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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  クーデター計画で軍幹部拘束 イスラム主義と世俗主義の暗闘

2010-02-23 22:54:12 | 国際情勢

(08年2月、従来禁止されていたイスラム女性の大学でのスカーフ着用について、AKP・エルドアン政権はこれを認める憲法修正を国会で可決。しかし、憲法裁判所は6月、この憲法改正について国の世俗主義に反するため無効だとの判断を下しました。
イスラム主義と世俗主義の対立を象徴する出来事でした。
“flickr”より By Vince Millett
http://www.flickr.com/photos/brokendrumphotography/2329842272/)

【「スレッジハンマー(大打撃)」】
トルコ・エルドアン政権は、イラクとシリア、また、イスラエルとシリアの間の仲介外交、イラクとの経済関係などで、中東における地域大国としての存在感を増しています。
アメリカ・オバマ大統領も、国民の大半がイスラム教徒でありながら世俗主義を貫くトルコに西洋とイスラム世界の橋渡し役を期待しており、トルコの悲願であるEU加盟についても、「トルコは欧州の重要な部分だ。米国はEU加盟を強く支持する」と、トルコ支持を明らかにしています。

そのトルコで、2003年当時の軍によるクーデター計画があったとして、軍幹部が拘束されています。
****クーデターを計画、トルコ軍幹部ら40人以上拘束****
トルコ警察は22日、親イスラム与党の公正発展党(AKP)政権打倒のクーデター計画に関与したとして、海軍と空軍の元トップを含む現役・退役の軍幹部ら40人以上を拘束した。国内主要メディアが報じた。宗教色の強い現政権と、トルコの国是である世俗主義の擁護者を自任する軍の間では対立が激化しており、今回の大量拘束で軍が強硬手段に出る可能性も指摘されている。
捜査の対象とされたのは「スレッジハンマー(大打撃)」と呼ばれるクーデター計画。トルコ軍機が隣国ギリシャ軍を挑発、撃墜させて一触即発の状態を作るなどして、軍が超法規的な形で実権を握ることを企てたといい、時期はAKP政権発足直後の2003年とされる。
リベラル派で反軍的なキャンペーン報道を続ける日刊紙「タラフ」が、計画文書をすっぱ抜き、明るみに出た。軍はクーデター計画の存在を否定したが、エルドアン首相率いるAKP政権は大量拘束に踏み切った。
トルコは国民の大部分がイスラム教徒でありながら、厳格な世俗主義を国是に掲げる。軍は世俗エリートとして、経済など多くの分野で影響力を保ってきた。軍は1960年以来4度、クーデターなどで当時の政権を崩壊させたことがある。軍幹部が政治介入する傾向は近年も見られ、悲願である欧州連合(EU)加盟の障害となっている。
07年には、軍・世俗派知識人による大規模な反イスラム地下組織の存在が発覚。200人以上が逮捕され、現在も裁判が続いている。【2月23日 朝日】
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【AKP解党訴訟】
事実関係はわかりませんが、こうした動きの背景には、07年総選挙での圧勝によりイスラム色の強いギュル大統領を誕生させるなど、社会のイスラム化を進めている親イスラム与党の公正発展党(AKP)と、建国以来、政教分離の国是の守護者を自任してきた世俗主義・軍部との激しい対立があります。
軍幹部はトルコ社会におけるエリートであり、社会の指導層の中核にあります。

与党AKPのイスラム主義と軍を中心とする既存指導層の世俗主義の対立は、08年、トルコ検察当局が憲法裁判所に対し、国是の政教分離を侵しているとしてイスラム系与党・公正発展党(AKP)の解党などを求めて提訴したことで激化しました。
実際これまでも、世俗主義に反したとして、軍によるクーデターや、AKP前身政党への解党命令が行われてきた経緯もあります。

08年の提訴については、トルコ憲法裁判所は08年7月30日、AKPへの政党助成金を半減する「制裁」を科すという形をとりながらも、解党についてはこれを見送る判断を下しました。
総選挙圧勝という民意に配慮し、社会の混乱を避けた判断と見られています。

【「エルゲネコン」摘発】
一方、与党AKP側は、解党訴訟が最終審議されていた08年7月、クーデターをもくろむ反イスラム秘密集団「エルゲネコン」に関与したとして、多数の退役軍人や有力実業家ら逮捕する反撃に出ました。

****トルコ政情 不安定 与党に疑念、続く暗闇*****
トルコの憲法裁判所は30日、イスラム系の与党、公正発展党(AKP)が国是の政教分離(世俗主義)を侵しているとして解党を求めた検察官の訴えを退け、与党の解党という異例の事態で予想されたトルコ経済や社会の混乱はとりあえず回避された。ただ、憲法裁はAKPに対して政党助成金の削減という制裁を科す決定も下し、AKPの政策が事実上、違憲であるとクギを刺したことも意味する。AKPは世俗主義派との妥協も図りながら慎重な政策運営を迫られることになるが、トルコ政情の緊張は今後も続くことになろう。(中略)
 
トルコでは、急進派の世俗主義者たちが「エルゲネコン」という秘密地下組織を結成してAKP打倒の陰謀を計画したとして、世俗主義派の政党やメディア関係者、民間団体幹部など100人近い知識人らを逮捕する“エルゲネコン疑惑”が持ち上がっている。この摘発の中心にいるのがAKPを背後で支持するトルコ最大のイスラム教宗派に所属する検事グループだと指摘されている。
AKP政権下では、世俗主義の牙城だった司法関係者や官僚幹部を親イスラム系の人物に置き換える動きも静かに進んでおり、世俗主義の守護者を自任するトルコ軍は強く警戒している。AKP解党をめぐる当面の政治危機が回避されたとしても、世俗主義派と親イスラム勢力の水面下での暗闘が今後も形を変えて続くことは間違いない。【08年8月1日 産経】
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「エルゲネコン」については、これを批判する立場から、次のような見方もありますが、その実態はあきらかではありません。
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いま、トルコ国内ではこれまでとは、全く異なる種類の明るさが出始めている。それは、エルゲネコンがマスコミ批判の対象になり、政府がエルゲネコン問題の追及に、本格的に乗り出してきたからだ。
この欄で既に、何度となくご紹介したが、エルゲネコンとは、政治家、弁護士、裁判官、警察、軍人、ジャーナリスト、企業経営者、学者、マフィアなど、あらいる層のエリート(?)たちを集めた、トルコ社会の影の権力集団だ。
したがって、これまでこのエルゲネコンを、白日の下にさらせる政権は、過去には存在しなかった。もし与党がそのような動きに出れば、エルゲネコンは軍を動かしてクーデターを起こし、体制を打倒していたからだ。もちろん、過去に軍が行ったクーデターは、全てがエルゲネコンがらみだ、と言っているわけではないが。
野党も同様であり、エルゲネコン追求の動きに出れば、簡単に暗殺される状態になっていたのだ。ジャーナリストもしかりで、何人ものジャーナリストが、過去にエルゲネコン追求を試み、暗殺されているのだ。したがって、まさにトルコ社会におけるアンタッチャブルな組織が、このエルゲネコンだったのだ。

しかし、現在のトルコの与党AKPは、国民の広い支持と、欧米の支持を受け、遂に、エルゲネコン退治に乗り出したのだ。そして、エルゲネコンのメンバーの多くが、既にリスト・アップされ、公表されるにいたっている。
この結果、これまでまかり通ってきた、不正な取引や公金横領のシステムは、崩壊の方向に向かい始めている。既に、エルゲネコンのメンバーが裏で結託しあって、利益を得えることは、不可能になっているのだ。
この大きな変化を、一番喜んだのはトルコの大衆だった。彼らは、エルゲネコンの存在を知っていても、エルゲネコンが悪辣なことをしていることを知っていても、これまで何も出来なかったのだ。【中東TODAY 08年8月17日 佐々木良昭】
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「エルゲネコン」がアンタッチャブルな影の権力集団でクーデターを画策しているのか、親イスラム与党AKP側がその噂を借りて反対勢力を一掃しようとしている、あるいはメディア管理・社会弾圧を強めようとしているのか・・・。
今回のクーデター計画事件も、こうした親イスラム与党AKPと世俗主義あるいは既存指導層の間の激しい暗闘のひとつでしょう。

これまでのところは、選挙での国民支持を背景にした与党AKP側が有利にことをはこんでいるようにも見えます。
冒頭記事では“軍が強硬手段に出る可能性”も指摘されていますが、昔とは違って、そうした手荒な手段は今ではなかなか難しいのではないでしょうか。

コメント
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