孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  EU分担計画決定も、問われる連帯 消極的な中東欧の事情 政治情勢への影響

2015-09-25 23:05:56 | 難民・移民

(ハンガリー国境前で足止めされた難民らが寝泊まり。セルビア北部ホルゴシュ(ロイター=共同)【9月25日 産経】)

EU 受け入れ分担計画を異例の多数決で決定
シリアなどの中東、その他北アフリカ・アジアから戦後最大規模で難民・移民が押し寄せるEUは、受け入れに前向きなドイツ・オーストリアなどの国々と、受け入れに否定的なハンガリーやスロバキアなど中東欧諸国の対立が続いていましたが、ドイツなども自国だけでは限界があること、国際社会からも受け入れ拡大を求める圧力が強まるなかで受け入れ進まなければ、EUが基本理念に掲げる「人権」の看板に傷がつきかねないことなどから、異例の「多数決」によって難民申請者12万人の受け入れ分担計画を決定しました。

****EU、12万人分担決定 中東欧の反対押し切り、連帯に禍根も****
中東や北アフリカの難民や移民の流入問題で、欧州連合(EU)の内相・法相理事会は22日、難民申請者12万人の受け入れ分担計画を異例の多数決で決めた。

対応を急ぐため、中東欧の反対を押し切った形だ。23日の臨時首脳会議では、シリア周辺国支援など根本的な原因への対処に議論の比重が移るが、EUの連帯に疑問符がつく形となった。

「いま決めなければ欧州の信頼が失われていた」。議長国ルクセンブルクのアッセルボルン外務・移民相は記者会見でこう語り、重要案件は全会一致で決める慣例に従わず、採決に踏み切った理由を説明した。

分担計画では独仏など西欧の支持派と、中東欧の反対派が対立。第二次大戦後最大規模といわれる移民危機で団結できないEUに、国際社会もいらだちを強めた。

妥協は最後まで成立せず、採決ではチェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアの4カ国が反対。フィンランドが棄権した。

決定した今後2年間の計画ではイタリア、ギリシャの難民申請者計6万6千人を各国で分担。予定されたハンガリーからの移送分5万4千人は、同国の反対を受け、イタリアとギリシャから1年後に割り振る追加枠とした。流入が急増した他国にも適用できる。難民申請者は受け入れ国を選べず、他国への移動を防ぐ措置も盛り込まれた。

計画自体は受け入れを義務づけるものではないが、加盟国はEUとしての決定には従わねばならない。欧州委員会のティメルマンス第1副委員長は履行しない国があれば「違反手続き」を取る可能性に言及した。

EUは首脳会議を控え、分担計画の決着を急ぐ必要もあった。問題解決には域外からの流入を抑える方策が欠かせず、首脳会議ではトルコなど難民を多く抱えるシリア周辺国、国連世界食糧計画(WFP)などに対する支援も協議する予定だ。

アブラモプロス欧州委員(移民・内務担当)は受け入れ計画が決まり、「首脳(の議論)もはるかに楽になる」と述べた。

だが、反対した中東欧の不満は根強い。チェコのホバネツ内相は「王様は裸だとすぐに分かるだろう。常識は失われた」と計画に改めて疑問を投げかける。スロバキアのフィツォ首相は「私が首相である限り、わが国で分担は実行されない」と述べ、一致した計画の履行に不安が残るのが実情だ。【9月23日 産経】
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“計画自体は受け入れを義務づけるものではないが、加盟国はEUとしての決定には従わねばならない”とか、“反対を強める中東欧を切り崩すため、最も分担人数が多いポーランドを説得。採択文書に「割り当て」の文言を盛り込まず、ポーランドがこだわった「自主的な受け入れ」で折り合いをつけた。”【9月24日 朝日】など、よく理解できない部分もありますが、要するにEUとして分担計画を策定し加盟国に履行を迫るということのようです。

