孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モルドバ  昨年11月の大統領選挙に続き、議会選挙でも親欧米派が勝利 進むロシア離れ

2021-07-14 23:17:21 | 欧州情勢
(モルドバの首都キシニョフで11日、議会選で投票後、記者団に話すサンドゥ大統領【7月12日 朝日】)


【また一つ、ロシア離れの国が】
欧州にあっては「ロシアの脅威」が現実の問題としてありますが、ロシア・プーチン大統領がその軍事力を背景に強引に力で勢力圏を広げようとしている・・・そんなイメージもあるようにも思います。

しかし、ソ連崩壊後・冷戦終結から現在に至るまでの情勢を“総合的・俯瞰的”に眺めると、現実は逆で、EUの東方拡大策もあって、旧ソ連圏の国々はオセロゲームのように次々と親欧米に裏返っており、更には2000年ごろからのカラー革命でジョージア(当時のグルジア)、ウクライナもロシアを離れて親欧米に変わっています。

クリミア併合に見られるようなロシア・プーチン大統領の強行策は、そうしたロシアへの逆風に対するプーチン大統領の不安・恐れ・焦り・怒りなどの裏返し、“悪あがき”とも言えるようなものでもあります。(プーチン大統領にすれば、EUの東方拡大は“約束違反”であり、カラー革命はアメリカの画策ということになり、実際、そういう面も多々あるでしょう)

ただ、いかにプーチン大統領が力を誇示したところで、それで獲得できるのはクリミアや東部ウクライナといった一部地域に過ぎず、それによってウクライナ本体はますます強固にロシアと対立する結果ともなっています。

ロシアに残されたのは国としてはベラルーシぐらいですが、そのベラルーシもルカシェンコ大統領の強権支配に対する市民の抵抗で揺れているのは周知のところ。

なお、上記“国として”と書いたのは、独立国とは国際的に認められていない親ロシアの“地域”がいくつかあるからですが、その一つが欧州最貧国モルドバにある沿ドニエストル地域です。

そのモルドバは、欧米とロシアの間で揺れ動くような状況で、1991年の独立後、親欧米派と親露派の政権交代が繰り返されてきました。

大統領は、同国で強い実権を持つ議会が長らく選出してきましたが、2016年に直接選挙制となり、親ロシアのドドン氏が当選。しかし2020年11月には親欧米のサンドゥ現大統領が当選。

(なおサンドゥ大統領は、2019年6月から11月にかけては首相を務めていますが、妥協を許さず信念を曲げないその政治姿勢から「鉄の女」の異名をとっています。)

更に、サンドゥ大統領が主導する形で今月11日に行われた議会選挙でも親欧米派が勝利し、今後親欧米の方向に大きく舵をきることが予想されます。

****モルドバ議会選、親欧米派勝利 駐留ロシア軍の撤退主張****
東欧の旧ソ連国モルドバで11日、議会選(定数101)が行われ、親欧米政党の「行動と連帯」が親ロシア路線の政党連合に大差をつけ、議席の過半数獲得を確実にした。

昨年11月の大統領選で親ロシア路線の現職を破った「行動と連帯」創設者のマイア・サンドゥ現大統領(49)の政治基盤は安定し、ベラルーシの政権危機などで旧ソ連圏での影響力維持に腐心するロシアには大きな痛手となる。
 
ロシアのインタファクス通信によると、開票率98%超で「行動と連帯」の得票率は52・72%。議会第1党で親ロシア路線のイーゴリ・ドドン前大統領(46)率いる社会党は共産党と統一名簿で臨んだが、約27・24%にとどまっている。「行動と連帯」は定数101のうち63議席前後を占めるとみられる。
 
親欧米路線と親ロシア路線の対立が続くモルドバで、一つの党が単独で過半数を握るのは、共産党の優位が続いていた2009年以来だ。
 
同国初の女性大統領であるサンドゥ氏は12日未明、開票結果を受けてフェイスブックに「きょうの投票のエネルギーをモルドバの変革に使わなければならない」と書き込んだ。昨年12月の就任以来改革の必要性を強調。選挙戦ではドドン前政権下で主導権を握った議会主要勢力の腐敗批判に力を入れてきた。
 
