孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  干ばつとテロで深まる飢餓の危機

2017-04-17 21:48:45 | アフリカ

(飢餓に人生を翻弄される少女、ゼイナブさん(本文参照)は左から2番目。ソマリアのドーロで4月3日撮影(2017年 ロイター/Zohra Bensemra)【4月17日 ロイター】)

【26万人が死亡した2011年の大干ばつの再現か?】
東アフリカのソマリアで、干ばつとテロ・戦乱によって深刻な飢餓が進行していることは、これまでも取り上げてきました。(3月18日ブログ“ 飢餓と戦乱のソマリア・イエメン 逃げ惑う人々を襲う更なる悲劇 門戸を閉ざす国際社会”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170318など)

****<ソマリア>干ばつ深刻化…イスラム過激派、伸長も****
国連のグテレス事務総長は7日、干ばつの影響が深刻化しているアフリカ東部のソマリアを訪れ、国際社会の支援がなければイスラム過激派の伸長を招くと警告した。
 
ロイター通信によると、グテレス氏は「テロと戦うには、根本的原因に対処しなければならない」と指摘。ソマリアのような国に平和と安定をもたらすことこそ「豊かな国が自分たちを守る一番の方法だ」と述べた。
 
ソマリアでは人口の半数近い620万人が食糧不足に陥り、国連は8億2500万ドル(約940億円)の緊急支援を呼びかけている。グテレス氏は「豊かな国に気前の良さを求めているのではない。自らの利益になると訴えている」と語った。
 
ソマリアのアブドラヒ大統領は、今後2カ月のうちに雨が降らなければ「26万人が死亡した2011年の大干ばつと同様の人道危機が起きる」と述べ、早急な支援を求めた。
 
ソマリアではイスラム過激派アルシャバブによるテロが頻発し、テロと干ばつの二重苦に見舞われている。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、イエメン、ナイジェリア、ソマリア、南スーダンの中東・アフリカ4カ国で、子供約140万人が深刻な栄養失調で年内に死亡する危険にさらされている。【3月8日 毎日】
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40日ほど前の記事で、“今後2カ月のうちに雨が降らなければ・・・・”とのことですが、その後事態が改善したという話は聞きません。ふたたび飢饉の瀬戸際にあると思われます。

欧米社会のテロと違って殆どニュースにもなりませんが、イスラム過激派「アルシャバブ」によるテロも相変わらず頻発しています。

****首都で2日連続自爆、13人死亡=過激派、大統領に反発-ソマリア****
ソマリアの首都モガディシオで9、10の両日、連続で自爆テロが発生し、少なくとも13人が死亡した。

国防省近くで9日に起きた自爆テロでは、少なくとも10人が死亡。軍高官は「爆発物を満載した小型バスが民間のバスに衝突して爆発した。軍の車列に突っ込もうとしていたようだ」と語った。
10日は首都南部の軍基地内に侵入を試みた容疑者が自爆、少なくとも兵士3人が死亡した。
 
どちらのテロもイスラム過激派「アルシャバーブ」が犯行声明を出し、9日の自爆については「参謀長は首の皮1枚で助かったようだ」と主張、6日に就任したばかりの新参謀長の車列を狙った犯行だったことを認めた。この車列の軍高官らは全員無事で、代わりに民間人7人、治安部隊員3人が犠牲になった。
 
2月に大統領選に勝利したアブドラヒ大統領は6日の記者会見で、アルシャバーブに宣戦布告する一方、60日以内に降伏した者には恩赦を与えると発表した。

反発したアルシャバーブはその日、地雷で19人、翌7日も砲撃で3人を殺害した。【4月10日 時事】
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【「ライオンに食べられた方がまだいい」・・・ある少女の自由と夢を奪う飢餓の現実
下記は、そんなソマリアで生きる一人の少女とその家族の話です。
少女は家族を飢餓から救うために、本人の意思に反して、結婚支度金を得る目的での結婚を迫られます。

おそらくソマリアでは、ごく“ありふれた”話でしょう。

****ソマリアの少女、飢える一族救うため失った自由と****
4月10日、干ばつに襲われたソマリア南部の村で、アブディル・フセインさんが家族を飢餓から救うために残された最後のチャンスは、14歳の娘ゼイナブさん(写真、左から2番目)の美貌だった。

