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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・トランプ大統領の“軽すぎる”言動 独自の道を模索し始めた同盟国

2017-06-07 23:20:57 | アメリカ

(パリ協定が履行されても温暖化の抑制効果は限定的であると主張するトランプ大統領【6月6日 日経ビジネス】)

もともとカタールが気に入らなかったサウジアラビア
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国がカタールと国交断絶した件が大きな話題となっています。直接のきっかけは、5月23日に国営通信のサイトに掲載された、カタールの国家元首タミム首長が述べたとされる発言がイランに宥和的だなどとサウジアラビア等が批判していることですが、カタールとイランとの関係のほか、エジプトなどが敵視するムスリム同胞団との関係なども取り上げられています。

この件自体は今日の主題ではないので、二つほど関連記事を紹介するだけにします。

ひとつは、そもそもカタールがなぜそこまで標的にされるのか・・・という話で、カタールの施策や権力奪取の方法に対しては、アラブ世界の盟主を自任するサウジアラビアなどを苛立たせる、また、自国の国家体制にも影響しかねないものがあったようです。

***国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由****
<サウジアラビアなど6カ国が突然カタールとの国交断絶を発表。小さなカタールがここまで目の敵にされる背景にはテロ支援などの他に、父を退けて首長の座を奪ったり、女性が自由に運転できる文化など、湾岸諸国の体制を危うくしかねない要素があるからだ>(後略)【6月7日 Newsweek】
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1995年に、カタールの皇太子だったハマド(現在の元首タミム首長の父)が、外遊中だった無能の父ハリファを退けて首長の座を奪って権力を掌握した「宮殿クーデター」に対し、サウジアラビアとUAEは、湾岸諸国の王制の安泰を揺るがす危険な前例として看過できないと、ハマドらの暗殺を計画・準備した・・・とのことですから、そもそも何か理由が見つかれば潰してやる・・・という思いがサウジアラビア等にあったと思われます。

カタールは、イランやムスリム同胞団、ハマスなど、やや問題のある相手とも関係を維持して、その独自性をアピールしてきましたが、そうした対応が“盟主”サウジアラビアの神経を逆撫でしていたことは想像に難くありません。

興味深い関連記事のもう一つは、今回騒動のきっかけとなったタミム首長の発言とされる記事(カタール側はハッキングによる偽ニュースだとしていますが、タミム首長の本音に近いものがあるとも・・・)についてですが、ロシアのサイバー攻撃によるものだとの話も報じられています。

****<カタール断交>ロシアがサイバー攻撃か 首長の発言で****
サウジアラビアやエジプトなどがカタールとの国交断絶を決めたきっかけとされるカタール国家元首のタミム首長の発言について、米CNNは6日、ロシアからのサイバー攻撃でカタールの国営通信がハッキングされ、偽のニュースが流された可能性があると伝えた。
 
米・アラブ諸国の同盟に亀裂を入れる狙いがあったとみられ、米連邦捜査局(FBI)は既に捜査チームをカタールに派遣したという。在米カタール大使館は「捜査が完了すれば、結果は速やかに公表される」としている。FBIはコメントしていない。(後略)【6月7日 毎日】
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真偽のほどはわかりませんが(現段階では、「本当かね・・・???」といった感じですが)、アメリカがロシアの介入に神経質になっていることを示すものでしょうか?

トランプ大統領 カタール断交容認、一転して「団結重要」】
で、今日の主題に関係してくるのは、このカタール断交問題に関するアメリカ・トランプ大統領の対応です。

カタールには、IS掃討作戦の出撃拠点になっている、アメリカの中東最大の空軍基地であるアルウデイド空軍基地が存在しており、アメリカの中東戦略における重要拠点であること、また、つい先日トランプ大統領がサウジアラビアを訪問し中東アラブ諸国によるイラン包囲網をぶち上げたばかりであることなどからして、サウジアラビアとカタールの内紛は困った事態として、その鎮静化に動く・・・と思っていましたが、トランプ大統領の考えはそうではないようです。

****カタール断交容認?=すぐ一転、湾岸団結要請-米大統領****
トランプ米大統領は6日、ツイッターへの投稿で、初外遊のサウジアラビア訪問に触れ「(中東各国の首脳は)過激主義への資金提供に厳しい姿勢を取ると述べていた。それはカタールを指す」と指摘した。

サウジなどがテロ支援を理由にカタールと断交したことを念頭に「テロの恐怖の終わりの始まりになるだろう」とも述べ、断交を容認するような姿勢を示した。
 
ただ、ホワイトハウスは同日、トランプ氏がサウジのサルマン国王に電話し「(サウジやカタールが加盟する)湾岸協力会議(GCC)の団結がテロを打倒し、地域の安定を図るために重要だ」と訴えたと発表。サウジ側に肩入れする投稿の軌道修正を図ったとみられる。

湾岸諸国は過激派組織「イスラム国」(IS)掃討戦の重要なメンバー。ティラーソン国務長官らが和解を促している。【6月7日 時事】
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6日のツイートは“カタール政府を孤立させた湾岸諸国の措置は自らの功績だと主張するかのよう”【6月7日 AFP】でもあります。

かりにカタールにイスラム過激派への資金供給といった問題があるとしたら、それは普通水面下で対応し、表面上は“結束”を維持するというのが通常の外交ですが、トランプ大統領の場合はあてはまらないようです。

それはそれで、その方針を貫くならまだしも、すぐに「湾岸協力会議の団結が重要だ」と手のひらを反すというのは・・・。それなら、サウジアラビア訪問時にそう言えよ!という感も。

大統領の発言のたびに火消しに追われるティラーソン国務長官ら側近も大変です。何かホワイトハウスを題材にしたTVドラマのコメディーのような感も。

イギリスもあきれるロンドン市長批判
6月3日にイギリス・ロンドンで起きたテロに関して、トランプ大統領によるロンドン市長を批判したツイートも物議をかもしています。

****ロンドン市長批判で、トランプの訪英反対運動が再燃****
<総選挙直前のメイ英首相に新たな打撃。イスラムに対する悪意が透けて見えるトランプのロンドン市長批判が、テロ直後のイギリスにとってあまりに酷過ぎる、と英政治家も反撃>

ドナルド・トランプ米大統領が1月に出したイスラム差別的な入国禁止の大統領令をきっかけにイギリスで盛り上がったトランプの訪米反対気運が、先週末のロンドンテロをきっかけに再び勢いが増している。

6月3日にロンドン橋でテロが発生した後、トランプはツイッターで、ロンドン市長のサディク・カーンを批判。その理不尽さに怒ったイギリスの大物政治家がテリーザ・メイ首相に対し、トランプの公式訪問招請を取り消すよう求めている。(中略)

トランプは、ロンドンでテロが発生した数時間後に次のようにツイートした。「(ロンドンでの)テロ攻撃で少なくとも7人が死亡し、48人が負傷したというのに、ロンドン市長は『心配する必要はない』と言っている!」

しかし、これは発言の文脈を無視した誤用だった。市長報道官によれば、カーンは実際には「市内に武装警官が増えるが、心配する必要はない」と言ったのだ。

にもかかわらずトランプはその翌日、再びカーン批判のツイートを投稿した。

「ロンドン市長のサディク・カーンは、『心配する必要はない』と発言した後で、病的な言い逃れをした。主流メディアはそれを売り込むのに必死だ!」

こうしたトランプのツイートに対して、英最大野党・労働党の古参議員であるデービッド・ラミーは辛辣なツイートで批判した。

「トランプは軽蔑にも値しない人間だ。単なるトロール(誹謗中傷)だ。メイは勇気を見せて、トランプの公式招待を取り消し、限度を示してほしい」(中略)

今回メイは、カーンに対するツイートについて直接のトランプ批判は避けながらこう言った。「サディク・カーンは立派な仕事をしている。それ以外のことを言うのは適切ではない」

6月8日に総選挙を控え、相次ぐテロと労働党の猛追でただでさえ崖っぷちのメイに、トランプの見当違いな横槍がとどめを刺すことにならなければいいが。【6月6日 Newsweek】
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トランプ大統領とイスラム教徒でもあるロンドンのカーン市長の間には、これまでもいろいろありましたが、世界で最も大きな影響力を有する政治指導者の発言としては、あまりに軽すぎるものがあります。

