(24日に起きた8階建てビルの崩壊現場 “flickr”より By Q8India http://www.flickr.com/photos/66206215@N07/8680666268/)
【世界第2位の縫製品輸出国だが、安全管理の不徹底や作業環境の劣悪さが問題となっている】
アジア最貧国のひとつでもあるバングラデシュは、ここ数年は縫製産業を中心とした活況を呈しています。
“バングラデシュは、縫製業の伸びをてこに、ここ10年は6%前後の経済成長を維持してきた。長引く世界不況で先進国の消費者の間で「低級品志向」が強まっていること、また中国への依存リスクを分散させるトレンド「チャイナ+1」(中国と、もう1つ別の国に工場を作る)の浸透もバングラデシュにとっては追い風だ。バングラデシュは、ポストBRICSの新興国「ネクスト11」にも名を連ねている。”【2012年11月12日 開発メディアganas 投稿者:今井ゆき】
このブログでも、2010年10月10日ブログ「バングラデシュ 頻発する衣料品工場労働者のストライキ・デモ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101010)で、ユニクロの現地でのソーシャルビジネス展開の話題、08年6月にNHK「沸騰都市」で紹介された活況ぶり、その一方で、多くの労働者が低賃金に苦しんでおり、労働争議も頻発している状況などを取り上げました。
そのバングラデシュから、複数の欧州ブランド向けの衣料を生産する縫製工場が入居する商業ビル倒壊の事故が伝えられています。
****バングラデシュのビル崩壊、死者150人超す 亀裂発見後も労働を強制*****
バングラデシュの首都ダッカ近郊のサバールで24日に起きた8階建てビルの崩壊現場では、夜を徹して生存者の救出活動が続けられ、25日朝までに159人の死亡が確認された。負傷者は1000人を超えている。国内では、バングラデシュで安価に衣料製品を製造する海外アパレル大手に対する批判が高まっている。
崩壊した商業ビルには複数の欧州ブランド向けの衣料を生産する縫製工場が入居しており、人権団体「バングラデシュ労働連帯センター(Bangladesh Center for Workers Solidarity)」によると約3000人が働いていた。AFPの取材に応じた消防当局者によると、ビルは「わずか数分でパンケーキのように全体が崩れ落ちた。工場労働者の大半は逃げる間もなかった」という。現在もがれきの下から、閉じ込められた生存者が助けを求める弱々しいうめき声が聞こえるという。
崩壊するビルからの避難に成功した人々の話によれば、事故発生前日の23日、ビルに亀裂が走っているのが見つかった。従業員らは一時退避したが、経営者らに仕事に戻るよう命じられたという。24歳の女性従業員は「仕事を再開するよう言われて工場内に戻ったが、1時間後、大音響とともにビルが崩れ落ちた」とAFPに語った。
地元警察によれば、亀裂が見つかった時点で警察が工場の一時閉鎖を命じていたが、工場の経営者らはこれを無視したという。経営者らの行方は現在、不明という。
バングラデシュには先進国の衣料品ブランドの下請け工場が多数あり、世界第2位の縫製品輸出国だが、安全管理の不徹底や作業環境の劣悪さが問題となっている。サバールでは2005年にも縫製工場ビルが崩壊し、70人以上が死亡する事故が起きているほか、2012年にはやはりダッカ郊外の欧米向け衣料品工場で火災が発生し、111人が死亡している。【4月25日 AFP】
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事故当時、ビル内には約5000人がいたとの情報もあり、犠牲者の数は、今後大幅に増加しそうです。
また、地震でもないのに建物が倒壊するというのは、何らかの違法な工事があったことも想像されます。
****バングラデシュのビル倒壊、死者200人以上に****
バングラデシュの首都ダッカで8階建ての商業ビルが倒壊した事故で、警察当局は25日、死者は200人以上、負傷者は1400人に上ったと明らかにした。
がれきの下に依然500人以上が埋まっているとみられ、救出活動が続いている。事故当時、ビル内には約5000人がいたとの情報があり、死傷者がさらに増える可能性が高いという。
ビルは湿地帯に建設され、2010年に完成。6階建ての予定が8階建てに無断変更されたほか、低品質の材料を使ったとされており、建築基準に関する法令違反が指摘されている。【4月25日 読売】
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バングラデシュでの労働環境の問題・安全対策の不備は、2012年に起きたダッカ郊外の欧米向け衣料品工場での火災でも指摘されたところです。
****縫製工場で火災、124人死亡…バングラデシュ****
バングラデシュの首都ダッカ近郊の縫製工場で24日夜、火災が発生し、警察当局によると少なくとも124人が死亡し、数百人が重軽傷を負った。
火災は25日朝には鎮火したが、工場では約2000人が働いていたとされ、死者の数はさらに増える恐れがある。
警察当局などによると、出火場所は9階建ての工場の1階。火災が起きると夜勤中だった労働者らが出口に殺到するなどしてパニックとなり、上層階の窓から飛び降りる従業員もいたという。従業員のほとんどは女性だという。警察当局は、電気回路のトラブルが原因とみて調べている。
衣料品は、バングラデシュの輸出全体の約8割を占める主要産業。労働力が安価なため、日米欧の有名衣料ブランドも進出している。【2012年11月25日 読売】
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“欧米向けに輸出される衣類を安価な労働力で製造しているバングラデシュの衣料品工場では、配線の手抜き工事などによる電気系統の問題が火災につながることが多い。また、消防当局によると周辺地域は水が不足しているという。”【2012年11月25日 AFP】とのことですが、バングラデシュ政府は火災後の調査で、放火が原因と判断しています。
【大企業の利潤と国家的利益追求の陰で、一般市民の権利が踏みにじられていることを示唆】
この火災が放火・破壊工作によるものなのかどうかはともかく、労働環境に大きな問題があること、バングラデシュ政府が労働環境より経済拡大を優先させていることは否めないようです。
さらに言えば、こうした環境での生産を発注し、低コスト製品を生産しているのは先進国メーカーであり、その受益者は我々先進国の人間であるという側面もあります。
*****バングラデシュ、縫製工場火災に労働者の不満が爆発–劣悪な労働環境の改善なるか****
(2012年11月)24日夜、バングラデシュを代表する縫製会社、タズレーン・ファッションズが操業する8階建ての工場で火災が発生。少なくとも112人が死亡する大惨事となった。目撃者によれば、炎や煙にまかれた労働者たちが次々に、上階の窓から周辺の建物の屋根に飛び移ったという。材料や製品が脱出口をふさいでいたために、多数の従業員が窒息死した模様だ。
さらに、大火災の衝撃が冷めやらぬ26日朝、小規模で犠牲者こそ出さなかったものの、ダッカの縫製工場で第2の火災が発生したことで、市民感情が悪化。労働者の怒りが爆発し、激しいデモが繰り広げられた。
バングラデシュは中国に次ぐ世界第二位の衣料品輸出国で、国内の工場数は4500、従業員数は300万人にのぼる。今や縫製産業は、同国にとって国内経済の牽引役であり、石油輸入に必要な外貨獲得の手段でもある。海外各紙はその光と影に注目した。
バングラデシュが近年、縫製業界で中国を猛追しているのは、中国の人件費の高騰を受け、同国の安価な製造コストが世界中の衣料品メーカーを魅了しているからにほかならない。
しかし、それだけに労働環境の劣悪さは国内外でしばしば指摘されてきた。特にやり玉に挙げられてきたのが、低賃金、工場内の労働組合の制限、そして火災に対する安全措置の乏しさだとされる。実際、2006年以後、数十件の工場火災によって、すでに500人とも600人とも言われる死者が出ているという。
フィナンシャル・タイムズ紙は、労働環境改善活動団体であるバングラディッシュ労働者連帯センター(BCWS)のアクター代表が、このような悲劇の責任を、工場主、バングラデシュ政府、欧米の衣料企業に求めていると紹介した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、今回火災の起きた工場の取引先と取沙汰されるウォルマートでは、かねてより同工場を「ハイリスク」と認定していたともされる。同社は、工場にはすでに同社の製品生産の権限がなかったとしながらも、関係するサプライヤーが同工場に発注していた事実を認め、哀悼の意を表すると共に、今後の安全性の向上に取り組むことを表明した。
同紙は、今回の機運を受け、今後、海外の衣料品メーカー各社に安全性向上の責任が生じ、コストが増加する可能性を示唆した。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙はハシナ首相が27日を国家哀悼の日として、すべての繊維工場に休業を命じた際、確たる証拠はないままに、今回の火災が、同国の縫製業界をむしばもうとする陰謀によるものと示唆したことを紹介した。発表によれば、すでに2名の放火犯が逮捕されたという。
また、フィナンシャル・タイムズ紙は、前述の、BCWSの代表、アクター氏が過去、投獄の憂き目にあっていることを紹介。さらに、彼女の同僚は、拷問の痕もあらわな遺体となって発見されたが、一切は謎のままだとし、大企業の利潤と国家的利益追求の陰で、一般市民の権利が踏みにじられていることを示唆した。【12年11月27日 NewSpere】
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途上国が低賃金を武器にして経済のテイクオフを図ろうとするとき、先進国基準からすれば問題と思われる労働環境・条件が往々にして出現することは、現実問題としては避けがたいものもあるように思われます。
