(中国恒大集団の開発計画を示す地図の前を掃除する清掃員=北京で2021年9月21日、AP【12月7日 毎日】)
【恒大集団 部分的デフォルト】
中国不動産バブル破綻の象徴として注目されていた恒大集団が「部分的デフォルト」に陥ったことは周知のとおり。
****フィッチ、中国恒大集団に加え佳兆業も「部分的デフォルト」に格下げ****
格付け会社フィッチ・レーティングスは9日、中国の不動産開発大手、中国恒大集団とその子会社の恒大地産集団および天基控股の格付けを「C」から部分的な債務不履行(デフォルト)に相当する「RD」に引き下げたと明らかにした。
格下げは、天基控股が11月6日が本来の期日だった債券(利率13%、6億4500万ドル)(利率13.75%、5億9000万ドル)の利払いを猶予期間が終了する12月6日に実施しなかったことを受けた措置としている。
フィッチによると、先月が期限だった8250万ドル相当の利払いについて確認を求めたが恒大から回答はなく、30日間の猶予期間が終了したため、「支払われていない」と推定した。
フィッチは佳兆業集団も「一部債務不履行(RD)」とした。関係筋によると、佳兆業は120億ドル相当のオフショア社債について再編作業を開始した。
恒大や佳兆業からのコメントは得られていない。
フェデレーテッド・ヘルメスのクレジットアナリストは、「両社のデフォルトにより中国の不動産問題が第2段階に入り、システミックリスクは徐々に個別リスクに取って代わられる」と指摘。その上で「国有企業がリストラの過程でどのような役割を果たすのか、市場型アプローチへの政府の関与度が注目される」と述べた。
中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は9日、中国恒大について、株主と債権者の権利は法的順位に則って「全面的に尊重される」と表明した。【12月10日 Newsweek】
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素人でよくわかりませんが、部分的デフォルトは、「RD」や「一部債務不履行」とも呼ばれ、フィッチの長期格付尺度の一つで、債券やローン、その他重要な金銭債務に関して支払不履行が治癒されていない一方、破産申立て、会社管理、管財人の任命、清算その他の清算型倒産手続が開始しておらず、かつ事業停止には至っていない発行体を示すものです。
その後も、筆頭株主である許家印会長の個人資産売却による対応は続いているようです。
****「デフォルト」の中国恒大会長、株式追加売却…「73億円規模と推定」****
債務不履行(デフォルト)が宣言された中国不動産開発会社、恒大の会長が会社の株式を追加で売却した。
ブルームバーグが11日に伝えたところによると、恒大は前日香港証券取引所の公示を通じ、筆頭株主である許家印会長が6~9日に同社の株式2億7780万株を売却したと明らかにした。 これに伴い、許会長が保有する恒大の株式は61.88%から59.78%に減った。 売却価格は公開されなかった。
ブルームバーグは今週の恒大株の平均取引価格に基づいて計算すれば売却代金は4億9800万香港ドル(約73億円)規模だと推定した。
これに先立ち許会長は先月26日に会社の株式12億株を売却し26億8000万香港ドルの資金を調達した。許会長が自社株を売却したのは2009年の香港証券市場上場以降で初めてだ。
ブルームバーグは「2017年に資産420億ドルで中国第2の富豪となった許会長がいまでは財産処分を含めて恒大の破産を防ぐために急いで動いている」と伝えた。
格付け会社のフィッチ・レーティングスは9日、「制限的デフォルト」に格付けを下げデフォルトが公式化した恒大の負債は6月末基準で2兆元(約35兆円)に達する。
恒大は6日に国有企業と金融機関関係者らが参加したリスク解消委員会が発足したと明らかにした。【12月12日 中央日報】
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60%程度所有する株式の2%分程度を売却しただけで約73億円調達・・・まだ60%近くの株式がある・・・でも、この時期恒大の株式を購入する者はどんな思惑か・・・完全なマネーゲームだろうな・・・など、いろいろ思いますが、いずれにしても約35兆円の負債の前では大勢は変わらないでしょう。
【中国政府 住宅価格の抑制政策は今後も維持】
不動産価格高騰に対し厳しい対応をとってきた中国政府(恒大の危機はその結果でもありますが)、危機に瀕した恒大の積極的救済に乗り出すことはしていませんでしたが、経営破綻による混乱も回避したいということで、最近になって地方政府・広東省が本格的介入に乗り出したとも報じられていました。
****恒大危機、広東省が本格介入 債務不履行回避へ、政府直轄監督チーム常駐****
中国不動産大手・中国恒大集団(本社・広東省深セン市)の経営危機問題で、地元政府が本格的な介入に乗り出すことが明らかになった。
債務不履行(デフォルト)に陥るリスクが高まっているためで、政府直轄の監督チームが常駐し、リスク管理や内部統制にあたる。ただ、市場の動揺を回避しつつ、巨額の債務を抱える恒大の経営を改善できるかは見通せない。
■債権者と債務再編協議、難航か
広東省政府は3日夜、恒大創業者トップの許家印氏を呼び出して事情を聞き取った。恒大の求めに応じる形で、経営リスクへの対処や内部統制を強化するための監督チームを同社に派遣することで合意したという。これまでも地元政府は恒大への監視を水面下で続けてきたが、対応レベルを引き上げた格好だ。
中国メディア「財新」によると、この2カ月ほどで広東省以外の複数の地方政府も、地域内にある恒大の未完成のマンションの工事や労働者への支払い状況を調べるチームをそれぞれ発足させて監視体制を強めているという。
恒大の経営危機について習近平(シーチンピン)指導部は当初、直接的な介入を避けて静観していた。中国人民銀行(中央銀行)などの金融当局は恒大の問題は「やみくもな拡大」が原因とし、救済対象ではないと示唆してきた。
それでも今回介入を強めたのは、資金調達の不振で債務処理が追いつかない恒大にしびれを切らしたためとみられる。マンションや投資商品の購入者らの不満が強まれば社会不安を引き起こしかねず、市場の信用収縮や金融システムへの影響も起きかねない。
恒大の負債総額は6月末時点で1兆9665億元(約35兆円)。内訳は銀行からの借り入れや社債、工事代金の未払いのほか、マンション購入者や社員に売った高利回りの投資商品など。
この返済期限が次々に恒大に迫り、資金調達のため傘下の地方銀行やインターネット企業の株式を売却したり、許氏の豪邸や自家用ジェット機などの個人資産を売却したりしてきた。
(中略)恒大は3日の発表で、こうした巨額の債務について、現状の資金繰りでは対応できない可能性があると説明。債務の再編案に向けて債権者と話し合うことを明らかにした。返済期限の延長などが念頭にあるとみられるが、協議は難航も予想される。
中国では経営危機で地元政府が介入するケースはこれまでもあった。中国航空大手・海航集団が2019年7月にデフォルトに陥ったが、海南省政府の関与のもとで事業を継続。法的整理の手続きに入ったのは21年1月だった。【12月5日 朝日】
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住宅価格抑制政策は今後も維持していくことを決定しています。
****習近平指導部 住宅価格の抑制政策を維持へ****
中国の不動産業界の低迷が続く中、習近平指導部は今後の経済政策を話し合う会議を開き、住宅価格の抑制政策を続ける方針を決めました。
国営新華社通信によりますと、習近平指導部は10日までの3日間、「中央経済工作会議」を開き、来年も積極的な財政政策を維持すると強調しました。
一方で、恒大集団などの経営危機が続く不動産業界をめぐっては、「住宅は住むものであり、投機対象ではない」として、住宅価格の抑制政策を維持する方針を決めました。
また、格差是正のスローガンである「共同富裕」にも触れ、「この目標に向かって着実に前進すべきだ」と強調。格差の解消に向けてIT業界や不動産業界への締め付けをさらに強める可能性があります。【12月11日 日テレN
EWS24】
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【経済全般 中国政府に求められるソフトランディング(軟着陸)に向けた手綱さばき】
日本では10年以上前から、ことあるたびに「中国経済崩壊」が言い立てられていますが、現実には幾つかの危機・調整はあったものの、「崩壊」することなく現在に至っています。
今回不動産バブルがはじけて、中国経済全体が揺らぐ事態になるのか・・・。
日本の「中国嫌い」の人々が願望する「中国経済崩壊」が実現しなかった最大の原因は、中国政府も馬鹿ではないということでしょう。危機の度に、中国政府は当然ながらそれなりの対応をとります。おそらく今回も。
ただ、ソフトランディング(軟着陸)に向けたアクセルとブレーキの微妙な使い分けも要求されそうです。
****中国経済の軟着陸、試される難しい手綱さばき****
中国の指導層は経済が弱まる主因となった政策を撤回することなく、急速な成長鈍化を反転させようとしている。
それは世界第2位の経済大国である中国にとって、ソフトランディング(軟着陸)に向けた手腕が試される困難な作業と言える。
中国はここ数週間、住宅市場のスパイラル的な落ち込みを防ぎ、7-9月期に大幅に減速した経済成長を回復させるため、複数の政策緩和措置を打ち出した。
最近の措置には、住宅ローンに関する規制緩和も含まれる。さらに今週に入り、市中銀行に義務付ける現金保有比率を予想外に引き下げた。これは企業の資金調達コスト低下につながる可能性がある。
エコノミストは、より速い信用の伸びや中小企業向けの減税を図る動きなど、数週間のうちにさらなる措置が講じられると予想する。一部のエコノミストは、2020年4月から据え置かれている基準金利を引き下げる余地があるとみている。
野村ホールディングス のアナリストは先日の顧客向けリポートで、経済のハードランディングを防ぐには、中国は政策の大幅な緩和が必要になる可能性があると指摘した。
だが、多くのエコノミストは、銀行融資の大幅な拡大や、橋や空港といったインフラへの支出を巡り、当局は大規模な刺激策の導入には消極的な姿勢を示すとみている。
当局者はまた、債務削減や、特に不動産部門における投機的な行動の排除といった長期的な目標を達成するため、習近平国家主席の後押しでここ1年に導入された政策に注力している。中国人民銀行(中央銀行)は6日、大型刺激策は避ける考えを明らかにした。
米コーネル大学のエスワー・プラサド教授(通商政策・経済学)は、「中国政府が市場に規律を課し、信用があおる金融市場の不均衡を抑制すると同時に、安定した成長軌道を維持しようとする矛盾を象徴するものだ」と指摘する。
中国の経済政策のジレンマは、今後数カ月のうちにますます強まりそうだ。来年後半には、中国共産党の上層部が入れ替わることが予想されている。中国の指導者たちは通常、大きな政治イベントの前には、安定性を確保するため強力な経済パフォーマンスを望む。
新型コロナウイルス感染拡大が始まってからしばらくの間、中国経済は比較的好調に見えていた。中国は2020年に景気が拡大した唯一の主要国となった。2021年初めも経済活動が非常に順調だったことから、中国は通年でも堅調な成長を遂げると確実視され、21年の国内総生産(GDP)は約8%増加すると予想されていた。
中国の指導層はこうした見通しに安堵(あんど)し、非合理的な投資の根絶と社会的格差の是正を目指して、テクノロジー企業や民間教育事業、不動産会社への引き締めを強化した。
ただ、エコノミストの間では、負債比率の高い不動産デベロッパーに対する借入制限策など、一部の措置が行き過ぎ、予想以上に大きな減速を引き起こした可能性が指摘されている。
デフォルト(債務不履行)に陥ったデベロッパーもある。不動産情報サービス大手の中国房産信息集団(CRIC)によると、中国のデベロッパー上位100社による販売額は5カ月連続で減少し、11月は前年同月比37.6%減となった。
中国は2014年の住宅不況と2008年の金融危機の直後、利下げや不動産・インフラ投資の強化など、大規模な景気刺激策を打ち出した。
こうした対応はたちまち経済を活性化させたものの、国内金融システムは過剰な債務を抱え込むことになった。また、投資家や住宅購入者の間では、中国政府は社会不安を恐れて、巨額の投資損失や住宅価格の急落を許さないという考え方が浸透していった。
今回は、中国は控えめな緩和措置に徹し、慎重に行動している。
9月下旬以降、当局は住宅ローンの制限や土地の入札規則を緩和し、デベロッパーが債務を返済しやすくするための措置を約束した。デベロッパーはこれにより、新規プロジェクトをより迅速に立ち上げられるようになる。規制当局はさらに、銀行間債券市場でデベロッパーが地方債発行による資金調達をしやすくする予定だ。
成都は11月下旬、デベロッパーと住宅購入者に対する融資の承認を加速した大都市の第1号となった。さらに、建設業者が未着工のアパート販売で得た資金をより容易に活用できるようにした。(中略)
しかし、最近の預金準備率の引き下げや、苦境にある中小企業を支援するためのさらなる緩和策の可能性を巡っては、不動産などの資産バブルを再び膨らませかねないと警鐘を鳴らすアナリストもいる。