スロバキア・ハンガリーなど反対国は納得しておらず、混乱は今後も続きそうです。

****スロバキア、難民分担拒否で提訴へ=ハンガリー、対独批判****
欧州連合(EU)加盟国による難民12万人分担受け入れ案に反対したスロバキアのフィツォ首相は23日、記者団に「われわれは二つの方向へ進むだろう。一つは提訴であり、もう一つは(決定された分担を)履行しないことだ」と語った。ロイター通信が伝えた。

22日のEU内相・法相理事会では東欧4カ国が採決で分担受け入れに反対。フィツォ首相は自身の在任中はEUの難民割り当てを引き受ける考えがないと宣言しており、全加盟国による履行は既に困難になっている。

受け入れ案に同じく反対したハンガリーのオルバン首相は23日、訪問先のドイツ南部バイエルン州で記者会見し「『道義的な帝国主義』はあってはならない」と訴えた。EU全体での責任共有を求めてきたメルケル独首相をけん制した。

オルバン首相は「全ての難民を受け入れるかどうかをドイツが決めるのは構わない。だが、その強制力は彼らにだけ及ぶべきだ」と主張した。【9月23日 時事】
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【「難民らは結局、豊かな国に移っていく」】
9月16日ブログ「難民問題に背を向けるハンガリーなど東欧諸国 過去のホロコーストへの向き合い方を指摘する声も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150916)でも触れたように、ここまで反対する国に難民を割り振っても、難民へのまっとうな対応は期待できず、割り振られた難民も災難なようにも思えます。

“難民申請者は受け入れ国を選べず、他国への移動を防ぐ措置も盛り込まれた”とのことですが、現実にはよりよい処遇を求める人の流れを押しとどめることは難しいように思われます。

****結局、豊かな国へ****
・・・・難民受け入れを加盟国が分担する案には、積極的に受け入れてきたドイツやスウェーデンなどの負担を軽減するだけでなく、歯止めのかからなくなった流れを押しとどめる狙いも。

難民をEU全体で受け入れ、後に加盟国に振り分けることができれば、人々が自らの意思で受け入れ国を選ぶことはできなくなるからだ。

ただ、欧州に上陸した人々がいくつもの国を通過してドイツなどを目指すのは、難民の地位を保障する制度や支援態勢が整っているからだ。

受け入れを分担する仕組みを機能させるには、各国任せにしてきた難民の認定審査をEU主導で行うように改めなければならない。

受け入れ態勢の違いはさらに大きな問題だ。
EU内でも域外からの外国人の居住や就労は許可を得た国だけに限られる。その一方で、多くの国は移動の自由を保障するシェンゲン協定に加盟し、国境審査なしで他国に移動できる。

これまで密航船で欧州に渡ってイタリアやギリシャで滞在が認められた人の中には生活が成り立たず、他国に移動して事実上の不法移民となった人が少なくない。

東欧の外交官は「受け入れを分担しても、難民らは結局、豊かな国に移っていく」と冷ややかだ。【9月24日 朝日】
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域外からの流入を抑制する対策に軸足を移し始めたEU
しかし、シリアやトルコ・ヨルダンなどその周辺国を見るだけでも、膨大な難民流入予備軍が存在し、今のような状況が続けば、いずれ受入は破綻することは容易に想像されます。

EUとしては、差し当たりの受け入れ態勢を確立したうえで、今後は難民らの流入を抑制する対策を強化する方向のようです。

****EU、流入抑制へ軸足 移動の経由地となるトルコの協力カギ EU大統領「非難合戦は終わった****
中東・北アフリカの難民や移民の流入問題で、欧州連合(EU)が域外からの流入を抑制する対策に軸足を移し始めた。

23日の臨時首脳会議はシリア難民支援のため、最低10億ユーロ(約1300億円)を追加拠出し、シリア周辺国への支援も拡大する方針で合意。特に欧州に向かう移民らの経由地となるトルコとの協力強化に焦点を当てている。

トゥスクEU大統領はブリュッセルでの首脳会議後の記者会見で「移民や難民の最大の波がくるのはこれからだ」とし、無秩序な流入を許す「開放政策」を是正する必要性を強調した。

