孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  少数民族問題・開発問題に見るスー・チー氏の現実的姿勢 

2013-04-18 22:17:21 | ミャンマー

(3月14日、ミャンマー中部モンユワの銅山近くの村を訪れ、地元女性と話すスー・チー氏(右)=AFP時事【3月16日 朝日】http://digital.asahi.com/articles/TKY201303150317.html)

大統領への意欲 「憲法を改正するには軍との合意がなければならない」】
ミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏が来日していますが、その大統領職への意欲や野党政治家としての現実的姿勢が話題になっています。

現在は少数野党党首ですが、将来的には憲法の制約を超えて大統領を目指す姿勢を明らかにしています。

****スー・チー氏、大統領に意欲=憲法改正も目指す―ミャンマー****
来日中のミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏(67)は17日夕、東京・内幸町の日本記者クラブで会見し、「政党のトップで、国家のトップになりたくない人はいるだろうか。(大統領に就任すれば)信念としている政策を実現できるはずだ」と述べ、大統領職に意欲を見せた。

ミャンマーの大統領は上下両院の投票で選出される間接選挙制で、スー・チー氏の今回の発言は2015年の次期総選挙でNLDが勝利した上で大統領への就任を目指す考えを示したものだ。
ただ、スー・チー氏は会見で「憲法の中で意図的に私が大統領になれないようにしているところがある」とも指摘。「ある人を特定の立場に就かせないようにしたり、就かせたりするように憲法を書いてはならない」と述べた。現行憲法では、外国籍の息子を持つスー・チー氏は大統領になれない。

スー・チー氏は、憲法改正には上下両院の75%を超える議員の賛成が必要である一方、軍人枠議員が議会の25%を占めている現状に触れ、「憲法を改正するには軍との合意がなければならない」と語り、総選挙前の改正を目指して軍と交渉していく考えを示した。【4月17日 時事】
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消極姿勢批判に、「私はマジシャンではない」「『法の支配』はワクワクするものではない」】
ミャンマー国内では、テインセイン政権は民主化改革を進めてはいますが、一部の少数民族との間ではいまだ内戦状態が続いています。
こうした少数民族問題については、「私たちは国民和解を重視し、変革を進めなければいけない」として、憲法改正のプロセスの中で少数民族の意見を尊重する制度を作り上げ、問題解決を図る考えを示しています。

しかし、現実的には仲介役の機能を果たしていないスー・チー氏の姿勢には「対立解消に消極的だ」と批判もあり、カチン州の少数民族組織関係者は「もうスーチー氏には頼らない」と不信感を募らせています。
記者会見でも、“消極姿勢”についての質疑がありましたが、「法の支配」を確立したうえで話し合いによる国民和解を目指す従来の考えを強調しました。

****スーチー氏:「民族問題静観」の批判に反論 記者会見*****
来日中のミャンマー最大野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長(67)は17日、日本記者クラブ(東京都千代田区)で記者会見した。民主化の陰で深刻化する民族・宗教対立を「静観している」との批判があることに対し「必要な発言をしている」と反論し、「法の支配」を確立したうえで話し合いによる国民和解を目指す従来の考えを強調した。

北部カチン州で交戦が続くなど懸案の少数民族問題について、スーチー氏は「各グループが自分たちの立場を唯一正しいと思っているが、それでは国民和解はできない」と指摘。表面化する多数派・仏教徒と少数派・イスラム教徒との対立には「誰に対しても暴力には反対」と述べ、議論による平和的解決を訴えた。
そのためには「意見が違う人々が互いを信頼し安心感を持つ必要がある。だからこそ私は法の支配を訴える」と主張した。

西部ラカイン州で仏教徒と反目するイスラム教徒のロヒンギャ族は多くの国民から隣国バングラデシュからの不法移民とみなされ、少数民族問題からも取り残されている。スーチー氏は「(ロヒンギャ族に)公民権法が適用されるかどうか、市民権があるかどうかの確認が必要」と慎重な発言にとどめた。

一方、政府開発援助(ODA)など日本政府の支援に対しては「本当に国民が必要とする支援であるべきだ。政府だけでなく議会や野党とも協議しなければ、正しい方向に援助が行かない可能性がある」と注文をつけた。【4月17日 毎日】
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この問題に関しては、「私はマジシャンではない。長い間培われた相違の克服には時間がかかる」という発言のほか、下記のような“現実的”発言も行っています。
反政府・抵抗運動のシンボルに祭り上げられることを避け、現実政治家としての道を進む覚悟のようです。

