孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアでの衝突激化  アサド政権批判拡大、パレスチナ・ハマスへも影響

2012-01-28 20:21:43 | 中東情勢

(1月21日 パレスチナ・ヨルダン川西岸地区のラマラ シリア反体制派の抵抗運動を支持するパレスチナ活動家  “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6737687497/

2日間の死者は118人
離反兵士を中心とする反政府勢力とアサド政権側の衝突が続くシリアに関しては、1月22日ブログ「シリア  離反兵士らの「自由シリア軍」、首都ダマスカス攻略の足掛かり?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120122)でも取り上げたように、反政府勢力「自由シリア軍」が首都近郊での活動を活発化させています。
ただ、この動きが直ちにアサド政権を窮地に追い込むものなのかどうかは、よくわかりません。

衝突の激化は間違いないようで、“27日、政府軍と反体制派との衝突が激化し、AFP通信が伝えた人権団体の情報によると、死者は双方で計56人に上った。人権団体では、26日にも62人が死亡したとしており、2日間の死者は118人に達した”【1月28日 読売】と、犠牲者が拡大しています。

この事態に、アラブ連盟から派遣された監視団のダビ団長(スーダン軍大将)は27日、「シリアで24日以降、急速に暴力が増えており、特に北部イドリブと中部ホムス、ハマで深刻だ」とする声明を出しています。【1月28日 朝日より】

****シリア:離反兵士、首都で攻勢 アラブ連盟、仲介案提示へ****
アサド政権が反体制派の武力弾圧を続けるシリアで、離反兵士団体「自由シリア軍」が首都ダマスカス近郊での作戦を強化し、一部地域を勢力下に置き始めている模様だ。同軍幹部が26日、毎日新聞の電話取材に明らかにした。

一方、アラブ連盟のアラビ事務局長は、来週にも国連安全保障理事会でシリアの状況を説明し、アサド氏から副大統領への権限移譲を求める連盟の仲介案を提示する意向を表明した。

自由シリア軍のマリク・クルディ副司令官によると、離反兵士らはダマスカス近郊のドゥーマやイルビン、ザバダニなどを事実上、勢力下に置いた。首都中心部の北東約10キロのドゥーマでは21日ごろから、軍・治安部隊との衝突が断続的に続いており「シリア軍は何度も奪還を図ったが撃退されている」と語った。3日前から停戦交渉が始まったという。

ドゥーマ在住の反体制活動家男性アブドルラフマン氏によると、自由シリア軍は市内の約8割を支配下に置いている状況という。26日も軍・治安部隊との銃撃戦が発生した。
アラブ連盟が派遣した和平監視団とダマスカス近郊のハラスタを訪問したロイター通信記者によると、同行のシリア治安関係者は「安全が保障できない」として一部地域への立ち入りを拒否した。

一方、アラビ事務局長は、週明けにもカタールのハマド首相兼外相と安保理に出席し、シリア情勢を説明すると発表した。アサド大統領から副大統領への権限移譲▽反体制派も含めた挙国一致内閣の設立▽早期の総選挙と大統領選挙の実施--を柱としたアラブ連盟仲介案の承認も求める。

仲介案は21日に連盟外相級会合で決定されたが、シリアのムアレム外相は24日の会見で受け入れを拒否。反体制派を「テロリスト」と決めつけ、「断固とした措置を取る」と弾圧継続を明言した。一方、国営通信によると、アサド政権は連盟和平監視団の滞在期間1カ月延長に同意した。

安保理では、シリアへの主要武器供給国である常任理事国のロシアや中国がアサド政権の制裁を拒否しており、アラブ連盟案の承認は困難と見られる。【1月27日 毎日】
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アサド政権を見限る湾岸諸国
アサド大統領に権限移譲を求めているアラブ連盟の中では、カタールが軍事介入に言及するなど、湾岸諸国がアサド批判を強めていますが、サウジアラビアは反体制派をシリア「代表機関」として承認する方向であることが報じられています。

****シリア反体制派承認へ サウジ、アサド政権打倒加速****
デモ弾圧を続けるシリア問題で、同国のバッシャール・アサド政権への強硬姿勢を強めるサウジアラビアのサウド外相が、在外反体制派組織「シリア国民評議会(SNC)」側と会談、SNCをシリアの「代表機関」として承認する用意があると伝達していたことが27日、分かった。会談に同席した複数のSNC幹部が明らかにした。サウジが実際に承認に踏み切れば、他の湾岸諸国も追随する可能性があり、アサド政権打倒に向けた国際社会の動きが加速しそうだ。

SNC幹部の反政府活動家ハイサム・マーレフ氏によると会談はアラブ連盟の外相級会合が開かれた今月22日、カイロ市内のホテルで行われた。SNC側は、市民への暴力停止にはアサド政権打倒が不可欠だと指摘、移行期間を担う組織として承認するよう求めた。

これに対し外相は、時期は明示しなかったものの、近い将来、SNCを承認すると約束。SNCは近く、サウジで同国政府との詰めの協議を行う。SNCは、カタールやクウェートとも同様の協議を進めている。

