孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  目立つロシアの国軍支援 国軍支配に加えて新型コロナの感染拡大で窮地の市民生活

2021-07-19 22:32:40 | ミャンマー
(ヤンゴンで14日、新型コロナウイルス感染者のための酸素を供給してもらうため、行列を作る人たち【7月19日 朝日】)

【五輪に参加する選手への世論の反発「国軍に服従」】
世界中の多くの国・地域で紛争・政治混乱・市民弾圧は起きていますが、あと数日で「平和の祭典」東京オリンピックが開幕します。

平和と相互理解を促進する祭典の意義に鑑み、1994年リレハンメル大会以来、国連は大会期間中の休戦を呼び掛けています。東京五輪に関しても、国連総会において全会一致で採択されています。

****国連 東京五輪・パラ期間中 世界の紛争休戦呼びかけ****
国連総会は、東京オリンピックとパラリンピックの期間中、世界の紛争について休戦するようすべての加盟国に呼びかけました。(中略)

東京大会についても、1年延期が決まる前の2019年12月、日本を含む186か国が共同で休戦を求める決議を提案し、全会一致で採択されました。

東京大会の開幕を前に8日、国連総会では、この決議の順守を求める議長の声明が発表され、大会が平和や相互理解を促進する重要な機会になると強調したうえで、オリンピック開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後まで、あらゆる紛争について休戦するよう、すべての加盟国に呼びかけました。(後略)【7月9日 NHK】
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ただ、全会一致で採択されるということは、誰もこの決議が実効性を伴っているとは考えていないということの裏返しであります。

紛争・内戦ではありませんが(一部国境地域ではそれに近い状況にもなってはいますが)、政治混乱・国軍による市民弾圧が続くミャンマーからもオリンピックに参加する選手はいます。しかし、国軍支配のもとでの大会参加は必ずしも国民に歓迎・支援されている訳でもないようです。

****ミャンマー、五輪出場選手に批判 「国軍に服従」と反発****
東京五輪の開幕が23日に迫るなか、クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、五輪に参加する選手への世論の反発が強まっている。国軍の強権支配の下での五輪参加を「国軍への服従」とみる市民が多いからだ。参加を表明したバドミントンの女子選手には、SNSで批判が広がっている。
 
バドミントンのテッタートゥーザー選手は6日、SNSで五輪への参加を表明し、「長年の夢がかなった」「みなが苦労と苦しみにある時だが、一瞬でも笑顔になれば」と投稿。7日付の国営紙も写真付きで報じ、「ミャンマーのすべての人のための最高の代表になれるように頑張る」との本人のコメントも紹介した。
 
ミャンマーではよく知られた人気選手だが、SNSには「(国軍への)不服従運動に参加しないなら応援しない」「以前はあなたを誇りに思ったが、今は何も思わない」「私たちは今、独裁者を引きずり下ろすこと以外に興味はない」「代表になってほしくない」といった批判的なコメントが相次いだ。
 
ミャンマー情報省は12日夜、テッタートゥーザー選手を含む3人を東京五輪に派遣すると発表した。選手たちは22日にミャンマーを出発するという。
 
クーデター後、市民は抗議デモや職場を放棄する不服従運動で国軍に抵抗。現地の人権団体によると、国軍の弾圧による市民の犠牲は10日までに899人に上る。6月下旬以降は新型コロナウイルスの感染も急拡大し、社会が混乱している。
 
ミャンマーの選手団は当初、神奈川県内で事前キャンプをする予定だったが、県は2日、キャンプの中止を発表した。ミャンマー側から「コロナの流行」を理由に中止を告げられ、選手団は選手村に直接入ることになるという。
 
東京五輪をめぐっては、競泳選手のウィンテットウーさんが4月上旬、「国軍が支配する国の代表は引き受けられない」として自身のSNSで辞退を表明した。
 
サッカーのワールドカップ(W杯)予選でも複数の選手が代表への招集を拒否し、選手集めが難航。5月の日本戦で国軍に抗議の意思を示す3本指を掲げたピエリアンアウンさんは、日本にとどまって難民申請をしている。【7月13日 朝日】
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【抵抗が止んだ訳ではないが、一定に“力”で封じ込め】
ミャンマー情勢については、6月30日ブログ“ミャンマー 泥沼化する混乱 ミン・アウン・フライン国軍総司令官の誤算”でも取り上げました。