一方のドドン氏は「大統領府にいるのは外国から操られる人々だ」などと主張してきた。
 
サンドゥ氏は、1991年のソ連崩壊時の紛争以来、政府の支配が及ばない状態の東部沿ドニエストル地域に駐留するロシア軍の撤退を求める考えを明らかにしている。プーチン大統領と交渉するとしており、ロシアは「(駐留ロシア軍の)平和維持の役割は終わっていない」とし、警戒を強める。
 
議会の任期は23年までだったが、サンドゥ氏が政治的な行き詰まりを打開するため選挙の前倒しを主張。反対する社会党など議会勢力は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に非常事態を決議して抵抗したが、最高裁が解散を認めた。
 
旧ソ連国との「東方パートナーシップ」でモルドバを支援する欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は4月、解散を阻止しようと最高裁裁判官の解任に動いた議会に対し「法の支配に対する攻撃だ」と批判する声明を発表。これにロシアのザハロワ外務省報道官が「内政干渉だ」とかみつくなど、モルドバをめぐるロシアと欧米のさや当ても強まりつつある。

モルドバ共和国 
人口約270万。公用語はルーマニア語。現在のモルドバの領土は1918年にルーマニアに編入されたが、40年にソ連がナチスドイツとの密約にもとづいて併合。91年のソ連崩壊で独立した。

その際ロシア系住民の多い東部の沿ドニエストル地域が分離独立を主張し、ロシア軍の支援を受けて政府軍と紛争に。92年7月に休戦協定が成立。以来同地域は中央政府の支配を受けず、「平和維持軍」としてロシア軍が駐留する。【7月12日 朝日】
**********************

****モルドバ、欧米接近加速へ 露は警戒****
(中略)「行動と連帯」は、公職者にはびこる腐敗の根絶や、事実上同じ言語を共有する隣国ルーマニアとの協調拡大を掲げて支持を得た。「ロシアや旧文化に親近感を持たない新世代」(露専門家)の台頭も同党の勝利を後押しした。

サンドゥ氏は昨年11月の大統領選で当選し、議会との「ねじれ」を解消するために議会選の前倒しに踏み切った。今回の選挙結果を受け、モルドバの「ロシア離れ」が進みそうだ。

サンドゥ氏は大統領就任後、国内の親露分離派地域「沿ドニエストル」に駐留する露軍の一部は非合法だとし、撤収を求めた。ドドン前政権がロシアの主導する「ユーラシア経済連合」のオブザーバー参加国の資格を得たことについても見直す考えを示してきた。

露イタル・タス通信によると、米国務省のプライス報道官は「2国間協調の拡大を楽しみにしている」と親欧米派の勝利を歓迎。対照的に、露上院のコサチョフ副議長は「モルドバはかなり強く欧米側に傾斜するだろう」と警戒感を示した。

モルドバは今年5月、ジョージア、ウクライナとともに、欧州連合(EU)加盟に向けて協力するとの覚書を締結した。3カ国は北大西洋条約機構(NATO)の演習にも自国部隊を派遣しており、欧米接近路線を鮮明にしている。

一方、経済面で対露依存度が高く、「沿ドニエストル」を抱えるモルドバでは、過度にロシアを刺激するのは危険だとの意識も根強い。「行動と連帯」のグロス党首は議会選後、ロシアとは「予測可能で正常な関係」を構築していく用意があると述べた。ジョージアは2008年、ウクライナは14年にロシア軍の侵攻を受けている。【7月14日 産経】
*********************

【親露分離派地域「沿ドニエストル」からのロシア軍撤退を要求するサンドゥ大統領】

サンドゥ大統領の親露分離派地域「沿ドニエストル」からのロシア軍撤退要求については、サンドゥ氏が大統領選挙で勝利した昨年末記事では以下のようにも。

****モルドバ「ロシア離れ」鮮明 次期大統領、露軍の撤退要求****
東欧の旧ソ連構成国モルドバで、次期大統領に就任予定のサンドゥ前首相が、現職のドドン大統領が進めてきた親ロシア路線を見直す動きを強めている。

サンドゥ氏は11月末、ロシア系住民が実効支配する親露分離派地域「沿ドニエストル」に駐留するロシア軍は撤収すべきだと発言し、ロシアの反発を招いた。旧ソ連圏で進む「ロシア離れ」がモルドバでも表面化した形で、ロシアは焦りを深めているとみられる。(中略)
 
