
(昨年12月24日、モスクワでの抗議集会 描かれているプーチン首相が頭にしているのはコンドーム 抗議行動のシンボル「白いリボン」を、プーチン首相が「あれ(白いリボン)を最初に見たときはエイズ予防のために使われる避妊具だと思った」と皮肉ったことからのもです。“flickr”より By Yana Sarna http://www.flickr.com/photos/60647723@N02/6568857961/ )
【焦点はプーチン首相の一発当選】
ロシア大統領選挙はが3月4日に行われます。
欧米からは、その強権的体質への批判もあるプーチン首相ですが、ロシア国内的には“社会の安定と強いロシア”が一定に評価されており、大統領復帰がほぼ確定しているということで、話題的にはあまり面白みがありません。
そうしたなかで、昨年の下院選後に起きた与党への大規模な抗議集会が示したプーチン批判が、どの程度投票にあらわれるか、その結果、第1回投票で過半数割れが起きるのか・・・という点が注目される点です。
****プーチン氏、依然優位 大統領選対立候補、ほぼ固まる*****
3月4日投票のロシア大統領選で、4年ぶりの復帰をめざすプーチン首相に挑む他候補の顔ぶれが18日、ほぼ固まった。昨年の下院選後に与党への大規模な抗議集会があり、プーチン氏が第1回投票で当選に必要な過半数の票を得られるかが焦点になっている。
立候補が確定しているのはプーチン氏のほか、共産党のジュガノフ委員長、民族右派「自由民主党」のジリノフスキー党首、中道左派「公正ロシア」のミロノフ前上院議長。
下院に議席がないリベラル政党「ヤブロコ」創設者のヤブリンスキー氏や、実業家で大富豪のプロホロフ氏、イルクーツク州知事のメゼンツェフ氏が立候補を表明。議席のない政党や自薦の候補は立候補に200万人の署名が必要で、3人は受け付け締め切り日のこの日午後、中央選挙管理委員会に署名を提出した。有効と確認されれば立候補が認められる。
ただ、プーチン氏の有力な対立候補は見当たらない。全ロシア世論調査センターの7、8日の調査では、プーチン氏に投票すると答えたのは48%で、抗議集会があった昨年12月時点に比べて3~6ポイント上昇。これに対し、ジュガノフ氏10%▽ジリノフスキー氏9%▽ミロノフ氏5%▽プロホロフ氏3%▽ヤブリンスキー氏2%となっている。
下院選でプーチン氏の与党「統一ロシア」への批判票を共産党や公正ロシアに投じた都市中流層の票は、ヤブリンスキー氏やプロホロフ氏に流れるのではないかとみられている。今後、ジュガノフ氏ら下院に議席を持つ政党の候補者が支持率を上げる状況になれば、プーチン氏の一発当選は厳しくなりそうだ。
ただ、プーチン氏は昨年12月10日の抗議集会後、国営テレビでの国民との直接対話で下院選の不正疑惑に対し、大統領選では約9万カ所の投票所にウェブカメラを設置してインターネットで流すと約束。「双頭体制」を組み、首相に転じる予定のメドベージェフ大統領も政党登録の緩和や知事公選制復活など選挙改革に着手するなど、支持離れの食い止めに努めている。
第1回投票でどの候補者も過半数の票を得られなければ、3月25日に上位2人の決選投票となる。2位につける可能性が最も高いジュガノフ氏が決選投票で勝つには、野党勢力の結集が不可欠。しかし、「リベラル野党は大規模な市民の抗議集会を政治的に利用しようとしている」などと批判を展開。主義主張が違い、歩み寄りは難しいのが現実だ。
最大の問題は選挙の「透明性」の裏付けとなりそうだ。野党勢力は投票後の街頭デモを呼びかけており、プーチン氏が過半数をぎりぎりで確保するような局面になれば、再び大規模な抗議行動に発展する可能性もある。【1月19日 朝日】
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【成長する中流層が「政治的に物言う時が来た」】
“議席のない政党や自薦の候補は立候補に200万人の署名が必要”というのは厳しい条件で、次回以降は緩和する方向が、昨年末のメドベージェフ大統領の年次教書演説で示されてはいます。
プーチン体制批判の声をあげているのは、ロシア社会でも次第に増大しつつある中流階層が中心と見られています。
****プーチン氏いまだ盤石、不満の行き場なし****
「物言う モスクワ!」
集会を伝えた反政権紙ノーバヤ・ガゼータは、1面の見出しを、こう掲げた。
90年代の混乱を「自由の代わりに安定をもたらす」という図式で立て直したプーチン体制に、市民が声をあげたといえる。我々の声を尊重しろ、と。
もともとは野党勢力が呼びかけた集会だが、主役はふつうの市民だった。
下院選で共産党や中道左派「公正ロシア」へと、政権批判の票を投じた層だ。中道の政権与党「統一ロシア」と民族右派、さらに左派系という今のロシアの政治ではすくいとれない「行き場のない有権者層」だとみられている。大規模集会を許可した当局も、民意の動きを感じ取っている。
成熟社会の基盤である中流層は、安定した暮らしのもとで民主的な政治を求める。政治学者のラジホフスキー氏は「中流クラスは2000年代の原油高騰期に生まれた。そしていま、政治的に物言う時が来た」と指摘する。
ロシア国営保険会社の調査では17%とされるが、都市部では3割に達しているとする専門家もいる。欧米では「中流の崩壊」で街頭デモが起き、ロシアでは中流の形成でデモが起きる。来春の大統領選に向け、中流層の取り込みがいっそう活発になるのは確実だ。
ただし、ロシアはユーラシア大陸に広がる多民族国家だ。中流が育つ都市部と、なお「安定」が優先される地方とでは、地殻変動に時間差がある。
集会があった10日と翌11日に全ロシア世論調査センターが実施した調査では、大統領選での投票先はプーチン氏が42%を占めた。2位のジュガノフ共産党委員長の11%を大きく引き離した。プーチン氏の支持基盤は固いものの、行き場のない不満を市民に抱かせたままでの「大統領復帰」になるとの見方が強い。【11年12月22日 朝日】
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【「この記事は対話への招待状だ」】
当然、プーチン首相・政権側も、こうした新たな動きには反応は示しており、冒頭記事にあるような、投票所にウェブカメラを設置して透明性を確保することや、知事公選制復活、政党登録要件の緩和などが打ち出されています。
また、プーチン首相は12日、インターネットにマニフェスト(政権公約)を発表し、「警察国家」からの脱却を提案しています。
****「警察国家」脱却を目指す=プーチン氏が政権公約―ロシア大統領選****
3月4日のロシア大統領選に出馬し、返り咲きが確実視されるプーチン首相(前大統領)は12日、インターネットにマニフェスト(政権公約)を発表した。この中で、治安機関の抑圧姿勢を改めるべきだと主張、「警察国家」からの脱却を提案した。
同国では昨年12月の下院選後、政権与党・統一ロシア側による不正疑惑に対する抗議デモが続発し、多くの拘束者を出した。公約は野党勢力や国民の不満に一定の配慮を示した形で、大統領選に向けて批判をかわす狙いがありそうだ。【1月13日 時事】
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更に、プーチン首相は有力紙への寄稿で、市民に対話を呼び掛けています。
****プーチン氏、市民に対話呼びかけ…有力紙に寄稿****
3月のロシア大統領選に立候補しているプーチン首相は、16日付の有力紙「イズベスチヤ」に「ロシアは集結する――対応すべき課題」と題した長文を寄稿し、安定成長の継続に向けた施策を示すとともに、市民に対話を呼びかけた。
昨年12月以降、プーチン氏の長期支配に反発する大規模抗議運動が広がったことへの事実上の回答で、「革命」や「短期のスローガン」でなく、国民が団結して「持続的な発展」を目指すよう呼びかけたのが特徴だ。
論文は、市民が政策決定に関与することの重要性を指摘した上で、「この記事は対話への招待状だ」とした。
重点施策としては、資源依存経済から脱却し「新しい経済の形成」を目指すことを挙げ、高等教育を受けた若者のため、「2500万のハイテクで高給の職」を創設すると公約した。人口の約10%を占める貧困の問題を2020年までに解決するともうたった。【1月16日 読売】
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プーチン首相はこの寄稿文で、プーチン批判の中心いる中間層について、「中流層はこの先も育たなければならない。我々の社会で多数派にならなければならない」とも述べています。
“「警察国家」からの脱却”も、“市民との対話”は非常に結構な話ですが、問題は実効性です。
ロシアでは政権に批判的なジャーナリストが命を狙われ、その犯人は闇の中です。
また、これまでも、プーチン首相のイメージアップのための、事前に演出された“対話”は行われてきました。
そのあたりが、大統領復帰後どのように変化するのでしょうか?
【「頼むから、政界から去ってくれ」】
“対話”は、自分への批判に聞く耳を持たなければ成立しません。
プーチン首相が開設したウェブサイトに批判が殺到したそうですが、強面のプーチン首相(大統領)がこうした批判にキレることなく、その意図するところを受け止めることができるのか・・・やや疑問です。
****プーチン露首相、ウェブサイト開設したら「やめろ」コメント殺到****
3月のロシア大統領選で大統領復帰をめざすウラジーミル・プーチン首相(59)が12日、インターネットへの歩み寄りをアピールしようとウェブサイトを開設したところ、批判コメントの逆襲という憂き目にあっている。
これまでインターネットを懐疑的な目で見てきたプーチン首相だが、選挙運動の一環として開設されたサイトには、アイスホッケーのヘルメットや柔道着姿のプーチン首相やスキーで雪山を滑り降りる写真のほか、大統領選のマニフェストやプーチン氏の略歴が掲載されている。
さらに、サイトの訪問者がコメントを書き込み、閲覧者がそれを評価できるコーナーもあるが、開設早々からサイトはプーチン首相を批判するコメントであふれた。
「心からのお願い」と題されたコメントは、「頼むから、政界から去ってくれ。権力には麻薬的な魅力があることは分かるが、引退こそが威厳ある行動だ」と、プーチン首相に懇願する。
ほかにも、「現在、あなたが国のためにできる最良の行動は、大統領選への出馬を取り消すことです」、「状況を革命のような事態に発展させたくないなら、首相も大統領選への立候補もやめるべきだ」などのコメントが書き込まれた。
これら3コメントは12日現在、最も支持されたコメントのトップ5に入っている。
一方、トップ5コメントの全てがプーチン批判ではない。「大統領選での当選を願っています!あなたは世界で一番素晴らしい方です!」とプーチン首相を称賛するコメントもトップ5入りしている。
プーチン首相は以前、インターネットの50%は「ポルノ」であふれているなどとネット批判を展開していた。だが、最近になって批判姿勢を緩め、忙しくてパソコンに向かう時間がないだけだなどと弁解している。【1月13日 AFP】
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【「『馬鹿』の中にメドベージェフとプーチンを入れよう」】
一方、プーチン首相よりはネットに触れる機会がありそうなメドベージェフ大統領は、「馬鹿のいないロシア」という、国民による官僚主義告発サイトを開設するそうです。
****告発サイト「馬鹿のいないロシア」 大統領が開設へ****
「馬鹿のいないロシア」――。そんな名前のインターネットサイトをメドベージェフ大統領が開設する方針だ。官僚主義的な公務員や行政機関を国民に告発させるのが目的だが、下院選をめぐる与党の不正疑惑などで高まる政権批判をかわそうとする意図も透ける。
複数の地元メディアが報じたところによると、サイトは間もなく開設されるという。利用者は公務員や行政機関のひどい仕事ぶりを実名を挙げて投稿。サイト運営側が投稿データに基づいて地域ごとに「馬鹿の平均値」を算出し、公表するという。悪質な場合は罰則も検討されている。
ロシアでは公務員の非効率で官僚主義的な仕事ぶりが問題となっている。行政手続きが複雑で時間がかかり、賄賂の授受も珍しくない。ソ連時代からの悪弊とも言われている。
サイト開設の背景には、与党による下院選の不正投票疑惑や、プーチン首相とポストを「交換」することへの批判を「官僚たたき」でかわす狙いもあると見られる。だが、インターネットでは、「『馬鹿』の中にメドベージェフとプーチンを入れよう」など、冷ややかな見方が広がっている。【1月19日 朝日】
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