このところ激しい抗議行動とか衝突に関する記事はあまり目にしなくなりました。
ただ、市民の抵抗が止んだ訳でも、混乱が収まった訳でもありません。

****日本での報道減ったミャンマー、内戦とコロナで情勢は泥沼****
軍によるあのクーデターから5カ月が過ぎた。それに伴い、日本での報道もかなり減少したが、いまもミャンマーでは、軍や警察と、反軍政を唱えて抵抗運動を続けている市民や少数民族武装組織との衝突が続いている。いやむしろ激化していると言っていい。

現地の反軍政メディアによると、7月に入ってから中心都市ヤンゴンや地方都市で爆弾による爆発事案が多発している。おそらく民主派勢力によるものだ。これに対し軍も攻勢を強め、武装した市民組織と衝突、本格的な戦闘で市民側に多数の死亡者が出ている。

背景には、身柄拘束中のアウン・サン・スー・チーさんやウィン・ミン大統領ら与党「国民民主連盟(NLD)」関係者と少数民族代表などで組織した「国民統一政府(NUG)」とが組織した「国民防衛隊(PDF)」の存在がある。このPDFは、軍の過剰暴力、人権侵害、虐殺などに対抗するため、市民に武装を呼びかけているのだ。

その呼びかけに応じる動きが市民の間に急速に広まっている。ヤンゴンや中部都市マンダレーなど主要地方都市では、学生や若者らが、国境周辺で軍政と長年に渡って紛争を続ける少数民族武装組織に合流して軍事訓練、戦場での救急救命措置などを学び、さらに供与された武器をもって各都市に戻って軍や警察と武力衝突するケースが増加している。

勢い、この武力衝突で命を落とす人も増えている。人権団体などは2月1日以降、軍による反軍政市民の犠牲者は合計で892人に達しているという。

各地で続く爆弾攻撃や衝突
(中略)

抵抗運動、再び活発化
ミャンマーのヤンゴンを含めた各都市で行われていた街頭での反軍政デモや集会は、軍による実弾発砲を含む強権的鎮圧を回避するため一時沈静化していた。それが、6月末から7月にかけて再び活発化し始めた。
 
以前と変わったのは、軍兵士や警察官、あるいは市民の中に紛れている「ダラン(密告者)」の目を逃れるために、周到な準備の上に、携帯電話などを駆使した情報収集で行われる「ヒット&ラン」方式のゲリラ的デモや集会となっている点だ。
 
また、軍政に反対する公務員は、職場放棄や勤務拒否である「不服従運動(CDM)」を展開しているし、えんじ色の僧衣をまとった仏教僧侶によるデモや集会も増えている。

そうした様子は頻繁にSNSにアップされているが、当局の弾圧を逃れるため、SNSにアップされる写真や動画にはデモや集会の参加者の顔にモザイクがかけられるなど、市民側による自己防衛手段も進化している。

コロナ感染者が急増
一方、軍と反軍政の市民による衝突の陰で、国内のコロナ感染も極めて深刻化している。
 
7月7日の新規感染者数は3947人。6月1日時点で122人だったが、6月中旬以降、感染者数のグラフは猛烈な急カーブを描いて上昇している。累計感染者数は、7月8日現在でおよそ17万6000人、感染死者数は3570人となっている。
 
しかもこの数字も、あくまで検査を受けた市民の中での数字に過ぎない。大半の国民は、ワクチンの接種どころか、PCR検査すら受けられる状況にない。
 
前述の「不服従運動(CDM)」に多くの医師、看護師、保健師らが参加している影響で、医療現場の人手不足が顕著になっていることも原因の一つになっている。
 
このため軍は、軍医や軍所属の看護師などを医療機関に派遣し、検査、陽性者の隔離・治療に臨んでいるが、その人材も絶対的に不足しており、コロナ禍はますます深刻化する一方のようだ。
 
軍政の強権的な弾圧はますます強まっている。それに対して反発する市民は武装化に突き進み、少数民族武装組織と連携しながらの「闘争」を仕掛けている。深刻なコロナ禍と実質的な内戦。最近、日本では報道されることがめっきり減少したミャンマーは、深い泥沼に入り込んでいる。【7月9日 大塚 智彦氏 JBpress】
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抵抗・衝突は続いている・・・とは言え、最近その種の報道が少ないということは、やはり国軍の「力による封じ込め」が一定に奏功して、大規模な抵抗が困難になっているということではないでしょうか。

国軍は将来的な選挙実施も言及してはいますが、スー・チー氏排除の姿勢を強めています。

****スー・チー氏、また訴追 ミャンマー、汚職容疑で****
ミャンマー国軍のクーデターで拘束され、無線機の違法輸入などで相次いで訴追されたアウン・サン・スー・チー氏が新たに4件の汚職容疑で訴追されたことが12日、分かった。弁護士が明らかにした。軍政は新たな訴追で拘束を長期化させる狙いとみられる。
 
スー・チー氏はこれまでにも現金や金塊を不正に受領したとして汚職容疑で訴追されているが、今回の詳しい訴追内容は明らかにされていない。
 
自然災害管理法違反や国家機密漏えいなどでも訴追されており、一部の裁判については8月にも判決が言い渡される見通し。軍政はスー・チー氏を政界から徹底排除する構えだ。【7月12日 共同】
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【国軍の後ろ盾として存在感が際立ってきたロシア 中国は深入りを避ける】
欧米諸国が制裁などを課すなかで、中国・ロシアが国軍支配を支援しているとも言われますが、中国は積極的な国軍支援ととられることは控え、中立的な立場もとりながら、とにかく自国権益の保護を求めているという状況です。

国軍の方も、かつての軍事政権時代には他に選択肢がない状況で中国に接近はしましたが、もともと中国の影響力拡大への警戒感が強いことも指摘されています。

最近積極的国軍支援が目立つのは、6月にミン・アウン・フライン総司令官が訪問したロシアです。

****ミャンマー軍事政権、ロシアの援護が急拡大****
長年の後ろ盾だった中国は軍事政権から距離を置く

ミャンマー軍事政権の強力な後ろ盾として、ロシアの存在が際立ってきた。クーデターが発生した2月以降、ロシアは外交支援を提供し武器売却交渉を進めるなど、存在感を増している。
 
ロシアは先月、クーデターを指揮したミン・アウン・フライン国軍総司令官を招き、防衛関係について協議したほか、国防関連の高官をミャンマーに派遣した。クーデター以降、ミャンマーを訪問した外国人としては最上位クラスだ。
 
ロシアの動きは、かねてミャンマーの後ろ盾で、最大の投資家でもある隣国・中国とは対照的だ。中国はクーデター以降、軍事政権とは距離を置き、国家の安定性について懸念を表明している。
 
米国など西側諸国がミャンマー軍事政権の孤立化を狙う中で、ロシアとの関係強化は、ミャンマーの軍幹部らに選択肢を与えるとともに、軍事政権の立場を支え、武器を含む支援で中国への依存を減らす役割を果たしている。外交政策の専門家はそう分析している。

ロシアにとっては、影響力を高め友好国を増やす機会となる一方、西側諸国が唱える民主主義を妨害することができる。ロシア政府とミャンマー軍の情報室はコメントの要請に応じていない。
 
かつてのミャンマー民主政権を代表するチョー・モー・トゥン国連大使は、クーデター以降「中国が中立の立場を貫こうしている」ため、「ロシアとミャンマーの軍事関係がこれまで以上に強化されている」と話す。
 
ミャンマー軍事政権は、沈静化することのない市民の抗議活動を武力で抑え込んでおり、15日時点で民間人912人が軍事政権によって殺害された。ミャンマーの逮捕者や犠牲者を監視している非営利組織「政治犯支援協会(AAPP)」(本拠:タイ)がデータを集計した。

こうした中、国際社会から糾弾されている軍事政権は、武器の確保が難しくなっており、ロシア製武器の魅力が高まっていると国防関連のアナリストは指摘している。(中略)
 
また、ミャンマーとロシアは国防・経済関係での統合深化を目指しているとみられている。前出のグレバット氏らによると、ミャンマー北東部ミッチーナー近郊にあるナムポン空軍基地では、ロシアがキットで届けたヘリコプターの組み立てを行っている。【7月19日 WSJ】
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【「不服従運動」で医療態勢が崩れ、ワクチン接種は進まず、病床や医療用酸素の不足も深刻】
ミャンマー情勢で目立つのは、新型コロナ感染の拡大、医療崩壊の現状です。

****ミャンマーでコロナ急拡大 クーデターで医療制度はまひ****
ミャンマーでは、国軍のクーデターに抗議する不服従運動に参加した医療従事者らが国軍の運営する病院に戻らない中、新型コロナウイルス感染が全国で急拡大している。自宅で亡くなる感染者が急増し、ボランティアが民家を回って遺体を火葬場へ運んでいる。
 
