
(1月14日 スイスの組織によって、リビア東部トブルクの軍事基地跡で行われた地雷・爆発残存物除去作業 こうした危険で地道な作業も平和な生活を取り戻すためには不可欠です。日本も、紛争地域におけるこうした分野での技術力を生かした協力の余地があるのでは。 “flickr”より By JMACT Libya http://www.flickr.com/photos/jmactlibya/6695181089/ )
【対立の根強い各地域・部族】
カダフィ政権を倒したリビアでは、昨年10月23日に全土の解放を宣言、各地域・部族間の対立によって難航しましたが11月22日にはアブドルラヒム・キーブ暫定首相を首班とする暫定政府が発足しています。
今後は、8カ月以内に移行国民議会選挙を実施する予定となっています。
****リビア暫定政府が発足、地域バランスに配慮****
リビアを暫定統治する「国民評議会」は22日、アブドルラヒム・キーブ暫定首相を首班とする内閣を承認、暫定政府が発足した。
「アラブの春」と呼ばれる民衆蜂起によるカダフィ独裁政権の崩壊から3か月を経て、リビアは国家再建という新たな一歩を踏み出す。新政府が、対立の根強い各地域・部族の意向をとりまとめ、統一した方針を打ち出せるかどうか注目される。
主要閣僚ポストでは、国防相に、西部ジンタンの反カダフィ派部隊司令官オサマ・ジュアリ氏、内相には西部ミスラタの司令官ファウジ・アブドラル氏を起用。外相には、東部デルナ出身の外交官アシュール・ビンハヤル氏、石油相はイタリアのエネルギー大手ENIの元幹部アブドルラフマン・ビンヤザ氏をあてるなど、地域バランスに配慮した人事となった。【11年11月24日 読売】
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【民主化への行程は不透明さを増す】
しかし、未だ親カダフィ派の抵抗も収まっていない不安定な状況のようです。
****リビア:親カダフィ派健在 一部都市で自治宣言****
北アフリカのリビアでカダフィ独裁体制の崩壊から約5カ月が経過したが、政府系部隊を実力排除した親カダフィ派の都市が25日には事実上の「自治宣言」をするなど、混乱が続いている。
暫定統治機構「国民評議会」が予定していた選挙法案発表も、21日に起きた抗議活動で延期され、民主体制への移行は停滞。国際人権団体からは捕虜の拷問で批判されており、前途は多難だ。
ロイター通信などによると、首都トリポリ南東約150キロのバニワリードで、23日に武装住民が評議会系部隊を排除、双方に12人の死者が出た。25日には有力部族幹部による「自治委員会」が結成され、ジュワリ国防相もこれを受け入れたという。
バニワリードは親カダフィ派の拠点で、昨年8月のトリポリ陥落後、最高指導者だったカダフィ大佐が昨年10月、反体制派に殺害される直前まで抵抗を続けた。
国民評議会は、昨年2月に始まった騒乱後に各地で組織された民兵組織の国軍への統合を目指すが進展していない。
政治民主化も遅れている。21日にはベンガジの評議会本部に抗議デモ隊が乱入し、カダフィ政権関係者の排除や意思決定過程の透明化を求めた。アブドルジャリル議長は半年後に予定される暫定議会の選挙法案を発表予定だったが、延期に追い込まれた。
国民評議会には、カダフィ派捕虜の取り扱いに対しても批判が集まっている。26日には国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が「拷問や虐待が行われ、死者も出ている」と批判。「国境なき医師団」も北西部ミスラタで収監者の拷問を継続するため治療を行わされたとして、刑務所での活動中止を発表した。
さらに、騒乱中の混乱で軍施設から持ち出された武器弾薬類が、ナイジェリアのイスラム過激派「ボコハラム」や国際テロ組織「アルカイダ」に渡った可能性を指摘する国連報告もある。
いずれも国民評議会の統治能力に対する疑問を深める事例で、民主化への行程は不透明さを増している。【1月28日 毎日】
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反カダフィでは連携した民兵組織間の対立も報じられています。
****リビア首都で民兵同士が戦闘、4人死亡****
リビアの首都トリポリ市内で3日、反カダフィ派だった民兵同士の戦闘が起き、白昼の銃撃戦で4人が死亡した。
衝突したのはトリポリ中心部を拠点とする民兵組織と、反カダフィ派の西部の拠点だったミスラタ出身の民兵組織。
目撃者証言や現場のAFP記者によると、カダフィ前政権の情報機関本部に近いザウィヤ通りとサイディ通りの間で、数百人の民兵が地対空砲や機関銃を撃ち合った。ミスラタの民兵らが、トリポリの民兵に拘束された仲間の解放を要求したことがきっかけという。
トリポリ市内では現在も、反カダフィ派として戦った民兵が部隊として集団で残っている姿が目に付く。トリポリ以外から集まり、故郷への帰還を拒んで居着いている民兵も多く、中には前政権の庁舎を拠点として制圧しているグループもある。
正式な治安部隊の存在が空白の中、これら民兵によって一見、治安が保たれている面もあるが、民兵同士の衝突も少なくない。カダフィ政権崩壊から時間が経つにつれ、トリポリに残る民兵たちは新たな懸念を引き起こしつつある。
こうした中、暫定統治する国民評議会(NTC)は3日、新生国軍トップの参謀長にミスラタ出身の元将官ユセフ・マングーシュ氏を任命した。民兵らを統制下に置き、治安部隊に統合させることが責務のひとつになるとみられる。【1月4日 AFP】
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こうした混乱は予想されたことではありますが、大量に保持されている武器を回収し、民兵を国軍に統合して治安を回復していくのは非常に困難な作業でもあります。
内戦という暴力の余韻が残る中では、捕虜虐待などの人権無視が横行することも想像に難くないところです。
カダフィ派が黒人雇い兵を使用したことから、アフリカ系黒人に対する虐待も内戦中から指摘されていました。
****リビア、カダフィ派雇い兵7千人拘禁?拷問も****
国連の潘基文事務総長は28日、リビア情勢に関する報告書を公表し、旧カダフィ政権の雇い兵と疑われた黒人ら約7000人が適正な法手続きなしに拘禁されているとの懸念を示した。
報告書によると、雇い兵と疑われて捕らえられているのはサハラ以南のアフリカ地域出身の人々で、反カダフィ派民兵諸組織の手中にある。拷問を受けたとの情報もあり、国連は反カダフィ派組織「国民評議会」に対し、虐待防止や釈放を促しているという。【11年11月29日 読売】
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こうした状況ですから、今のところは、まともな行政もあまり期待できないとも言えます。
行政の遅滞は、ムバラク政権崩壊で同様に不安定な隣国エジプトにも影響しています。
****ビザ発給遅れ抗議 リビア大使館前****
エジプトの首都カイロにあるリビア大使館で24日、同国のビザ発給手続きが滞っていることに腹を立てたエジプト人労働者数百人が大使館側に抗議、一部が「50日も待っているんだぞ!」などと叫びながらリビア国旗を引きちぎったり建物に投石したりする騒ぎがあった。
リビアは、カダフィ前政権時代、エジプトから200万人ともいわれる出稼ぎを受け入れていたが、昨年2月以降の内戦でエジプト人労働者の多くが帰国。昨年10月にカダフィ大佐が殺害されて内戦が終結してからは、多くの労働者が再び労働ビザを取得するため、連日、大使館前に長蛇の列を作っていた。
エジプトでは、出稼ぎ労働者の大量帰国が治安悪化の一因となるなど社会問題化していた。【1月25日 産経】
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とにもかくにも移行国民議会選挙を・・・というところでしょうが、選挙を巡っての更なる混乱も懸念されます。
「アラブの春」とは言いますが、これまで民主主義を経験したことがなく、自らの主張は力で勝ち取るという習わしのこの地で民主化が定着するまでには紆余曲折があるでしょう。
独裁政権さえ崩壊すればすべてが解決するがごとき過度の期待感も、地道な民主化への歩みの足を引っ張ることになるでしょう。
だから独裁政権のままの方がよかった・・・とは言いませんが、これからの試練を何とか乗り越えていってもらいたいものです。