孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  カストロ前議長の“復活”(?) アメリカは孤立化政策変更の動き

2010-08-08 12:17:58 | 国際情勢

(7月11日、国立科学調査センターを訪問した様子が公開されたカストロ前議長(右)
“flickr”より By Globovisión
http://www.flickr.com/photos/globovision/4783562748/

【カストロ前議長 復活の真意は?】
キューバの人民権力全国会議(国会)は08年2月24日、引退表明した療養中のフィデル・カストロ国家評議会議長(81)の後任に、実弟のラウル・カストロ第1副議長(76)を選出。1959年の革命以来、半世紀ぶりの政権交代が行われました。

ラウル・カストロ新議長はフィデル・カストロ前議長を「相談役」に据え、平等主義の支柱のひとつであった賃金上限額を撤廃、土地の再分配や農業の非中央管理化、コンピューターや携帯電話の購買自由化、外国人にしか許可されていなかったホテル宿泊の許可、私営タクシーを解禁・・・など「緩やかな改革」を実行してきました。

外交的にも、09年6月、南北アメリカ大陸34カ国で構成する米州機構(OAS)の年次総会で、1962年のキューバ除名決議を無効にすることが全会一致で決定されるなど、キューバ孤立化の解消に向けた実績をあげてきました。

カストロ前議長については、ラウル議長は「国家の重要決定については(フィデル・カストロ前議長と)相談する」としており、前議長は依然強い影響力を持っているとみられてはいましたが、一時は死亡・重体説も飛び交うこともありました。
そのカストロ前議長が久々に公の場に姿を見せたのが、今年7月7日、首都ハバナの研究機関、国立科学調査センター訪問でした。
その後も活発な活動を続け、8月7日には国会演説を行っています。

****カストロ氏、4年ぶり公式行事に=療養後初の国会演説―キューバ*****
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(83)は7日、人民権力全国会議(国会)の特別会合で、持論の核戦争の危機などについて演説した。前議長が2006年7月に腸の手術で療養入りとなった後、政府の公式行事に参加したのは初めて。
前議長は今年7月以降、各政府機関の視察やテレビ出演などを活発化させ、頻繁に表舞台に登場。健在ぶりを国内外に強く印象付けている。「国権の最高機関」に位置付けられる国会での演説は約4年ぶりで、真意について憶測を呼びそうだ。
前議長は約10分超の演説で、米国がイランや北朝鮮に核攻撃を行う脅威があると指摘した。一方で、苦境が続く国内経済や内政、国際批判が強い人権問題への言及はなかった。【8月8日 時事】
*******************************
型どおりのアメリカ批判ではありますが、ラウル現議長の施策や国際的に影響しそうな微妙な問題には言及しない、比較的“当たり障りのない”演説だったようにも思えます。ただ、一部報道では、政権復帰を目指している・・・といったことも。

ここにきてのカストロ前議長の“復活”については、いろいろと取り沙汰されてはいますが、弟のラウル現議長との関係を含め、よくわからないというのが実際のところです。キューバにとって「老害」とならなければ幸いです。
****カストロ節、久々でもしっかり 保守派に健在アピール*****
2006年7月に腸の手術を受けて以来、表舞台から遠ざかっていたキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(83)が、今月になって公の場に繰り返し姿を見せるようになった。
(中略)フィデル氏が突然の露出を始めた7日、実弟で後継者のラウル・カストロ議長は、獄中にあった政治犯の大量釈放を始めた。両者は関連している、というのが、多くの在米キューバ専門家の見方だ。
今回、釈放の対象になった52人は、フィデル政権時代の03年に一斉拘束された反体制活動家だ。指導部内でフィデル氏の影響力が落ちたから、ラウル氏は彼らの放免に踏み切れた――。ともすれば、そんな憶測も呼びかねない。
「そうではなく、自ら承知の上での釈放だと知らしめるため」「釈放に異論があるならおれに言え、という保守派へのメッセージ」。専門家の表現は様々だが、「フィデルは健在」と存在を誇示する狙いがあるとみる点は一致している。動静が途絶えると重病説が流れるのが常だったが、方々を訪れたあたり、「まだ元気だぞ」というアピールだろう。フィデル氏は来月13日、84歳の誕生日を迎える。【7月25日 朝日】
******************************

カストロ前議長の表舞台への復帰、7月26の日革命記念日式典でラウル現議長が演説を行わなかった異例の対応(カストロ前議長は欠席)などから、今国会での発言が注目されていましたが、ラウル現議長は1日の国会演説で公務員削減・自営業拡大の方針を示しています。

****キューバ、公務員削減し自営拡大 議長が方針示す*****
キューバのラウル・カストロ国家評議会議長は1日、人民権力全国会議で演説し、国家公務員を削減し、自営業をこれまでより広範に認める方針を示した。慢性的な経済危機の中で、余剰公務員を削減し、経済効率を高める狙いがある。議長は、社会主義体制は不変だとも強調したが、国家による経済統制が緩和され、資本主義的な要素を含む経営形態が広がることになる。【8月2日 共同】
******************************
ラウル現議長のもとでの「改革路線」は継続されるようです。

【変更されるか キューバ孤立化政策】
キューバ政府は、7月、服役中の反体制派52名の全員釈放を発表、国際社会への融和姿勢アピールと見られています。
****キューバ、反体制派52人釈放へ 欧州に融和姿勢****
キューバ政府は、2003年に一斉拘束し、実刑判決を言い渡した反体制派75人のうち、なお服役中の52人を全員釈放する方針を決めた。ラウル・カストロ国家評議会議長がカトリック教会のオルテガ・ハバナ大司教に7日、この方針を伝え、同大司教区が発表した。
発表によると、うち5人は同日中に釈放。残る47人も今後3~4カ月かけて順次釈放され、出国が認められるという。

キューバは反体制派を「政治犯」とは認めず、「米国に金で雇われた兵」と呼んできた。近年に例のない大量釈放だが、人権問題に敏感な欧州との関係を維持するために、融和姿勢を見せるメッセージとして釈放に踏み切ったとみられる。
03年に拘束された反体制派の一人が今年2月、服役中にハンストで死亡して以来、キューバ政府は反体制派を釈放するよう国内外から圧力を受けていた。キューバ政府は5月から国内のカトリック教会との人権問題をめぐる協議に応じるようになり、6日にハバナに入ったスペインのモラティノス外相も話し合いに加わるなど欧州も働きかけを強めていた。ハバナ大司教区の発表によると、7日昼にカストロ議長、オルテガ大司教とキューバ・スペイン両国外相が会談した席で、釈放方針が伝えられた。
キューバ国内の人権団体によると、今回の発表前の時点で、キューバで服役中の反体制派は167人。【7月8日 朝日】
***************************

こうしたキューバ側の姿勢もあって、アメリカ下院は、キューバへの渡航制限の撤廃、農産物輸出の拡大を柱とする旅行制限改革・輸出強化法案を審議中です。
法案に反対する強硬派のキューバ系アメリカ人の存在・圧力もありますので、法案採決はまだ不透明ではあります。
一応、6月の下院農業委員会では承認されています。オバマ大統領は就任早々に、キューバ系アメリカ人の里帰りや故国への送金に関する制限を撤廃するなど、キューバ孤立化政策の是正に前向きですので、今回法案成立を後押ししているものと思われます。カストロ前議長復活の影響は?

アメリカが今回法案を審議しているのは、経済不況のなかで、キューバへの観光客増大や農産物輸出拡大を望む農産物生産者・観光業界の思惑あってのことです。
まあ、いずれにしても、冷戦の遺物的なキューバ孤立化政策が変更され、キューバ民主化もそれによって促されるということであれば結構な話です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする