孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド 中国と領有権を争う北東部、ダライ・ラマ訪問で中国と対立 スリッパ叩き議員や酒類販売禁止

2017-04-08 22:13:19 | 南アジア(インド)

(北東部の赤い斜線がインド・中国が争うアルナーチャル・プラデーシュ州 インド北東部は西隣のブータンやネパール・バングラデシュに挟まれた細い回廊でインド亜大陸につながる地域です。人種的にもアジア系で、いわゆるインド人とは異なるようです。なお、北部先端の斜線がインド・パキスタン・中国が争うカシミール地方)

【「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」】
インドとパキスタンがカシミールの領有をめぐって度々衝突しており、核保有国同士の対立が続いているのは周知のところですが、このブログでもしばしば取り上げているように、インドは中国とも領土問題を抱えており、やはりときおり小競り合いを繰り返しています。

インド・中国の領土問題は、西のカシミール地方と東のヒマラヤ山脈東部の2カ所ありますが、東のインド北東部に突き出たアルナーチャル・プラデーシュ州に関しては昨年6月(約3時間)、9月(4日間ほど)に中国軍が侵入しインド軍とにらみ合いにもなっています。

単に領土を争うというだけでなく、中国の南シナ海・インド洋への進出、インドの中国への対抗など、日本を含めた大きな国際政治の枠組みの中で、ときおりこの領土問題が表面化します。

下記記事は1年前の昨年6月の中国軍侵入のときのものです。

****中国軍がインド北東部に侵入 領有権主張、日米との連携強化に反発か****
インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に今月9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かった。印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにした。

中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性がある。
 
中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在した。中国兵は3月にも、中印とパキスタンが領有権を主張するカシミール地方でインドの実効支配地域に侵入し、インド軍とにらみ合いになっていた。アルナチャルプラデシュ州への侵入は、最近約3年間、ほとんど確認されていなかったという。
 
9日は、中国海軍が艦船を尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域で航行させた時期と重なる。インドは10日から日本近海で、日米とともに海上共同訓練「マラバール」に参加していた。訓練は米印が実施してきたが、昨年、日本の恒常的参加が決まっていた。
 
インドは、今月6~8日のモディ首相の訪米では、中国が軍事拠点化を進める南シナ海に言及せず、中国に配慮を示していた。【2016年6月19日 産経ニュース】
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両国が領有権を争う非常に“敏感”なエリアであるアルナーチャル・プラデーシュ州を、これまた中国にとって極めて“敏感”な存在であるダライ・ラマ14世が訪れるとなると・・・やはり揉めます。

****ダライ・ラマの中印国境訪問で両国間に火花****
<チベットの指導者ダライ・ラマ14世が訪問したのは、中国とインドが領有権を争う国境地帯。怒る中国に対しインドも挑発的だ>

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が亡命先であるインドのアルナーチャル・プラデーシュ州を訪問したのに対し、中国は5日に懸念を示した。

国連とインドにとって、ヒマラヤ山脈東部の同州はインドが実効支配するインド領という認識だが、中国側は同州の約9万1000キロ平方メートルの領有権を主張している。ダライ・ラマの訪問を許す権利はインドにはないというのだ。

中国は長年にわたりチベット自治区の独立を訴えるダライ・ラマ(81)を危険視し、その活動を非難してきた。

中国外交部の華春瑩報道官は、ダライ・ラマが同州を訪問することで国境紛争が再燃し、中印関係の健全な発展に悪影響をもたらすと発言。インド政府に問題提起した。

一方、インド内政部次長キーレン・リジジュは4日、今回で7回目を数えるダライ・ラマ14世の訪問について「アルナーチャル・プラデーシュ州はインドの一部であり、中国はインドの内政に干渉するべきでない」と述べた。

中印関係はすでに緊張状態にある。中国軍によるサイバー攻撃、中国のインド洋進出、中印国境の紛争地カシミールを通ってパキスタンに抜ける中国パキスタン経済回廊(CPEC)計画など、問題が山積みだ。

