孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタール・サウジアラビアの断交問題 アフリカ・アジアへも影響拡大

2017-06-19 22:44:05 | 中東情勢

(【6月18日 六辻彰二氏 THE PAGE「サウジがカタールと断交、スンニ派同士でなぜ“兄弟げんか”」】)

【「要求のむか、孤立か」二者択一を迫るサウジ 「服従の要求には決して屈しない」カタール
アラブ世界の盟主を自任するサウジアラビアが主導するアラブ諸国と、小国ながら豊富な資金力を背景に独自外交を進めるカタールの対立については、6月14日ブログ“カタール断交問題  独自外交のカタール それを許さない中東世界の現実 火をつけたトランプ外交”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170614で取り上げたところです。

各国体制を揺るがす過激派への資金援助停止や対イラン融和策変更などの“要求を完全にのむ”かアラブ世界での“孤立”かの二者択一を迫るサウジアラビアに対し、「服従の要求には屈しない」とするカタールと、依然双方とも硬い姿勢を崩していません。

****汎アラブ紙・アッシャルクルアウサト「サウジの要求のむか、孤立か」二者択一を迫る****
サウジアラビア資本の汎アラブ紙、アッシャルクルアウサト(電子版)は13日付で、「カタールの危機の解決策は2つしかない」とする論評記事を掲載した。

2つの策とは、テロ組織や反体制派と縁を切るよう求めるサウジなどの要求を「完全にのむか」、それとも「周辺国から孤立したままで生きていくか」だ。カタールに二者択一を迫る厳しい内容といえる。
 
論評は、カタールの国防相だったハマド皇太子が父、ハリファ首長の外遊中に無血宮廷クーデターで政権を奪取した1995年から説き起こす。(中略)
 
サウジとカタールの冷たい関係は今に始まったことではない。そう示唆した上で論評は、「度重なる和解にもかかわらず、カタールはサウジやバーレーンの政権転覆を狙う反体制派を支援し、資金を提供し続けた」と非難した。

さらに、2011年の民主化政変「アラブの春」の後はアラブ首長国連邦(UAE)でも反体制派の側に立ち、エジプトでも政権転覆を図る組織に肩入れしたと指摘した。(中略)
 
同紙は14日付の記事でも、地域の各国は共存しようとしてきたが、「忍耐には限界がある」とカタールに対する脅しとも取れる文言を用いた。(後略)【6月19日 産経】
********************

****カタール・ガルフ・タイムズ「服従の要求には屈しない」 湾岸協力会議「永遠に忠実」と改善模索も****
・・・・カタール紙ガルフ・タイムズ(電子版)は6日の論説記事で、「世界トップの液化天然ガス(LNG)輸出で防護したカタール経済は、突然の衝撃にも耐えられるだけの強さがある」と述べ、サウジアラビアなどによる一斉断交に伴う経済制裁措置には屈しない姿勢をみせた。
 
カタールのLNG輸出は世界で約30%のシェアを占め、今回の断交による世界経済への影響が懸念されている。しかし記事は、サウジなどがカタールの船の領海通過を禁じるなどしてもLNGを届けるルートは確保されており、「ビジネスはいつも通りに行われる」と強調。

カタールがLNG輸出で得た資金は、国家ファンドを通じて世界各地の市場に投資されているとも述べ、各国にカタールとの関係の重要性を再認識するよう迫った。(中略)

一方、今回の断交ではカタールがペルシャ湾を隔てた隣国イランと比較的良好な関係にあることが、イランと敵対するサウジの怒りを買ったのが要因の一つだと指摘される。記事はこの点を念頭に、カタールは湾岸アラブ諸国などで作る湾岸協力会議(GCC)の「永遠に忠実(な加盟国)であり続ける」とも強調。湾岸諸国との関係をないがしろにはしないとの姿勢を明確にすることで、関係改善の糸口にしたい考えもにじませた。
 
ただカタールは小国ながら豊富な資金を背景に独自外交を展開し、アラブ諸国の盟主を自任するサウジに挑戦してきた国だ。意地がある。「国が一丸となり、服従の要求には決して屈しない」。記事は、こう締めくくった。【6月19日 産経】
********************

スイスのジュネーブで記者会見したカタール国家人権委員会委員長は、周辺国による制裁は集団的処罰の域に達していると批判。母親と赤ちゃんが引き離された例を挙げ、複数の周辺国がカタールと断交を決定したことで全中東市民の権利が踏みにじられていると訴え、その影響は「ベルリンの壁」よりも壊滅的だとも述べています。【6月18日 AFPより】

