
(ウガンダのエイズ支援組織のカウンセラーと住民。この組織は米政府の支援を受けて活動している=2月、カンパラ【3月27日 共同】)
【大統領令差し止めをめぐる政権と司法の対立も】
アメリカでは与党共和党は「トランプ党」と化し、民主党は敗戦のショックから立ち直れない状況で精彩を欠き、議会が大統領権限をチェックする機能を失っています。
そうしたなかで、司法が度々大統領令を差し止めるなどの判断を示し、これに政権側が反発する形で大統領・政権と司法の対立が表面化しています。
大統領周辺からは担当判事の弾劾を求める声も。
政権の意に沿わない判断で目立つのは地裁レベルで、最高裁においては以前から言われているようにこれまでのトランプ大統領の保守派最高裁判事任命という「成果」によって保守化している現状がありますが、必ずしも自動的に政権を支持するという訳でもないようです。
****米最高裁長官、大統領に異例の苦言 トランプ政権と司法界の摩擦を象徴****
ロバーツ米連邦最高裁長官は18日、米政権の施策を差し止めた判事を「弾劾すべきだ」と攻撃したトランプ大統領に対し、「不適切な対応だ」と批判する声明を発表した。大統領に裁判所トップが苦言を呈するのは極めて異例で、トランプ政権と司法界との摩擦を象徴する一件となった。米メディアが報じた。
トランプ氏は18日、交流サイト(SNS)に投稿し、敵性外国人法を使った犯罪組織メンバーの強制送還を差し止めた連邦地裁の判事を「狂った極左」「問題を起こす扇動者」などと罵倒し、弾劾されるべきだとした。
また犯罪組織を含む不法移民対策は、昨年の大統領選で自身が「歴史的な大勝を収めた理由だ」と指摘。厳しい対策の推進は有権者が望んでいることだと強調した。
トランプ氏の投稿後、ロバーツ氏が発表した声明は、「司法判断に対する不同意への対応として弾劾は不適切」と指摘。不服があれば「上訴手続きがある」と司法の場で争うよう求めた。
政権が敵性外国人法の布告を発表した15日、ワシントンの連邦地裁が差し止め処分を出したが、政権は200人以上の強制送還を断行した。
米国では政権が進める職員解雇や資金凍結などを裁判所が一時差し止めるケースが続発。トランプ氏側近の実業家のマスク氏や、共和党議員が担当判事の弾劾を呼びかけており、司法への圧力を警戒する声が出ている。【3月19日 産経】
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トランプ大統領の目玉政策である「アメリカ第一主義」に基づく対外支援の停止、そしてリベラルな「偏見」によってアメリカの利益にならない対外支援を行っている元凶としてのアメリカ国際開発庁(USAID)を解体するという政策についても、司法からは差し止めが起きています。
****米最高裁 USAID海外援助停止めぐり トランプ政権の主張退ける****
アメリカのトランプ政権がUSAID=アメリカ国際開発庁による海外援助への資金拠出を一時的に凍結したことをめぐり、連邦最高裁判所は資金を速やかに支払うよう求めた連邦地方裁判所の命令を支持しました。トランプ政権の主張を退けた形です。
トランプ大統領はことし1月、アメリカ政府の海外援助を90日間停止する大統領令に署名し、USAIDが行う海外援助は一部を除き、一時的に停止しています。
事業費を受け取っていた複数の団体が資金拠出の凍結は違法だとして訴訟を起こし、連邦地方裁判所は先月25日、すでに完了した事業の費用およそ20億ドル、日本円にしておよそ3000億円を支払うようトランプ政権に命じました。
この命令について政権側は無効だと主張し、最高裁判所に差し止めを求めていましたが、5日、最高裁判所は地方裁判所の命令を支持しました。 トランプ政権の主張を退けた形です。
最高裁判所の9人の判事は保守派が多数を占めていますが、5人が政権の主張を退けることに賛成しました。
アメリカの複数のメディアは司法がトランプ大統領に対する監視機能を果たそうとする姿勢の表れだと伝えています。【3月6日 NHK】
事業費を受け取っていた複数の団体が資金拠出の凍結は違法だとして訴訟を起こし、連邦地方裁判所は先月25日、すでに完了した事業の費用およそ20億ドル、日本円にしておよそ3000億円を支払うようトランプ政権に命じました。
この命令について政権側は無効だと主張し、最高裁判所に差し止めを求めていましたが、5日、最高裁判所は地方裁判所の命令を支持しました。 トランプ政権の主張を退けた形です。
最高裁判所の9人の判事は保守派が多数を占めていますが、5人が政権の主張を退けることに賛成しました。
アメリカの複数のメディアは司法がトランプ大統領に対する監視機能を果たそうとする姿勢の表れだと伝えています。【3月6日 NHK】
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****米連邦判事、USAID解体の差し止めを命令****