年配の男性が昨年、ゼイナブさんとの結婚支度金として1000ドル(約110万円)を渡すと申し出た。エチオピア国境に近いドーロの街に親族もろとも引っ越すには十分な金額だ。ドーロでは、国際支援機関が壊滅的な干ばつから逃れてきた各世帯に食料と水を供給している。

だが、ゼイナブさんは結婚を拒んだ。
「死んだ方がまし。茂みに駆け込んでライオンに食べられた方がまだいい」と黒い瞳を持つ細身の少女は、高く柔らかい声で語った。

「そうすれば、私たちはここに留まって餓死し、動物たちに骨まで食い尽くされることになる」と彼女の母親は言い返した。

10代の少女とその母親が交わした会話は、2年に及ぶ干ばつを経て、ソマリアの家族たちが突きつけられている典型的な選択だ。

「アフリカの角」に位置するソマリア全域で、作物は枯れ、白骨化した家畜の死体が散乱している。
この災害は、アフリカから中東にわたって2000万人の住民を脅かしている飢餓と暴力の一部にすぎない。

国連によればソマリアの人口1200万人の半数以上が支援を必要としている。2011年にも似たような干ばつが発生し、何年も続く内戦によって状況がさらに深刻化したため、26万人が命を落とすという世界的にも大規模な飢饉が発生した。現在この国は、ふたたび飢饉状態の瀬戸際まで追いやられている。

犠牲者は今のところ数百人程度だが、3─5月も降水量が改善しなければ、その数は急増するだろう。見通しは楽観を許さない。

米国のトランプ大統領が国際援助予算の削減をちらつかせるなかで、国連は、ソマリア、ナイジェリア、イエメン、南スーダンの4カ国における干ばつと紛争により、第2次世界大戦以降で最大となる人類の集団災害が現実化しつつあると指摘する。

オブライエン国連事務次長(人道問題担当)は3月、安全保障理事会に対して、「私たちは歴史の臨界点に立っている」と述べた。「国連が創設されて以来、最大の人道的危機に直面しているのだ」

国連は7月までに44億ドルの資金を必要としているとオブライエン事務次長は語る。だが、これまでに国連が受領したのは5億9000万ドルに過ぎない。

<辛い選択>
統計数値には表われないが、家族たちは日々、生き残るために胸を締め付けられるような選択を余儀なくされている。

フセインさんは、ゼイナブさんの自由を、彼女の姉妹の生命のために売り渡した。
「とても辛い気持ちだ」とフセインさんはロイターに語った。棒とボロ布、ビニールシートでできた粗末なテントには、彼女と14人の親族が身を寄せ合っている。「あの子の夢を終わらせてしまった。しかし結婚支度金がなかったら、私たちは全員死んでいたはずだ」

ゼイナブさんの手は染料の色に染まり、10代の子供らしく、自分でした落書きの跡がある。ぴったりとしたスカーフを頭に巻き、一番下にラインストーンで装飾を施したズボンの上に、長い淡褐色のスカートを履いている。内に秘めるのは鉄のように強固な意志だ。彼女は英語の教師になりたがっている。学校を卒業したいと思っている。彼女は結婚などしたくないのだ。

「私が求めているのは、こんな状況ではない」と彼女は言う。2歳の甥は裸で砂の上に横たわり、その弟である赤ん坊が弱々しく泣いている。

ゼイナブさんの夢の引き換えとなったのは、20人の姪や甥たちの命だ。彼らの母親はゼイナブさんの3人の姉で、若くして結婚したが、いずれも夫に死別するか離婚している。他にも、心配事でやつれた兄や、すきっ歯の妹、それに中年にさしかかった両親がいる。

かつて一家は牛やヤギを飼い、3頭のロバを馬車につないで移動手段として使っていた。だが家畜たちは死んでしまい、彼らがこの状況から逃れるための唯一の希望はゼイナブさん自身となってしまった。

1ヶ月にわたって彼女は結婚を拒否し、ふさぎ込み、部屋に閉じ込めておくことを家族が忘れたときには逃げ出した。だが結局、家族のあまりの困窮ぶりに、彼女の気持ちは折れた。

「娘に強制したいとは思わなかった」と母親は憂鬱そうに言う。心労のために額には皺が刻まれ、娘は硬い表情のまま隣に座っていた。「ストレスで眠れなかった。あまりにも目が疲れていて、針に糸を通すこともできなかった」

支度金を受け取り、祝福を受けて結婚は成立した。ゼイナブさんは3日間、婚家に留まった後、そこを逃げ出した。

家族が自動車を借りて40キロ離れたドーロに移ったとき、ゼイナブさんも同行した。彼女は地元の学校に入学した。簾(すだれ)で壁を作り波形の鉄板で屋根をふいた教室には、教師が10人、生徒は約500人いた。
夫は後を追ってきた。

「彼は、自分を拒むなら金を取り戻さなければならない。さもなければ力ずくで彼女を取り戻す、と言った」とザイナブさんは静かに語る。「金を返せ、さもなければ夫としてお前のそばにいる、というメッセージを彼は私に送ってきた」

家族には支度金の一部でさえ返済することはできない。彼らのわずかな財産は、シミの付いた発泡素材のマットレスが2枚、調理用の鍋が3つ、その場しのぎのテントを覆うオレンジの防水シート、たったそれだけだ。他には何も売るものはない。

そこで、ゼイナブさんの英語の教師であるAbdiweli Mohammed Hersiさんが仲介役を買って出た。干ばつのために学業を諦める生徒を彼は何百人も見てきた。

<結末>
Hersiさんはゼイナブさんを地元の支援団体のもとに連れて行き、彼女をイタリアの支援団体に紹介した。欧州連合(EU)の資金提供者と一緒に視察に訪れていた地域コーディネーターは、介入を決意した。

「この少女のために何かしなければならない」。祈祷への呼び掛けが屋根を通して聞こえてくるなか、説明を聞くために集まった同僚たちのために茶を注ぎながら、Deka Warsameさんはそう語った。「さもなければ、毎晩レイプが行われることになってしまう」

彼女のスタッフは献金を募り、支度金の返済に足りるだけの現金を集めた。そしてゼイナブさんに、支援団体が両家の男性会合で仲裁を行うと語った。彼女の夫が証人の前で離婚を認めるならば、彼は支度金を取り戻すことができる。

それを聞いて、うつむいていたゼイナブさんは、さっと顔を上げ、 「私は自由の身になるの」と尋ねた。【4月17日 ロイター】
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上記の少女の場合は、救いの手も差し伸べられたようですが、ほとんどのケースではそうした“救い”もありません。

ターキッシュ・エアラインズ(旧「トルコ航空」)の試み
国内あるいは同じような国における災害・事故・テロなどには過敏なほどに反応する欧米・日本の社会ですが、飢餓と戦乱で生きるすべを失ったアフリカの小国の現状には、ほとんど関心を示さないのが現実です。

長年の援助疲れもあるでしょうし、「自国第一」の風潮の蔓延もあるでしょう。何より、そうした悲惨な国が多すぎ、感覚がマヒしてしまっていることもあります。「ああ、またね・・・・」

そうした反応が鈍い国際社会にあって、数少ない“支援”に関する話題が。

****ターキッシュ・エアラインズ、ソマリアに貨物専用機で人道支援物資を輸送****
ターキッシュ・エアラインズは2017年4月5日(水)、食糧危機に直面するソマリアへの支援物資輸送機の要請に応じ、イスタンブール/モガディシュ間で人道支援物資を搭載した貨物機を運航しました。

Twitterで著名なジェローム・ジャー氏がソマリアへ定期便を運航するターキッシュ・エアラインズに対し、ソマリア食糧支援の輸送機を要請する動画を投稿し、世界中から大きな反響を呼び、ハリウッド俳優らも巻き込んだ拡散につながりました。

ターキッシュ・エアラインズもこの行動に対し、6カ月にわたるソマリアへの人道支援物資、計200トンの輸送を支援すると発表しました。

この支援発表から間もなく、100万米ドル達成を目標とした寄付金集めが始まり、22時間で104カ国、16,000件の寄付が寄せられ、目標を達成したのち、15日目には125カ国、80,000件の寄付、調達額は240万ドルとなりました。

