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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領  再選挙、クルド叩きの効果は?

2015-09-01 22:27:14 | 中東情勢

(大統領権限を強化する憲法改正を目指すエルドアン大統領【8月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】)

トルコ国民は選挙で間違った答えを出し、もう1度試験を受ける必要があると考えているように見える
強権的、家父長的傾向を強めるトルコ・エルドアン大統領は、まるでロシアのプーチン大統領を目指しているかのようです。

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・・・・干渉を強めるエルドアン氏の支配に対して2013年にゲジ公園で市民の反乱が起きてからというもの、エルドアン氏は、まるで自身を倒そうとする巨大な陰謀に直面しているかのように行動してきた。

確かに、警察や司法、保安局に根づいているイスラム主義の元盟友たちは、エルドアン氏を倒そうと躍起になっている。だが、エルドアン氏が本当に恐れているのは、説明責任だ。

エルドアン氏が法の支配を破壊し、警察官や裁判官を解雇したり要職から外したりし、反対意見を封印しようとしてきたのはこのためだ。

ゲジ公園の抗議活動以降、何百人ものジャーナリストが解雇され、多くの人が、特にソーシャルメディアでエルドアン氏を誹謗中傷したとして追及されている。・・・【8月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙「1人の男の野望の人質となったトルコ」】
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6月の総選挙において、クルド系政党の躍進によって過半数割れという思わぬ事態に追い込まれた与党・公正発展党(AKP)のエルドアン大統領は、連立工作の不調から再選挙を決定しました。

****トルコ大統領、異例の出直し総選挙を宣言****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は24日、出直し総選挙の実施を宣言した。6月に実施された総選挙で与党が過半数割れを喫して以降続く政治的こう着を打破することを狙った前例のない措置だ。

エルドアン大統領はイスメット・ユルマズ議長との協議後に出した声明で、総選挙のやり直しを発表。具体的な日程は言及しなかったが、以前に11月1日に実施したいという意向を示していた。

6月7日に投開票された総選挙では、エルドアン大統領が共同結成した与党・公正発展党(AKP)の獲得議席が2002年の政権発足後初めて過半数に届かなかった。

れを受けて同党はやむなく連立相手を模索し、野党と協議を行うも連立政権樹立には至れなかった。識者らは、これこそが好戦的なエルドアン大統領が求めていた結果だったとみている。

半国営のアナトリア通信によると、大統領は25日、総選挙までの政権運営を担う暫定政府についてアフメト・ダウトオール首相と協議する予定。

近代トルコで、連立政権の樹立に失敗して出直し選挙が行われるのは今回が初めて。エルドアン大統領は、改めてAKPによる単独過半数獲得を目指している。【8月25日 AFP】
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もとより、6月の総選挙結果が気に入らないエルドアン大統領は連立政権を樹立する気はなく、再選挙は当初からの思惑に沿ったものと思われます。

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・・・・この気まぐれな指導者を注視するトルコの多くの観測筋は、AKP党内の関係者も含め、エルドアン氏は6月の選挙結果が出るや否や選挙をやり直すことを決めたと考えている。

呆れるほど家父長的なエルドアン氏は、トルコ国民は選挙で間違った答えを出し、もう1度試験を受ける必要があると考えているように見える。・・・・【8月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙「1人の男の野望の人質となったトルコ」】
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国民に対し、「もう1回チャンスを与えるから、今度こそ正しい回答を出しなさい」という訳です。
正しい回答とは、与党が憲法改正に必要な絶対多数を獲得し、エルドアン大統領のもとに名実ともに権力を集中させる強い大統領制を構築することです。

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昨年、それまで概ね儀礼的だった大統領の座に就いて以来、エルドアン大統領はすでに、議会、内閣、そして司法などの制度機構から権力を奪い取ってきた。

エルドアン氏が公言する目的は、束縛を受けない権力を求める自身の傲慢な好みに沿って憲法を作り変えるために、AKPの圧倒的多数を獲得することだった。【同上】
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票目当ての軍事作戦
しかも、単に国民にもう1回試験を受けて正しい回答を出すように迫るだけでなく、きちんと正しい回答が出せるように、お膳立てにもぬかりありません。

7月12日におきたイスラム過激派「イスラム国(IS)」によるクルド人を対象にしたテロ、クルド系反政府勢力PKKによる報復をきっかけとして、トルコ・エルドアン大統領は、それまでのIS宥和策、PKKとの停戦交渉・クルド系住民の権利拡大から一転して、ISとPKK両方を相手にした「二正面作戦」に出ました。

しかし、エルドアン大統領の狙いはイスラム過激派ISとの戦いではなく、クルド系反政府勢力PKKとの対決の構図を作り出すことで、クルド人への国民の警戒感を煽り、先の総選挙でクルド系政党に奪われた議席を与党AKPが奪還することにある・・・・とも指摘されています。

***トルコは年内に「大混乱」へ****
エルドアン「我が世の春」は終幕
トルコのエルドアン大統領が就任以来最大の賭けに出た。六月の総選挙で与党「公正発展党」が敗北を喫した後、クルディスタン労働者党(PKK)と過激派「イスラム国」(IS)に対して、軍事作戦に打って出たのだ。
その上で今年十一月一日に再度総選挙を実施するという、大仕掛けの生き残り戦術だが、すべてが凶と出る可能性も大きい。(中略)

今回の軍事行動の契機は、シリア国境に近いスルチで、七月二十日に起きた自爆攻撃。ISの犯行とされ、三十人以上が死亡した。現場はクルド人居住地である。

その二日後、PKKの軍事部門は、現場近くの別の町で、トルコの警察官二人を「報復のため」殺害した。クルド人は後述するように、エルドアン政権がISを放置どころか、支援していると考えており、PKKにとっては、当局とISは同罪なのだ。

これが引き金となり、トルコ軍と治安当局の作戦が始まったわけだが、誰がエルドアンの本当の敵なのかは、すぐに浮かび上がった。初動の一斉摘発で一千三百人以上が逮捕された中で、IS関係者は約三十人だけ。残りはPKKまたはクルド系か、反政府派だった。

軍の空爆はもっぱら、PKK拠点とシリア国内にあるPKKの姉妹組織拠点が中心だった。クルド系はシリアで「クルド人民防衛部隊(YPG)」を組織し、米政府からも「今では対ISで、最も戦闘力と組織力がある」(米軍当局者)と評価されている。

さらにエルドアン政権は、「人民民主党はPKKを支援している」というキャンペーンも開始した。イラン国境近くのワン県では、警察が「人民民主党の地方政府が、PKKのために爆弾を隠匿していた」と告発した。

ところが、こうした中傷戦術は早くも厳しい反撃にあっている。人民民主党のサラハッティン・デミルタス共同党首は、「そんなに我々を疑うなら、我が党所属の八十人の国会議員から、不逮捕特権を剝奪すればいい」と表明。七月末に所属全議員が司法当局に「不逮捕特権返上」の請願書を提出した。「セロ」の愛称で人気急上昇のデミルタスは、「我々には恐れることなんか、これっぽっちもない。暴力を支持したことは一度もない」と述べて、当局からの威嚇を一蹴した。

同党のもう一人の共同党首、フィゲン・ユクセックダーはドイツ公共放送「ドイチェ・ベレ」との会見で、「トルコ政府こそ、ISを支援してきた。戦闘員訓練キャンプがトルコ国内にあり、物資もここから送られている。私たちはその証拠をふんだんに持っている」と述べて、エルドアン政権を告発した。さらに、「政府はISとは戦っていない。クルド人と戦っているのだ」と喝破した。

ドイツにはクルド系移民が約八十万人も住んでいて、同胞支援の動きも非常に活発だ。ドイツ政府は近年、クルド系に同情的で、昨年秋には欧州連合(EU)の中でいち早く、イラクのクルド自治区に対して、武器供与を開始した。ドイツを筆頭にしたEU各国は、エルドアン政権への猜疑心もあり、クルド系の隠れた応援団になりつつある。

エルドアン大統領は元来、クルド系との和解を政権維持の頼みの綱にしてきた。クルド系人口は統計によって大きく異なり、トルコ人口の一五~二五%を占めるとされる。エルドアンは首相時代に、PKKの指導者で現在服役中のアブドゥラ・オジャランと交渉して、「クルド語使用と自治権の拡大」で協力を取り付けた。