米メリーランド州の連邦地裁は18日、ドナルド・トランプ政権がアメリカ国際開発庁(USAID)を閉鎖しその事業を停止し続けることを差し止めた。
連邦地裁のセオドア・チュアン判事は判決で、トランプ大統領の側近イーロン・マスク氏が主導する「政府効率化局(DOGE)」によるUSAID解体は、「さまざまな形で」合衆国憲法におそらく違反すると述べた。(中略)
ホワイトハウスやアメリカの保守派の間では、各地の下級裁判所の判事たちが権限を逸脱して大統領命令を遅らせたり差し止めたりしているという認識にもとづき、いらだちが募っている。
アメリカでは、ひとつの州の連邦判事による決定が、その政策の施行を全国的に差し止めることができる。 アメリカではこれまで共和党か民主党かを問わず、大統領の政策をひとりの連邦判事が全国的に差し止められる権限について、ホワイトハウスはしばしば抗議してきた。
連邦判事のそうした権限を疑問視する政権もあった。トランプ政権が、この行政府と司法府の対立に何らかの終止符を打とうとするのか、注目されている。 【3月19日 BBC】
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司法の差し止め命令が出ても政権側は対外支援を停止する姿勢を崩していません。
****トランプ政権、対外援助の凍結維持へ 連邦地裁差し止めでも****
トランプ米政権は対外援助の凍結を維持する見通し。政権が裁判所に提出した文書から明らかになった。
トランプ大統領は1月20日の就任初日、対外援助を90日間停止する大統領令に署名。連邦地裁は先週、トランプ政権による対外援助の凍結を一時差し止めるよう命じていた。
政権は文書で連邦地裁の一時差し止め命令に従っていると主張。凍結した援助を見直した結果、全ての契約において、政権が終了もしくは停止することが許される内容になっていると判断したと指摘した。
また、大統領令に依拠しない援助については、米国際開発局(USAID)と国務省には援助を停止する法的権限があると主張した。(後略)【2月20日 ロイター】
トランプ大統領は1月20日の就任初日、対外援助を90日間停止する大統領令に署名。連邦地裁は先週、トランプ政権による対外援助の凍結を一時差し止めるよう命じていた。
政権は文書で連邦地裁の一時差し止め命令に従っていると主張。凍結した援助を見直した結果、全ての契約において、政権が終了もしくは停止することが許される内容になっていると判断したと指摘した。
また、大統領令に依拠しない援助については、米国際開発局(USAID)と国務省には援助を停止する法的権限があると主張した。(後略)【2月20日 ロイター】
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一律の支援停止の妥当性については司法が介入する余地がありますが、見直した結果、継続するか廃止するかは政権の判断・・・ということでしょうか。
【アメリカの対外支援停止で多くの国々・分野で深刻な影響】
「敵性外国人法」を適用し、数百人のベネズエラ人をエルサルバドルに追放した件でも、政権は司法命令を実質的に無視した形になっており問題化しています。このあたりの司法と大統領権限の関係、また、対外支援が実際にどうなっているのかについてはよくわからない部分もあります。
実質的には対外支援の多くがストップしているように見えます。
****対外援助8兆円削減へ=見直し対象の9割、途上国に打撃―米****
トランプ米政権は26日、国際開発局(USAID)の対外援助のうち、540億ドル(約8兆円)相当のプログラムの打ち切りを決定したと明らかにした。見直し対象としていた対外援助の92%を削減。米国の支援を受けてきた途上国に深刻な打撃を及ぼしそうだ。
国務省によると、複数年にまたがる対外援助プログラム6200件(約582億ドル相当)を見直し、現政権が掲げる「米国第一」の外交政策に合致しないと判断した約5800件について契約解除を決めた。【2月27日 時事】
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****対外援助プログラム、過去6週間で80%超廃止=米国務長官*****
ルビオ米国務長官は10日、過去6週間にわたる審査の結果、米国際開発局(USAID)のプログラムの80%超が廃止されたことを明らかにした。
ルビオ長官はX(旧ツイッター)への投稿で、取り消された5200件の契約には、米国の中核的な国益に貢献しない形で、数百億ドルもの資金が費やされたと指摘。約1000件の残りのプログラムは今後、国務省の管轄下で、議会との協議のもと「より効果的に」管理されると述べた。
また、連邦政府規模の縮小を進める米実業家イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」の職員にも感謝の意を表した。
