孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カザフスタン ロシアとの微妙な関係 「ナザルバエフ後」の不安も

2015-09-18 22:56:18 | 中央アジア

(ロシア・モスクワで5月9日に行われた対ドイツ戦勝70周年式典に参加したナザルバエフ大統領(左)、プーチン大統領、習近平国家主席 【5月11日 WEDGE Infinity】)
 
国際的に重要性を増すカザフスタン
中央アジアのカザフスタンは1991年にソ連邦が崩壊して生まれた中央アジア諸国の一つですが、国土は日本の7倍もある大きな国です。

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カザフ民族は「草原の民」と呼ばれる。つまりソ連時代に定住を強制されるまでは広い草原を遊牧する生活をしていた。

カザフスタンの人口は16百万人を多少上回るが、カザフ民族はその6割強を占めるにすぎず、22%を占めるロシア系を始め、100を超える民族が住んでいる。

しかし多民族国家でありながら、隣国ウズベキスタンやキルギスと違って流血を伴うような民族問題はこれまで発生していない。”【外務省 特命全権大使 角 利夫氏 http://www.iist.or.jp/jp-m/2013/0220-0895/
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カザフスタンは国際的にその重要性を増しています。
その第1の理由は、石油やウランなど鉱物資源が豊富なことによります。

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石油、天然ガスなどのエネルギー資源、鉱物資源に恵まれた資源大国。石油埋蔵量は300億バレル(世界の1.8%)、天然ガス埋蔵量1.5兆立方メートル(世界の0.8%)(2014年BP統計)。

また、レアメタルを含め非鉄金属も多種豊富である(ウランの埋蔵量は世界2位、クロムは世界1位、亜鉛は世界6位(2014年:米日地質調査所))。【日本外務省HP】
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カザフスタンの重要性が増していいるもう一つの理由はその地政学的位置です。

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カザフスタンは中国のアキレス腱である新疆ウイグル自治区に隣接し、またソ連との長い国境には自然障害物がない、同国はいわば中ロの「柔らかい腹」に面して位置している。

またカザフスタンを含む中央アジア諸国はイランやアフガニスタンにも近接し、過激なイスラム思想の伝播という観点からも、またそれら諸国への様々なオペレーションという観点からも重要な位置にある。【前出 角 利夫氏】
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ロシアを警戒しつつ、関係は維持
政治的には、91年の独立以来、25年に及ぶナザルバエフ大統領(75)の長期政権が続いており、外交的にはロシアとの関係が主軸なっています。

“政治・経済面で密接な関係を有するロシアとの良好な関係維持を重視。ロシアを中心とするCIS関連の国際機関(ユーラシア経済同盟、集団安全保障条約機構など)にはあまねく参加している”【日本外務省HP】

もっとも、ロシア一辺倒という訳でもなく、微妙なところもあります。
特に、近年のロシアによるクリミア併合などの動きには、ロシア人が2割以上いるカザフスタンとしても警戒感を持っています。

****カザフ、「国家なかった」に反発=歴史アピール高まる―プーチン発言に対抗****
旧ソ連圏の中央アジア・カザフスタンで、国家としてのアイデンティティーや歴史をアピールする動きが高まっている。

15〜19世紀に存在した「カザフ・ハン国」の創設550年を祝う式典が最近、首都アスタナで盛大に行われ、ナザルバエフ大統領がカザフの歴史を読み上げた。

背景には昨年のウクライナ介入後「カザフに(歴史上)国家は存在しなかった」と口を滑らせたロシアのプーチン大統領に対する反発がありそうだ。

プーチン大統領は昨年8月、若者らとの会合で「(ソ連崩壊まで)カザフに国家は存在しなかった」と発言している。ロシアの極右・自由民主党のジリノフスキー党首もカザフなど中央アジアの統合に言及したことがある。

アゼルバイジャンのアリエフ大統領やキルギスのアタムバエフ大統領を招き、カザフ・ハン国に関する式典が11日、アスタナで行われた。

ナザルバエフ大統領が、式典の目的について「われわれの輝かしい先人をたたえるためだ」と高らかに訴えると、会場は万雷の拍手に包まれた。カザフ政府関係者は「カザフの歴史を振り返るまたとない機会だ。ソ連時代は異なる歴史が教えられていた」と語った。

カザフはロシアと国境を接する北部や北東部にロシア系住民が多い。人口比はカザフ人約65%に対し、ロシア系は約22%。ナザルバエフ大統領が1997年に南部アルマトイから北部アスタナに遷都したのは「カザフ人を北部に進出させる狙いがあった」(関係筋)とも言われる。

カザフ政府はウクライナ危機でロシア批判を控えている。
しかし、ロシアヘの警戒心は隠せない。ナザルバエフ大統領は4月の大統領選勝利後に発表した五つの制度改革の中に「統合された国家」を盛り込んだ。クリミア半島併合のような事態は、カザフでは許さないと明確にしている。

一方、カザフはロシア主導で今年発足した「ユーラシア経済同盟」の加盟国でもある。ロシアとは約7000キロにも及ぶ国境で接している。「ロシアの影響力は圧倒的」(外交筋)だ。カザフは今後もロシアを警戒しつつ「関係維持に心を砕く」(同筋)ことになりそうだ。【9月18日 時事】 
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特に、カザフ北部ではロシア系住民が多数派で、ロシア語地名も多いことから、ロシアの極右指導者、ジリノフスキー自民党党首はカザフ北部を「ロシア固有の領土」と呼んだことがあります。

ナザルバエフ大統領はロシアによる分離独立運動を警戒して、カザフスタン北部へのカザフ人入植を
進め、昨年7月には分離活動や国境変更に絡む活動を禁止する新法を制定しています。

プーチン大統領の「カザフに(歴史上)国家は存在しなかった」云々の発言は、昨年8月29日、モスクワ郊外で行った若者との対話における、「カザフは一度も国家を持ったことがないが、ナザルバエフ大統領はそこに国家を創設した。彼は賢明で退陣する意思もないが、自分が辞めたあとの国家の将来を憂慮している」「広範なロシア経済圏に加わったほうが、産業、技術の発展の上でもカザフにとってプラスだ」との発言です。

カザフスタンを恫喝するような発言は、ウクライナ問題でロシア・プーチン政権が求めた欧米への逆制裁への参加要請をカザフスタンが拒否したこと、それへのプーチン大統領の苛立ちが背景にあるようです。【4月2日 フォーサイト 名越健郎氏 “中央アジアの優等生「カザフスタン」の憂鬱”より】

影響力を強める中国
一方で、中国との関係が強まっているのは、他の多くの国々と同様です。
世界各国の支部で中国語と中国文化を教える孔子学院がアルマトイに開設され、学生の間では中国語ブームが起きているとか。

****中国、旧ソ連・カザフスタンに接近 ロシアの影響力低下か****
旧ソ連・カザフスタンに中国が接近している。

中国西部と国境を接し、豊富な資源を有するカザフは、中国が提唱する新シルクロード経済圏構想で重要な位置を占める。

ロシアは旧ソ連諸国への中国の影響力浸透を警戒しているが、中国の存在感の高まりに対抗しがたいのが実情のようだ。(中略)

中国の習近平国家主席はカザフを訪れた13年9月、シルクロード構想を打ち出した。カザフの対中輸出額は過去数年で倍増しており、中国による旧ソ連諸国への直接投資の大半はカザフの資源開発向けとされる。

学生の中国語熱の高まりは文化、経済の両面で浸透を図る中国の成功を裏付けているように見える。

カザフも中国と歩調を合わせる。ナザルバエフ大統領は14年12月、シルクロード構想に対する全面的な支持を表明。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加も真っ先に決めた。(後略)【5月8日 産経】
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昨年のカザフの貿易統計では、欧州連合(EU)との貿易が全体の44%でトップ。ロシアは15.8%、中国が14.4%だった。