それが今年六月の総選挙での過半数割れで、事情が一変。クルド系を代表したのが、穏健派で、四十二歳の新世代政治家デミルタスだったことも、エルドアンの計算外だった。

「トルコ国会は議席獲得に一〇%の得票が必要で、これがクルド系の政治進出の壁だった。ところが、クルド系がいったんこの壁を破ると、今度は公正発展党が過半数を取りにくい構造ができた」と、在中東邦人特派員は言う。

しかも、与党の不人気の元凶は、エルドアンを筆頭とする与党政治家たちの腐敗だったのに、そちらはメディア弾圧などでふたをしたままだ。

前出の英国人記者は、「エルドアンは夫人、四人の子供たちとまるで王族のようにふるまっている。民主主義国のはずが、与党内はオスマン帝国の宮廷のようなおべっか使いばかりで満ちていて、中産階級に嫌悪感が強い」と言う。

司法・検察に隠然たる力を維持する、在米活動家フェットフラー・ギュレンの一派、旧支配勢力の国軍にとって、公正発展党が選挙で負けたことは、巻き返しの好機到来である。

票目当ての軍事作戦
クルド人との抗争では過去、四万人もの死者を出した。エルドアン政権のPKK攻撃は今のところ、選挙目当ての限定的なものと見られるが、クルド系全体を敵に回すには十分な規模である。国会にも大量進出したクルド系は、政府に反撃する手段には事欠くことはない。

米政府は当初こそ、トルコの対IS攻撃を歓迎した。だが、八月に入ると政府高官が匿名で米国メディアに対し、「シリアのクルド民兵(=YPG)は、重要なパートナーだ」と語って、トルコにクギを刺すようになった。
トルコが世界中の志願兵のIS参加ルートになっていること、秘密情報機関(MIT)がひそかにISに武器を供給していることは、米国はとっくに知っている。

クルド人は主にトルコ、シリア、イラク、イランの四カ国に散らばり、合計の人口は三千万人に及ぶ。イラクのクルド自治区を先頭に、「クルド国家」への動きも目立ってきた。米政府は「クルド独立」に否定的だが、中東の同盟国イスラエルが「非アラブ」としてクルド系とのつながりを強めていることも見逃せない。

エルドアン政権が進める票目当ての軍事作戦は、すでに中東全体の地政学に波及している。歴史上の役割を終えたのに、エゴばかりを膨らませた大統領がこれ以上の背伸びをすれば、公正発展党の時代は、悲劇的結末に向かわざるを得なくなる。【選択 9月号】
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ISに対する有志連合の空爆への参加も、クルド系勢力の牽制が目的
アメリカが要請するISに対する有志連合の空爆にトルコが加わったことで、アメリカとの溝が埋まったようにも見えますが、ここでもエルドアン大統領の狙いは“対クルド”のようです。

****空爆参加でクルド牽制 トルコ、対IS有志連合入り表明****
トルコ政府は29日、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する米軍主導の有志連合に参加すると表明した。
28日に初参加したシリア領内への共同空爆に、今後も継続参加する。

米国と足並みをそろえたIS対策に見えるが、真の目的はシリア北部で台頭する少数民族クルド人勢力を牽制(けんせい)することのようだ。

 ■シリア国境、勢力拡大阻止へ
トルコ政府関係者によると、28日に空爆したのはトルコ国境に近いシリア北部アレッポ北方のIS支配地域。標的はISの関連施設だったという。空爆について、トルコ外務省は29日の声明で「決意を持って継続する」と明言した。

シリアの内戦を巡り、トルコは7月下旬、IS攻撃への参加を表明した。有志連合に対し、南部インジルリク空軍基地の使用を許可。米軍は、同基地からの対IS空爆を始めた。

しかしカーター米国防長官からは「不十分だ」と不満を漏らされていた。トルコが積極的に有志連合に参加すれば、空爆回数の増加など、大幅な強化が見込まれる。

有志連合参加により、トルコ国内ではIS協力者による報復テロの恐れが高まる。にもかかわらず、参加を決めた背景には、国境を接するシリア北部で、ISに対して優位に立ちつつあるクルド人勢力への警戒感がある。

シリアのクルド人勢力・民主連合党は、今年1月に要衝アインアルアラブ(クルド名コバニ)をISから奪還。6月には米軍の支援を受けて、ISの補給拠点テルアビヤドも制圧した。

同勢力は、トルコが非合法としているクルド人武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の兄弟組織だ。トルコは、この一帯で、国境を越える形で事実上のクルド人自治区ができることを恐れている。

自らの空爆でISを封じることで、この地域にクルド人勢力が影響力を広げるのを食い止める狙いだ。

トルコはシリア北部に、ISを排除する「安全地帯」を設ける構想を掲げている。これもIS対策を掲げているが、クルド人勢力の拡大を牽制することが目的とみられる。【8月31日 朝日】
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クルド系政党の支持率は減っていないとの調査結果も
国内外でクルドへの対決姿勢を強めるエルドアン大統領ですが、今回総選挙で思惑どおりクルド系政党を足きりラインの10%割れに追い込んで、その議席を与党AKPが奪還できるかどうか・・・よくわかりません。

思ったほどAKPへの支持は回復していないとの調査結果もあるようです。
ただ、プーチン大統領に似て欧米からは煙たがられるものの、エルドアン大統領の国民的支持が高いのも事実です。

****トルコ与党 出直し選でも苦戦か クルド系切り崩し進まず 単独過半数なければ大統領の求心力低下も****
・・・・出直し選を決めたエルドアン大統領は出身母体であるイスラム系与党、公正発展党(AKP)の単独過半数復帰を実現させたい考えとみられる。

ただ、エルドアン氏が少数民族クルド人系政党の切り崩しをも狙って進めるクルド武装勢力への軍事作戦も、現時点では十分な政治効果が出ているとは言い難いのが実情だ。

ロイター通信が26日、トルコの世論調査会社メトロポールの調査結果として報じたところによると、今月中旬時点でのAKPの支持率は41・7%で、AKPが過半数割れに追い込まれた6月の総選挙時から0・8ポイントの増加にとどまった。

一方、総選挙で躍進したクルド人系の左派、人民民主党(HDP)は14・7%で、支持率を1・6ポイント上乗せした。

前回の総選挙でHDPは初めて議席が得られる法定得票率の10%を上回り、その分、AKPが議席を大幅に減らした。調査結果は、現時点で総選挙を行ってもAKPの単独過半数が難しいことを示したといえる。

エルドアン政権は6月の総選挙後、隣国シリアのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への空爆に踏み切り、それまで和平協議を進めていた国内の非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」に対する軍事作戦を開始した。出直し選挙をにらみ、PKKと近い関係にあるHDPの支持者を切り崩す狙いもあるとみられている。

エルドアン氏はAKPが他党と連立を組むこに消極的な態度をとってきた。影響力が発揮しにくく、同氏が求める大統領権限強化に向けた憲法改正の実現が難しとくなるためだ。

出直し選でもAKPが第1党の座を維持するのはほぼ確実とみられるが、現状では改憲の発議に必要な330議席の確保は難しい情勢。その上、同党が単独過半数さえ得られなければ、エルドアン氏の求心力低下につながる可能性もある。【8月26日 産経】
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クルド人系の左派、人民民主党(HDP)が10%を割らない限り、結果は6月選挙と大きく変わることはありません。
ただ、多くの国での世論調査というのは、往々にして大きくズレることがありますので・・・・なんとも言い難いところです。

アメリカとトルコ・パキスタンの不可解な関係
それにしても、“トルコが世界中の志願兵のIS参加ルートになっていること、秘密情報機関(MIT)がひそかにISに武器を供給していることは、米国はとっくに知っている。”という状況で、IS叩きに躍起になっているアメリカは表立ってのトルコ批判は避けています。

アフガニスタンのタリバンと多大な犠牲を出す戦闘を行いながらも、タリバンを支援するパキスタンとは同盟関係にあるのと似ています。パキスタンがタリバンと絶縁していれば、とっくにアメリカはタリバンに勝利しているでしょう。

トルコやパキスタンの地政学的重要性を考えて・・・・ということでしょうが、正直なところ、よくわからない話でもあります。
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