孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  汚職一掃の「洗車作戦」で閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象

2017-04-15 22:20:59 | ラテンアメリカ

(2016年4月12日に行われた汚職捜査(LJ)継続と捜査の中心となっているモロ判事擁護を訴えるリオ市でのデモ【3月18日 ニッケイ新聞】(日経ではなくブラジルの日系紙です))

【「洗車作戦」で政界に蔓延する汚職一掃を
最近、南米ブラジルを取り上げる際の話題というと、汚職・財政難・治安の悪さ・・・等、あまりいいものでありません。
今日も、汚職の話です。

ブラジルでは、国営石油会社ペトロブラスを舞台にして建設ゼネコンから広範囲の政治家への資金が流れてきたとされる大規模汚職事件の捜査が行われていることは、これまでもしばしば取り上げてきたところです。

ルセフ前大統領の直接の弾劾理由は粉飾会計処理であり、元ゲリラ戦士でもある彼女自身が汚職で私腹を肥やしたという訳ではありませんが、彼女の弾劾があのような形で実現したのも、一連の汚職疑惑への国民の不満が高まるなかでの政治不信のひとつの現れでしょう。

いまだに国民的人気が高いルラ元大統領も捜査対象となっいますし、ルセフ前大統領を弾劾に追い込み、政治の刷新が求められているテメル大統領も汚職構造の中で生きてきた政治家で、とかく噂が絶えません。

また、2月には、大規模汚職の捜査を担当してきた最高裁判事が飛行機事故で死亡するという、怪しいにおいもする“事故”も起きています。

2017年3月8日ブログ「ブラジル 最悪の長期不況も今年は回復フェーズに ただ、回復は緩やかで“失われた10年”も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170308
2016年9月16日ブログ「ブラジル政界の泥沼 ルセフ氏罷免 前下院議長は公職追放 ルラ元大統領も訴追」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160916

3年前から続く一連の汚職疑惑追及は、現地では「LJ作戦」(ラヴァ・ジャット作戦:洗車作戦-車や床などの汚れを一気に洗い落とすウォーター・ジェット噴射洗浄という意味)と呼ばれているそうです。

****ラヴァ・ジャット作戦開始から3年が経過=ブラジル史上最大の汚職摘発劇=全容解明は一体いつまで****
連邦警察が2014年3月17日に7州で行った汚職摘発劇、ラヴァ・ジャット作戦(LJ)から丸3年が経過した。
 
14日には、オデブレヒト社関係者の報奨付供述に基づき、最高裁で扱うべき人物に関する捜査開始要請だけで83件というまとまった数の要請書も提出された。
 
パラナ州クリチバのLJ特捜班は連邦検察官約30人からなり、次々に展開される作戦は第38弾に至った。

2015年10月にLJ裁判の見通しなどを訊かれ、「今年中に終わって欲しい」と漏らしたパラナ地裁のセルジオ・モロ判事は、今年3月、「通常の犯罪事件の裁判は捜査開始から6カ月~1年で終わるが、LJは今も捜査が続いており、いつ終わるか分からない」と語った。
 
LJの発端は2008年に始まったメンサロン絡みの捜査で、アウベルト・ユセフ、カルロス・アビブ・シャテルといった闇両替商4人を各々の頭とする犯罪組織が、ペトロブラス(PB)などに絡む不正に関与している事が判明。ミケイアスと呼ばれる作戦も行われたが、ユセフ氏が大規模な不正に絡んでいる事を掴んだ連警は、その作戦でユセフ氏を捕えず、泳がせて捜査を続けた。
 
その結果、パウロ・ロベルト・コスタPB元供給部長らとの関係も掴んだ連警が、関係者逮捕に踏み切ったのが14年3月のLJだ。だが、LJの対象はその後、PB絡みの不正という枠を大きく越えた。(中略)
 
LJの対象は、保健省などの官公庁絡みの事業契約、リオ五輪絡みの公共事業契約、鉄道絡みの事業契約など、捜査が進むごとに範囲が広がっており、現在の特捜班はパラナ州クリチバとリオ州で活動している。
 
LJで摘発された疑惑企業はオデブレヒトやOASなどの建設大手も含み、政治家や企業家など計198人が逮捕され、現在も23人が刑務所にいる。また、罰金や司法取引で支払いが約束された金は102億レアル、凍結された資産額は32億レアルに上る。
 