一方、人道的にも問題な全面封鎖をしているとの批判に対し、13日にワシントンでティラーソン米国務長官と会談したサウジアラビアのジュベイル外相は、「サウジは、カタール航空やカタールが保有する航空機のサウジ空域の飛行を認めていないだけだ。(カタールの)空港や港は開かれており、カタール人は自由に移動できる」と述べ「(全面)封鎖ではない」と強調しています。【6月14日 毎日より】

対立の余波でアフリカ・ジブチにエリトリア軍が侵入
両者の対立は中東を超えてアフリカ、アジアのイスラム世界に拡大しています。

東アフリカの「アフリカの角」に位置するジブチは、日本もソマリア海賊対策で自衛隊基地を置くほか、アメリカや、最近では中国なども基地を置く小国ですが、このジブチもサウジアラビアに追随する形でカタールに対する外交使節のレベルの引き下げています。

これに反発するカタールはジブチに駐留させていたPKO部隊を撤収させ、そこへ・・・・

***カタール問題の余波(ジブチ・エリトリアの緊張****
・・・・エリトリアはジブチとも関係が悪く、1990年代に2回ほど国境紛争があり、その後停戦が続いたが、2008年に再び紛争が発生し、2010年にはカタールの調停で和平が成立し、国境地帯にはカタール部隊がPKOとして駐留していたというわけです。

それが今回カタール問題をきっかけにカタール軍が撤退したすきに、エリトリア軍が侵入したということですが、これまでのところ衝突等は生じていない模様です。(後略)【6月17日 「中東の窓」】
********************

この問題に関しては、サウジアラビア、国連安保理、アフリカ連合などが対応を協議しているようです。

*****ジブチ・エリトリア問題(サウディ軍の派遣?)*****
この問題に関して、al qods al arabi net は、その後釜としてサウディ軍がPKOとして派遣されることが検討されているとの題名の記事を掲げています。

カタール軍の後にサウディ軍とは随分急な動きだな、と思って記事を読んだら、中身としてはリヤドの外交筋によると、サウディ政府はサウディ軍をPKOとして派遣するか、PKOとして派遣されるべきアフリカ軍を支援するか等の可能性を検討していて、現在各方面と連絡中であるとのことでした。

また同記事は、エチオピアの要請により、17日安保理が非公式協議を行っているが、アフリカ連合はこの問題についてジブチ・エリトリア両政府と緊密に連絡を取り、平和的解決に向けて協議中であるとも報じています。【6月18日 「中東の窓」】
********************

サウジアラビアの同調要請に苦慮するパキスタン
一方、アジアではパキスタンがサウジアラビアから同調を迫られているものの、過激派への資金援助という点ではカタールと似た立場にもあるため、対応に苦慮しているとか。

****アジアにも及んだカタール断交の圧力****
<カタールと断交したサウジアラビアがパキスタンに対し、どちらの味方かはっきりするよう迫った。だがパキスタンにとって、カタールの孤立は他人事ではない>

サウジアラビアなどが隣国カタールと断交した問題で、南アジアのイスラム教国パキスタンが、どちらの味方かはっきりせよとサウジアラビアに迫られている。パキスタンは今のところ巻き込まれたくないと考えているが、いつまでも中立ではいられないかもしれない。

報道によれば、先週月曜にサウジアラビアのサルマン国王とパキスタンのナワズ・シャリフ首相がサウジアラビア南西部のジッダで会談した際、サルマンはシャリフに対し、サウジアラビアかカタールのどちらか1つを選択するよう最後通告を突きつけたという。(中略)

不安になるパキスタン
・・・・カタールがアラブ諸国から突然仲間はずれにされたことで、パキスタンは不安になった。パキスタンはカタールと同様アメリカの同盟国である一方、テロ組織に資金援助しているとして国際的な批判にさらされており、今のカタールの苦しい状況が他人事とは思えないからだ。

アフガニスタンとインドは、パキスタンがイスラム教スンニ派武装組織を支援していると名指しで批判し、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンや南アジアのイスラム過激派ラシュカレトイバなどもパキスタンが後ろ盾だと主張している。

アメリカもかつて、タリバンの指導者だったオサマ・ビンラディンがパキスタン北部アボタバードの邸宅に潜伏していたことが明らかになると、パキスタン政府に背を向けた。(中略)