シリア国内や周辺国では難民ら約1200万人が厳しい生活下にある。今後、欧州に向かう可能性があるため、環境改善を支援して流入を抑えたい考えだ。

EUによると、10億ユーロは国連世界食糧計画(WFP)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などに提供。周辺国の支援はトルコやヨルダン、レバノンなどを対象とする。

また、EU域外との国境管理強化のため、EU主導の難民申請者登録施設の設置など、ギリシャとイタリアへの支援を11月末までに行う。

難民申請者の受け入れ分担をめぐり、西欧と中東欧の確執も一時露呈したが、トゥスク氏は「非難合戦は終わった」と強調した。

EUがとくに重視するのが、トルコの協力だ。EU首脳は「あらゆるレベルの対話を強化する」とし、トゥスク氏は10月5日にトルコと首脳会談を行う意向を示した。

EUはトルコに10億ユーロの支援も検討中で、引き換えに移民らの渡航を手引きする業者らの取り締まりなどを求める考え。

トルコの国内のクルド人に対する強硬姿勢をEUが懸念するなど、EUとの関係がぎくしゃくしているトルコの協力を得られるかは不透明だが、EUは流入問題で「トルコがカギ」(ハーン欧州委員)とみている。

一方、シリア内戦の解決も大きな課題。従来、欧米はアサド大統領の排除を目指してきたが、メルケル首相は24日、「アサド氏を含む多くの当事者と対話せねばならない」とも語った。【9月24日 産経】
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日本も、外務省が25日、国際機関を通じてレバノンなどに計約4億8千万円の緊急無償資金協力を実施すると発表しています。

9月7日ブログ「広がる難民支援の動き 日本では? 世論が割れるドイツではメルケル首相批判も EUの統一的対応は難航」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150907)でも取り上げたように、難民として国外に出られる人はまだ経済的に恵まれた方で、国外脱出の資金を工面できない貧しい人々は戦乱の国内にとどまるしかないという現実があります。

シリア国内や周辺国における環境改善策は欧州のためだけではなく、そこに暮らす欧州に脱出できない貧しい人々にとっても福音となります。

現実政治に様々な影響
こうした欧州に向かう難民らの流れを抑制しようとする策が効果を持つかどうかわかりませんが、上記の中東欧国の問題以外にも、すでに現段階でも様々な問題が生じています。

難民の“押し付け合い”で、かつて独李戦争を戦ったクロアチアとセルビアの関係が再び悪化しています。

****難民めぐり対立再燃=物流停止の「制裁」応酬―セルビアとクロアチア****
中東などから西欧を目指す難民の対応をめぐり、クロアチアとセルビアが批判を応酬し、互いに両国間の物流停止措置を講じる事態に発展した。

両国には1990年代前半のクロアチア独立をめぐる紛争で民族が激しく対立した過去があり、深刻な関係悪化が懸念されている。

ハンガリーが15日に対セルビア国境を封鎖して以降、セルビアに着いた難民らはクロアチアに流入。これまで4万4000人以上が殺到した。

クロアチア政府は「もはや限界」として、両国間の検問所の大半を閉鎖。それでも難民の流れは止まらず、21日には協力に応じないセルビアからの貨物輸送車の入国を禁じる「制裁」に出た。

クロアチアはセルビアに対し、難民をハンガリーやルーマニアにも移送するよう要求。(中略)
だが、セルビアは難民が自らの意思でクロアチアに向かっており、阻止する立場にないと主張している。

ブチッチ首相はクロアチアの物流停止を「経済的攻撃だ」と非難。セルビアもクロアチアからの貨物車の入国停止に踏み切った。(中略)

ロイター通信は「難民問題が両国関係の時計の針を逆戻りさせている。『貿易戦争』が勃発した」と伝えた。【9月25日 時事】 
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また、欧州各国において難民受け入れに否定的な勢力の台頭を招いています。