4月4日(火)夜にターキッシュ・エアラインズのA330-200貨物専用機がイスタンブールを出発、ソマリアへタンパク質強化乳児用粉ミルク65トンを輸送しました。

モガディシュでは、現地NGOの代表、フォウシヤ・アビイカー・ヌル厚生大臣、モハメド・アブデュラヒ・サラド輸送・民間航空大臣など政府高官などに出迎えられました。

同社はソマリアと世界を結ぶ唯一の民間航空会社として、その社会的責任は大きいとして、引き続き協力していくと述べています。【4月12日 Fly Team】
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国内人権状態に関して欧州・EU諸国からはとかくの批判もあるトルコですが(憲法改正承認で今後の“独裁”傾向への懸念もあります)、現実問題として多数のシリア難民を国内に受け入れ、近隣の同じイスラム社会へのこうした支援活動も行われているようです。

トラウマから解放された?アメリカ
一方、アメリカ・トランプ政権もソマリアへのアクションを起こしていますが、こちらは人道支援ではなく軍隊の派遣です。

もちろん、長期的には、戦乱を収束させることがソマリア社会復興の大前提となります。

****<米軍>ヘリ撃墜事件以来、ソマリアに通常部隊派遣へ****
AP通信は14日、米軍がアフリカ東部ソマリアに通常部隊を派遣すると報じた。通常部隊の派遣は、1993年に起きた米軍ヘリ撃墜事件をきっかけに全面撤退して以来となる。
 
約40人からなる部隊が派遣され、イスラム過激派アルシャバブの掃討作戦を展開するソマリア軍に対し訓練を実施する。これまで米軍の支援は、小規模の軍事顧問団などの派遣を除けば、無人機による空爆やミサイル攻撃に限られていた。
 
米軍は93年に首都モガディシオでヘリを撃墜され、市民が米兵の遺体を引きずり回した事件を受けてソマリアから撤退を余儀なくされた因縁がある。
 
米国防総省は先月、トランプ大統領が米軍によるアルシャバブへの空爆強化を承認したと発表していた。【4月15日 毎日】
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1992年当時、ソマリア戦乱は現在以上の混乱状態・無政府状態にありました。
その惨状にジョージ・H・W・ブッシュ米大統領は退陣を間近に控えた92年末、国連安全保障理事会の決議に基づき、米軍主導の多国籍軍ソマリア統一機動軍(UNITAF)を派遣しました。

****ソマリアの惨状を世界が見捨てた訳****
内戦激化で大量の難民が生まれ飢餓も慢性化しているが、米軍も国連も助けにこない

1992年当時のソマリアは最悪の状況だった。内戦で無政府状態が続き、武装集団が国連の援助物資を略奪。全土で180万人が飢えに苦しんでいた。
 
そこへ登場するのが、米軍主導の多国籍軍だ。インド洋には援助物資を積んだ米軍の輸送艦隊が現れ、空からは米軍の攻撃ヘリが物資を運ぶトラックを援護。武装勢力の動きを監視するために米軍の偵察機が首都モガディシオ上空を日夜旋回した。(後略)【2009年11月25日 Newsweek】
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しかし、【毎日】記事にあるように、93年に米軍ヘリ「ブラックホーク」が撃墜され、市民が米兵の遺体を引きずり回すという事件が起きます。

以来、アメリカはそして国際社会はソマリアから手を引き、ソマリアは破たん国家の道を歩むことになりました。

その後、状況の変化はいろいろあったものの、アメリカはソマリアに関しては93年の事件が“トラウマ”になっており、なかなか関与しようとはしない・・・とも言われてきました。

二十数年を経て、ようやく“トラウマ”も薄れてきたのでしょうか。

もっとも、今回の派兵は40人規模ということで、できることは極めて限定的です。
「自国第一」を掲げ、海外への援助も削減しようとしているトランプ政権には、あまり大きな期待もできません。

シリア攻撃を決心させたともいわれる2枚の写真でトランプ大統領の心に人道支援に対する共感が大きく芽生えた・・・という話なら別ですが、そういうこともないでしょう。
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