最高裁が承認した司法取引は127件、パラナ地裁と最高裁に起訴されたのは328人、パラナ地裁で有罪となった人は89人、最高裁で被告となった連邦議員は5人、最高裁が起訴状を検討中の議員も11人いる。(後略)【3月18日  ニッケイ新聞】
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ルラ元大統領が国外に売り込んだ建設大手オブデレヒト社は11 か国(マキシコ、ドミニカ、グアテマラ、パナマ、アンゴラ、モザンビーク、ペルー、アルゼンチン、エクアドル、コロンビア等)で7 億8800 ドルに及ぶ賄賂工作を行っていたことが判明しており、事件は国際的な広がりも見せています。

“英国のロールス・ロイス社もペトロブラスと石油採掘船用の発動機で賄賂に関係し取引額6 億5000 レアル(約227 億円)、賄賂510 万レアル(約1.8 億円)が判明している。”【梅津 久氏「マイゾウ・メーノス (まあ-まあ-)の世界 ブラジル」http://www.samicultura.com.br/sites/default/files/arquivos_downloads/%E7%AC%AC33%E8%A9%B1%E3%80%80LJ%E4%BD%9C%E6%88%A6.pdfより】


閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象
事件がブラジル国内の政界全体に及んでいることはこれまでも明らかになっていますが、ブラジル最高裁はテメル政権の閣僚や上下院議員ら計98人について、検察が求めていた捜査開始を認める判断を示しており、改めてその“すそ野の広さ”が浮き彫りになっています。

****ブラジル大規模汚職、閣僚ら98人捜査へ 最高裁が許可****
ブラジルの最高裁は14日までに、テメル政権の閣僚や上下院議員ら計98人について大規模な汚職事件に関わった疑いがあるとして、検察が求めていた捜査開始を認める判断を示した。

連立与党党首や上下院議長ら有力政治家が多数含まれている。前大統領の弾劾(だんがい)などで続いてきた政治の混乱に拍車が掛かりそうだ。
 
報道によると、捜査対象にはパジリャ官房長官やヌネス外相ら閣僚8人のほか、テメル大統領が所属するブラジル民主運動党のジュカ党首と、連立与党・ブラジル社会民主党のネベス党首ら現職国会議員63人が含まれている。いずれも贈収賄や資金洗浄などの疑いがあるという。
 
一連の捜査は、国営石油会社を巡る汚職疑惑の捜査の中で、建設大手オデブレヒト社と政界との癒着が明らかになったのが発端。元社長ら幹部の供述から次々と大物政治家の名前が挙がり、検察は閣僚や議員の捜査に必要な最高裁の許可を求めていた。
 
最高裁は12日、同社幹部らが、テメル氏ら多数の政治家の関与について供述しているビデオを公開した。だがテメル氏については、大統領は就任前の罪には問われない「免責特権」があることから、検察の捜査対象には含まれていない。テメル氏は13日、「うそだ。不正への関与は一切ない」と疑いを否定した。

ブラジルでは昨年8月、政府会計を粉飾したとしてルセフ前大統領が弾劾手続きで罷免(ひめん)された。当時与党だった労働党と国営石油会社の大規模な汚職の発覚が弾劾を後押しし、政権交代につながった。現政権の閣僚らを含めた今回の疑惑は、テメル政権にとって大きな打撃となりそうだ。
 
捜査開始の要求を巡っては1月、判断を担当していた最高裁判事が飛行機事故で死亡。不自然さを疑問視する声も上がっていた。【4月15日 朝日】
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【「免責特権」を有するテメル大統領にも疑惑
上記記事のあるように、テメル大統領自身も、「免責特権」で捜査対象とはなっていないものの、その名前が挙がっています。

****テメル大統領に収賄疑惑 ブラジル汚職 建設大手から44億円****
ブラジルの汚職事件を巡り、テメル大統領に現地建設大手オデブレヒトからの収賄疑惑が浮上した。

2010年にテメル氏が率いる政党が総額4千万ドル(約44億円)の賄賂を受け取ったという。同社の元幹部が検察の取り調べに対し、司法取引に応じて報奨付き供述をした。テメル氏は否定しているが、供述の様子を撮影した映像が公開され、同国の政界を揺るがすスキャンダルとなっている。

ブラジル連邦最高裁が12日公開した映像では、元幹部が「サンパウロのテメル氏の事務所で同氏らに面会した」「金額については直接話さなかったが、私は支払いを約束した」と語っている。
 