****難民拒否の野党が優勢=総選挙まで1カ月―ポーランド****
10月25日投票のポーランド上下両院の総選挙まで1カ月となった。主要な争点は、中東などから欧州に押し寄せる難民への対応。

難民受け入れに否定的な最大野党の右派「法と正義」が優勢で、欧州連合(EU)の一員として責任を果たすべきだとの立場を取るコパチ首相の中道右派与党「市民プラットフォーム」は伸び悩む。

政権交代が起きれば、難民政策で大きな方針転換もあり得る状況だ。

ポーランドは従来、地域協力の枠組みを持つハンガリー、チェコ、スロバキアと連携し、難民受け入れ義務化に反対していた。しかし、コパチ首相は16日、難民問題について「欧州はわれわれに結束を期待している」と下院で演説。ポーランドは22日のEU内相・法相理事会で難民12万人分担受け入れ案に賛成した。【9月24日 時事】 
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難民らに背を向ける中東欧諸国
難民受け入れを拒否する中東欧諸国については、9月16日ブログでは、これらの国々がホロコーストという残忍な過去と折り合いをつけていないことがるとの指摘をとりあげました。

そうしたこと以外にも、いろいろいろな事情があります。

中東欧諸国はこれまで移民の流人がなかったため、宗教・民族的にかなり均質で、異質な「難民・移民」への抵抗感が強いこと、中東やアフリカ情勢への人々の関心は薄く、メディアも詳しく伝えていないことなどもあります。

更には、西欧への屈折した思いもあるようです。

****東欧諸国はなぜ受け入れず背を向けるのか****
これらの国々はこれまで大量の移民を受け入れた経験がほとんどなく、最近まではむしろドイツなどに出稼ぎ労働者を出す側だった。

今の難民危機が始まるよりもずっと前から、ドイツやフランスでは東欧からの出稼ぎ労働者の大量流入が問題になっていた。

そのため東欧の人々は複雑な思いを抱いている。自分たちが出稼ぎに行くことを歓迎してくれなかった国々に、今になって「外国人を受け入れろ」と言われても……というわけだ。(中略)

さらに、東欧の人々はここ数年の経済の低迷で欧州統合への希望を失っている。西欧諸国に説教されれば反発するだけだ。

「東欧の人々はEUに加盟すれば危機から脱して豊かになれると思っていた。彼らは今、裏切られたと感じている」と、ブルガリアの政治評論家、イワンークラステフは書いている。「(東欧が求めていたのは)観先客で
あって、難民ではない」(後略)【9月29日号 Newsweek日本版】
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【「敵意のある見方を退けてほしい」】
難民受け入れを巡っては様々な問題があり、現実的にとれる方策にも制約がありますが、議論の出発点には困難な境遇にある人々への思いやりがあってしかるべきでしょう。

敵意をむき出しにして最初から問題点をあげつらい、実際に困難な状況になれば「それみたことか」というのでは、単なる偏狭な排外主義に過ぎません。難民・移民問題への対応を困難にしているのは、異質な人々を疎外して共存を難しくしている、そうした偏狭な人々の存在です。

****ローマ法王、米議会で演説 移民や格差の解決呼びかけ****
訪米中のフランシスコ法王は24日、米議会で演説を行い、不法移民の受け入れや地球温暖化対策への参加を呼びかけた。(中略)

法王は移民問題について、「私たちこの大陸の人間は外国人を怖れない。なぜならほとんどがかつては外国人だったからだ」と指摘。共和党の大統領候補指名レースに出馬し、不法移民の大量送還を唱えているドナルド・トランプ氏など、一部の保守層の考え方に対して反論する含みを持たせた。

法王はよりよい生活を求める移民の国という米国の建国の趣旨を示唆。米国内の不法移民とシリアなどから欧州に殺到している難民を関連づけて、「この大陸にも、自分たちと愛する家族のためによりよい暮らしやチャンスを求めて北に向かう人が数多くいる」と指摘し、中南米からの移民を一種の難民として扱うべきだとの考えを示した。(後略)【9月25日 CNN】
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