“スーチー氏が、北部カチン州での少数民族と政府軍との戦闘や、宗教対立問題に積極的に発言しないことには批判がある。これについてテレビ朝日のインタビューでは「私は常に発言しているが、一部の少数民族は私に言ってほしいことを言っていないと思っているのかも知れない」と反論。会見でも「私が訴える『法の支配』はワクワクするものではない」と語った。
こうした慎重とも言える言動の背景には「政治家」として憲法改正実現のため軍や与党の協力を取り付けたい願望がある、との指摘がある。今月からミャンマー国内で発行を始めた日刊紙ボイスの編集長チョーミンスエさん(42)は「私的な感情を抑え、野党党首を越えた立場で政治活動をしている」と解説する。”【4月18日 朝日】

【「責任ある投資は責任ある政府があって初めて成り立つ」】
テインセイン政権については、“記者会見で大統領への評価を問われると、「現政権はしっかりとした改革策がない。政策の優先順位もない。外国からの援助なら何でもいいというのでは不十分だ」と痛烈に批判した。”【同上】とのことです。
興味深いのは、対外的にはテインセイン政権の民主化姿勢として評価が高い“大規模ダム建設計画凍結”をも批判していることです。

****テイン・セイン大統領を批判=ダム建設凍結でスー・チー氏*****
来日中のミャンマー最大野党、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏は17日午後、ミャンマーの民主化運動を支援してきたNGOや人権団体の代表と東京都内で意見交換した。出席者によると、スー・チー氏はこの中で、テイン・セイン大統領が大規模ダム建設計画を凍結したことについて「無責任」と批判した。

凍結されたのは、中国の支援で北部カチン州のイラワジ川流域に軍事政権時代に計画されていたミッソン・ダム計画。環境破壊につながるなどとして国民から反対の声が上がる中、テイン・セイン大統領は2011年9月、建設凍結を突然宣言し、テイン・セイン政権の改革姿勢を示す動きとして注目を集めた。 

しかし出席者によれば、スー・チー氏は「問題の解決を先延ばししただけで全く解決になっていない。何の法律に基づいているわけでもなく、一方的に一人の人間が宣言したのは非常に無責任な行為だ」と語った。「責任ある投資は責任ある政府があって初めて成り立つ」とも述べたという。スー・チー氏としては「法の支配」確立の重要性を強調したものとみられる。【4月17日 時事】
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先月、ミャンマー中部の銅山開発を巡る反対運動を巡り、スー・チー氏が委員長を務める調査委員会は「開発継続」を認める報告書を公表しています。

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反対運動は、レパダウン銅山の一部住民が昨年6月、土地収用への「補償金が不十分」として始めた。この動きに僧侶を含む民主化活動家が合流し、開発中止を求める運動に発展。治安部隊は11月、開発予定地を「占拠」した反対派数百人をガス弾を使い強制排除、多数の負傷者が出た。

このためテインセイン政権の要請でスーチー氏をトップとする調査委員会が発足。11日公表された報告書は「地元住民への適切な補償と雇用機会の提供が必要だ」と問題点を指摘しつつ「開発は中国の利益というより国益にかなう」と強調。「開発の一方的な中止は中国との関係に悪影響を与え、外国企業がこの国への投資に関心を失うことにもつながる」と懸念を示した。

反対派は、治安部隊が強制排除の際に「深刻なやけどを負う白リン弾を使った」と非難していたが、報告書はこの事実を認めながら、反対運動は「地元と無関係な組織の扇動で広がった」と指摘した。また、反対派が主張する「環境影響」についても「大きな影響はない」と否定した。(後略)【3月13日 毎日】
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【「彼女に多くを望み過ぎた。でも、今も彼女にすがりたい」】
このスー・チー氏の報告書に対し、地元住民は怒りをあらわにしています。
*****スー・チー氏に抗議の声=銅山周辺住民、報告書に反発―ミャンマー****
ミャンマー中部モンユワ地区で中国企業などが開発する銅山に関し、事業を中止すべきではないとする国会の調査委員会報告書がまとまり、委員長を務めるアウン・サン・スー・チー氏が13日、住民らに報告するため現地入りした。

住民らからはスー・チー氏に対しても厳しい抗議の声が上がった。
地元記者によると、現地では報告書に不満を持つ住民ら約250人が集結。「スー・チー氏はいらない。報告書も調査委もいらない」と気勢を上げた。(後略)【3月13日 時事】
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*****救世主スー・チーを嫌う村****
「抵抗の象徴」を熱烈に支持した国民の間に政治家となった彼女への失望が広かっている

・・・・スー・チーは車列を連ねてやって来て、警察の許可なしで抗議行動をすべきではないと農民に説教した(実際は許可を申請したが断られていた)。確かに農民たちの畑をつぶし、先祖伝来の土地を奪うことにはなるが、この事業がもたらす恩恵にも目を向けるべきだと諭した。

「耳を疑った」と語るのはゾー・ウィン(40)。村の大通りに立ち塞がり、車列の進入を阻んだ1人だ。「小さな女の子たちが地べたで泣き叫んでいるのを、あの人は豪勢な車から見下ろしていたんだ」
質疑応答の場では、村人から悲痛な叫びが上がった。それでもスー・チーは「やたら偉そうにしゃべっていた。まるで私たちが無知だと言わんばかりに」と、ゾー・ウィンは言う。

面と向かってでなくとも、公然とスー・チーを悪く言うことは、ミャンマーでは今もタブーに等しい。何十年も続いた圧政を乗り越えて前へ進むには彼女の存在が欠かせないと、ほとんどの国民がみているからだ。
しかし、と開発反対派で詩人のアントーマウン(80)は言う。もはやタブーは破られ、今や人々の目は資源豊かなレパダウン山を囲む貧しい村落に向いている。似たような抵抗派の拠点は各地にあり、みんなが今回の問題でのスー・チーの振る舞いを注視している、と彼は語る。

「私たちの国は長年、闇に覆われてきた。その闇から連れ出してくれる誰かを待望していた。そして私たちは彼女がその人だと信じた」
レパダウン山周辺で取材に応じた村人のほとんどは、開発支持さえ撤回すれば喜んでスー・チーを迎え入れると語った。彼らの家の多くには、今もスー・チーの写真と父アウンーサン将軍の写真が飾ってある。(中略)

中国と世論のはざまで
ただ、今も多くの人がスー・チーに期待を寄せている。かつて捕らわれの身で抵抗のシンボルだった彼女は、今では政治家として体制側に入り込み、いまだ軍部主導の政府に利用されかねない立場なのだが。
 
もしもスー・チーが村人たちの側に立てば、ミャンマーヘの最大の投資国・中国を怒らせることになる。よちよち歩きの改革をいつでもひっくり返せる軍部も黙っていないだろう。だからスー・チーは公式の報告書でも村人との対話集会でも、銅山がもたらす富で環境破壊を止め、地元民をもっと豊かにできると説くしかなかった。

彼女がレパダウン銅山を訪れた後、政権側はさっそく公約をばらまいた。地元民への「土地の補償、上地の返還……環境保護や雇用創出」には特に配慮すると、担当者のミントーアウンはヤンゴン(ラングーン)の地元メディアに語っている。

NLD創設者の1人ウィンーティンは独立系英字誌「イラワジ」に、スー・チーはこの問題に「果敢に」立ち向かっており、「もしも軍に任せていたら、ずっとひどいことになっていたはずだ」と述べた。
しかしナイーザー・オー(25)のような村人は、スー・チーヘの思いはもう元には戻らないと訴える。「彼女はここに来て、私たちに銅山開発を続けさせろと言った。その開発こそ私たちの未来だ、その開発で私たちは潤うのだと」

ナイーザー・オーは納得できないでいる。「ちょっと待ってよ、それは違うって。私たちに恵みをもたらすのは大地。野菜も薪も、何だって山の辺りで育つのだから」
彼女が「スー母さんに伝えてほしい。私たちは今もあなたを大好きでいたいのだ」と言うと、周りの農民たちもうなずいた。「期待が大き過ぎたのかもしれない。彼女に多くを望み過ぎた。でも、今も彼女にすがりたい」【4月16日 Newsweek日本版】
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開発に託す国民生活水準向上への強い思い
テインセイン大統領の“大規模ダム建設計画凍結”を批判したスー・チー氏の真意はいまひとつはっきりしないところもありますが、自らの銅山開発への対応を踏まえて、生活向上のためには開発が必要なこと、開発のためには外国からの投資が必要なこと、そのためにはポピュリズム的なその場しのぎではなく法制度整備が重要なこと・・・を強調したものと思われます。

一連のスー・チー氏の発言には、単に政権・軍部・中国への現実的配慮というだけではなく、ミャンマーの経済水準が他のアジア諸国からも大きく遅れていることを憂い、なんとか国民生活水準の向上を実現したいという強い思い、そのためにはやはり開発が必要だとの認識が根底にあるように思われます。
大統領への意欲も、遅れたミャンマーを何とかしたいという思いがあってのことでしょう。

それは指導者を目指す政治家としてのひとつの見識でしょう。
実際に政治のイニシアティブをとった際に、開発の犠牲となっている者の救いを求める声にもバランスがとれた配慮を示せるかが、優れた指導者となるか、二流の政治家に堕すかの境目でしょう。
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