元幹部とテメル氏の面会後、オデブレヒトは国営石油会社ペトロブラスと総額8億2500万ドルの契約を受注するため、約5%分となる4千万ドルを要求され、現金や海外口座経由で支払ったという。
 
事務所には当時ブラジル民主運動党(PMDB)党首だったテメル氏のほか、クニャ元下院議長やアルベス元観光相ら同党の有力議員がいたという。元幹部は「クニャ氏に『ペトロブラスと契約するならば、党に重要な貢献ができるはずだ』と言われた」と圧力をかけられたことを証言した。
 
ルラ元大統領が率いる労働党政権下で、PMDBは連立を組んでいた。オデブレヒトが支払った4千万ドルのうち、最終的に8割の3200万ドルがPMDBに、残り2割の800万ドルが労働党に渡ったという。
 
ブラジル政界を覆う汚職疑惑の発端は14年に始まったペトロブラスへの捜査だ。捜査当局は国営企業で政治家が影響力を発揮しやすい同社を中心に捜査を進めており、取引業者などを巻き込んだカルテルや不正契約を調べる過程で、今回のオデブレヒトを巡る事件が浮上した。
 
事態収拾のためテメル氏は13日、今回の事態について自ら釈明する映像を公開した。自身の事務所でオデブレヒト幹部と面会したことは認めたが、「疑わしい交渉はしていないし、(契約額や賄賂の)金額について聞いたというのは嘘だ」として疑惑を否定した。
 
現地メディアによると、ブラジルでは大統領は在任中、就任以前に起きた事件については捜査されない権利がある。そのためテメル氏は議会で弾劾されない限り、18年末までの任期を全うできるとの見方もある。
 
13日、ブラジルの主要株価指数であるボベスパ指数は汚職問題の拡大を嫌気し、前日比1.67%安で取引を終えた。【4月14日 日経】
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8割がPMDBに、残り2割が労働党に・・・ということで、要するに連立与党議員全体に資金が流れたということのようです。テメル大統領は「うそだ」と言っていますが・・・・)

リオデジャネイロ五輪開催時の市長だったエドゥアルド・パエス氏も、五輪関連事業をめぐって1500万レアル(約5億2000万円)超の賄賂を受け取った疑いで捜査対象となっています。

財政再建のための国会審議も延期へ
ある程度は予測されていた事態でもありますが、さすがに閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象となると、財政再建が急務とされるブラジルですが、国会審議どころではなくなります。

****LJ作戦=「98人捜査許可」で衝撃走る=下院議会はまたも重要法案の審議延期に=改革への道のり険しく****
11日午後、エジソン・ファキン最高裁判事が現職閣僚、上下両院議員、州知事ら総勢98人に対する捜査開始を許可したことが、エスタード紙によってすっぱ抜かれた。

それによる大混乱のため、連邦政府は下院本会議に連立与党の議員を動員する事が出来ず、財政上の非常事態に陥った州に対する財政再建計画(RRF)に関する法案採決を延期せざるを得なかったと、12日付現地紙が報じた。
 
自らも捜査対象となったロドリゴ・マイア下院議長(民主党・DEM)は、6時間に及ぶ同法案に関する審議のあと、RRFの採決を待たずに閉会を宣言した。
 
ファキン判事による捜査開始許可の対象に、現職下議だけで39人に及ぶ名前が挙がっていた事が分かると、下議たちはRRFの審議中であるにもかかわらず、本会議場を後にし始め、出席議員数が採決可能な定数を割り込んだためだ。
 
また、捜査対象であるか否かに関わりなく、多くの議員が復活祭の休暇のため、12日にもブラジリアを離れるために、RRFの採決は来週に持ち越された。
 
捜査対象リストに名前のなかった議員は、がらんとした下院を見て「上院の定数が増えたようだ」と皮肉を言い、「何と! 汚職防止法の報告官まで汚職捜査の対象なのか」とオニキス・ロレンゾーニ下議(DEM)を揶揄した。(中略)
 
経済評論家のミリアン・レイトン氏も、「現政権の目指す財政改革の道はより時間がかかり、複雑になった。国外の経済格付け会社の評価も下がるだろう。ただ、この逆風が伯国政治の刷新の助けになる可能性も残されている」とした。【4月13日 ニッケイ新聞】
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期待される“政治の刷新の助けになる可能性”】
こういう話を取り上げると、「ブラジルの政治はなんと腐敗が蔓延していることか!」という話にもなりますが、政治全体に汚職・不正が蔓延しているのは、別にブラジルに限った話ではありません。

それらの国では、汚職・不正が“当たり前のこと”ともみなされ、事件にもなりませんから、LJ作戦で汚職一層が進められているブラジルは自浄能力をまだ有している“ましな国”とも言えます。

日本でも、かつては政治にカネは付き物ということで、“潤滑油”としてカネが露骨に流れるような政治世界もあり、多数の疑獄事件を生んでいます。

そうした露骨な収賄が少なくとも表面上は少なった昭和末期の1988年(昭和63年)には、現金の代わりに未公開株をばらまくという形で、広範な与党大物議員を巻き込んだ“リクルート事件”も起きています。

リクルート未公開株を譲渡を受けた自民党議員は“竹下登首相、長谷川峻法相、宮沢喜一蔵相、小渕恵三官房長官、原田憲経企庁長官、小沢一郎官房副長官、安倍晋太郎幹事長、渡辺美智雄政調会長、愛野興一郎前経企庁長官、中曽根康弘元首相、橋本龍太郎元運輸相、梶山静六元自治相、森喜朗元文相、中島源太郎元文相、砂田重民元文相、塩川正十郎元文相、加藤六月元農水相、大野明元労相、栗原祐幸元労相、山口敏夫元労相、坂本三十次元労相、藤波孝生元官房長官、加藤紘一元防衛庁長官、渡辺秀央元官房副長官、原健三郎前衆院議長、浜田卓二郎代議士、伊吹文明代議士、愛知和男代議士、大坪健一郎代議士、有馬元治代議士、野田毅代議士、堀内光雄代議士、鈴木宗男代議士、尾形智矩代議士、椎名素夫代議士、志賀節代議士、藤田正明参院議長、遠藤政夫参院議員、倉田寛之参院議員、鈴木貞敏参院議員”【ウィキペヂア】ということで、当時の、かつての、そしてその後のそうそうたる政治指導者の名前があがっています。野党からも数名の名前があがっています。

リクルート事件では竹下内閣が潰れ、その後の参議院選挙では宇野スキャンダルもあって、自民党結党史上初の過半数割れを起こしています。また、自民党内でも世代交代が進行しました。

このような経験もあって今日の日本の“きれいな政治”(!!!???)が実現されている訳で、ブラジルにあっても“この逆風が伯国政治の刷新の助けになる可能性も残されている”ということです。

ついでに言えば、汚職体質は政治家だけではないことは、先月問題となった食肉不正問題でもあきらかです。
単に政治家の問題ではなく、社会全体の意識改革が必要とされています。

****ブラジルで食肉不正問題、緊急閣議招集へ****
ブラジルのミシェル・テメル大統領は19日、世界有数の食肉生産国で国内外に広く鶏肉などを販売している同国において、食肉の安全性をめぐり不正問題が発覚したことを受け、緊急閣議を開くと発表した。
 
2年間にわたる警察の捜査によって17日、公衆衛生検査官数十人が賄賂を受け取り、衛生基準を満たさない食品を消費に適しているとして承認していたとの不正が明らかになった。
 
不正に関わったとされる多数のブラジル企業は18日、自社製品は安全だと主張したが、国民の不安は高まるばかりだ。

この食肉偽装スキャンダルは、ブラジルなどの南米諸国が加盟する南部共同市場(メルコスル、Mercosur)が欧州連合(EU)との貿易協定締結を進めているさなかという微妙な時期に発覚した。
 
ブラジル農牧省によると、当局は17日、12以上の食肉加工業者を強制捜索し、逮捕状27枚を取り、食品大手のブラジルフーズ(BRF)の鶏肉加工場1か所と、Peccinの食肉加工場2か所を閉鎖した。
 
また、別に21か所の加工場で捜査が進められているほか、農牧省はこの不正問題に関与した当局者33人を免職処分にした。
 
当局は、衛生基準を満たさない食品が見つかった場所について言及していないが、南部クリチバでの記者会見で、腐った肉の悪臭を隠すために「発がん性物質」が使われていた事例もあったと述べた。
 
この問題では、BRFだけでなく、同じ食品大手のJBSなども捜査の対象となっている。
 
リオデジャネイロのスーパーマーケットでよく買い物するというシルビア・ファリアス教授は、鶏肉製品の一部には段ボールが混入しているとの報告もあり、懸念していると述べた。
 
ブラジルは少なくとも世界150か国に鶏肉などの食肉を販売しており、この不正問題は同国にとって深刻な懸念事項となっている。【3月19日 AFP】
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