多くの共和党議員が大統領の精神状態を疑う
さすがにアメリカ国内でも「トランプは大丈夫か?」といった声も出ているとか。

****大丈夫かトランプ 大統領の精神状態を疑う声が噴出**** 
<テロ攻撃への対応に奔走するロンドン市長に的外れな攻撃を繰り返したトランプ。メディアはもちろん、共和党保守派からも疑いの声が・・・・>

ドナルド・トランプ米大統領の「精神状態」について5日、有名な保守系コラムニストが疑問を投げかけた。月曜の朝にCNNの情報番組「New Day」にゲスト出演したワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、共和党内部でトランプは「不安定で信頼できない」という声が上がっていることを明かした。トランプの大統領としての適正に疑問が膨らんでいるのだ。

米政治専門メディア「ザ・ヒル」によれば、ルービンは次のように言った。「トランプの精神状態には深刻な懸念がある。アメリカの大統領がこれほど不安定で頼りにならないというのは大問題だ。どれほどの被害をもたらすかわからない」

さらにルービンはロンドンのサディク・カーン市長を批判したトランプのツイッタ―投稿を引き合いに出し、「問題は、的外れな批判で、テロリストに襲われたばかりで緊張状態にある市の市長を攻撃するという最悪の妨害をやってのけたのが、我々の大統領だということだ」と指摘した。(中略)

「学習能力」は、ない
トランプは昨年の選挙戦の最中から、共和党の右派やメディアから厳しい言葉を浴びせられている。女性誌バニティ・フェアによると、ジョー ・スカーボロー(元共和党下院議員、MSNBC『モーニング・ジョー』司会者)は先月、トランプをこう評している。「残念ながら彼は学習しない。落ち目の男だ」と。

ウォーターゲート事件をすっぱ抜いたことで知られるジャーナリスト、カール・バーンスタインは5月、他のジャーナリストらとともに、トランプの精神状態と判断力に懐疑的な複数の共和党議員と話をしたと語っている。

バーンスタインはCNNに対し「多くの共和党議員が大統領の精神状態を疑うと言っている。私を含め複数の記者が、そういう意見を聞いている」と語った。【6月7日 Newsweek】
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アメリカ国内では、コミーFBI前長官やコーツ国家情報長官、マッケーブFBI長官代行、ローゼンスタイン司法副長官らの上院情報特別委員会の公聴会での証言が行われますので、またトランプ大統領のツイッターが飛び交うことでしょう。ホワイトハウスは大統領のツイッターの事前チェックが必要では?

頼りにできないアメリカから距離を置き始めた同盟国
与党内から「精神状態は大丈夫か?」という声が出る、また、最大の同盟国で“特別な関係”を自任してきたイギリスで公式招待を取り消すべきという声が出る状況ですから、その他同盟国も「アメリカに頼ってはいられない」ということになります。

ドイツ・メルケル首相の、“欧州が同盟国だけに依存できる時代は「ある程度終わった」”との発言・対応については、6月2日ブログでも取り上げました。

アメリカの北の隣人カナダも同様です。

****<カナダ>フリーランド外相「独自の路線を取らざる得ない****
 ◇米国が世界の指導者の役割を果たさない場合に
カナダのフリーランド外相は6日、米国が世界の指導者の役割を果たさない場合、カナダは「独自の路線」を取らざるを得ないとして、軍事費を大幅に増やす方針を明らかにした。ドイツに続いて隣国カナダも米国との信頼関係に疑問を呈した形で、主要な同盟国が米国との関係を見直しつつある。
 
フリーランド外相は6日の議会演説で「70年間不変と思われてきた外交関係に疑問符がつけられている」と述べ、自国第一主義に走る米国に強い危機感を示した。

さらに「友人の同盟国(米国)は世界の指導者であることの価値を疑っている。残る我々は独自で自立した道を歩む必要がある」と、米国と距離を置く方針を明確にした。(後略)【6月7日 毎日】
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話はアジアでも同様です。

****アジアの覇権は中国の手に****
アメリカ政府が混乱に陥るなか、5月中旬に北京で開かれた「一帯一路」構想に関する国際会議は、アジアにおけるアメリカの指導力が危機に瀕していることを示す警鐘のようだった。(中略)

TPP復帰は最も簡単な一歩
これらの構想(「一帯一路」構想、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉など)が重要なのは、純粋な経済的インパクトのせいではなく、アジアにおける中国主導の経済秩序という未来が避け難いという認識を喚起しているからだ。
 
アメリカがこれらのプログラムのいずれにも参加していないことは、誰もが心得ている。これは米政界内部だけで通用する空論の産物でもない。
 
最近の調査によると、東南アジア諸国のエリート層は、アメリカは戦略的に優位な立場を中国に譲り、トランプ政権はアジアにあまり興味がなく、頼りにならず、自由貿易を維持する可能性が低いとみている。
 
トランプ政権の経済政策が、無視と軽視の有害な組み合わせに見えるとしたら、問題は主に軍事力に基づく戦略が果たして有効かどうかという点に戻ることになる。
 
この地域の政府当局者らは、東南アジア各国が中国の経済的報復を恐れて、アメリカと大規模な安全保障協力をしたがらなくなる寸前だと警告する。シンガポールやオーストラリアのようなアメリカの旧友でも同じだ。(中略)

トランプはアジアにおいてTPPと同じくらい野心的な経済的試みに取り掛からざるを得ないだろう。そうでなければ、軍事力強化のために議会がどれだけ国防費の増額を約束しても、アメリカはアジアのかなり広い地域から締め出されることになってしまう。【6月6日号 Newsweek日本語版】      
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日本も例外ではありません。安倍首相が「一帯一路」への“協力”を表明せざるを得ななくなっているのも、こうした流れによるものでしょう。

****安倍首相、中国主導「一帯一路」に初めて「協力」表明****
2017年6月6日、米ボイス・オブ・アメリカの中国語ニュースサイトによると、安倍晋三首相は5日、中国主導の経済圏構想「一帯一路」に条件が整えば協力すると表明した。首相が同構想への「協力」を表明するのは初めて。

安倍首相は、東京都内で行われた国際会議で講演し、「一帯一路」構想について「潜在的な可能性を持っている」と評価した一方で、協力の条件として「国際社会の共通の考え方を十分に取り入れること」を挙げた。

日中両政府は、7月にドイツで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた日中首脳会談実現に期待を寄せている。首相の今回の表明は中国との関係改善に向けメッセージを送ったものと受け止められている。【6月6日 Record China】
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トランプ大統領の信頼感のなさ、「アメリカ第一」による国際影響を顧みない施策などは、アメリカの国際的影響力の低下、国際関係の地殻変動を惹起しそうです。日本では自主防衛強化を重視するサイドでの“期待”も。

伝統的価値観を共有していない大統領
なお、個人的な関心で言えば、トランプ大統領のロシア疑惑などは“取るに足りない”問題だと思っています。(ただ、それ以上に遥かに“取るに足りない”クリントン氏のメール問題を責め立てて現在の地位にある訳ですから、責任は免れませんが)

いろんな施策も、パリ協定脱退なども含めて、ある程度は“立場の違い”“見解の相違”でしょう。

ただ、容認できないのは6月4日ブログで取り上げた天安門事件に関する発言や、種々のポリティカルコレクトネスを軽視した差別的言動など、価値観の面でこれまで日本や欧米社会が重視してきたものを否定している、または、否定する風潮を助長していることです。

****ドゥテルテ&トランプの「超法規的」大統領会談****
4月末日に行われたフィリピンのドゥテルテ大統領とトランプ米大統領との電話会談。そこで交わされたとんでもない会話が明らかになった。
 
米ワシントン・ポスト紙が入手した会談の議事録によれば、トランプはドゥテルテ政権が進める麻薬撲滅戦争を「素晴らしい仕事ぶり」と称賛。

超法規的な殺人も辞さない「戦争」は世界中から非難されているが、トランプは「アメリカをはじめ、麻薬問題を抱える国は多い。祝意を伝えたくて電話した」と擁護したという。
 
さらにトランプはドゥテルテの「仕事」を支持しなかったオバマ前米大統領を非難。ドゥテルテはさぞや喜んだことだろう。
 
この会談によって、トランプ問題の根幹があらわになったのかもしれない。大抵のアメリカ国民が大切にしている信念に対する強い不信と嫌悪感だ。

「公正」「法の支配」「民主主義」「基本的人権」―こうした価値観を「信じている」と口にすることさえしない。
 
これまでわれわれがトランプを批判する際、その暴言や奇妙な行動に目を奪われ過ぎていたようだ。リベラル派の偏見を捨て、FOXニュースのヨイショ報道に惑わされず、共和党指導部の色眼鏡を通さずに、トランプを観察してみよう。

すると見えてくる問題の本質は、大統領が国民とアメリカの伝統的価値観を共有していない、ということに尽きる。【6月6日号 Newsweek日本語版】 
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