、白票の投票を促したり、投票しないよう呼びかけることは、現在の香港では違法となっている。

2019年に数カ月にわたって民主派デモが発生した後、中国政府はさまざまな規制を課して香港への影響力を高めてきた。

昨年6月には、香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」(国安法)を施行。多くの野党政治家や活動家が逮捕・起訴されている。(後略)【12月20日 BBC】
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定数90議席の内、直接選挙で選ばれるのは20議席に過ぎず、何より、最初から立候補者は中国の定める基準に合致した「愛国者」に限定される・・・ほとんど意味のない選挙です。
単に、「民意を反映しました」というアリバイづくりのためのパフォーマンスでしょう。

その「パフォーマンス」のための「演出」として、「自称民主派」の候補に当局側が水面下で立候補を促すといったことも。こうした「選挙の体裁を取り繕うための官製対立候補の擁立」は独裁政権下の「自称選挙」ではしばしば見られることです。

****香港、しらけムードの立法会選 「愛国者」の中、「自称民主派」も出馬****
香港で19日に立法会(議会、定数90)選挙が行われる。しかし、中国政府が「愛国者」しか立候補を認めない選挙制度に変えたため、民主派政党は候補者を一人も擁立しなかった。

そこに現れたのが「自称民主派」の候補たちだ。「議会に多様な声を届けたい」と訴えるが、背景に親中派の影がちらつく。選挙戦はしらけムードが漂っている。
 
「立法会から異なる意見を言う人がいなくなってもいいのですか」
13日、新界東北選挙区から立候補した企業顧問の黄成智氏(64)は住宅街の駅前で声を上げた。そばに立てかけた看板には「0・5歩、民主の道を」との標語を掲げている。だが、市民の反応は薄かった。
 
今回の立法会選はもともと昨年9月に予定され、民主派が初めて過半数を獲得する可能性もあった。
 
民主派は前回2016年の選挙では、全70議席(当時)のうち30議席を獲得。さらに19年に逃亡犯条例改正案をめぐる反政府デモで民主派の支持が高まった。
 
危機感を持った中国政府は立法会選を延期したうえ、実質的に民主派を排除する選挙制度に変更。民主派が強い直接選挙枠を35から20に削減。さらに中国共産党の統治下の体制を認めた「愛国者」でないと立候補が取り消される仕組みにした。このため、民主派政党は候補者を立てなかった。
 
その結果、出馬表明は親中派だけに。「(親中派)一色にしない」と言ってきた中国と香港両政府は体面が保てなくなり、香港メディアによると、水面下で親中派が民主派各党に「立候補を」と促してきた。

 ■中間派に親中派協力
この状況下で「民主派」を名乗り始めたのが、これまで政府側とも協力姿勢を示す「中間派」の人たち。事前審査で立候補が認められたのは親中派約140人と、政権側から推薦を得た「民主派」や「独立派」などの十数人だった。
 
黄さんも自称「民主派」の一人。元民主党員で、かつて同党選出の立法会議員を務めたこともあったが、香港政府トップの行政長官を選ぶ制度をめぐり、中国側が民主派の立候補を事実上排除する案を示した際に賛成にまわり、同党から除籍。それ以降は「中間派」を名乗ってきたが、5回の選挙で落選し続けてきた。

黄氏によると、立候補前に中国政府と関係のある人物から複数回接触を受け、「選挙に出るつもりはないのか」と聞かれたという。立候補を決意して親中派団体の幹部に相談すると、立候補の推薦人をすべて紹介してくれたという。
 
本来の民主派がいない選挙に、市民の間にはしらけムードが広がっている。前回2016年の選挙では投票率が58%だったが、今回は30%にも届かないとの見方も出ている。【12月18日 朝日】
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【過去最低の投票率に示された民意】
結果は、周知のようにかろうじて30%は超えたようですが、過去最低の投票率を記録。このことが「民意」でしょう。

****香港議会選挙、投票率過去最低の30%****
香港で19日、香港立法会(議会)選挙の投票が行われた。中国政府が「愛国者」にのみ立候補を認める選挙制度に変更して以来初めての選挙で、投票率は30%と、1991年の香港初の直接選挙以来、最低となった。
 
選挙管理委員会のバーナバス・フォン委員長によると、有権者447万2863人のうち投票したのは135万680人で、投票率は30%にとどまった。前回2016年の58%、2000年の44%を大幅に下回った。
 
新制度では定数90のうち、市民が選挙で選ぶのは20議席に削減された。立候補の条件も厳しく制限されており、中国への愛国心と政治的忠誠心が審査される。(中略)
 
香港浸会大学の政治学者、陳家洛氏は、今回の投票率は政府にとって「面目がつぶされる」形となったと指摘する。
同氏はAFPに対し「民主派の有権者の大半が棄権し、この種の選挙とは距離を取る姿勢を示すことで、抗議した」と語った。 【12月20日 AFP】
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今回、“香港政府は選挙の形骸化が目立つのを防ぐため、テレビやバスなどに大規模な広告を出し、当日の公共交通機関を無料にして投票を呼びかけてきた。また、ネット上で白票や棄権を呼びかける転載をしたなどの容疑で、大学生ら10人以上を逮捕する対応も取った。”【12月20日 朝日】とのことでしたが・・・。