在外反体制派の集まりであるSNCは現在、シリア国内に確固とした組織を持っておらず、サウジのSNC承認が実現しても、アサド政権が即座に崩壊に向かう可能性は低い。ただ、域内だけでなく米欧にも影響力を持つサウジがアサド政権を見限る意味合いは大きく、今後の国連安全保障理事会での議論にも影響を与える可能性もある。【1月28日 朝日】
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エジプトでも、シリア・アサド政権への批判が表面化しています。
****群衆がシリア大使館襲撃=アサド政権に抗議―エジプト****
エジプトの首都カイロ中心部にあるシリア大使館に27日、アサド政権の民主化デモ弾圧に抗議する群衆200人以上が乱入、窓ガラスや扉を壊した。休日だったため、大使館職員は不在でけが人はいなかった。
アハメド大使はAFP通信に対し、「大使館を保護するよう(エジプト政府に)正式な文書を発送する」と語った。大使公邸も最近、襲撃を受けたという。大使館は29日に通常業務を再開する。【1月28日 時事】
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ロシア:「リビアのシナリオを繰り返そうとしている。断じて容認できない」】
こうしたアサド政権へアラブ連盟・欧米からの批判が強まる一方で、ロシアはアサド政権を擁護する姿勢を崩していません。

****対イラン・シリア:圧力強化の米欧 外交解決主張の中露****
・・・・一方、欧米が検討している対シリア制裁についてロシアのリャプコフ外務次官は26日、「(カダフィ政権を崩壊に導いた)リビアのシナリオを繰り返そうとしている。断じて容認できない」と批判した。ロシアはソ連時代からシリアと友好関係を維持しており、対外武器輸出の約7%をシリアが占める。

ロシア紙コメルサントは24日、ロシアが軍用練習機「ヤク130」36機を約5億5000万ドルでシリアに売却する新たな契約を結んだと報じた。欧米側の懸念にロシア側は「シリアへの武器供給を禁止する国際的な制裁は存在しない」と正当化している。今月上旬には露海軍の空母艦隊がシリア西部のタルトスに寄港し、存在感を誇示した。

ロシアは昨年10月、対シリア制裁警告決議案を中国とともに拒否権で阻止した。ロシアは独自の対シリア決議案を提出し、「他国と協議を継続する」(ルカシェビッチ外務省報道官)としているが、対シリア武力行使に道を開く決議案には拒否権を行使する構えだ。【1月27日 朝日】
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アサド政権弱体化が、ハマス組織内でのメシャル氏の求心力低下を招く
話はシリアからパレスチナに変わりますが、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの政治部門最高指導者メシャル氏が、次の選挙には出ず、退任する意向を表明しています。

****ハマス最高指導者交代へ メシャール氏退任の意向表明****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの政治部門最高指導者ハレド・メシャール氏が、次の選挙には出ず、退任する意向を表明した。ハマス報道官が21日、声明で明らかにした。任期満了での退任だが、ハマス幹部はメシャール氏に再考を求めており、次期指導者の選出の時期は不明だ。

メシャール氏はシリアの首都ダマスカスに亡命中で、2004年からパレスチナ自治区内の政治・軍事部門に基本方針を示す立場にある。ハマスの内規では指導者の任期の上限は2期8年。ハマス在外政治局は、シリア情勢の混乱を懸念しており、チュニジアやエジプトなど他のアラブ諸国に拠点を移すことも検討している。【1月21日 朝日】
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メシャル氏退任の背景として、在外指導者のメシャル氏とガザ地区のハマス幹部らとの路線対立があったことも報じられています。【1月21日 時事】
ハマスにおける海外亡命幹部とガザ地区指導部の間の軋轢は以前から言われているところですが、混乱するシリア情勢も大きく影響しているとの報道もあります。

****ハマス最高幹部が退任へ、シリア政権の弱体化で****
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの指導者、ハレド・メシャル氏が、現在の任期限りで組織トップの地位から退任する意向を示した。
ハマスは、反体制デモ弾圧を続けるシリア・アサド政権の支援を受けており、メシャル氏の退任表明は、中東の民衆蜂起「アラブの春」がもたらしたパレスチナの変化だ。

ハマスが今月21日に出した声明によると、メシャル氏は「(組織内部で行われる)次期選挙に出馬を望んでいない」と表明した。ロイター通信は27日、外交筋の話として、メシャル氏がすでに、拠点であるシリアの首都ダマスカスを離れ、再び戻らない意思を固めたと報じた。

メシャル氏は長年、対イスラエルで強硬路線を取るシリアに滞在、同国のアサド政権の支援を受けながら組織の指揮をとってきた。
アサド政権の反体制派弾圧で5000人以上の死者が出る中、アサド政権を後ろ盾にするメシャル氏への風当たりが、パレスチナ住民の間で強まった。反体制デモを弾圧するアサド政権からハマスへの財政支援も減っているとされ、他のメンバーのシリア脱出も相次いだ。アサド政権の弱体化が、組織内でのメシャル氏の求心力低下をもたらした形だ。【1月28日 読売】
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アサド政権の今後の状況は、シーア派武装勢力ヒズボラを中心とする親シリア勢力が政権を担う隣国レバノンにも大きく影響します。
シリアと友好関係にあり、欧米と鋭く対立するイランを含めて、シリア・アサド政権の今後は、中東情勢全般に大きく影響します。

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