それでもアメリカとパキスタンは数年で軍事協力を再開した。昨年バラク・オバマ前米大統領はパキスタンに対して10億ドル超の人道・軍事支援を行うと発表した。だが後任のトランプは、オバマが決めた支援の大幅削減を検討中だ。

パキスタンは大っぴらにサウジアラビアを支持することは依然拒否しているが、トランプはパキスタンのカタールに対する影響力を行使して、湾岸諸国の危機を収拾することを求めているとも伝わる。

一方、パキスタンと敵対する隣国インドは、サウジアラビアの断交に従わず、新たに直通航路を開いたと言われる。【6月19日 Newsweek】
*******************

周知のとおりパキスタンはインドに対抗して核兵器を増強させていますが、その資金はサウジアラビアから出ていると言われています。そしてサウジアラビアに開発した核兵器を渡す合意がなされているとか・・・

****サウジが「パキスタンの核弾頭」を手にする日:ミサイルは中国製の東風21****
・・・・しかしイランは将来の核武装化を完全に断念したわけではなく、核開発を先送りしたにすぎない。このため中東のアラブ諸国などがひそかに核開発を進め、米国などの情報機関が神経を尖らせている。

中でも最も懸念すべき動きを見せているのが、イスラム教シーア派大国イランのライバルであるスンニ派大国サウジアラビアだ。

パキスタンから5~6発
(中略)さらに、2010年の英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究会で複数の西側情報筋が「サウド王家はパキスタンの核開発計画の費用60%以下を負担、近隣諸国との関係が悪化した場合、5~6発の核弾頭をその見返りに得るとのオプションが付いている」との情報が明らかにされたという(ガーディアン紙)。(中略) 

サウジとパキスタンの合意とは
サウジ側はこのようにパキスタンからの核兵器入手について徹底的に否定し続けている。

しかし、米情報コミュニティは、そんな建前を信じてはいない。ホワイトハウスの元核不拡散対策担当調整官ゲーリー・セイモア氏は2013年当時、英BBCテレビで「サウジ側は、極端な場合にはパキスタンから核兵器を請求できることでパキスタン側の了解を得ている、と確信していると思う」と語っている。

やや回りくどい言い方だが、サウジとパキスタンの間には何らかの核合意があり、今もその合意は生きていると米国はみていることが分かる。(後略)【2016年2月18日 春名幹男氏 ハフポスト】
********************

パキスタンにとってはサウジアラビアは核開発のスポンサーであり、そのサウジアラビアの“カタールとの断交”という要求を拒むのは難しいのでは・・・とも想像されます。

ただ、本来の話で言えば、パキスタン自身が気にしているように、カタールのムスリム同胞団やハマス支援よりは、パキスタンのタリバンやラシュカレトイバ支援の方が国際社会に大きな影響を与えており、パキスタンこそが断交の対象となるべき・・・とも思うのですが。

トランプ大統領のカタール批判の一方で、アメリカはカタールへ戦闘機売却
今回のサウジアラビア主導のカタール制裁は、サウジラビアを訪問したトランプ大統領のサウジアラビアを支持する姿勢からもたらされたと言われています。実際トランプ大統領は、今回の国交断絶は自らの中東外交の成果であるかのようにアピールし、カタールの過激派支援を批判しています。

しかし、約1万人の米兵が駐留するカタールは米国にとって重要な同盟国でもあり、武器売却も続けられています。

****米国、カタールにF15戦闘機売却で合意 中東主要国と断交でも****
カタール国防省は14日、米国からF15戦闘機を120億ドルで購入することで合意したと明らかにした。

サウジアラビアなど中東4カ国が国交を断絶したカタールを巡っては、テロリズムを支援しているとトランプ米大統領も非難していた。

関係筋によると、マティス国防長官が14日にカタール代表団と会談し、合意を締結する。ブルームバーグは、36機の戦闘機が売却されると伝えた。

国防総省によると、契約には安全保障面での協力や二国間の相互運用も含まれる。

マティス長官とアティーヤ国防担当相は会談で、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する作戦の現状を協議したほか、湾岸地域のすべての関係国が緊張関係を緩和することの重要性についても意見を交換した。

米政府は昨年11月、カタールに対してF15戦闘機72機を211億ドルで売却することを承認していた。【6月15日 ロイター】
******************

当然に売却の話と並行して、今回騒動への対処についてもアメリカとカタールの間で話がなされているはずですが、どのように話が進んでいるのかはわかりません。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする