孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  政権崩壊の場合、イラクのような宗派対立の懸念

2012-01-10 20:47:03 | 中東情勢

(治安当局の車両を銃撃する離反兵ら。インターネットに投稿された動画から(2011年 ロイター/Reuters TV)

監視団:弾圧は「減少した」が、継続している
反政府デモと弾圧が続くシリアにはアラブ連盟から監視団が派遣されていますが、混乱は全く収まる気配を見せていません。
監視団についても、ダルフールでの大量殺害事件への関与が疑われているスーダン人団長がホムスで「恐るべきものは見なかった」などと発言するなど、その性格にも疑問がもたれています。

シリア政府軍の離反兵らによる「自由シリア軍(FSA)」を率いるアルアスアド司令官は3日、監視団による反政府デモ弾圧の状況の調査に進展がなければ、アサド政権に対する攻撃を激化すると表明、調査が開始しても弾圧阻止に動きがみられないことに不満を示しています。

アラブ連盟の諮問機関「アラブ議会」(アラブ連盟加盟21か国1機構の議員88人で構成される諮問機関も1日、監視団がシリア政府のデモ弾圧にまったく効果を及ぼしていないとして、同監視団の即時撤退を求める声明を出す事態ともなっています。
“ディクバシ議長は声明で、シリアの行動は「民間人を守るというアラブ連盟の議定書に明確に違反している」と述べ、「暴力が増している。さらに多くの人びとが殺害され、子どもも含まれている。そしてこれらすべてが、アラブ連盟の監視団の前で起きている。アラブの人々は怒っている」と述べた”【1月2日 AFP】

こうしたなかで、アラブ連盟は“弾圧は「減少した」が、継続している”として、予定通り監視団の倍増を決定しています。

****シリア弾圧:アラブ連盟、監視団300人に倍増方針****
アラブ連盟(22カ国・機構)は8日、カイロの本部で閣僚級会合を開き、シリアのアサド政権による反体制デモの武力弾圧中止を求めて派遣中の和平監視団を倍増し、監視員の訓練などで国連の支援を求めることを決めた。監視団長は弾圧について、「減少した」と報告したが継続しているという。監視団は19日に報告書を提出する予定で、それを受けて連盟は再度閣僚級会合を開催し対応を協議する。

会見したカタールのハマド首相兼外相によると、現在164人の監視団を300人に増やすという。シリア政府が受け入れるかは不明。国連の支援については、シリア国外で監視員訓練などを求める意向を示した。

シリア問題は反体制派が国連安全保障理事会での対応を求めているが、アラビー連盟事務局長は「安保理はいかなる問題も取り扱う能力があり、シリア問題も協議している」と発言。現時点で、連盟として問題を安保理に持ち込む意図はないとの認識を示した。【1月9日 毎日】
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ホムスでこれまでに170人を超えるキリスト教徒が殺害
シリアの混乱は、強権支配を続けるアサド政権に対する民主化要求という側面もありますが、同時に世俗主義のアサド政権を支えるイスラム教アラウィ派(シーア派の一派 全人口の16%)に対する、権力中枢から排除されている保守的な多数派スンニ派(74%)による宗派間闘争の性格もあり、問題を複雑にしています。

シリアにはイスラム教両派以外にも、キリスト教(非カルケドン派のシリア正教会、東方正教会のアンティオキア総主教庁、マロン派の東方典礼カトリック教会など ウィキペディアより)が10%存在していますが、このキリスト教徒も世俗主義的なアサド政権支持の立場にあり、反政府活動の標的にもされているようです。

****シリアのキリスト教徒苦境 宗派対立激化、テロ懸念****
反体制デモとアサド政権の弾圧によって緊張が続くシリアで、人口の1割ほどを占める少数派のキリスト教徒たちが宗教・宗派対立の悪化におびえている。もし政権が崩壊する事態となれば、抗争が激化しテロの標的にもなりかねないとの懸念があり、民主化もストレートには支持できない状況に置かれている。

ダマスカス旧市街は、パウロが回心してイエスの使徒となった場所として新約聖書にも登場するなど、世界のキリスト教徒にとって重要な巡礼地の一つだ。ここにあるマロン派キリスト教会のトニー・ドッラ神父(35)は、母親が中部ホムス出身。ホムスではアサド政権によるデモ弾圧で多くの犠牲者が出ているとされる。

ドッラ神父ら複数のキリスト教関係者によると、ホムスでこれまでに170人を超えるキリスト教徒が殺害されたという。また、アサド大統領が属する少数派のイスラム教アラウィ派市民の犠牲も相次ぎ、「自衛のため」として同派の住民たちは、民兵組織をつくったという。
殺害が続く理由は、両派が「政治と宗教の分離」を掲げるアサド政権支持を続けているため、デモの主体を担うイスラム教スンニ派の人々から「革命を裏切った」とみなされたからだという。イスラム過激派の流入を疑う声もある。

「ホムスで起きているのは各派間の戦争だ。治安機関の一部も対立をあおっている。対立と暴力を口実に、すべての反体制派を弾圧できるからだ」と見るキリスト教徒は多い。

アサド政権は、国連などが「市民5千人以上が死亡した」とするデモ弾圧を否定し、「暴れているのは武装テロ集団で、兵士や警察官2千人以上が殺害された」と主張している。
ホムスや北部イドリブなどでは、国軍を離脱した元兵士らでつくる組織「自由シリア軍」が「政権側の暴力から市民を守るため」として政権部隊への攻撃を行っている。

自由シリア軍は隣国トルコに本拠を置き、構成員の多くはスンニ派とされる。反体制派にも武力闘争を行う勢力がいることは間違いなく、政権側の市民デモの弾圧否定は別として、「多くの殉職者が出ている」との主張には一定の根拠がありそうだ。

隣国イラクでは、米軍によってフセイン政権が崩壊後、宗教・宗派対立が激化、一時は内戦状態となり多くの犠牲者が出た。シリアも「モザイク」と呼ばれるほどさまざまな宗教・宗派に属する人々が暮らしており、「イラクの二の舞い」を恐れるキリスト教徒ら少数派の人々は多い。

ドッラ神父はアサド大統領個人に対しては「改革を目指してきた」と支持を続けている。一方で「政権内部には、既得権益を維持するため暴力で支配を続けようとする連中がいる。反体制派にも武装勢力がいる。双方に過激派がいる状況だ。暴力を排して対話を始めなければ、シリアは大変なことになる」と訴えた。【1月10日 朝日】
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【「政権が倒れたら、イラクのような宗派対立に・・・」】
地域的には、首都ダマスカスと主要都市アレッポでは、反政府デモは表面化していません。

****分断シリア 見えぬ先 首都 響く大統領礼賛の声****
・・・・シリアでは、各地で反体制デモが続く一方、ダマスカスと北部の第2の都市アレッポだけは、例外的に大規模デモが抑えられている。「大荒れの海に、二つの都市だけが島のようにぽっかりと浮かんでいるような状態」との見方もある。 2大都市で反体制デモが広まらない背景には、治安機関による強い締め付けに加え、内戦や宗派対立に火がつくことを恐れる心理もあるようだ。

・・・・中心部を離れ、世界遺産のダマスカス旧市街に入ると静けさに包まれていた。じゅうたん店を営むムハンマドさん(45)はシーア派。向かいのお土産屋のジヤドさん(52)はスンニ派。近所にはキリスト教徒も多い。2人は「政権が倒れたら、イラクのような宗派対立に陥り、多くの人が共生する今の調和は失われてしまう」と声をそろえた。・・・・【1月6日 朝日】
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このように、アサド政権が崩壊した場合、イラクやレバノンのような宗派間衝突も懸念され、一概に「アラブの春」、民主化運動を支援・・・とも言い切れないところがあります。

強硬措置はとりづらい国際社会
そうした国内事情のほか、国際的にも、イラン・レバノンやイスラム過激派とも繋がるシリアがこの地域で占める役割を考慮すると、アサド政権崩壊は中東のパワーバランスを大きく崩すことにもなりかねず、欧米諸国は弾圧を続けるアサド政権を批判しながらも、軍事介入などの強硬措置には及び腰です。

一方、シリア・アサド政権と友好関係にあるロシアは、アサド政権支持の姿勢を鮮明にしています。
****ロシア艦隊がシリア基地入港 アサド政権支持示す****
シリア国営通信などは8日、同国西部の地中海岸タルトスのロシア海軍基地に、空母など複数の艦船からなるロシア艦隊が入港したと伝えた。6日間ほど寄港するという。ロシアが改めてアサド政権支持の姿勢を示し、政権打倒に傾く米仏やトルコなどを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

ロシアは旧ソ連時代からシリアと友好関係にあり、タルトスの基地はロシアが地中海で持つ唯一の基地だ。反体制デモでアサド政権が倒れて基地を失えば、世界戦略に大きな影響が出るため、ロシアは同政権への支持を続けている。【1月8日 朝日】
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別にロシアが牽制しなくても、アフガニスタンの泥沼にはまり、イランとも一触即発の状態にあり、中国の台頭にも備えなければならず、更には国防費が大幅に削減されているアメリカには、介入する余裕もないでしょうし、経済危機に揺れる欧州も同様です。
アサド批判を明確にしているトルコも、軍事介入は考えていないでしょう。

そうなると、当分の間は、現在の状況が続きそうなシリアです。
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