ただ、そうは言っても程度の問題はあり、監督する政府当局は労働環境整備にも応分の注意を払うべきであり、また、海外の発注メーカーもその責任を共同で負うべきです。
もっとも、実際には難しいようで、中国などでも海外発注企業に見せる表工場と、実際の生産を担う裏工場があり、そのことを海外発注先も承知しながら表工場しか視察しない・・・といった話があるようです。
また、労働者のほうも、長時間労働で多くの収入が得られる裏工場を選択するといった問題もあるとか。
現実の問題となるときれいごとでは済まないのは世の常です。
ただ、繰り返しになりますが、そうは言っても・・・というところで、踏みとどまる良識も必要です。
【女子工員の劣悪な職場環境】
バングラデシュの縫製工場に関しては、低賃金労働、労働安全の不備のほか、セクハラ・人権侵害の問題も指摘されています。
*****“縫製大国”バングラデシュを支える女子工員ら、増え続けるセクハラに直面 *****
■「服を脱げ」との脅しも
バングラデシュ経済をけん引する縫製業。同国には首都ダッカやチッタゴンを中心に4000以上の縫製工場がある。縫製品(衣料品、ニットウェア)の輸出額(約125億ドル=約9900億円、2010年度)はいまや国全体の8割を占めるなど、バングラデシュは“縫製大国”として発展し始めた。これを支えるのが縫製工場で働く150万人の女子工員らだ。
女子工員の多くは貧しい農村の出身。仕事を求めて都会へ出てきた。平均年齢は19歳。若い女子工員らは国家の屋台骨を支えるだけでなく、故郷へ仕送りもしており、一族にとっても重要な稼ぎ手となっている。こうみると縫製業は、バングラデシュの農村女性に仕事を提供し、経済的にエンパワーメントさせていると映らなくもない。
ところが現実はそう単純ではない。女子工員らは劣悪な職場環境に置かれ、苦しんでいる。給料は男性の同僚の約6割に抑えられ、残業代もなし。また教育や研修を受けさせてもらえないため、昇進の機会もないという。
しかしより深刻なのは「セクハラ」だ。バングラデシュ縫製業の女子工員の実態について英国のNGO「ウォー・オン・ウォント」が2011年に発表した報告書によると、インタビューに応じた女子工員998人のうち、297人が「望まない性的な誘いを受けたことがある」と答えている。実際に体を触られたのは290人。さらに衝撃的なのは、500人近くが顔面を殴られるなど、工場の監督者から暴力を振るわれたことがあり、328人が「服を脱げ」と脅された経験をもつことだ。
■都市化がセクハラを呼ぶ
バングラデシュでは近年、セクハラが急増している。その背景にあるのが都市化といわれる。国連人口基金(UNFPA)などが03年に発表した労働者のセクハラについての報告書は、バングラデシュ女性に対するセクハラが増えているのは、女性の経済的地位の向上や人口移動の増加(農村から都市へ)などと相関関係にある、と指摘する。都市には、人間関係が濃い農村のようなコミュニティは存在せず、それがセクハラをさせやすくしている。
バングラデシュでは年率6%のペースで都市人口が増大している。いまや国民(約1億5000万人)の28%が都市在住者。都市人口は15年までに5000万人に達する見通しという。
セクハラに悩まされているのは女子工員だけではない。バングラデシュのNGO「BRAC(バングラデシュ農村向上委員会)」は、都市部では通学途中の女子生徒に対するセクハラも増えていると指摘する。セクハラに遭うのが嫌で学校を中退する生徒や、また娘を守るために早く結婚させようとする親もいるなど、事態は深刻化している。
後発開発途上国(LDC)のバングラデシュは、縫製業の伸びをてこに、ここ10年は6%前後の経済成長を維持してきた。長引く世界不況で先進国の消費者の間で「低級品志向」が強まっていること、また中国への依存リスクを分散させるトレンド「チャイナ+1」(中国と、もう1つ別の国に工場を作る)の浸透もバングラデシュにとっては追い風だ。バングラデシュは、ポストBRICSの新興国「ネクスト11」にも名を連ねている。
08年にはユニクロも進出するなど、いまや世界的に注目を集めるバングラデシュの縫製業。そうした発展の陰で、女子工員とその予備軍は、増え続けるセクハラに直面している。(今井ゆき)【2012年11月12日 開発メディアganas
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女性へのセクハラの問題は、インドで問題となっているレイプ事件に見られるように、女性の人権が十分に尊重されていない社会が抱える問題のひとつのあらわれです。
別に、バングラデシュ・インド地域だけでなく、レイプ問題はパプア・ニューギニアでも今問題になっていますし、アフリカの内戦・紛争地域では日常茶飯事です。また、イスラム社会での女性の権利侵害は日常のことです。
先進国においても、家庭内暴力など、問題の根っこは同じでしょう。
だから放置していいという話ではなく、適切な規制が当然求められます。
縫製産業などでの女性の経済的地位が向上すれば、社会全般における女性の権利拡大にも道が開ける訳ですが、そのためには女子工員が置かれている劣悪な職場環境の制度的改善が必要です。