孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  深まる政局の混迷 新大統領選出できず、第1勢力トップ辞任

2013-04-20 23:04:22 | 欧州情勢

(新大統領選出投票で得票があった、マリーニ元上院議長と同姓のイタリア女優バレリア・マリーニさん【4月19日 AFP】http://www.afpbb.com/article/politics/2939483/10606786)

迷走する新大統領選出
2月25日に総選挙が行われたイタリアですが、下院では第1勢力となったベルサーニ民主党書記長率いる中道左派連合が第1勢力に与えられる「ボーナス議席」を得て定数の約54%を獲得したものの、議席配分方法の異なる上院では中道左派連合113議席(得票率31.63%)、ベルルスコーニ前首相率いる中道右派連合116議席(30.72%)、既成政治を否定するベッペ・グリッロ氏率いる「五つ星運動」54議席(23.79%)、緊縮財政路線のモンティ首相の中道勢力連合18議席(9.13%)と各勢力が分散し、緊縮財政派の中道左派連合と中道勢力連合を合わせても過半数に届かないという結果になりました。

このため、緊縮財政維持路線の“中道左派連合と中道勢力連合”という組み合わせ以外の連立が必要となりましたが、下院第1勢力のベルサーニ民主党書記長はベルルスコーニ前首相との「大連立」を拒否、既成政党批判の「五つ星運動」はどことも手を組まない・・・という状況で、連立工作は暗礁に乗り上げ、ナポリターノ大統領による調整も結果を出せませんでした。

膠着状態打開のためには議会解散・再選挙もひとつの選択肢ですが、憲法の規定ではナポリターノ大統領は任期切れ直前のため議会解散権を行使できません。
そこで5月15日の任期満了前に大統領が辞任し、新たに選出される大統領の下で早期に解散、総選挙の実施も視野に入れて再調整を行う・・・ということで、ナポリターノ大統領が辞任。

新大統領選出については、中道左派重鎮で中道色の強いマリーニ元上院議長(80)を候補とすることでいったんはベルサーニ民主党書記長とベルルスコーニ前首相の左右両派で合意ができたものの、中道左派内では、若手実力者マッテオ・レンツィ・フィレンツェ市長派らが、「(新鮮味のない)前世紀の候補だ」などと猛反発、18日に行われた2回の投票で必要な定数の3分の2の得票を獲得できませんでした。

なお、大統領は上下両院議員と州代表3人(バレダオスタ州は1人)の計1007人による選挙で選ばれます。
儀礼的な役割が大きいイタリア大統領ですが、国家元首として首相を指名したり、国会を解散する権限を有しており、政治危機の際には調整役を果たします。

****イタリア議員、大統領にポルノ男優やセクシー女優を希望?無効票続々****
18日、次期大統領の選出に失敗したイタリア議会の投票では大量の無効票が投じられたが、議員たちが投票用紙に書いた名前の中には、ポルノ俳優や女優、サッカー監督などが含まれていた。

伊メディアによると、ラウラ・ボルドリーニ議長はまじめな口調で、ポルノ俳優のロッコ・シフレディさん(48)について「大統領候補の要件を満たしていない」と指摘したという。伊大統領には満50歳以上でないとなれない。

女優のソフィア・ローレンさんや、シルビオ・ベルルスコーニ前首相の妻ベロニカ・ラリオさんの名前を書いた議員もいた。また、実際の大統領候補フランコ・マリーニ氏と姓が同じグラマー女優、バレリア・マリーニさんの名前もあった。これを知った当のバレリアさんは「うれしいわ!皮肉だとは分かっているけど、それでもうれしい」とコメント。大統領にはならないと念のため断った上で、「ふさわしい人選は重要。大統領は要の職ですから」と語っている。

2か月にわたって混迷が続いているイタリア政界だが、事態の深刻さとは裏腹に、この日の議場では票に書かれた名前が読み上げられるたびに、議員たちから笑い声や拍手がどっと巻き起こった。

中には、多くの人に愛されながら亡くなった喜劇俳優ウーゴ・トニャッツィさんが演じたおちぶれた貴族「ラファエロ・マシェッティ」の名を書いた議員もいた。また、サッカーが熱狂的な人気を誇るイタリアらしく、元同国代表監督のジョバンニ・トラパットーニ氏にも一票が投じられた。【4月19日 AFP】
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イタリア流のユーモアととるべきか、現状への痛烈な皮肉ととるべきか、緊張感のなさを嘆くべきか・・・。

18日の投票で中道右派との「密室合意」に多くが造反したことを受けて、中道左派連合の中核である民主党は19日、首相経験もあるプロディ元欧州委員会委員長を推す方針に急きょ変更。

しかし、プロディ氏はベルルスコーニ氏とは政敵にあたり、中道右派連合は民主党の方針転換によって裏切られた形ともなり、「国家分裂を招く」と強く反発。
中道左派連合内部の批判も収まらず、3回目までとは異なり過半数で決まる4回目投票においても造反が相次いだことで決着できませんでした。

【「4人に1人が裏切り者である状況は受け入れ難い」】
ベルサーニ書記長は、身内の造反によって大統領候補を引き受けた2人の先輩の顔に泥を塗った形ともなり、辞意を表明・・・・ということでますます混迷の度を深めています。

****プローディ氏選出失敗=中道左派のベルサーニ氏辞意―伊大統領選*****
イタリアの上下両院議員らは19日、5月中旬に任期満了となるナポリターノ大統領(87)の後任を決める選挙を続け、4回目となる投票を行った。

しかし、議会最大勢力の民主党が擁立したプローディ元首相(73)の選出に失敗、ベルサーニ書記長(61)は辞意を表明した。大統領選をめぐる混乱は、中道左派連合トップの辞任劇に発展、混乱長期化は不可避の情勢だ。
地元紙によると、ベルサーニ氏は党議員会合で大統領候補に決めたプローディ氏が選出されなかったことを問題視。「4人に1人が裏切り者である状況は受け入れ難い」と強い不満を表明した。

4回目以降の投票は過半数(504票)の得票で当選者が決まる。しかし、民主党を軸とした中道左派は造反が続出。プローディ氏は395票と過半数に100票以上も届かない惨敗だった。【4月20日 時事】
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政治危機がさらに長期化する事態への懸念
今後については、“左派系出身のナポリターノ氏は高齢を理由に続投を拒んできたが、20日、「国への責任を負わざるを得ない」との声明を出し、続投する意向を表明した。再選は、中道左派の大量造反が起きない限り、確実視されている。”【4月20日 読売】とのことです。

ナポリターノ大統領が設置した賢人会議は4月12日、新政権樹立の土台となる政治・経済改革政策の提言書を大統領に提出し、上下両院が同等の権限を持つ現在の国会・選挙制度を改め、下院が上院に優越する仕組みを確立するよう促しています。

しかし、仕切り直しにあたり、新大統領が決まらず、しかも首相候補だった第1勢力トップが辞任に追い込まれるというスタートラインにも立てない、ズルズル後退する状況が続いています。

おそらく新大統領は誰かには決まるのでしょうが、各勢力が対立する政治状況は変化なさそうです。
こうした状況では抜本的な政治・選挙制度改革も難しいように思われます。

新大統領がすぐ国会を解散し、今の制度のもとで選挙が行われる場合、現状と同じ勢力図となる可能性が高いとみられていましたが、ベルサーニ民主党書記長が指導力を発揮できなかった今回の騒動を見ていると、中道左派が後退し、中道右派・五つ星運動が増大するようにも思われます。
そうなると、スキャンダラスで大衆迎合的なベルルスコーニ前首相が復活という、EU各国としては歓迎できない事態の可能性も出てきます。

なお、新大統領が国会を解散せず、現在のモンティ首相が暫定的に政権を担い続けて賢人会議の答申を実現し、新しい選挙制度で解散総選挙に至るシナリオもあるようですが、すでに死に体とも思われるモンティ首相には無理ではないでしょうか。
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