孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  総選挙に向けて「世直し」に動く司法 「司法クーデター」の批判も

2013-04-17 22:52:31 | アフガン・パキスタン

(パキスタンの司法関係者は政治権力に対し非常に行動的です。写真 (AP Photo/Emilio Morenatti)は、チョードリー最高裁長官が解任されていた頃、それに抗議する司法関係者の警察の催涙ガスから逃げる様子のようです。 “flickr”より By H@shim A ™ http://www.flickr.com/photos/hashim_a/3841535284/)

無人機攻撃に関する密約
パキスタンでは米軍による無人機攻撃が続けられています。
イスラム武装勢力への打撃となっている一方で、民間人犠牲も多く、パキスタン国内の反米感情を高めてもいます。

*****パキスタン北西部で米無人機攻撃、4人死亡*****
パキスタンの治安当局者によると、同国北西部の部族地域で14日、米軍の無人機による攻撃があり、武装勢力のメンバー少なくとも4人が死亡した。攻撃があったのは、隣国アフガニスタンと国境を接する北ワジリスタン地域の中心都市、ミランシャーから西方約35キロのダッタ・ケル(Datta Khel)。この地域はアフガニスタンの旧支配勢力タリバンと、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力の活動拠点となっている。 治安当局者によると、米軍の無人機6機が建物の上空をしばらくの間飛行し、そのうちの1機が日没時にこの建物に向けて2発のミサイルを発射したという。米軍によるこうした攻撃についてパキスタン政府は主権の侵害だとして強く批判しているが、米国側はイスラム過激派との戦いにおける極めて重要な対抗手段だと主張している。

英国の非営利組織「調査報道ジャーナリスト協会(TBIJ)」によると、米中央情報局(CIA)が2004年以降にパキスタンで行った無人機による攻撃で3577人が死亡しており、そのうち最大で884人が民間人だとみられている。【4月17日 AFP】
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“パキスタン政府は主権の侵害だとして強く批判している”とのことですが、最近、この無人機攻撃に関して、攻撃の主体となっているアメリカCIAとパキスタン国軍の中枢でもある3軍統合情報局(ISI)の間の密約が明らかにされています。

*****無人機攻撃でパキスタンと密約=CIA、2004年に―米紙*****
米国とパキスタンが2004年、「国家の敵」とパキスタンが位置付けていたイスラム過激派指導者を米国が無人機で殺害し、その見返りとして、パキスタンが自国内での米国の無人機運用を認める密約を結んだと、7日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じた。

両国の複数の当局者の話として伝えた。密約交渉は米中央情報局(CIA)とパキスタンの情報機関である3軍統合情報局(ISI)との間で行われ、無人機攻撃はすべてCIAが秘密作戦として実行、米政府は公式には作戦の存在を認めないことなどで合意した。無人機をめぐり密約が存在することは以前から指摘されていたが、同紙は詳細が明らかになったのは初めてとしている。【4月7日 時事】
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いくらアメリカでも何も合意なしにパキスタン領内での活動は行わないでしょうから、密約があったことは想像に難くないところです。
パキスタン側としては、反米世論への配慮、国軍のメンツもあって内密にしていたというところでしょう。


当時の大統領であったムシャラフ前大統領も、この密約を認めています。

*****米無人機攻撃で密約認める=ムシャラフ前大統領―パキスタン*****
パキスタンのムシャラフ前大統領は12日までに米CNNテレビの取材に応じ、米国が武装勢力掃討のためパキスタン国内で実施している無人機によるミサイル攻撃について、パキスタン側が了承する密約があったことを認めた。密約の存在は指摘されていたが、公に認める発言は初めて【4月12日 時事】
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総選挙参加のために亡命先から帰国したムシャラフ前大統領は、帰国即時の逮捕は免れているものの、最高裁への出頭を求められており、どうせ認めざるを得ないのなら、早めに自分から・・・といったところでしょう。

*****ムシャラフ前大統領に出頭命令 パキスタン最高裁****
パキスタン最高裁は8日、ムシャラフ前大統領に対し、9日に最高裁に出頭するよう命じた。
1999年の軍事クーデターで文民政権を倒し、自ら大統領に就いた後の2007年、反対派を押さえ込むために非常事態を宣言したことなどが国家反逆罪に当たるかどうか審理する。有罪なら死刑が適用される可能性がある。

ムシャラフ氏に対しては、07年のブット元首相暗殺事件で十分な警備態勢を取らなかった容疑など4件で逮捕状が出ている。(イスラマバード)【4月9日 朝日】
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【「世直し」か?「司法クーデター」か?】
そのムシャラフ前大統領ですが、総選挙立候補については、ほぼその道を閉ざされたとのことです。

*****パキスタン裁判所、ムシャラフ前大統領の総選挙出馬を認めない決定*****
パキスタンで5月11日に行われる総選挙について、同国の裁判所は16日、ペルベズ・ムシャラフ前大統領(69)の立候補を認めない決定を下した。
ムシャラフ氏は先月末に亡命先から帰国し、4つの選挙区で立候補を届け出た。認められたのはパキスタン北部の町チトラルのみだったが、これについて弁護士グループが異議を申し立てていた。裁判所は16日、ムシャラフ氏は大統領在任中の2007年に憲法に違反する行為を行ったとして、チトラルでの立候補承認を覆す決定を下した。ムシャラフ氏陣営は最高裁に上訴する方針。しかし、ムシャラフ氏は2007年のベナジル・ブット元首相暗殺事件への関与が疑われているほか、同じ2007年に最高裁長官を解任したムシャラフ氏に対する最高裁の姿勢も厳しいことから、政界復帰は難しいという見方も出ている。【4月17日 AFP】
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もとより、ムシャラフ前大統領は国民の支持を失っており、「過去の人」となっていましたので、同氏の総選挙不参加自体は大勢への影響はさほどないでしょう。
注目されるのは、ムシャラフ前大統領や与党・人民党のアシュラフ前首相などが選挙管理員会によって次々に総選挙参加を阻止されており、その背景で司法が「世直し」的な強い姿勢で臨んでいることです。


*****パキスタン選管、前のめり 前大統領・前首相らに失格連発 来月総選挙*****
来月11日に総選挙を控えたパキスタンで、選挙管理委員会が有力政治家に立候補届の失格処分を連発している。軍事政権の後、5年間続いた文民政権は失政続き。世論の政治不信を背景に、選管自ら「世直し」に立ち上がった形だが、暴走を心配する声も出始めた。

総選挙は下院定数342のうち、女性や非イスラム教徒への留保枠を除く272議席が争われ、のべ8千人以上が立候補届を提出。同じ日に計577議席が争われる四つの州議会議員選にはのべ1万9千人以上が届け出た。同国では1人で複数選挙区に立候補できる。選管は10日、審査の結果、のべ4千人以上が失格になったと明らかにした。

先月の任期満了まで内閣を率いたアシュラフ前首相は、在任中の「首相基金」の乱用が問題視されて失格に。1999年の軍事クーデターから2008年まで政権の座にあったムシャラフ前大統領は四つの選挙区で立候補したが、政権当時の違法行為の疑いを理由に三つで取り消された。(筆者注:前期のように、ムシャラフ前大統領は四つ目についても取り消されています)

また、中央選管は3日、投票用紙に候補者名と並んで「投票したい候補者なし」の選択肢を設けると発表。「民主主義への信頼をむしばむものだ」(英字紙ドーンの社説)と戸惑いが広がった。

さらに選管は先月末から、前回08年の選挙で当選した前職議員の学歴詐称について刑事訴追も始めた。国会・州議会議員のうち189人をリストアップし、すでに11人が有罪判決を受けて収監された。有罪確定なら来月の選挙に立候補できないばかりか、政界から永久追放となる。

選管が独自色を強めるようになったのは、ムシャラフ大統領辞任後に政権の座についたザルダリ大統領の下で3度にわたり憲法が改正されたためだ。最高裁判所や軍部との対立でザルダリ氏が政権運営に苦しむうち、野党側の要求に屈服する形で、選管の中立性や権限が次第に強化された。

選管委員長は大統領の任命制だったが、野党の同意が必要となり、与野党の合意で12年、元最高裁判事のエブラヒム氏が選ばれた。総選挙前の約2カ月間を担う選挙管理内閣の首相任命は与野党間で意見が合わず、最終的に選管が元判事のコソ氏を指名した。

エブラヒム委員長の後ろ盾は、昨年6月にギラニ首相(当時)を失職させるなど政治批判を強めてきた最高裁のチョードリ長官だ。6日には選管担当者を前に演説し、「資格のない政治家が議会に入り込むのを許してはならない」と厳格な対応を求めた。

元々、選管の地方幹部は判事出身。「まるで司法と選管が手を結んだクーデターだ」(地元記者)といった批判が出ている。ただ、市民の間では、選管の「政治家いじめ」に留飲を下げる人がほとんどとみられている。

 ■軍、表向き静観
過去の総選挙では票の操作や政治工作の疑いが持たれてきた軍部は今回、静観する構えだ。
軍部トップ、キアニ陸軍参謀長は2月末、報道機関幹部らを集めた異例の会合を開き、「選挙で選ばれた指導者が有能でも無能でも、それは人々の審判だ」と発言。「軍は民主プロセスを妨げる意思はない」と強調したという。

ムシャラフ軍事政権の失敗や米軍によるアルカイダ指導者オサマ・ビンラディン容疑者の越境暗殺作戦などで、軍の威信は低下。経済状態の悪化で、数カ月内に国際通貨基金(IMF)の追加融資を得なければデフォルト(債務不履行)の可能性がささやかれる。「この時期に軍が政治介入すればIMFの支援が遠のくことを軍部も理解しているはずだ」(民間シンクタンク幹部)とみられている。
ただ、軍が恒久的に政治介入を放棄したり、文民統制を受け入れたりした様子はみられない。

今回、選管が候補者に失格を乱発する根拠は、議員の適格性を定めた憲法62条と63条。2度目の軍事クーデターで政権を握ったジアウル・ハク大統領の下で85年に加えられた条項だ。「イスラム教について十分な知識を持ち、宗教的義務を実践している」など、いくらでも拡大解釈が可能な条項のほか、「司法や軍部を侮辱した罪で有罪判決を受けていない」との文言もあり、軍部や司法の優位が色濃くにじむ。 【4月16日 朝日】
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パキスタンでは以前から司法が社会的に強い影響力を有しており、脛に傷を待つ大統領や首相が司法の追及で辞職に追い込まれることもありました。
ザルダリ政権のもとでの野党攻勢で、司法の権限・中立性がさらに強まっているとのことです。
おそらく現在のパキスタンで最も影響力を有しているのは国軍トップのキアニ陸軍参謀長と、司法トップで国民的信頼もあついチョードリー最高裁長官でしょう。

ただ、いくら“無能な政治家・指導者”であったとしても、選挙によって選ばれた指導者・議員・政党が安易に司法判断で辞職・解党に追い込まれるような事態は、「司法クーデター」の危険性もはらんでいます。

総選挙、シャリフ元首相優勢
総選挙(5月11日)については、与党・人民党の苦戦、野党・シャリフ元首相の勢力の優勢が伝えられています。

*****パキスタン:「イスラム教徒連盟」躍進か 来月総選挙*****
パキスタン総選挙(5月11日投票)まで1カ月を切った。同国は1947年の建国以来3度のクーデターが起き、今回初めて投票で政権移行の実現が見込まれる歴史的選挙。前回選挙(08年)で第1党となり、5年間政権を維持した「人民党」は、経済政策の失敗や腐敗ぶりから支持を失った。このため、野党第1党でナワズ・シャリフ元首相が率いる野党「イスラム教徒連盟」の躍進が予想されている。

シャリフ氏は、首相だった99年当時、ムシャラフ陸軍参謀長(後に大統領)を解任したことから軍事クーデターを招き、失脚した。国政・外交の実権を握るとされる軍から強い不信感を持たれており、復権した場合は軍がけん制に動く可能性がある。

また、自由選挙を認めない武装勢力「パキスタン・タリバン運動」が政治集会への攻撃を繰り返している。16日には、北西部ペシャワルで、反タリバンの政党「アワミ民族党」の集会で自爆攻撃があり、9人が死亡、50人以上が負傷した。

一方、政治亡命先の中東ドバイから先月帰国し、出馬を予定していたムシャラフ前大統領は16日、ペシャワル高裁に出馬申請を取り消された。
大統領だった07年当時に非常事態を宣言し、これが最高裁に「違憲」と判断されたことが問題視された。ムシャラフ氏は最高裁に上告する構えだが、高裁決定が覆る可能性は低く、事実上出馬の道を断たれた。

今年1月に大規模な反政府集会を開いて人民党政権を揺るがしたイスラム教説教師、カドリ氏の動きも注目されている。カドリ氏は軍との関係も取りざたされている。
選管当局は、50人以上の現職議員(地方議会を含む)の出馬申請を「学歴詐称」などの理由で却下した。人民党のアシュラフ前首相も「権力乱用」を理由に出馬申請を取り消された。カドリ氏の支持者たちは「腐敗一掃を求めるカドリ氏の訴えが効いた」と受け止めている。【4月17日 毎日】
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ただし、日本のように正確な世論調査が行われている訳でもありませんので、前評判と結果がずれることもありうることです。
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