中国との貿易が急増しており、市場で見た日用品の大半は中国製だった。カザフへの投資・貿易で、中国が近くロシアを抜くのは間違いない。

中国・カザフ間は石油・ガスパイプラインで結ばれているが、近年中国の企業進出や農民の進出が目立つ。南部の最大都市、アルマトイには大型中国人市場があり、数万人の中国人が農地をレンタルして収穫している。中国の経済プレゼンスが確実に増大しているのが分かる。【前出 名越健郎氏 “中央アジアの優等生「カザフスタン」の憂鬱”】 
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【「ナザルバエフ後」に不安も
ロシア・中国とのバランスを図りながら・・・というところでしょうが、今後の課題は、プーチン大統領が言及しているように「ナザルバエフ後」です。

ナザルバエフ大統領は11日、長女ダリガ・ナザルバエワ氏(52)を副首相に任命しました。
高齢問題から大統領の後継指名の布石ではないかと臆測を呼んでいるそうです。

****カザフスタン大統領、娘を副首相に任命****
中央アジア・カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(75)は11日、娘のダリガ・ナザルバエワ氏(52)を副首相に任命した。ナザルバエフ大統領は今年4月の大統領選で再選を果たしたが、多くの人々が最後の任期だとみており、大統領の後継者問題にからんだ動きとみられる。

ナザルバエワ氏は同日まで同国の下院議員で、副議長も勤めていた。(中略)

ナザルバエワ氏は、2004年から2007年に下院議員を勤めていたが、2007年に当時の夫、ラハト・アリエフ氏が、銀行員2人の誘拐事件でオーストリアで捜査対象になったことを受け、父親の後ろ盾を失ったと考えられていた。

報道によると、ナザルバエワ氏は同年、国家保安委員会副議長でオーストリア大使だったアリエフ氏と離婚。同氏との間には3人の子どもがいる。

スキャンダルのあと、カザフスタン政府がオーストリアに対して同氏の身柄引き渡しを要求する最中、ナザルバエワ氏は政治の舞台から退き、父親の慈善活動基金を率いていたが、2012年に与党ヌル・オタン党から出馬して下院議員に復帰した。(後略)【9月13日 AFP】
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長女ダリガ・ナザルバエバ氏が国営テレビなどメディアを牛耳るのに対し、次女の夫は資源を握り、更に三女は経済成長で潤う建設業界の利権を握る・・・・といった「身内の権力闘争」が、かつて話題にもなっていましたが・・・・。

ナザルバエフ大統領はソ連時代末期には共産党政治局員の大物で、当時無名のプーチン大統領よりはるかに格上の存在でした。

大国ロシアとの関係をコントロールできているのは、そうしたナザルバエフ大統領の存在感によるところもあると思われますが、「ナザルバエフ後」はどうでしょうか?

社会全体に広がる汚職・腐敗
カザフスタンの最大の問題は社会全体に広がる汚職・腐敗でしょう。
2014年の腐敗認識指数 国別ランキングでカザフスタンは第126位と下位に甘んじています。

カザフスタンでは公的機関の職を得るのに金銭を支払うことがしばしば行われるとか。
当然に、職についたら投資資金を回収しますが、その一部は上位の者に渡され、更にその一部はより上位の者に・・・という形のピラミッド型のシステムがあって、汚職は制度的に再生産されることにもなっています。
(岡 奈津子氏 「カザフスタンにおける日常的腐敗」より)

豊かな地下資源も、利権をめぐる汚職・腐敗が拡大する“資源の呪い”ともなりかねません。

もちろん、カザフスタンでも汚職撲滅対策は行われてはいますが、最高権力が身内に引き継がれるような体制では、大きな改善はあまり期待できません。
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