ソシエテ・ジェネラルの中国担当首席エコノミスト、ウェイ・ヤオ氏は「政策当局者には多くの手段があるが、今後は政策対応の余地がかなり狭まる」と指摘。結果として「人民銀は今後数年間、金融政策を大幅に緩めることも引き締めることもなさそうだ」と述べている。【12月10日 WSJ】
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【安定成長への移行に関する予測】
いずれにせよ、中国経済はこれまでのような高度成長から安定成長に変化すると思われますが、その予測・シナリオについては、以下のようにも。
****中国の高度成長、予想外に早く終焉迎える可能性****
1.中国経済先行き、予想外の下振れか
10月18日に発表された2021年7〜9月期の中国の実質GDP成長率は4.9%だった。(中略)
それでも2021年の実質成長率は通年で8%台に達することはほぼ確実と見られている。
一方、2022年の通年見通しは、一般的には5%台前半との見方が多いが、一部の中央政府に近い専門家の見方では5%割れとなるかもしれないとの指摘も見られ始めている。
筆者は数年前から2020年代の半ばに中国の高度成長期が終焉を迎え、2020年代後半には安定成長期への移行が始まると見ていた。高度成長期の一つの目安は5%以上の実質成長率の持続である。(中略)
それを大まかな数字で表現すれば、2020年代前半は平均実質成長率で5%台を保持した後、2025年前後に5%を割るようになり、2020年代後半に成長率が急速に低下し、2030年前後には3%前後の成長率にまで低下するというイメージである。その場合、早ければ2024〜25年頃に初めて通年で5%割れの可能性があると予想していた。
それが、2022年に早くも5%割れの可能性が出てきたのは予想外だった(2020年の成長率が新型コロナ感染拡大の特殊要因で2.3%となったのは例外と考える)。
2.意外に小さい足許の米中対立の悪影響
(中略)
3.来年の成長率下押し要因
(中略)
4.悲観的な中長期的見通しと意外な効用
この状況が続くと、2022年が5%割れとなり、2023年以降も不動産税の導入や中央政府による不動産市場の管理強化の持続による不動産需要の停滞、インフラ建設投資の抑制、カーボンピーク実現のための環境政策、それらの結果としての製造業設備投資の伸び悩み、米中対立深刻化のリスクなどが経済成長の足かせとなる可能性が懸念される。
そうなれば、最悪の場合、2022年以降、5%割れが続くというシナリオも否定できない。従来予想に比べて、2、3年ほど早く、実質GDP成長率の5%割れが始まることを意味する。これは中国にとって非常に厳しいシナリオである。
しかし、マクロ経済の安定性確保の観点から見れば、意外にも好ましいシナリオになるとの見方もできる。(中略)
仮に2022年から5%割れが始まり、2030年3%前後の成長率に向かって8〜9年かけてゆっくりと低下していくことが可能となれば、経済成長率の鈍化のスピードはかなり緩やかとなる。このため経済不安定化のリスクも低下する。
中長期的に経済成長率が低下する場合、経済政策運営上の大きなリスクは先行き経済に対する期待の急速な変化である。先行きの経済に対する期待が急速に低下すると、企業の設備投資と個人消費が急速に慎重化し、一気に厳しい不況に陥る。
この期待の変化をいかにして安定的にコントロールするかが経済安定確保のカギとなる。
企業経営者および消費者の期待が急速に慎重化し、経済の不安定化をもたらさないようにするには、2020年代の後半に急ブレーキがかかるより、2022年以降、時間をかけてゆっくり低下していく方がソフトランディングには望ましいとの見方もありうる。
その場合、これまで経済成長を実現することにより国民の信頼を得ていた中国政府が、引き続き国民からの信頼を維持するには、経済社会の質向上の面で、明確な成果を示すことが必要である。
具体的には、バブル経済など金融財政面でのリスクを抑制すること、不動産税、相続税の導入、社会保障の充実などにより貧富の格差を目に見える形で縮小すること、そして教育・医療・介護・環境・治安・防災などの面で安心して暮らせる社会を実現することなどである。(後略)【11月17日 瀬口 清之氏 JBpress】
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