孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本・韓国・台湾・香港・シンガポール・・・・東アジア社会で進行する少子化

2010-08-18 23:17:43 | 世相

(台湾の街角で “flickr”より By C Dova
http://www.flickr.com/photos/cdova1/1230579971/)

【台湾:今年は1人を割り込む予測】
少子化が進んでいるのは日本だけでなく、韓国や台湾、香港、シンガポールなど東アジア圏で共通した傾向です。
特に台湾は、昨年の合計特殊出生率が1.03と世界最低を記録していますが、今年は寅年(寅年生まれの子どもは性格がきつくなるため出産を避けるべきだとの華人社会の慣習があるそうです。日本の丙午と同じようなものでしょう。)にあたるため、1人を割り込むとの予測を台湾政府が発表しています。【8月17日 共同】

合計特殊出生率が1人を割るということは2人ひと組の夫婦から生まれる子供が1人に満たないということですので、驚異的な少子化のペースになります。
寅年と影響はともかく、昨年も1.03人ですから、問題の深刻さに変わりはありません。
すでに昨年段階で、南部・台南県では0.99人と1人を下回っており、背景には経済低迷や女性の高学歴化・晩婚化などがあると考えられています。

****台湾:出生率1.03人、世界最少 未体験ゾーンに突入*****
出生率が1人を割った台南県では08年から育児手当制度を導入し、一般家庭に月額3000台湾ドル(約8300円)、低所得家庭に5000台湾ドル(約1万3800円)が支給されているが、効果は上がっていない。
60年代から台湾の人口計画に携わる孫得雄博士は、背景に▽経済の低迷▽女性の教育レベルと就業率の向上▽独身の増加、中でも未婚女性の拡大--があると説明する。

台湾の失業率は10年前まで3%台だったが最近では5%超が常態化。大卒者の月給は10年前の平均約2万8000台湾ドル(約7万7500円)から昨年は約2万台湾ドル(約5万5400円)に下がった。女性の初婚年齢の平均は00年の25.7歳から昨年は28.9歳と晩婚化が進んでいる。
日本の「子ども・子育て白書」(10年版)によると、アジアの主要国・地域の08年の出生率は、日本1.37人▽シンガポール1.28人▽韓国1.19人▽香港1.06人--で、台湾の1.05人は最も低い。【7月11日】
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【日本:最近の回復傾向と「晩産化」】
長期的に出生率が低下していた日本は、2005年の1.26を底に、06年1.32、07年1.34、08年1.37と、やや回復するかのような動きもありましたが、2009年の合計特殊出生率は前年と同率の1.37にとどまっています。
ここ数年みられた合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子供数を表すとされる統計値)の増加は、少子化を巡る環境に何か構造的な変化があったという訳ではなく、合計特殊出生率という統計値を算出するうえでの女性の「晩産化」の影響による部分が大きいように思われます。
(同じ人数の子供を産む場合でも、以前に比べてより高齢で出産する「晩産化」が進行すると、一過性に合計特殊出生率は増大します。ただ、出産する子供数は変わっていませんので、その出生率増加は少子化問題解消にはなんらつながりません。)

「晩産化」の影響がなくなったときの出生率がどの程度に落ちつくかはわかりませんが、人口を維持するためには2人をやや上回る程度の出生率が必要とされていますので、そのレベルを大きく下回り、人口減少・少子高齢化という枠組みには変化はないものと思われます。

「人口負荷社会」(小峰隆夫著)によれば、所得水準と出生率の関係を各国でみると、一般に所得水準が上がると出生率も低下する傾向がありますが、ある水準で底を打ち、その後は所得水準が高まると出生率も上がるという関係が見られます。これは、ある程度まで下がると、社会の危機感が高まり、何らかの対応策がとられるためとみられます。
日本は現在、この2次曲線のボトムの位置にあり、何らかの対応策で下げ止まり上昇に転じてもいい位置にあるようです。

【女性の出産に伴う機会費用】
日本の少子化進行の要因は、短期的には経済状況の停滞・雇用不安がありますが、長期的要因としては「女性の子育ての機会費用」の問題があります。
働いていた女性が出産・育児のために退職すると大きな生涯所得を失うことになります。
仮に、子供が一定年齢に達した後に再就職しても、退職以前と同じ給与条件は難しく、多くの場合パートとなって、正社員との給与格差は大きなものがあります。

日本的な長期雇用を前提にした年功序列的な賃金体系は、女性の出産・育児には極めて不利に働き、女性の出産・育児の機会費用を大きくし、出産をためらわせる大きな要因となっています。
今後、同一労働・同一賃金の流れが強まれば、この機会費用も小さくなると思われます。

【機会費用を増大させる社会意識】
また、日本のように男性が長時間企業に拘束されるような勤務形態は、男性の育児参加を難しくし、女性の負担を大きくする形で少子化を促進させていると思われます。
更に、「男性は外で働き、女性は家庭を守って家事と子育てに専念する」という役割分担意識の強い社会では、女性の社会参加が進むと、女性は仕事に加えて家事・育児も負担することになり、女性にとって出産の機会費用が増大します。
「結婚しないと子供を持てない」という社会意識も、女性の出産にとっては制約になります。

日本同様に少子化が進行したヨーロッパ各国では、社会意識の変化や国の子育て支援策もあって出生率は回復傾向にあり、特にフランスなどは2人を上回るほどに上昇しています。(フランスは合計特殊出生率が08年に2.005に上昇。ただし、09年は1.99と2人を割っています。)

出生率が回復傾向を示すヨーロッパ各国と日本同様低水準を続ける東アジア各国(膨大な人口を抱える中国も、「一人っ子政策」をとっていることもあって、経済成長とともに遅からず少子高齢化社会に移行するものと思われます)の差は、女性の労働環境、社会の男女役割分担意識の問題にあるように思われます。
もちろん、「子供手当」のような経済的育児支援策も必要ですが。

韓国で出産率低下への対策を進めている保健福祉家族省は1月20日、職員の帰宅を早め子づくりに励んでもらおうと、毎月第3水曜は午後7時半に職場の照明を消すことにしたと発表したそうです。
まあ、効果のほどはわかりませんが、単に子づくりの機会だけでなく、出産・育児に伴う女性の機会費用を小さくする社会構造の変化を促さないと、基本的な問題解決にはならないでしょう。

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