サンドゥ氏は11月30日、「沿ドニエストルには(弾薬管理などを担当する)ロシア軍部隊が駐留しているが、モルドバ側とのいかなる合意もない」と述べ、ロシア軍は部隊を撤収すべきだとの認識を表明。ロシア軍などが担ってきた平和維持活動を、欧州安保協力機構(OSCE)主導に転換すべきだとも述べた。
 
サンドゥ氏はまた、ドドン政権下のモルドバが2018年、ロシアの主導する「ユーラシア経済連合」のオブザーバー参加国の資格を得たことについて「合法的な手続きを経たのか確認すべきだ」と指摘。同経済連合との関係を見直す可能性も示唆した。
 
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は今月1日、「ロシア軍の駐留はモルドバの主権侵害だ」とし、サンドゥ氏の立場を支持した。
 
これに対し、ラブロフ露外相は同日、「ロシア軍の撤退は和平に寄与しない。無責任な要求は容認できない」と反発。ロシア軍駐留の必要性を認めてきたドドン氏も「ロシアとの関係を悪化させる」と警告した。
 
旧ソ連圏では近年、ロシアの影響力低下が指摘されている。中央アジアでは中国の存在感が強まり、南カフカス地方でもトルコが勢力を拡大。

一方のロシアは14年にウクライナに軍事介入し、同国とは事実上の断交状態が続く。大統領選の不正をめぐって混乱するベラルーシでは、ルカシェンコ大統領を支援するロシアへの反感が強まっている。
 
ロシアはこれ以上の「勢力圏」の縮小を食い止めるためにもモルドバの欧米接近を阻止したい考えで、今後、モルドバに対する政治的・経済的圧力を強化する可能性がある。
 
ドニエストル川東岸の「沿ドニエストル」ではソ連末期の1990年、ロシア系住民がモルドバからの分離独立を宣言し、モルドバ中央との紛争に発展した。92年に停戦が成立したが、ロシア系住民の実効支配が続き、分離独立派を支援したロシアの駐留軍も維持されている。【2020年12月4日 産経】 
**************

「沿ドニエストル」については。かなり前の記事になりますが、2015年6月13日ブログ“ロシア 南オセチア統合へ 微妙な「沿ドニエストル共和国」 拡張路線には旧ソ連圏でも警戒感”でも取り上げたことがあります。

こうした旧ソ連「未承認国家」は、沿ドニエストルの他にも、アゼルバイジャン西部のナゴルノカラバフやジョージア(旧グルジア)の南オセチア自治州とアブハジア自治共和国などがあります。

****旧ソ連「未承認国家」多く 紛争再燃の危険はらむ****
旧ソ連圏には、モルドバの「沿ドニエストル」以外にも、各国政府の施政権が及ばず、一方的に独立を宣言した「未承認国家」が存在する。

過去に中央政府との紛争を経ており、軍事衝突が再燃する危険をはらんでいる。アゼルバイジャン西部のナゴルノカラバフ自治州をめぐる紛争が9月に起き、11月の停戦までに5千人以上の死者を出したのが一例だ。
 
ナゴルノカラバフではソ連末期の1980年代後半、多数派のアルメニア系住民がアルメニアへの帰属替えを要求し、アゼルバイジャンとの紛争になった。ロシアは91年に「共和国」樹立を宣言したアルメニア側を支援し、94年に停戦。しかし対立は続き、今年9月に紛争が再燃した。
 
ジョージア(グルジア)の南オセチア自治州とアブハジア自治共和国はそれぞれ90年代前半にジョージア中央と戦火を交え、独立を宣言した。両地域はロシアの庇護を得る形で事実上の独立状態を享受。2008年のロシアとジョージアの軍事衝突後、ロシアは両地域の独立を承認した。
 
ウクライナでは14年、東部ドネツク、ルガンスク両州の親露派武装勢力が「人民共和国」樹立を宣言し、ウクライナ軍との大規模戦闘になった。親露派はロシアの軍事支援を受けて現地の実効支配を続ける。
 
ロシアにはジョージアやウクライナの分離派地域を支援することで、両国の北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻止する狙いもある。【同上】
**************************

【ルーマニアとの統一問題も】
モルドバの場合、ロシアの実質支配下の「沿ドニエストル」の存在に加えて、モルドバ自体のルーマニアとの統一という問題もあります。

****モルドバ大統領選で「鉄の女」が勝利 ロシアの頭痛の種がまたひとつ****
(中略)
当然、サンドゥとしてもロシアと事を荒立てたいわけではなく、建設的な協力関係を望んでいます。しかし、サンドゥが思い描くモルドバの国家建設と、EUおよび北大西洋条約機構(NATO)への接近政策を突き詰めれば、ロシアの地政学的な利益に必然的に抵触することとなります。

たとえば、ロシア語系住民がモルドバからの分離・独立を掲げている未承認国家「沿ドニエストル共和国」の問題では、サンドゥはモルドバ本国への統合を見据え、ここに派遣されているロシアの平和維持部隊の撤退を求める方針であり、これがモルドバ・ロシア関係の火種になる恐れがあります。

そして、モルドバの場合には、もう一つ複雑な要因があります。モルドバ人は民族・言語的にはルーマニア人と同根であり、モルドバ国土の主要部分はかつてのルーマニア領土です。それゆえ、ルーマニア側にはモルドバとの国家統一を目指す考えが、根強くあります。

モルドバ側は総じてより慎重であり、特にドドンに代表される左派、中道派はモルドバ独自の国家アイデンティティを守ろうとしています。

他方、親欧米派にはルーマニアとの統一に前向きな立場も見られ、サンドゥもかつて「もしも国民投票が実施されたら、私はルーマニアとの統一に賛成する」と述べたことがあります。モルドバの親欧米派はEU加盟を希望しているものの、EU側がモルドバを加盟候補国に位置付けてくれる見込みはなく、「ならば、すでにEUに入っているルーマニアに編入してもらうしかない」というのが、統一賛成派の論理です。

大統領の座がドドンからサンドゥに移るとはいえ、これでモルドバの東西選択の問題に最終的に決着が着いたとは言えないでしょう。ドドンもプーチンも、巻き返すことはまだ可能だと思っているはずです。

しかし、もし仮にルーマニアとモルドバの国家統一が現実のものとなったら、ロシアの失地回復は永遠に不可能になります。

いつになるかは分かりませんが、来たる議会選挙において、サンドゥの行動・団結党が過半数を握ったりすれば、ルーマニアとの統一に関する議論が本格化し、ロシアとの間で新たな軋轢が生じる可能性があります。

ただ、長い目で見れば、モルドバがロシアの重力圏を離れ、EUにますます接近していくことは、必然の流れなのかもしれません。今回の大統領選で、欧米に滞在する在外モルドバ人がサンドゥを熱烈に支持する様子を目の当たりにして、改めてそのような思いを強くしました。



上図に示した貿易のデータを見ても、10年くらい前までは、モルドバのCIS(旧ソ連諸国の連合組織)諸国との輸出入高(その大部分は対ロシア)と、EUとの貿易高は、ほぼ同じくらいでした。しかし、2000年代に入って、対CIS貿易は、対EU貿易に水をあけられるようになります。モルドバがEUと連合協定を結んだ2014年以降、差はさらに大きくなっています(ただし、モルドバの対EU貿易は、かなり対ルーマニア貿易に偏っている)。

2014年の連合協定を受け、ロシアは実質的な報復措置としてモルドバ産品に一方的に関税を導入し、また一時はモルドバ名産のワインを輸入禁止にしました。

逆に、ドドン大統領が登場して親ロシア政策を始めると、ロシアはモルドバ産の農産物・食品に対する関税を時限的な特例として免除するという、実に露骨な対応をとってきています。

しかし、そうした恣意的な政策の結果として、ロシアとモルドバの貿易が不安定化し、モルドバの貿易パートナーとしてEUの比率の方がはるかに大きくなっているのですから、ロシアの自爆としか言いようがありません。【2020年11月24日 BLOBE+】
*********************

上記記事で“いつになるかは分かりませんが”と言っていたサンドゥ氏の親欧米政党「行動と連帯」が議会過半数を獲得したことで、ルーマニアとの統一も議題に上がってきます。

ただ、現在のルーマニア側の反応は知りませんが、10年程前のルーマニア側の状況としては、統一への熱も冷めたような感もあって、この問題がすぐに動き出すことはないと思いますが・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする