タイ
マレーシア
インドネシア
(【ロイター COVID-19 TRACKER】)
【デルタ株拡大で相次ぐ行動規制強化】
東南アジア諸国は欧米に比較すると新型コロナ感染はこれまで低レベルに収まっていた国もありますが、感染力の強いデルタ株の出現によって4月ごろから各国とも感染拡大が深刻化し、行動規制を強化しています。
また、各国ともワクチン接種が進んでいないという課題を抱えています。
****東南アジア、コロナで行動規制拡大 タイやマレーシア****
東南アジア主要国が新型コロナウイルス対策を強化している。タイは28日から首都バンコクなどで店内での飲食を再び禁止したほか、マレーシアは都市封鎖(ロックダウン)の再延長を決めた。感染力の強いインド型(デルタ株)が広がりつつあり、各国はより強い措置で感染拡大を封じ込める。
タイ政府は28日から30日間、バンコクなどで店内飲食を禁止し、20人以上の集まりや、移民労働者らが密集しがちな工事現場での作業も禁止する。
マレーシアは28日が期限だった都市封鎖を延長する。新規感染者数が1日4000人を下回るまで続ける。国営ベルナマ通信がムヒディン首相の発言として伝えた。
4月下旬以降に感染者数が増加しているベトナムも、南部の最大都市ホーチミンで6月20日に不要不急の外出制限が導入され、バスなどの公共交通機関も運行を停止した。
東南アジア主要国では4月ごろから新型コロナ感染が再拡大している。
インドネシア政府は27日、同日の感染者数が過去最多の2万1342人だったと発表した。タイでも1日あたりの感染者数が3千~4千人台と高止まりする。一部の国では病床が逼迫し、死者数も増えている。
感染が収束しない一因が新型コロナワクチン接種の遅れだ。
英オックスフォード大の研究者らがつくる「アワー・ワールド・イン・データ」によると、6月下旬の時点で、ワクチンを最低1回接種した人の割合はタイやインドネシアで9%台、フィリピンで6%台にとどまる。接種が進む米国や英国の50~60%台と比べて低く、感染が広がりやすい状態が続く。
各国はワクチン接種を加速させる。インドネシアはこのほど、ジャカルタなどに大規模接種会場を設置した。ジョコ大統領は26日、ツイッターに「1日100万回の接種を目標に据えた」と投稿し、接種を加速する考えを示した。
タイでも5月末、バンコクに大規模接種会場が設置された。ドゥテルテ比大統領は21日、「接種するか、投獄されるか選ぶことになる」と述べ、国民に対して強い調子でワクチン接種を求めた。【6月28日 日経】
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【タイ 基幹産業の観光再開を急ぐ】
新型コロナ感染拡大に関連する事情を国別にみると、先ずタイ。
タイでは1日あたりの感染者数が3千~4千人台と高止まりするなかで、“タイ当局が1日発表した新型コロナウイルスによる死者は57人と、1日当たりの過去最多を2日連続で更新した。”【7月1日 ロイター】と厳しい状況にありますが、このまま基幹産業である観光を止める訳にもいかないという事情もあります。
****タイ観光業、第2四半期に55万人が失業=業界団体****
業界団体のタイ観光評議会(TCT)は29日、第2・四半期にタイ国内の観光業界で55万人の雇用が失われたと発表した。
タイではこれまでで最悪となる新型コロナウイルス感染第3波が4月に始まり、外国人観光客の激減で国内支出と旅行が大きな打撃を受けている。TCTの調査によると、旅行会社の34%が一時的に、4%が恒久的に閉鎖した。
また、第2・四半期は観光部門の景況感が過去最低に低下した。ホテルの客室稼働率は第1・四半期の20%から10%に低下。TCTのチャムナン・シーサワット会長は、コロナ禍開始以来観光業界では200万人以上が失業し、そのうち40万人が今年第1・四半期に失職したと述べた。
リゾート地のプーケットで7月1日からワクチン接種済みの外国人観光客を試験的に受け入れる試みが始まり、業界では今年の観光客誘因に期待が出ているが、会長はコロナ禍前の2019年に記録した4000万人のほんの一部しか戻らないと見通した。
会長は、「大半の旅行会社の手元には、最大6カ月分の運用資金しかない。それまでに感染が制御できて経済が改善しなければ、さらに多くの企業が閉鎖される」と述べた。【6月30日 ロイター】
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こうした切羽詰まった事情もあって、タイ政府はプーケット観光再開を強行しています。
****タイ・プーケット、観光客受け入れ再開 ワクチン接種で隔離不要****
タイの人気観光地プーケット島は1日、隔離期間なしでの観光客の受け入れを再開した。同国は同日正午前には、第1弾となる乗客25人を載せたエティハド航空の旅客機が到着した。
タイは、過去最悪の新型コロナウイルス感染拡大に見舞われているものの、政府は新型コロナウイルスによって壊滅的な打撃を受けた観光業の復活を期待し、新型コロナウイルスワクチン接種済みの旅行者に限り、隔離期間なしで入国を許可する「プーケット・サンドボックス」制度を導入した。
タイは変異株「アルファ株」と「デルタ株」の感染拡大で、流行の第3波に見舞われており、首都バンコクと近郊には感染対策の制限が課されている。6月30日には、1日当たりの死者は、53人と過去最多となった。
だが、当局は予定通りプーケット・サンドボックスを開始すると表明。1日には、イスラエル、アラブ首長国連邦、カタール、シンガポールからの4便、計249人が到着を予定している。
外国人観光客は到着時に専用のスマートフォン・アプリのインストールを求められ、その動きは管理センターで追跡される。同センターは感染が発生した場合も対応に当たる。
関係者らは観光の再開を待ち望んでいた。タイを訪れる観光客は毎年約4000万人で、国内総生産の約18%を観光業が占める。だが、ここ1年ほどプーケットの白い砂浜はいつになく静かで、8割以上のホテルが休業している。
島民の3分の2は、観光客受け入れに向け、ワクチン接種を完了している。 【7月1日 AFP】
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感染は収まった訳ではないが、何とか観光業を再開したい・・・というタイ政府の苦悩は、日本政府のオリンピックへの思いと似たようなものでしょう。
【マレーシア 巨額の追加経済対策 国会再開問題で政局絡みの展開にも】
次にマレーシア。こちらはタイより深刻。
5月末には、人口当たりの新規感染者数はインドを超えるレベルに。
****新型コロナ、アジアで続く「負の連鎖」、今度はマレーシアで感染急拡大、1日から都市封鎖****
マレーシアで新型コロナウイルス感染症が急拡大している。人口当たりの新規感染者数は5月末、インドを超えた。事態を重視した政府は1日から2週間、全国で経済や社会活動を停止するロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。ワクチン接種が進み、日常が戻りつつある欧米とは対照的にアジアでは「負の連鎖」が続いている。
多くの海外メディアが引用する米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、マレーシアの累計感染者数は1日現在、57万9462人。感染者が急増した結果、人口100万人当たりの7日間の平均新規感染者数は5月26日の時点で211人となり、インドの165人を大きく上回る深刻な状況となった。累計死者数は人口3200万人に対し約2800人だが、5月だけでその40%以上を占めている。
AFP通信はイスラム教徒が大多数を占めるマレーシアで、変異株に加えて感染拡大の要因となったのは「5月12日に終わった断食月ラマダン(Ramadan)と、その終わりを祝う大祭「イード・アル・フィトル(Eid al-Fitr)」期間中の集まりだ」と報道。「こうした集まりでは新型コロナ対策の規則が守られないことが多い」とも伝えた。
ロックダウンについて、マレーシア政府は当初、経済へのダメージが大きいことから否定的な姿勢を示していた。同国では昨年3月から5月にかけ、事実上の「ロックダウン」となる厳しい感染拡大防止策が講じられた結果、4〜6月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比で17.2%減少するなど経済に深刻な影響が出た。
ムヒディン首相は5月23日の地元メディアとのインタビューで「都市封鎖を実施すればマレーシア経済に深刻な影響を与え、経済破綻に陥る可能性もあり、財政負担も膨らむ」と述べていたが、感染は加速する一方。
首相府は5日後の28日、声明を出し6月1日から14日までの2週間、全土が「完全なロックダウン」に入ると発表した。ムヒディン首相は声明で医療が圧迫されており、「より攻撃的で強い感染力を持つ変異株の存在も判断の決め手だった」として、国民に協力を求めた。
ロックダウンにより、スーパーや銀行といった生活に最低限必要な業種や一部の製造業を除いて経済活動が禁止される。人々の外出は生活必需品の買い出しや通院などを除いて認められない。ほとんどの学校も閉鎖される。
首相府によると、2週間のロックダウンによる新規感染者数の減少具合など見て、社会・経済活動の規制を一部緩和する第2段階への移行を検討。その後、第2段階の規制を4週間継続し、状況が改善すればさらに規制緩和を広げて操業可能な業種を拡大する方針という。【6月5日 レコードチャイナ】
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ロックダウンは延長され、それに伴い巨額の財政支出で生活・事業支援も行われています。
ただ、それはそれで、政治問題ともなります。
****マレーシア、4兆円の追加経済対策 ロックダウン延長で****
マレーシアのムヒディン首相は28日、総額1500億リンギ(約4兆円)の追加経済対策を発表した。このうち100億リンギが直接の財政投入を伴う「真水」となる。6月1日に導入したロックダウン(都市封鎖)の延長を受けた措置で、現金給付や債務の返済猶予などによって経済への悪影響を軽減する。
今回の経済対策は、5月末に発表した経済対策(総額400億リンギ)に続くもので、2021年の年間予算(3225億リンギ)の半分近くに相当する巨額な対策となる。マレーシアは20年の新型コロナ発生以降、計7回総額3800億リンギの経済対策を実施しており、新型コロナの収束の遅れによって国費投入が膨らむ事態が続いている。
今回の対策は生活が苦しい個人への給付や事業の中断を余儀なくされた企業への支援など、過去のメニューの繰り返しが多い。個人向けの支援策では所得水準に応じて、最大1300リンギを給付するほか、電気料金の割引やガソリン価格の維持によって生活費を抑えられるようにする。
所得水準にかかわらず、銀行への返済も無条件で6カ月間猶予する。企業向けでは従業員に支払う給与の一部を補助することに加え、デジタル機器の購入資金を補助し、中小企業のデジタル化を後押しする。
マレーシアでは新型コロナの感染者数が5月末に1日あたり9000人を超え、政府は当初6月1日から14日までの計画でロックダウンを導入した。ただ、その後も政府が規制緩和の目安とする1日あたりの感染者数4000人を上回り続け、ロックダウンを2度にわたり延長する事態に追い込まれた。ロックダウン中は日常生活に不可欠な業種や一部の製造業以外の操業が禁止され、社会活動も大幅に制限される。
新型コロナの感染拡大が長期化し、国民からのムヒディン政権への批判は高まっている。巨額の経済対策は国民の不満を和らげる狙いもある。一方で、ロックダウンがさらに長引けば、現金や補助金の支給が繰り返され、財政はさらに悪化することになる。【6月29日 日経】
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マレーシアのGDPは日本の約14~15分の1ですから、約4兆円の追加経済対策というのは、日本で言えば約60兆円という巨額になります。
また、ロックダウンについては与党連合内の軋みも生んでいます。
“与党連合内部の不満も再燃している。その急先鋒は与党・統一マレー国民組織(UMNO)のナジブ元首相だ。巨額の資金流用疑惑で失脚したが、ロックダウンは「中途半端」で多国籍企業には特別に操業継続を認めていると非難している。コロナ禍が長引けば、ナジブの返り咲きも現実味を帯びてきそうだ。”【6月9日 Newsweek】
一方、ムヒディン首相はコロナ対策を理由に国会を閉じてきましたが、野党からは当然批判が。
野党だけでなく国王からも。
****国王、首相に国会再開の圧力 マレーシア、異例の対応****
マレーシアのアブドラ国王がムヒディン首相に対し、半年以上も休会している国会を再開するよう圧力を強めている。新型コロナウイルスの新規感染が収まらず、経済対策を含め国会で議論がない点を問題視した。立憲君主制のマレーシアでは異例の対応で、ムヒディン氏は厳しい立場に追い込まれた。
国王は6月29日に上下両院の議長と面会し、国会を8月1日までに再開するよう改めて求め、両議長は再開を約束するとの共同声明を出した。関連は不明だが、ムヒディン氏は体調不良で入院した。
下院で過半数をぎりぎり確保するムヒディン政権には、再開後の国会の円滑運営は望めない。【7月1日 共同】
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国会を再開すると、野党からの批判、与党連合内の軋轢で政局は流動化する可能性も。
【インドネシア 6月以降急拡大 現地日本人にも影響】
インドネシアでは、今現在猛烈な急拡大に襲われており、こうした感染拡大により緊急措置が発動されています。
****インドネシア、新型コロナ感染急増で「緊急措置」発動*****
インドネシア政府は、新型コロナウイルスの感染急増を受けて、今月2日から20日まで緊急措置を発動する方針を示した。
同国の感染者はここ数週間、連日で過去最多を更新。先月30日の新規感染者は2万1807人に達した。
アイルランガ調整相(経済担当)は30日遅く、法の執行を伴う衛生手続きを導入するとインスタグラムに投稿。詳細は明らかにしなかったが、ロイターが入手した政府文書によると、手続きはジャワ島とバリ島に適用される。
同文書は、1日の感染者を1万人以下に半減させるため、飛行機による移動を含めた移動制限や、レストランでの飲食禁止、必要不可欠ではないオフィスの閉鎖、ショッピングモールの閉鎖を提案するとしている。
ただ、この文書は予備的なもので、正式には公表されていない。
ジョコ大統領は30日、感染拡大に歯止めをかけるため、規制の強化が必要だと発言。全国の病床利用率は72%だが、ジャカルタなど一部の地域の利用率は72%を大幅に上回っていると述べた。
同大統領は、ワクチン接種の目標も引き上げ、7月に1日当たり100万回、8月に200万回とした。直近の接種ペースは1日当たり20ー30万人となっている。【7月1日 ロイター】
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感染急拡大で医療現場は危機的状況にも。
****デルタ株で「大惨事の瀬戸際」 インドネシア、赤十字が警告****
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は29日、インドで最初に確認された新型コロナウイルス変異株のうち、感染力が強い「デルタ株」が広がるインドネシアで、医療機関が逼迫しているとして「大惨事の瀬戸際に近づきつつある」と警告、ワクチン接種の加速化や検査数の拡充を求めた。
IFRCによると、首都ジャカルタや周辺都市の病院で医療用酸素が不足しつつある。地元メディアによると、ジャカルタ特別州のリザ副知事は28日、ジャカルタにあるコロナ患者用隔離施設のベッド占有率は「93%に達した」と述べた。
同国では2回接種完了は人口の5%以下にとどまっている。【6月29日 共同】
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日本人も多い国ですから、混乱の影響はそうした日本人にも及んでいます。
****インドネシアで感染急増 酸素高騰、日本人も入院待ち****
(中略)
■日本人も感染、国外退避の検討も
インドネシアに暮らす日本人の間でも新型コロナ患者が増えている。1日時点で、現地の日本大使館が把握する日本人感染者数は累計約250人で、死者数は6人。
日系企業の海外駐在員に医療機関を紹介する「ウェルビーホールディングス」の現地法人代表の西田陽一郎さんによると、日本人の感染者数は6月中旬以降に急増。ここ2週間で100人以上が新規感染している。現地従業員からの感染だけでなく、日本人同士の接触で感染が拡大しているという。
1日時点で同社が把握する入院待ちの日本人のコロナ患者数は54人。西田さんは「入院できないことを心配し、一部の日系企業では駐在員の国外退避の検討が本格的に始まっている」と話す。
国内の感染拡大は、政府が進める経済復興施策にも影を落とす。ロイター通信は6月29日、政府が今年7月を目途に進めていた世界的リゾート地バリ島の観光客受け入れを延期すると報じた。サンディアガ・ウノ観光・創造経済相はロイター通信の取材に対し、「感染状況の改善を待ちたい」と話した。【7月1日 朝日】
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個人的にはバリ島の観光客受け入れ再開を期待していたのですが、もうしばらく時間がかかりそう。
まあ、帰国時の日本における隔離措置が解除されなければ、いずれにしても行けませんし。