最大都市ヤンゴンでは毎朝早くから、タン・タン・ソーさんのもとに遺族からの依頼の電話が次々と入る。所属するチームは連日30〜40人の遺体を引き取っており、「他のチームも同じような状況だと思う」と話す。
 
全国の病院には、医師の姿も患者の姿もない。2月のクーデターで実権を握った国軍に対するストライキの影響だ。
 
クーデターへの怒りと、軍事政権の協力者だと思われたくないとの理由から、多くの人が国軍運営の病院へ行くことを避けている。このため、ボランティアが酸素の調達や火葬場への遺体搬送を担っている。
 
ヤンゴン各地では感染者の家族が大勢、軍事政権による夜間外出禁止令を破り、酸素ボンベを充填(じゅうてん)しようと必死になっている。
 
ミャンマーの感染者数は、5月初旬は1日当たり50人程度だったが、17日には当局発表で約5500人に上った。だが専門家は、実際の感染者数ははるかに多い恐れがあると指摘している。
 
クーデター以前に最前線で新型コロナウイルスと闘っていた医療従事者は、初期の反クーデター大規模デモを主導していたことから国軍の標的になっている。ワクチン接種計画の責任者を含む保健当局トップらは拘束され、その他多くの関係者は拘束から逃れるために身を潜めている。
 
母親が感染したためヤンゴンから北西部カレーに戻って来た女性は、「クーデター前のコロナウイルス対策は適切で、政府は頻繁に通知や発表を出していた」と話す。「しかし、クーデターが起きてからは私たちは何もかもが怖くなり、コロナウイルスにあまり注意を払わなかった。(中略)そして突然、(ウイルスが)戻ってきた」と述べ、「今は感染対策は存在しない」と語った。
 
ミャンマーの人権問題に関する国連特別報告者は先週、同国が「新型コロナウイルス感染症のスーパースプレッダー国になる」恐れがあると警告した。 【7月19日 AFP】
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****ミャンマー、コロナ深刻 医療態勢悪化「原因、すべて国軍」****
国軍がクーデターで権力を握ったミャンマーで、新型コロナウイルスが猛威を振るっている。国軍に抗議する「不服従運動」で医療態勢が崩れ、ワクチン接種は進まず、病床や医療用酸素の不足も深刻だ。市民らは免疫力を高めて自衛しようと、栄養価の高い食べ物を買い求め、スーパーの棚から商品が消える事態も起きている。
 
当局発表によると、14日には新規感染が7千人を超え、検査数に占める陽性率も3割超になった。累計の死者数は17日までに4700人を超えたが、実際の数はさらに多いとみられている。当局は14日、17~25日を急きょ休日にすると発表。感染予防のため外出を控えるよう国民に求めた。
 
医療態勢はもともと脆弱(ぜいじゃく)だったが、クーデター後に多くの医療関係者が国軍への不服従運動に参加し、職場を放棄した。中国やロシアからワクチンを確保しても接種する医療スタッフが足りない。市民の側も国軍が手配したワクチンへの拒否感が根強い。
 
病床の不足も深刻だ。最大都市ヤンゴンに住む自営業の女性(38)は同居の伯母に症状が出たが、病院では診てもらえず、自宅内での「隔離」を余儀なくされた。
 
医療用の酸素も逼迫(ひっぱく)している。ヤンゴンでは患者の家族らが、工場などの前にボンベを持って列をなす。80歳の母親をコロナで亡くしたヤンゴンのトゥンアウンさん(40)は「酸素も治療も間に合わず、SNSで助けを求めたものの無力だった」と肩を落とした。
 
国軍側は酸素の買いだめを防ぐため、供給に制限を加えている。不服従運動に参加し、患者の自宅への訪問診療を続けているヤンゴンの男性医師は「酸素が手配できず、必要な治療ができない。地獄のような状況だ」と話し、「原因はすべて国軍にある」と憤った。
 
感染の拡大に伴い、国境をまたぐ物流が制限されたことも状況の悪化に拍車をかけている。また、国軍に対抗して各地で市民が立ち上げた武装組織に武器が渡るのを防ぐため、国軍は国内の物流網も遮断。現地メディアによると、その影響で必要な医療物資の供給も滞り、医療用マスクなどが高騰している。
 
市民は栄養のあるものを食べようと鶏肉や卵などを買い求めているが、供給が追いついていない。【7月19日 朝日】
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国軍の弾圧・強権支配に新型コロナ、前門の虎後門の狼といった状況です。
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