次回以降は、棄権することにも有形無形の圧力がかけられるのでは・・・とも危惧されます。

【中国政府 「香港の民主制度を最適化させ、時代とともに前進させるもの」】
こうした結果に、林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は記者会見し、「愛国者による香港統治」を実現する「目標を達成した」と選挙の意義を強調しています。

更に中国政府も、中国国務院(内閣に相当)が香港の発展に関する白書を公表し、香港の民主化の見通しは「明るい」との見方を示しています。

****中国強弁「香港の民主は前進」 正当性主張****
【北京=三塚聖平】中国政府は20日、香港の民主主義に関する白書を発表した。19日投開票の香港立法会(議会)選に合わせた形で、「民主の実践の新たな気風を十分に示した」と選挙を称賛した。

新選挙制度についても「香港の民主制度を最適化させ、時代とともに前進させるもの」と強調。中国式選挙の正当性を強弁し、米欧の批判に対抗していく狙いとみられる。

白書は「『一国二制度』下の香港の民主発展」と題され、中国国務院(政府)新聞弁公室が発表した。英国統治時代から振り返り、「英国植民統治下の香港には民主はなかった」などと強調。香港で激化した反政府デモについて「反中乱港(中国に逆らい香港を混乱させる)勢力が、外部の勢力と結託し、たびたび香港の民主の発展を妨害した」と責任を押し付けた。

香港における民主制度について「過去の長い時期において、盲目的、形式的に欧米式の民主主義を追求したが、実際に香港にもたらしたのは本当の民主ではなかった」と主張。

その上で、中国共産党の主導下で「優れた民主の建設を、法律に照らして秩序正しく推し進めなければならない」と香港側に求めた。

白書は「選挙制度を含めたいかなる政治体制を香港で行うかは完全に中国の内政だ」としており、選挙結果と同時期に出すことで米欧の干渉を牽制する思惑がうかがわれる。

一方、直接選挙枠の投票率が30・2%と過去最低となったことについて、中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)報道官は20日の記者会見で「香港各界はいずれも、正常な合理的範囲内にある投票率だと認めている」と反論。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報も20日付で「米欧などの西側国家の地方選挙でも投票率は低い」という識者の見方を強調した。【12月20日 産経】
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確かに「米欧などの西側国家の地方選挙でも投票率は低い」というのは事実です。香港とは別の理由によるものですが、民主主義のあり方としては大きな問題でしょう。

【“親中派一色”の中身に変化も 進む本土支配】
なお、“親中派一色”になったような結果について、より詳しく見ると“親中派”の中身が“香港の経済界から本土出身者への置き換え”という変化があるとのこと。

****「中国式選挙で香港立法会は全人代化」 倉田徹・立教大教授****
20日に結果が発表された香港立法会(議会)選について、立教大の倉田徹教授に話を聞いた。
今回の香港立法会(議会)選は、投票する前から結果が分かっている、正に「中国式の選挙」だった。当選者は親中派一色となったが、誰も驚かない。

中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)は政府の提出法案を圧倒的多数でゴム印のように可決するだけ。香港の立法会も同様に「全人代化」していくだろう。全人代でも反対票が少しは出る。今回、中間派の候補者1人が当選したのは、中国から見れば「ちょうど良い」のではないか。

親中派の中でも、伝統的な香港財界の大物現職が落選した。北京が「共同富裕」を掲げる中で香港の土地問題の元凶とみなされ、批判されたことが原因の一つだ。

その代わり、中国本土の資本を背景とした新しい財界人や香港に留学した中国本土出身者の団体から当選者が出た。北京が単に民主派を排除するだけでなく、香港の経済界を本土出身者に置き換えようとしていることもうかがえる。

中国が20日に発表した(香港に関する)白書は、選挙結果と同時に出す準備をしてきたものだろう。米国との間で民主主義をめぐる論争が起き、「中国式民主」を一生懸命に主張している。香港の民主主義も、世界に多数ある民主主義の一つで成功していると内外に宣伝するためだ。

だが、今回の選挙が民主主義に反する形で行われたことは明らかだ。日本をはじめ民主主義諸国は、香港内部で発言できない選挙制度の問題点や香港政治の劣化について指摘し続けるべきだ。(談)【12月20日 産経】
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今回の香港立法院選挙のみならず、「誰かが私に性的暴行をしたと、言ったことも書いたこともない」と言い出したテニスの彭帥選手(どうして発言内容が変わったのか・・・その裏事情に「中国式民主」の実態がうかがえます。)、相次いで軟禁・資格停止、はては行方不明などの“弾圧”が報じられる人権派弁護士・・・異論を許さない「中国式民主」が到底「民主」の名に値しないことは明白です。
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