インドは2014年にナレンドラ・モディ首相が就任してから、チベット亡命政権のロブサン・センゲ首相を就任式に招待するなど、中国に対しこれまで以上に挑発的な動きをしていると、米国際戦略研究センター( CSIS )で対印政策を担当するリック・ロッソウ上級顧問は言う。

モディだけではない。アルナーチャル・プラデーシュ州のペマ・カンドゥ首相はダライ・ラマを歓待し、「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」と中国の懸念を切り捨てた。【4月6日 Newsweek】
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「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」・・・・チベット亡命政府の存在をインド西北部ダラムサラに認めているインドですから、このようなもの言いにもなります。

“インドは、原子力供給国グループ(NSG)への参加や、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派指導者の国連制裁リストへの掲載を中国に反対され、昨年来、中印関係は悪化しており、今回の訪問は中国への圧力の一環とみられる。”【4月5日 産経】と、インド側がダライ・ラマ14世という“カード”を利用しているとの指摘もあります。

ただ、将来の大国同士としての今後のインド・中国関係を考えると、領土問題以上に、チベット亡命政府がインドに根拠地を置いているということが問題になるようにも思えます。
両国の関係改善を阻害する大きな要因となるのか、あるいは、関係改善を目指す中でチベット亡命政府がインドにとっても“邪魔な存在”となるのか・・・

なお、両国が領有権を争う北東部アルナーチャル・プラデーシュ州については、ダライ・ラマ14世訪問以外にもインド側の動き・中国側の反発が報じられています。

****中国がインドに警告、国境係争地への鉄道網計画に反発****
2017年4月2日、インドの有力紙THE HINDUによると、中国政府はこのほど、インドが北東部アルナーチャル・プラデーシュ州のタワングを鉄道で結ぶ計画を検討していることに強い反対を表明した。ヒマラヤ山中の同地は中国が領有権を主張している中印国境係争地だ。参考消息網が伝えた。

インド政府がマノジ・シンハ鉄道相とキレン・リジジュ国務大臣に対し、アルナーチャル・プラデーシュ州との境に最も近いアッサム州バルクポンとタワングを鉄道で結ぶことの可能性を評価するよう指示したと報じられている。

これを受け、中国外交部は1日、「インド側が一方的な行動を控えることで、中国とインドの相互信頼を高め、境界問題の適切な解決を促進できることを願っている」と述べ、けん制した。

中国当局は先週、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が、中国が「蔵南地区(チベット南部)」と呼ぶアルナーチャル・プラデーシュ州を訪問することを認めたインド政府に対し、「両国関係を著しく損なう」と反発していた。【4月5日 Record China】
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“インド最後の秘境”とも呼ばれるアルナーチャル・プラデーシュ州は外国人の入域が制限されており、観光ができない訳ではありませんが、入域希望予定日より8週間以上前に,インド政府当局より入域許可を取得する必要があります。(外国人だけでなく、域外インド人も入域には許可が必要との話も聞きます)

ぜひ、そのうち行ってみたい場所のひとつです。

旅客機客室乗務員を履物で叩いた議員
インドを取り上げたついでに、最近のインド関連の話題をいくつか。

どこの国も横柄な勘違い政治家は多数存在しますが、身分制度意識が抜けきれないインドにあっては、それこそごく普通の存在でしょう。

****インド議員、客室乗務員をスリッパで25回はたく 座席めぐり口論****
インドの国内線の旅客機内で23日、搭乗していた下院議員が座席をめぐって客室乗務員と激しい口論となり、相手をスリッパで25回にわたってたたく行為に及んだ。議員は地元メディアにたたいた事実を悪びれる様子もなく認めたが、政党などから非難する声が上がっている。
 
問題を起こしたのは西部マハラシュトラ州選出でヒンズー教至上主義を掲げる政党「シブ・セナ(SS)」所属のラビンドラ・ゲイクワッド連邦下院議員。
 
報道によると、23日朝に同州プネから首都ニューデリーに向かう国営航空会社エア・インディアの旅客機に搭乗したが、ビジネスクラスのチケットを持っていたにもかかわらず、エコノミークラスの座席に座らされた。女性客室乗務員に苦情を伝えた後、上級の男性客室乗務員と激しい言い合いとなったという。
 
ゲイクワッド氏はインドのANI通信に対し「あいつが手で殴打されたって言ってるだって? スリッパで25回はたいてやっただけだ」と平然と答えた。インタビューの映像はANIがツイッターに投稿し、他のニュース番組でも放送された。
 
ゲイクワッド氏は「モディ(ナレンドラ・モディ大統領)に訴えると言ってきたので、はたいてやったのだ」と主張。「この侮辱を受け入れなければならなかったのか?」と語っている。
 
インドの他の政党はゲイクワッド氏の行動を厳しく批判している。
エア・インディアの広報担当者はAFPに対し、今回の件について調査を行うと明らかにした。
 
インドでは昨年、南東部アンドラプラデシュ州の空港で、ゲートが閉まっていたために家族らとの搭乗を拒まれた連邦議員が、空港職員を平手打ちしたとして逮捕される事件が起きている。【3月24日 AFP】
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この議員はインド航空会社各社から搭乗拒否されていましたが、謝罪することで搭乗を許されることになったとか。

****客室乗務員を履物でたたいた議員への搭乗拒否処分、取り消される インド****
・・・エア・インディアは被害を警察に届け出て、さらにゲイクワッド議員の搭乗を拒否した。これを受け航空他社も同様の措置を講じたために、同議員は列車での移動を余儀なくされた。
 
しかしインド民間航空省が、ゲイクワッド議員が最近謝罪したことを考慮するようエア・インディアに求めていたことを受け、同議員に対する搭乗拒否処分は7日に取り消された。(後略)【4月8日 AFP】
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全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売を原則的に禁止
昨年末には高額紙幣の突然の廃止が大きな話題・政治問題ともなりましたが、今度は全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売が原則的に禁止されるそうです。

****主要道から500メートル内で酒販売禁止、インドで飲酒運転事故多発に対応 業界からは不満噴出****
インドの最高裁が、全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売を原則的に禁止し、レストランやホテル業界に不満が広がっている。飲酒運転の事故多発を受けた措置だが、業界は多くの失業者を生むと反発している。
 
最高裁は昨年12月、こうした地域での酒の販売を今年4月1日以降禁止すると命じ、具体的な説明として3月31日、酒店だけでなく、レストランやホテルでの販売も禁止に含まれるとの判断を示した。
 
該当店では、翌日からビールやウイスキーを提供できなくなり、インド飲食店協会のリヤアズ・アムラニ会長は地元紙エコノミック・タイムズに、今回の決定による失業者が全国で100万人に上る可能性があると述べた。

PTI通信によれば、商業都市ムンバイを抱えるマハラシュトラ州では、酒の販売免許約2万5500件のうち約1万5700件が影響を受け、経済的な損失は州内だけで700億ルピー(約1200億円)に上るとの推計もある。税収も大きく減少しそうだ。
 
首都ニューデリー近郊ハリヤナ州の州都チャンディガルでは3日、ホテル経営者らが最高裁に再審理を求めるデモを行った。日本人が多く住む州内グルガオンにある商業施設「サイバーハブ」の飲食店従業員は「客は9割減だ」と弱り顔で話した。
 
インドの一昨年の交通死者は約14万6000人で、6700人余が飲酒運転によるものだった。【4月4日 産経】
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インドを含めた多くの国々で交通事故が絶えないのは、無謀な運転、勝手に横断する歩行者、そもそも信号がほとんどない・・・・といった、飲酒運転以前の問題が多々あるようにも思えますが。

私はタバコは吸いますが、酒はあまり飲みません。ですから最近の禁煙措置の拡大には不満・不便を感じますが、禁酒措置については何とも思いません。まあ、人間の反応というのはそんなものでしょう。最高裁判事やモディ首相はおそらくあまり酒はたしなまないのでは・・・。

インド医療施設の“善意”(?)も
インド社会に関する話題というと、日本的常識からすると“とんでもない”話題が多いのですが(およそ「ニュース」というのはそういうものですが)、インドの名誉のため(?)に最後に“インドの善意”に関する話題も。

以前、隣国バングラデシュで、不治の病に侵された2人の息子と孫を安楽死させたいと嘆く父親が話題となりました。

****息子らを安楽死させたい」 父の悲痛な叫び バングラデシュ****
不治の病に侵された2人の息子と孫の苦しみをこの手で止めることを許してほしい──バングラデシュに暮らす貧しい父親の悲痛な訴えがきっかけとなり、この国ではほぼ話題に上ることのない「安楽死」が論争の的となっている。

「もう何年も看病してきた。バングラデシュだけでなくインドの病院にも連れて行った。治療費を工面するために営んでいた店も売り、無一文になってしまった」と、バングラデシュ西部の田舎で果物の露天商として働くトファザル・ホサインさんは言う。

「回復の見込みはなく、苦しみだけが残された彼らの運命をどうすればいいのか、地元政府に決めてもらいたい。私にはもう耐えられない」と話すホサインさん。地元の政府に対して、息子と孫の看病の支援か「薬で死なせることを許してほしい」と嘆願書で訴えた。
 
多くの人が貧困ライン以下の生活を送るバングラデシュでは、病院で治療を受けられる人は限られている。無料の医療サービスを提供してくれるクリニックもほとんどない。(後略)【1月25日 AFP】
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この件に関して、インドの医療施設が無料で治療を行うことを申し出たそうです。

****父親が安楽死願った難病の息子と孫、インドの医療施設が無料で治療へ****
バングラデシュで、難病に侵された2人の息子と孫を安楽死させてほしいと父親が訴え、世界的な注目を集めたことがきっかけとなり、インドの医療施設が無料で3人に対する治療を申し出ていたことが明らかとなった。
 
果物の露天商として働くトファザル・ホサインさんは今年1月、地元の政府に対して息子2人と孫の安楽死を認めるよう訴え、保守的なバングラデシュではほぼ話題に上ることのない安楽死についての論争が巻き起こった。
 
3人は全員、遺伝性の疾患「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を患っている。これは筋力が次第に衰える病気で、30歳を超えて生きられる患者は珍しいとされている。
 
父親のこの悲痛な訴えに、インド・ムンバイの医療施設「NeuroGen Brain and Spine Institute」が、幹細胞を用いた新しい治療を提供すると申し出た。同施設によると、患者数百人の症状を改善してきたという。
 
同施設の広報担当者は、インドの航空会社が無料でホサインさん一家をインドまで運び、一家は2日に施設に到着したと明らかにした。
 
また、この広報担当者は「デュシェンヌ型筋ジストロフィーは確かに不治の病であり、彼らは重度の疾患に苦しめられている」と述べ、試みるのは症状の改善であることを強調した。
 
だが一方でホサインさんは、インドでの治療について、息子たちと孫にとって最後の希望であると語った。
 
ホサインさんはAFPの電話取材に対し涙ながらに、「希望に満ちた気分だ。治療の第1ラウンドが行われたんだ」と答え、「アラーのお恵みにより、息子たちと孫が治癒されると願っている」と語った。【4月4日 AFP】
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ごく限られたインド旅行時の経験などからすると、“善意”というより“広告”ではないか・・・という感もしますが(インド国内には、貧困のため治療を受けられない患者は数えきれないほど存在するでしょう)、まあ、ここは素直に“善意”を評価すべきでしょうか。
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