トランプ米大統領は、1月20日の就任初日に全ての対外援助の90日間の停止を指示する大統領令に署名している。【3月11日 ロイター】
ルビオ長官はX(旧ツイッター)への投稿で、取り消された5200件の契約には、米国の中核的な国益に貢献しない形で、数百億ドルもの資金が費やされたと指摘。約1000件の残りのプログラムは今後、国務省の管轄下で、議会との協議のもと「より効果的に」管理されると述べた。
また、連邦政府規模の縮小を進める米実業家イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」の職員にも感謝の意を表した。
トランプ米大統領は、1月20日の就任初日に全ての対外援助の90日間の停止を指示する大統領令に署名している。【3月11日 ロイター】
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こうしたアメリカの対外援助の停止が難民・女性・マイノリティ・人権支援から公衆衛生分野に至るまで多くの国・分野で多大な人道上の危機を招きかねないことは以前から指摘去れているところです。
影響が大きい分野のひとつが公衆衛生面。
****トランプ米政権の対外援助打ち切りで「50カ国の治療・予防に影響」 WHO事務局長****
アメリカが数百億ドルに及ぶ対外援助を凍結していることで、エイズウイルス(HIV)やポリオ、エムポックス(サル痘)、鳥インフルエンザなどの対策プログラムが影響を受けていると、世界保健機関(WHO)のトップが12日、訴えた。
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、同国の国際開発局(USAID)について、支出が「全く説明できない」とし、閉鎖する措置を講じている。
一方、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、資金面での他の解決策が見つかるまで、援助の再開を検討するようトランプ政権に求めている。
12日のスイス・ジュネーヴでのバーチャル記者会見でテドロス事務局長は、アメリカの援助資金凍結について初めて公に言及。特に、PEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の停止を指摘し、これにより50カ国でHIV治療や検査、予防サービスが停止したと述べた。
「アメリカ政府が取っている行動には、世界の健康に深刻な影響を与えると懸念しているものがある」「診療所は閉鎖され、医療従事者は休暇を取らざるを得なくなっている」
また、救命サービスが一時的に再開されても、全体の混乱は収まっていないと付け加えた。
各国の保健専門家は、アメリカの援助削減によって病気が拡散したり、ワクチン開発が遅れたりする懸念があると警告している。
USAIDは年間約400億ドルを人道援助に費やしており、これはアメリカの年間政府支出の約0.6%に相当する。その多くは健康プログラムに向けられている。
USAIDの資金の大部分はアジアやサハラ以南のアフリカで使われている。欧州では主にウクライナでの人道支援に使用されている。(中略)
USAIDの凍結に加えて、トランプ大統領はアメリカをWHOから脱退させた。
ジョー・バイデン前政権下では、アメリカはWHOの最大の資金提供国であり、2023年にはWHOの予算のほぼ5分の1を拠出していた。(後略)【2月13日 BBC】
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直接的な生命の危機に及ぶものとして特に影響が大きいとされるのがエイズウイルス(HIV)関連。 死者が10倍に増加するリスクも指摘されています。
****米の対外援助凍結、HIV新規感染が1日で2000人に=国連機関****
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は24日、米国が凍結した資金援助が再開されないか、代わりの資金源が確保されない場合、全世界で1日に2000人が新たにエイズウイルス(HIV)に感染し、エイズ関連の死者が10倍に増加する可能性があると警鐘を鳴らした。
トランプ大統領は1月20日の就任と同時に、対外援助のほぼすべてを凍結した。
UNAIDSのウィニー・ビャニマ事務局長はジュネーブで記者団に対し、公衆衛生向け資金の中断とより広範なサービスへの影響はエイズウイルス感染者とエイズ患者に計り知れない打撃を与えていると語った。
ビャニマ氏は「米国の突然の資金援助凍結で、多くの診療所が閉鎖され、何千人もの医療従事者が解雇されている」と強調した。米国際開発局(USAID)の資金援助が90日間の凍結期間後の4月に再開されない場合、あるいはほかの政府が代わって提供しない場合、今後4年間で630万人がエイズ関連で死亡する恐れがあると説明した。
最新のデータによれば、2023年の世界のエイズ関連の死者は60万人と報告されている。ビャニマ氏は「したがって、死者は10倍に増えるということだ」と述べた。
HIV感染症・エイズの予防と治療に向けて世界の対応を調整するUNAIDSは昨年、米国から5000万ドルの資金援助を受けており、これは同機関の予算全体の35%に相当する。【3月25日 ロイター】
トランプ大統領は1月20日の就任と同時に、対外援助のほぼすべてを凍結した。
UNAIDSのウィニー・ビャニマ事務局長はジュネーブで記者団に対し、公衆衛生向け資金の中断とより広範なサービスへの影響はエイズウイルス感染者とエイズ患者に計り知れない打撃を与えていると語った。
ビャニマ氏は「米国の突然の資金援助凍結で、多くの診療所が閉鎖され、何千人もの医療従事者が解雇されている」と強調した。米国際開発局(USAID)の資金援助が90日間の凍結期間後の4月に再開されない場合、あるいはほかの政府が代わって提供しない場合、今後4年間で630万人がエイズ関連で死亡する恐れがあると説明した。
最新のデータによれば、2023年の世界のエイズ関連の死者は60万人と報告されている。ビャニマ氏は「したがって、死者は10倍に増えるということだ」と述べた。
HIV感染症・エイズの予防と治療に向けて世界の対応を調整するUNAIDSは昨年、米国から5000万ドルの資金援助を受けており、これは同機関の予算全体の35%に相当する。【3月25日 ロイター】
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トランプ米政権は、貧困国の子ども向けワクチンの購入を支援する官民連携団体GAVIワクチンアライアンスへの資金提供を打ち切るとともに、マラリア対策の取り組みを縮小する計画とも。
【これまでインフラ融資に偏っていた中国の対外支援 アメリカの肩代わりは?】
アメリカに代わってグローバルサウスへの影響力を拡大したい中国や日本など他の国がアメリカの穴埋めするのも現実には困難な状況。
****広がる米国「援助停止」の影響、中国や日韓に肩代わりできるか****
中国はアジアでの重要な対外援助国として米国に取って代わるのに最も適した立場にあるものの、完全に置き換わることには消極的かもしれない。一方、アジアの経済大国である韓国と日本も十分な対外援助国にはならないかもしれない。
トランプ米大統領が対外援助を一時停止し、対外援助事業を担ってきた国際開発局(USAID)の解体に動いたことを受け、極めて重要な妊婦向けの医療から災害支援に至るまでのアジアでの救命プロジェクトの存続が危ぶまれている。
中国は世界2位の経済大国だが、対外援助の手法は米国とは大きく異なっている。中国は主として返済が必要な融資を実施し、インフラプロジェクトに重点を置いていると専門家らは指摘する。
オーストラリアのシンクタンク、アジア太平洋開発・防衛会議のエグゼクティブディレクター、メリッサ・コンリー・タイラー氏は「中国は、民主主義の促進やメディアの自由、市民社会、LGBT(性的少数者)、女性の権利といった分野でギャップを埋めるために行動する可能性は極めて低い」とし、「これらの重要な分野を米国の対外援助削減の犠牲にさせないことが他の援助国にとって極めて重要だ」と強調する。
米国は2024年に世界で総額560億ドルの対外援助を実施したが、うち324億8000万ドルはUSAIDを通じて実行されていたことが米政府のデータで示されている。
このデータによると、24年の米国の対外援助のうち約70億ドルが南・中央・東アジアとオセアニアに供与された。
中国は対外援助のデータを閲覧可能な状態で提供していない。ただ、ローウィー研究所の23年の報告書は中国が15―21年に東南アジアに対して年間約55億ドルの政府開発資金を支出し、うち4分の3はインフラ整備に使われたと指摘している。
もっとも、中国の資金提供の大部分は非譲許型の融資として実施されている。
ローウィー研究所のインド太平洋開発センターのアレクサンドル・ダヤント副所長は、米国の対外援助からの撤退は「(中国にとって)世界開発での役割を再定義する機会になる」としながらも、中国がその役割を果たすとは予想していないと話す。
ダヤント氏は「中国は歴史的に見てインフラ融資に重点を置いてきた。米国が資金を援助してきた民主主義や保健、教育にも踏み込むと思ってはならない」とくぎを刺した。
<地域での影響力>
専門家らは韓国と日本も支援に乗り出す可能性があるものの、そのためには両国が援助予算を大幅に増やす必要があると指摘する。
経済協力開発機構(OECD)によると、かつて外国からの援助を受けていた韓国は2024年の政府開発援助(ODA)予算が48億ドルと過去最高になり、30年までに2倍超へ引き上げることを目指している。(中略)
一方でOECDのデータによると、韓国と日本の23年の援助予算は計220億ドル超と、米国が同年に対外援助に費やした800億ドルの3分の1未満にとどまる。
ミッチェル氏は「米国の援助に取って代わるには大幅な増額が必要となる」とし、日本の援助活動は既にアジア太平洋地域に集中していると指摘した。
中国の優先事項は米国とは異なるものの、中国がこの地域で影響力を高める機会を見逃すことはないだろうとの見方もある。
外交問題評議会のシニアフェロー、ジョシュア・カーランツィック氏は「中国はこれまでは他国のさまざまな種類のプロジェクトを支援するための融資が大部分を占めていたが、アジア全域で補助金を劇的に増やすだろう。中国にとってはこの地域でのアメリカの影響力をさらに低下させる明らかなチャンスとなる」と語った。
ミッチェル氏は、中国が新たな地平を切り開こうとしている兆候が既にいくつかあるとして「中国は昨年、初めてとなる気候変動資金を提供した。このことは開発援助の資金提供国とみなされることをより受け入れようとしている兆候かもしれない」との見解を示した。【3月23日 ロイター】
トランプ米大統領が対外援助を一時停止し、対外援助事業を担ってきた国際開発局(USAID)の解体に動いたことを受け、極めて重要な妊婦向けの医療から災害支援に至るまでのアジアでの救命プロジェクトの存続が危ぶまれている。
中国は世界2位の経済大国だが、対外援助の手法は米国とは大きく異なっている。中国は主として返済が必要な融資を実施し、インフラプロジェクトに重点を置いていると専門家らは指摘する。
オーストラリアのシンクタンク、アジア太平洋開発・防衛会議のエグゼクティブディレクター、メリッサ・コンリー・タイラー氏は「中国は、民主主義の促進やメディアの自由、市民社会、LGBT(性的少数者)、女性の権利といった分野でギャップを埋めるために行動する可能性は極めて低い」とし、「これらの重要な分野を米国の対外援助削減の犠牲にさせないことが他の援助国にとって極めて重要だ」と強調する。
米国は2024年に世界で総額560億ドルの対外援助を実施したが、うち324億8000万ドルはUSAIDを通じて実行されていたことが米政府のデータで示されている。
このデータによると、24年の米国の対外援助のうち約70億ドルが南・中央・東アジアとオセアニアに供与された。
中国は対外援助のデータを閲覧可能な状態で提供していない。ただ、ローウィー研究所の23年の報告書は中国が15―21年に東南アジアに対して年間約55億ドルの政府開発資金を支出し、うち4分の3はインフラ整備に使われたと指摘している。
もっとも、中国の資金提供の大部分は非譲許型の融資として実施されている。
ローウィー研究所のインド太平洋開発センターのアレクサンドル・ダヤント副所長は、米国の対外援助からの撤退は「(中国にとって)世界開発での役割を再定義する機会になる」としながらも、中国がその役割を果たすとは予想していないと話す。
ダヤント氏は「中国は歴史的に見てインフラ融資に重点を置いてきた。米国が資金を援助してきた民主主義や保健、教育にも踏み込むと思ってはならない」とくぎを刺した。
<地域での影響力>
専門家らは韓国と日本も支援に乗り出す可能性があるものの、そのためには両国が援助予算を大幅に増やす必要があると指摘する。
経済協力開発機構(OECD)によると、かつて外国からの援助を受けていた韓国は2024年の政府開発援助(ODA)予算が48億ドルと過去最高になり、30年までに2倍超へ引き上げることを目指している。(中略)
一方でOECDのデータによると、韓国と日本の23年の援助予算は計220億ドル超と、米国が同年に対外援助に費やした800億ドルの3分の1未満にとどまる。
ミッチェル氏は「米国の援助に取って代わるには大幅な増額が必要となる」とし、日本の援助活動は既にアジア太平洋地域に集中していると指摘した。
中国の優先事項は米国とは異なるものの、中国がこの地域で影響力を高める機会を見逃すことはないだろうとの見方もある。
外交問題評議会のシニアフェロー、ジョシュア・カーランツィック氏は「中国はこれまでは他国のさまざまな種類のプロジェクトを支援するための融資が大部分を占めていたが、アジア全域で補助金を劇的に増やすだろう。中国にとってはこの地域でのアメリカの影響力をさらに低下させる明らかなチャンスとなる」と語った。
ミッチェル氏は、中国が新たな地平を切り開こうとしている兆候が既にいくつかあるとして「中国は昨年、初めてとなる気候変動資金を提供した。このことは開発援助の資金提供国とみなされることをより受け入れようとしている兆候かもしれない」との見解を示した。【3月23日 ロイター】
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中国も、国内経済の不調、更にトランプ関税による先行き不透明感もあって、どこまで新たな分野での資金提供か可能かは疑問なところも。